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好きなもの、好きなこと
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高速道路、ちょうど万博公園の太陽の塔が見えたあたり──で、私は目を覚ます。
楢村くんの車の助手席、あたりは夕方のオレンジ色。
波長の長いその色が、季節が秋になってきていることを目に鮮やかに映し出す。
「……ごめん、寝てた」
「寝とったら。疲れたやろ」
楢村くんはまっすぐに前を見ながら言う。私は軽く首を振って、ドリンクホルダーにある緑茶のペットボトルを手に取った。ごくごくと飲み干す。
(……楽しかった)
ぼうっと流れていく景色を見つめながら、そう思う。フルーツたっぷりのかき氷も美味しかったし、猫かわいかったし、神社もびっくりしたけど楽しかった。
そもそも車乗ってるの好きだし──
(あれ?)
私は楢村くんの横顔を見る。横顔のラインが綺麗なの、羨ましい──と、それはいい。そうじゃなくて。
「楢村くん、あのさ」
「なん?」
「私が猫好きなの──お母さんとかから、聞い、た……?」
楢村くんはしばらく黙る。それから口を二回、開いた。
「……う」
ややあって、
「ん」
私は何度か目を瞬いて──それから顔を覆いたくなる。
(今日の、で、デー……おでかけ)
頬が熱い。反対側を向いて、夕空を見つめる。
(私の、好きなもの、で──)
かき氷が好きって言ったから、かき氷。
猫が好きって知ったから、猫カフェ。
ドライブが好きって言ったから、京都までドライブ──
(ぶ、不器用……っ)
楢村くん、不器用だ。
へんなの、セフレ作るくらいなんだから女慣れしてるはずなのに……不器用だ!
三回、深呼吸した。
それから小さく口を開く。
「あ、りがと……」
「!!」
楢村くんがびっくりしてて、私はそれにびっくりする。
「な、なに? 楽しかったんだからお礼くらい言うでしょ!」
「……っ、楽しかったん、やな?」
「……!」
口が滑った! 口が!
慌ててごまかすように、言葉を続ける。
「あっと、神社はなんで?」
「……一緒に行った友達と、こないだたまたま飲んで。あそこが恋愛成就で有名になってるって聞いて」
「恋愛成就……さっきも言ってたけど」
首を傾げた。
「あの。もしかしてさ、恋愛とか、……してるの?」
「ん」
楢村くんは頷く。
……えっと。
「ば、ばかなの!? なんで私と結婚するの!? ていうか結婚するのに成就してどうするのー! 不倫はダメでしょう!」
言いながら胸の痛みに耐える。
なにそれ、なにそれ、なにそれ!?
「──瀬奈やで」
「え?」
「俺が恋してんのは、瀬奈だけや」
ぎゅっと手を握りしめる。
また、そんなことを──言って──信じない。信じないぞ。騙されてなんか、やるもんか。
ふ、と車が減速を始める。ぱっと前を見ると、渋滞のテールランプが並んでいた。
「事故渋滞っぽいな」
カーナビを見て、楢村くんは言う。
完全に停車した車内で、楢村くんは私を見て。
「顔、真っ赤やで瀬奈」
「──っ」
「そろそろ素直に陥落してくれてもええと思うんやけど」
「っ、しない、そんなの、しない」
「……ごめんな」
楢村くんがハンドルを強く握る。
「俺が、俺がアホやったから。瀬奈に最低なことしたから」
「……わかってる、ん、じゃん」
言いながら、思う。
抵抗しなかった、ちゃんと言葉にしなかった私も悪いんだって。
なのに──楢村くんは自分一人が悪いみたいな言い方をする。
(それはつまり、──やっぱり、楢村くんに当時気持ちがなかったから)
そうしてそれを、なにがきっかけか分からないけれど、ずっと自分を責めて──いて。
