7 / 41
さくら(昴成視点)
しおりを挟む
三回生になったばかりの、桜がその重みで枝まで折れてしまいそうなくらい満開の頃。
サークル勧誘の飲み会、大学と同じ市内の、川縁にある公園でのお花見で──俺は同回の奴らに『いい加減にせえよ』と怒られた。
『……何が』
『道重さんとお前のことやないか!』
『道重さんと俺が何やねん』
まだこのときは、俺は瀬奈のことを名字で呼んでいて。
『いや、いい加減付き合えや! 無意識的にいちゃいちゃいちゃいちゃしやがって!』
押し黙る。
ついでにめっちゃ照れて、缶ビールをあおった。空になった缶を、青いビニールシートの上に置く。
『どっからどう見ても両思いやないか』
『……ほんまに?』
『なんで自信ないねん!』
いや、実のところ『そうなんやろか?』みたいなんは正直、あった。
俺を見上げる瀬奈の真っ赤な頬とか、死ぬほど可愛らしいツンデレ具合とか……
というか、瀬奈の場合感情が完璧に顔に出た。
けど、けどやな……
『何をどうしたらええんか、見当がつかん』
『は? 高校の時とかいたやろ、彼女』
『おらん。中高男子校で、部活厳しくて』
『楢村、何部やっけ』
『サッカー』
とにかく厳しかった。六年間、坊主やったし。
彼女というのは都市伝説的存在だと思っていたし、通学途中に出会う女子というものは、空想の動物に近いもので……
『ほんなら大人しく道重さんからの告白待ちー』
『いや、道重さんも中高女子校で彼氏おらん言うてたで? 告白なんかしきるんかな』
『まじかっ』
無言の俺の周りで、皆が盛り上がる。
『ええなあ楢村、道重さん処女……うおっ!?』
『おい楢村、開けとらん缶ビール破壊すんなや!』
ぷしゅう、と吹き出す缶ビール。ぼたぼたと金色の炭酸が握り締めた手からこぼれていく。
『わ、どうしたのそれ!』
別のシートにいた瀬奈が、タオル片手に俺の横に来る。目で追う。心配そうな顔に、心臓がきゅんと痛んだ。
(……あー、かーわいー)
可愛いと思うついでに、さっき瀬奈に関して変なこと言いよったアホを睨む。二度と視界に入れんなやボケ。
俺もタオル引っ張り出して片付けて、また同回の男だけになって──「で」と俺は言う。
『どうしたらええんや』
『素直に告白せえ』
『できたらとっくに付き合っとるわボケ。道重さん前にすると言葉なんか出んくなるんや好きすぎて』
『あーもうめんどくせえ。チューしてまえチュー』
『……んな破廉恥な』
『破廉恥てなんやねん破廉恥て。お前何時代の人間や』
そんな会話をした数時間後──俺はいつも通り、瀬奈を彼女のマンションまで送っていた。
『……』
無言で並んで歩く。瀬奈がドキドキしているのが分かるし、俺もむちゃ心臓が拍動してもはや痛い。
手の甲と手の甲が、一瞬、触れ合った。
『っ、あ、ごめ……』
真っ赤な瀬奈が俺を見上げる。
──ああ、可愛い。
世界中の神様に感謝したい気分になって、暗い春の夜空を見上げた。しっとりと、柔らかな春の空気が辺りに沈み込んでいる。
と、もう少しで瀬奈のマンション──というところで、瀬奈がびくりと立ち止まった。
『どうしたん』
『っ、えっと、あの……』
しどろもどろになる瀬奈の顔色が、一瞬にして悪くなる。その視線の先を辿って──俺は唇を引き結んだ。
(──誰や)
マンションの前、街灯の下で「そいつ」は笑っていた。そうして俺たちの方へ歩いてくる。
普通の、男だった。
髪型も服装も、ウチの大学にいくらでもいるような──没個性的な、そんな印象の男。
『瀬奈。なんでメッセージ返さないの?』
『い、忙し……かった、からです』
瀬奈の手が震えている。
俺は一瞬黙り込んで『道重さん、これ誰?』って聞く。
『同じ学部の……先輩で』
『仲いいんだよな、オレたち。趣味合うし』
男はにこやかにそう言い放つ。瀬奈はぴくりと固まった。
──変や。
俺は瀬奈の手を握ってさっさとマンションのエントランスを突き進む。背後から粘っこい視線が絡みついていた。
『……なんか、しつこくて』
玄関で、瀬奈が訥々と話す。声は震えていて──
『最初は、普通だったんだけど……去年、告白断ったあたりからなんか、なんていうか……』
『っ、告白、されたん』
『こ、断ったよ!?』
ばっと瀬奈が俺を見上げた。
『断ったんだけど……』
瀬奈が誰かといるときは、近寄って来ないらしい。
けれど瀬奈が一人になると、必ず寄ってきて──
『昨日どこそこにいたな、とか誰々と遊んでたよな? とか、服装がどうとか……大学がない日のことまで。こ、この間琵琶湖まで同じ学部の仲良いメンバーで行ったんだけど、あの人いなかったのに、バーベキュー楽しそうだったね、あの帽子新しいよね、似合うって』
瀬奈は一気に言って、震える指先で自分の服を握り締めた。
『ストーカーやん』
『そう、なのかな……?』
