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8(中学編)
体育会
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5月の晴天の下、ダサイと評判の青ジャージをハーフパンツの上に着込んで私は目をぱちくりとさせ、彼を見つめた。
今日は体育会。
雨天順延で、平日開催となった今年は、保護者の姿もちょっと少ない。
(敦子さんも仕事だし、ちょっとさみしい。お弁当も給食になっちゃったし)
美味しかったけど。完食、おかわりまでして文句は言ってはいけない。
(けどけどっ、八重子さんの唐揚げっ)
食べたかったなぁ。
そして晴天ということは、日焼け間違いなし。すでにヒリヒリしている。
それに、華の身体は運動苦手でこそないけれど、アラサー精神的にはまる1日土ボコリ舞う運動場にいる、というのが思いのほか、疲れてしまう。
そんな体育会の、午後の競技が始まってすぐ、お手洗いに行って戻ってこようとしていた時だ。
保護者席の後ろ側を通りかかった時、ぽん、と背中を叩かれて振り向くと、ぷにりとほっぺに指が突き刺さった。
目を瞬かせながら目線を上げると、ここにいないはずのアキラくんがいたのだった。
「よ」
「アキラくん」
「応援に来たで!」
そう言うアキラくんはTシャツに、下は学校名が入ったスウェット。
「合宿中じゃなかったの?」
「こっちで練習試合やねん、今から。どーしても行きたいとこあるんで、言うて30分だけ抜けさせてもらったんや」
「大丈夫なの?」
一年生なのにいきなりの単独行動。先輩に怒られたりしないかな。
「昼休憩抜けてるだけやし大丈夫や」
四月から、神戸の私立中学へ進学してたアキラくんが、横浜の姉妹校で1週間合宿がある、というのは聞いていた。でもさすがに合宿中だし、会ったりは無理かもね、と一昨日くらいに電話で話していたし、今日体育会なのも伝えていたけど、まさか来てくれるなんて。
「なんや華、嬉しくないんかい」
「え、そんなことない、嬉しいけどびっくりしちゃって、あは、やめてよう」
口をとがらせたアキラくんは、私の髪をぐちゃぐちゃにしながら笑う。
「ハチマキずれちゃう」
「華ハチマキ似合うな」
「ハチマキに似合う似合わないあるの?」
「あるんちゃう?」
責任者取って付け直したるわ、とアキラくんは嘯いて、丁寧に私の髪にサラリと触れる。キレイにハチマキを結び直してくれた。おでこじゃなくて、カチューシャ風。赤組なので、赤いハチマキだ。
「……上手だね?」
「器用なんや俺は。また他の女子にしたことあるとか疑ってるやろ華」
「あはは」
笑うと、アキラくんはまた口を尖らせて私の頬をごく軽く引っ張った。そして笑う。
「今から競技あんの?」
「うん、もうちょいしたら、借り物競走」
「ほなそこまで見て帰ろ」
「時間大丈夫?」
「走って帰るから大丈夫やで、アップ代わりや」
「そう? あ、今から黒田くん走るよ」
「健クン?」
人波の間から、運動場へ2人して目線をやる。
「あ、ほんまや。おーい健クン、がんばりやー!」
「あ?」
男子100メートル走の順番待ちをしていた黒田くんに、私も手を振る。4クラスなので、4人一組で走るのだ。
「がんばって!」
私も大きな声でそう言う。
「おう! つか、来てたのか中1」
「いい加減名前で呼べや」
その言葉を無視するようにして、黒田くんは笑った。
「久しぶりだな!」
「せやなー! また遊んでや!」
黒田くんは片頬で笑って、また前を向いた。隣に並んでた友達に話しかけられて、何か答えている。
「あれ」
「どしたの?」
「健クンの走る組だけ、1人少ないな?」
「あ、ほんとだ。今日休みの子いるのかな」
「ほーん」
アキラくんはにやりと笑った。
「ほな俺走ろ」
「え!?」
私は思わずアキラくんを見上げる。
「ダメじゃないかなぁ」
「飛び入りさせてや。あ、せや」
アキラくんはキョロキョロとしたあと、保護者席の横にある教職員テントへ向かう。私も慌てて後を追った。
「おーいさがらん」
「……騒がしい関西弁だなぁと思っていたんですよ」