その償いを今、しようとしてくれていて。
だって、まだ──私が楢村くんを好きなのは、表情で丸わかりだと思うから。
「なあ瀬奈、ほんまに好き」
ぎゅっと手を握られる。
「ほんまはな、ロマンチックなプロポーズをするつもりやってん」
「ろ、ロマンチック……!?」
「なんで皆してそんな顔するんや」
楢村くんは自分の頬を軽く撫でて、それから私に向き直る。
「けど多分、瀬奈を呆れさせるだけやと思うから」
「呆れたり、しないけど……」
「ほんま? バラの花びらを敷き詰めた夜景の見えるホテルで、バラの花束差し出しても笑わへん?」
「え!? なんで!? どうしてそんなこと思い付いたの!?」
「……ええんや、どうせ俺はマグロとか釣っとったらええんや」
「マグロ……?」
「とにかくな、もう俺は瀬奈を手放さんし、死ぬまで想い伝え続けて瀬奈が素直に俺に陥落するのを待つことにしたんや」
「そんな日は来ないけど」
「来させてみせるわ」
ぐい、と引き寄せられて──こめかみにキス。
「愛しとる、瀬奈」
「──っ」
ぷい、と顔を逸らした私の頭を楢村くんが撫でる。髪を少しくしゃくしゃにして。
その手の温かさが、どうしても──愛おしく思えてしまって。
そんなことしたくないのに、私は微かに彼の手に擦り寄ってしまう。
「──あ、かん。可愛すぎか」
「っ、な、なにが!?」
慌てて身体をずらした私の太ももに、楢村くんが手を置く。
「あの、楢村くん?」
「動かへんなあ、クルマ」
「えっと、あ、うん……」
居並ぶ車列。
空は少しずつ、藍色を深めつつあって──
つ、と楢村くんの指が動いて、スカートをずり上げる。
「な、楢村くん?」
「すべすべやんな、瀬奈の足」
「す、すべすべ……っ!?」
太ももをゆるゆると撫でながら、その指が少しずつ内腿に向かっていく。
「ぁ……っ」
くすぐったさの中にたしかに感じる甘い疼きに、私はきゅっと眉を寄せた。
下着のクロッチ越しに、きゅうと肉芽を摘まれる。
「ひゃあんっ!」
楢村くんの車の助手席、あたりは夕方のオレンジ色。
波長の長いその色が、季節が秋になってきていることを目に鮮やかに映し出す。
「……ごめん、寝てた」
「寝とったら。疲れたやろ」
楢村くんはまっすぐに前を見ながら言う。私は軽く首を振って、ドリンクホルダーにある緑茶のペットボトルを手に取った。ごくごくと飲み干す。
(……楽しかった)
ぼうっと流れていく景色を見つめながら、そう思う。フルーツたっぷりのかき氷も美味しかったし、猫かわいかったし、神社もびっくりしたけど楽しかった。
そもそも車乗ってるの好きだし──
(あれ?)
私は楢村くんの横顔を見る。横顔のラインが綺麗なの、羨ましい──と、それはいい。そうじゃなくて。
「楢村くん、あのさ」
「なん?」
「私が猫好きなの──お母さんとかから、聞い、た……?」
楢村くんはしばらく黙る。それから口を二回、開いた。
「……う」
ややあって、
「ん」
私は何度か目を瞬いて──それから顔を覆いたくなる。
(今日の、で、デー……おでかけ)
頬が熱い。反対側を向いて、夕空を見つめる。
(私の、好きなもの、で──)
かき氷が好きって言ったから、かき氷。
猫が好きって知ったから、猫カフェ。
ドライブが好きって言ったから、京都までドライブ──
(ぶ、不器用……っ)
楢村くん、不器用だ。
へんなの、セフレ作るくらいなんだから女慣れしてるはずなのに……不器用だ!
三回、深呼吸した。
それから小さく口を開く。
「あ、りがと……」
「!!」
楢村くんがびっくりしてて、私はそれにびっくりする。
「な、なに? 楽しかったんだからお礼くらい言うでしょ!」
「……っ、楽しかったん、やな?」
「……!」
口が滑った! 口が!
慌ててごまかすように、言葉を続ける。
「あっと、神社はなんで?」
「……一緒に行った友達と、こないだたまたま飲んで。あそこが恋愛成就で有名になってるって聞いて」
「恋愛成就……さっきも言ってたけど」
首を傾げた。
「あの。もしかしてさ、恋愛とか、……してるの?」
「ん」
楢村くんは頷く。
……えっと。
「ば、ばかなの!? なんで私と結婚するの!? ていうか結婚するのに成就してどうするのー! 不倫はダメでしょう!」
言いながら胸の痛みに耐える。
なにそれ、なにそれ、なにそれ!?
「──瀬奈やで」
「え?」
「俺が恋してんのは、瀬奈だけや」
ぎゅっと手を握りしめる。
また、そんなことを──言って──信じない。信じないぞ。騙されてなんか、やるもんか。
ふ、と車が減速を始める。ぱっと前を見ると、渋滞のテールランプが並んでいた。
「事故渋滞っぽいな」
カーナビを見て、楢村くんは言う。
完全に停車した車内で、楢村くんは私を見て。
「顔、真っ赤やで瀬奈」
「──っ」
「そろそろ素直に陥落してくれてもええと思うんやけど」
「っ、しない、そんなの、しない」
「……ごめんな」
楢村くんがハンドルを強く握る。
「俺が、俺がアホやったから。瀬奈に最低なことしたから」
「……わかってる、ん、じゃん」
言いながら、思う。
抵抗しなかった、ちゃんと言葉にしなかった私も悪いんだって。
なのに──楢村くんは自分一人が悪いみたいな言い方をする。
(それはつまり、──やっぱり、楢村くんに当時気持ちがなかったから)
そうしてそれを、なにがきっかけか分からないけれど、ずっと自分を責めて──いて。
その償いを今、しようとしてくれていて。
だって、まだ──私が楢村くんを好きなのは、表情で丸わかりだと思うから。
「なあ瀬奈、ほんまに好き」
ぎゅっと手を握られる。
「ほんまはな、ロマンチックなプロポーズをするつもりやってん」
「ろ、ロマンチック……!?」
「なんで皆してそんな顔するんや」
楢村くんは自分の頬を軽く撫でて、それから私に向き直る。
「けど多分、瀬奈を呆れさせるだけやと思うから」
「呆れたり、しないけど……」
「ほんま? バラの花びらを敷き詰めた夜景の見えるホテルで、バラの花束差し出しても笑わへん?」
「え!? なんで!? どうしてそんなこと思い付いたの!?」
「……ええんや、どうせ俺はマグロとか釣っとったらええんや」
「マグロ……?」
「とにかくな、もう俺は瀬奈を手放さんし、死ぬまで想い伝え続けて瀬奈が素直に俺に陥落するのを待つことにしたんや」
「そんな日は来ないけど」
「来させてみせるわ」
ぐい、と引き寄せられて──こめかみにキス。
「愛しとる、瀬奈」
「──っ」
ぷい、と顔を逸らした私の頭を楢村くんが撫でる。髪を少しくしゃくしゃにして。
その手の温かさが、どうしても──愛おしく思えてしまって。
そんなことしたくないのに、私は微かに彼の手に擦り寄ってしまう。
「──あ、かん。可愛すぎか」
「っ、な、なにが!?」
慌てて身体をずらした私の太ももに、楢村くんが手を置く。
「あの、楢村くん?」
「動かへんなあ、クルマ」
「えっと、あ、うん……」
居並ぶ車列。
空は少しずつ、藍色を深めつつあって──
つ、と楢村くんの指が動いて、スカートをずり上げる。
「な、楢村くん?」
「すべすべやんな、瀬奈の足」
「す、すべすべ……っ!?」
太ももをゆるゆると撫でながら、その指が少しずつ内腿に向かっていく。
「ぁ……っ」
くすぐったさの中にたしかに感じる甘い疼きに、私はきゅっと眉を寄せた。
下着のクロッチ越しに、きゅうと肉芽を摘まれる。
「ひゃあんっ!」
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