サークル勧誘の飲み会、大学と同じ市内の、川縁にある公園でのお花見で──俺は同回の奴らに『いい加減にせえよ』と怒られた。
『……何が』
『道重さんとお前のことやないか!』
『道重さんと俺が何やねん』
まだこのときは、俺は瀬奈のことを名字で呼んでいて。
『いや、いい加減付き合えや! 無意識的にいちゃいちゃいちゃいちゃしやがって!』
押し黙る。
ついでにめっちゃ照れて、缶ビールをあおった。空になった缶を、青いビニールシートの上に置く。
『どっからどう見ても両思いやないか』
『……ほんまに?』
『なんで自信ないねん!』
いや、実のところ『そうなんやろか?』みたいなんは正直、あった。
俺を見上げる瀬奈の真っ赤な頬とか、死ぬほど可愛らしいツンデレ具合とか……
というか、瀬奈の場合感情が完璧に顔に出た。
けど、けどやな……
『何をどうしたらええんか、見当がつかん』
『は? 高校の時とかいたやろ、彼女』
『おらん。中高男子校で、部活厳しくて』
『楢村、何部やっけ』
『サッカー』
とにかく厳しかった。六年間、坊主やったし。
彼女というのは都市伝説的存在だと思っていたし、通学途中に出会う女子というものは、空想の動物に近いもので……
『ほんなら大人しく道重さんからの告白待ちー』
『いや、道重さんも中高女子校で彼氏おらん言うてたで? 告白なんかしきるんかな』
『まじかっ』
無言の俺の周りで、皆が盛り上がる。
『ええなあ楢村、道重さん処女……うおっ!?』
『おい楢村、開けとらん缶ビール破壊すんなや!』
ぷしゅう、と吹き出す缶ビール。ぼたぼたと金色の炭酸が握り締めた手からこぼれていく。
『わ、どうしたのそれ!』
別のシートにいた瀬奈が、タオル片手に俺の横に来る。目で追う。心配そうな顔に、心臓がきゅんと痛んだ。
(……あー、かーわいー)
可愛いと思うついでに、さっき瀬奈に関して変なこと言いよったアホを睨む。二度と視界に入れんなやボケ。
俺もタオル引っ張り出して片付けて、また同回の男だけになって──「で」と俺は言う。
『どうしたらええんや』
『素直に告白せえ』
『できたらとっくに付き合っとるわボケ。道重さん前にすると言葉なんか出んくなるんや好きすぎて』
『あーもうめんどくせえ。チューしてまえチュー』
『……んな破廉恥な』
『破廉恥てなんやねん破廉恥て。お前何時代の人間や』
そんな会話をした数時間後──俺はいつも通り、瀬奈を彼女のマンションまで送っていた。
『……』
無言で並んで歩く。瀬奈がドキドキしているのが分かるし、俺もむちゃ心臓が拍動してもはや痛い。
手の甲と手の甲が、一瞬、触れ合った。
『っ、あ、ごめ……』
真っ赤な瀬奈が俺を見上げる。
──ああ、可愛い。
世界中の神様に感謝したい気分になって、暗い春の夜空を見上げた。しっとりと、柔らかな春の空気が辺りに沈み込んでいる。
と、もう少しで瀬奈のマンション──というところで、瀬奈がびくりと立ち止まった。
『どうしたん』
『っ、えっと、あの……』
しどろもどろになる瀬奈の顔色が、一瞬にして悪くなる。その視線の先を辿って──俺は唇を引き結んだ。
(──誰や)
マンションの前、街灯の下で「そいつ」は笑っていた。そうして俺たちの方へ歩いてくる。
普通の、男だった。
髪型も服装も、ウチの大学にいくらでもいるような──没個性的な、そんな印象の男。
『瀬奈。なんでメッセージ返さないの?』
『い、忙し……かった、からです』
瀬奈の手が震えている。
俺は一瞬黙り込んで『道重さん、これ誰?』って聞く。
『同じ学部の……先輩で』
『仲いいんだよな、オレたち。趣味合うし』
男はにこやかにそう言い放つ。瀬奈はぴくりと固まった。
──変や。
俺は瀬奈の手を握ってさっさとマンションのエントランスを突き進む。背後から粘っこい視線が絡みついていた。
『……なんか、しつこくて』
玄関で、瀬奈が訥々と話す。声は震えていて──
『最初は、普通だったんだけど……去年、告白断ったあたりからなんか、なんていうか……』
『っ、告白、されたん』
『こ、断ったよ!?』
ばっと瀬奈が俺を見上げた。
『断ったんだけど……』
瀬奈が誰かといるときは、近寄って来ないらしい。
けれど瀬奈が一人になると、必ず寄ってきて──
『昨日どこそこにいたな、とか誰々と遊んでたよな? とか、服装がどうとか……大学がない日のことまで。こ、この間琵琶湖まで同じ学部の仲良いメンバーで行ったんだけど、あの人いなかったのに、バーベキュー楽しそうだったね、あの帽子新しいよね、似合うって』
瀬奈は一気に言って、震える指先で自分の服を握り締めた。
『ストーカーやん』
『そう、なのかな……?』
12
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました
せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる