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わからなくて

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(わかんない)

 相変わらず無表情な楢村くんから、私はなんの感情も読み取れなかった。
 読み取れないままに。

「……っ、あ、も、無理……っ!」

 ガツガツと奥を穿つ楢村くんの熱さに、もう何回も私はイってて、ただシーツを握りしめる。
 うつ伏せにされた私の腰を持ち上げて抽送を続ける楢村くんの息が荒くて、声を堪えてるのが分かって私は、私は──嬉しい。楢村くんも気持ちいいんだって、すごく嬉しい。

(なんなの、ほんと……っ)

 理性と感情がチグハグだ。私は私がわからない。
 脳も心臓もとろけ切ってぐちゃぐちゃになってる私の最奥を楢村くんが抉って、私は高い声を上げた。

「ぁ、だめ、そこっ、また来ちゃう……っ、ぁんっ、気持ち、ぃ……っ」

 イヤイヤと首を振ると、楢村くんが唐突なほどに私に身体をぴったりくっつけて、ぎゅうと抱きしめてきた。ぐちゅ、って淫らな水音がして角度が変わる。
 ナカの肉襞が戦慄いて、きゅって楢村くんのを締め付けた。楢村くんはまた荒く息を吐いて、それから少し乱暴に抉るみたいに打ち付けてくる。
 溢れる水音。蕩けて零れて、止まらない。

「……は、ぁっ」
「瀬奈」

 少し掠れたその声に、私の蕩け切った心臓が震えて、同時に痺れるような絶頂が身体を満たす。

「ぁ、あ────っ」

 涙がぽろんと零れて、シーツに染みた。耳元で、楢村くんが低く声を漏らす。ナカで、どくんどくんと拍動する楢村くん、の……
 はあ、と息を吐いた。楢村くんが身体を起こす。ずるりと楢村くんのが出て行く。
 私は枕に顔を埋める。ああもう、ほんとに楢村くん元気……なんなら学生の時より元気じゃない? なんなの、もう。
 ゴミ箱にとさりとティッシュに包まれたゴムが捨てられた音がして、私はちょっと迷う。

(飲み物とか、淹れた方がいいのかな……)

 自宅──神戸市内、三宮のワンルームマンション──に着いた瞬間からもう、キスされてグズグズになって玄関で一回して、ベッドに押し倒されてもう一回して……ああだめだ、もうほんと体力残ってない。窓の外はもう暗くなっていた。
 と、背中にやわらかい、なにかを感じる。
 ちゅ、という小さな音に私は僅かに身体を捩った。

(背中にちゅー、されてる……?)

 とろんとしたまま、私はされるがまま。身体が動かせないのは、イかされすぎたせいか、なんなのか……
 柔らかなキスは背中に、うなじに、首筋にと絶え間なく落ちてくるけれど、そこに変な熱──要は性的な──は感じられなかった。
 ただ優しさだけがあって、私はとっさに寝たふりをする。だってどうしたらいいかわかんない。

「瀬奈」

 楢村くんが私を呼ぶ。
 反応せずにじっとしていると、やがてタオルケットが丁寧に身体にかけられた。それからこめかみにキス。そうして、楢村くんが私の横に滑りんでその上にぎゅっと抱きしめられた。
 なんだか、泣きそうになって──
 と、ブーブーブーと規則的な振動音。電話っぽい。

(私の、かな……?)

 とはいえ一度寝たふりをした手前、どうしたものでしょう……と、横で楢村くんが起き上がる気配がした。
 小さく舌打ちをしたのが聞こえた。切ったっぽくて、振動音が止まる。でもすぐにかかってきて、楢村くんはもう一度舌打ちをした。

「……なんや」

 からから、と掃き出し窓が開く音。ベランダに出たみたいだった。

(……まさか全裸じゃないよね?)

 そうっと目を開く。ガラス越しに見える楢村くんの背中──あ、良かったジーンズ履いてた。上半身裸だけど、まあセーフなのかな……
 私を起こさないようにベランダに出てくれたのだろうけれど、残念ながらそこは安普請のマンション、会話は普通に聞こえていた。

「は? 牛乳? なんでや、お前しか飲まへんねんから自分で買い行けや」

 パチリと何度か目を瞬いた。なんだかひどく、気安く話していたから──それも、とても、家庭的……な、ことを。

「おいコラ、エリ!」

 今度こそ私は目を見開く。
 エリ。
 ──エリって、誰?
 妹とか──な、わけない。いつだったか、ぽろっと楢村くん言っていたから。一人っ子だって。
 全身から力が抜けた。
 からからと窓が開く音。私は強く目を閉じる。閉まる音。静かなエアコンの音。私の横に楢村くんがまた滑り込んできて、私を抱きしめ直す。
 私は息を潜めて、──ただ、壊れそうに軋む心臓の音を聞いていた。
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