相良先生は驚くこともなく、テントから出てきた。アキラくんは目立つので、きているの気づいてたのかも。
「健クンの組、一人おらんやん。俺入れたってくれません?」
「だーめ。キミ、部外者でしょ」
「あかん?」
「あかん」
相良先生はなぜか関西弁で返した。
「せやったら、俺、チクるわ」
「なにを」
「今更やけど、センセがノーパソなくしかけたこと」
「……は?」
「6年の修学旅行で」
「えーと」
「チクリ先って、いまあそこに座ってる教頭センセーとかでええ? もしくは来賓席のエラソーな教育委員会のオッサン?」
「……、ぐう」
先生は苦虫を噛み潰したような顔をして、変な声を出した。
「……見なかったことには、します」
「よっしゃ」
アキラくんは満面の笑みで私に振り向いて「ほな走ってくるわ!」と言った。
「は、え!?」
「見ててや華、俺の勇姿~。ハイハイ皆さんゴメンなさいよ、山ノ内くんが通りますよーと」
観客をかき分け、黒田くんのところへ向かうアキラくん。
「こら、何してるの」
止めに入る別の先生に、相良先生は「その子は今日休みの小林の、いとこの叔母さんの大叔母さんの家に時々くる三毛猫の本来の飼い主の隣の家の親戚のクソガキらしくて、小林の代理で走るそうです!」と叫んだ。なんだそりゃ。
言われた先生もぽかんとしている。その隙に、呆れ顔の黒田くんの横に立って、私に向かって両手でVサインなんかしてみせてる。
もーしーらなーい。
女子たちからは「なにあのイケメン!?」とか歓声なんか上がっちゃって、アキラくんは余裕の笑みでそっちに手なんか振っちゃってる。
スターターの体育委員の女の子もちょっと見惚れてて、アキラくんの微笑みながらの「バーンしてや、バーン」で慌てて「位置についてー!」と声を張り上げた。
ばあん、という号砲。
4人が同時にスタートして、少しずつ黒田くんとアキラくんが後の2人を引き離し始めた。
(うわ、2人とも速っ!)
黒田くんも足が速いの、知ってたけど。走る競技のはずのバスケしてるアキラくんと同じくらいなの!? すごい!
アキラくんはアキラくんで、そもそも学年下なのに、まったくそんなことを感じさせない。2人ともすごい!
私は思わず興奮して、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、2人を応援する。
そして2人はほとんど同時にゴールテープに転がるように突っ込んだ。
「どっち!?」
周りからも歓声が上がる。
ゴールにいた体育委員が「同時!」と叫んで、また歓声が上がった。それを合図にするように、先生たちが駆けてくる。そりゃ飛び入りでこんなことしたら、こうなるに決まってる。
「やっば」
アキラくんは観客席を越えて私のところまで走ってくる。
「華、すまん! 逃げるわ! 借り物競走の勇姿見れへんで残念やけど!」
「あ、うん、気をつけて」
すれ違いざまに私の髪にさらりと触れて、にやりと笑ってアキラくんは校門のほうへ走っていった。
「設楽、知り合いか!?」
追いかけてきた先生に聞かれる。
「今日休みの小林くんの、いとこの叔母さんの大叔母さんの家に時々くる三毛猫の本来の飼い主の隣の家の親戚のクソガキっていうことしか分かりません」
「そうか、こら待て、くそッ逃げ足速いな!」
先生たちが駆けていく。その間に、退場門から黒田くんたちが出てきた。
「何しに来たんだアイツ」
私の前まで来た黒田くんが呆れ顔で言う。それから悔しそうに「けど俺、完敗だったな」と呟く。
「え?」
私は首を傾げた。
「同時ゴールじゃなかった?」
「あいつスウェットだろ、明らかに走りにくいじゃねぇか」
「あ」
確かに言われればそうだ。
「クッソ、走り込み増やすか」
「あは、でも2人ともすごかったよ。かっこよかった」
「……そうかよ」
思わず素直に感想を言うと、黒田くんは少し照れたように口を尖らせた。
今日は体育会。
雨天順延で、平日開催となった今年は、保護者の姿もちょっと少ない。
(敦子さんも仕事だし、ちょっとさみしい。お弁当も給食になっちゃったし)
美味しかったけど。完食、おかわりまでして文句は言ってはいけない。
(けどけどっ、八重子さんの唐揚げっ)
食べたかったなぁ。
そして晴天ということは、日焼け間違いなし。すでにヒリヒリしている。
それに、華の身体は運動苦手でこそないけれど、アラサー精神的にはまる1日土ボコリ舞う運動場にいる、というのが思いのほか、疲れてしまう。
そんな体育会の、午後の競技が始まってすぐ、お手洗いに行って戻ってこようとしていた時だ。
保護者席の後ろ側を通りかかった時、ぽん、と背中を叩かれて振り向くと、ぷにりとほっぺに指が突き刺さった。
目を瞬かせながら目線を上げると、ここにいないはずのアキラくんがいたのだった。
「よ」
「アキラくん」
「応援に来たで!」
そう言うアキラくんはTシャツに、下は学校名が入ったスウェット。
「合宿中じゃなかったの?」
「こっちで練習試合やねん、今から。どーしても行きたいとこあるんで、言うて30分だけ抜けさせてもらったんや」
「大丈夫なの?」
一年生なのにいきなりの単独行動。先輩に怒られたりしないかな。
「昼休憩抜けてるだけやし大丈夫や」
四月から、神戸の私立中学へ進学してたアキラくんが、横浜の姉妹校で1週間合宿がある、というのは聞いていた。でもさすがに合宿中だし、会ったりは無理かもね、と一昨日くらいに電話で話していたし、今日体育会なのも伝えていたけど、まさか来てくれるなんて。
「なんや華、嬉しくないんかい」
「え、そんなことない、嬉しいけどびっくりしちゃって、あは、やめてよう」
口をとがらせたアキラくんは、私の髪をぐちゃぐちゃにしながら笑う。
「ハチマキずれちゃう」
「華ハチマキ似合うな」
「ハチマキに似合う似合わないあるの?」
「あるんちゃう?」
責任者取って付け直したるわ、とアキラくんは嘯いて、丁寧に私の髪にサラリと触れる。キレイにハチマキを結び直してくれた。おでこじゃなくて、カチューシャ風。赤組なので、赤いハチマキだ。
「……上手だね?」
「器用なんや俺は。また他の女子にしたことあるとか疑ってるやろ華」
「あはは」
笑うと、アキラくんはまた口を尖らせて私の頬をごく軽く引っ張った。そして笑う。
「今から競技あんの?」
「うん、もうちょいしたら、借り物競走」
「ほなそこまで見て帰ろ」
「時間大丈夫?」
「走って帰るから大丈夫やで、アップ代わりや」
「そう? あ、今から黒田くん走るよ」
「健クン?」
人波の間から、運動場へ2人して目線をやる。
「あ、ほんまや。おーい健クン、がんばりやー!」
「あ?」
男子100メートル走の順番待ちをしていた黒田くんに、私も手を振る。4クラスなので、4人一組で走るのだ。
「がんばって!」
私も大きな声でそう言う。
「おう! つか、来てたのか中1」
「いい加減名前で呼べや」
その言葉を無視するようにして、黒田くんは笑った。
「久しぶりだな!」
「せやなー! また遊んでや!」
黒田くんは片頬で笑って、また前を向いた。隣に並んでた友達に話しかけられて、何か答えている。
「あれ」
「どしたの?」
「健クンの走る組だけ、1人少ないな?」
「あ、ほんとだ。今日休みの子いるのかな」
「ほーん」
アキラくんはにやりと笑った。
「ほな俺走ろ」
「え!?」
私は思わずアキラくんを見上げる。
「ダメじゃないかなぁ」
「飛び入りさせてや。あ、せや」
アキラくんはキョロキョロとしたあと、保護者席の横にある教職員テントへ向かう。私も慌てて後を追った。
「おーいさがらん」
「……騒がしい関西弁だなぁと思っていたんですよ」
相良先生は驚くこともなく、テントから出てきた。アキラくんは目立つので、きているの気づいてたのかも。
「健クンの組、一人おらんやん。俺入れたってくれません?」
「だーめ。キミ、部外者でしょ」
「あかん?」
「あかん」
相良先生はなぜか関西弁で返した。
「せやったら、俺、チクるわ」
「なにを」
「今更やけど、センセがノーパソなくしかけたこと」
「……は?」
「6年の修学旅行で」
「えーと」
「チクリ先って、いまあそこに座ってる教頭センセーとかでええ? もしくは来賓席のエラソーな教育委員会のオッサン?」
「……、ぐう」
先生は苦虫を噛み潰したような顔をして、変な声を出した。
「……見なかったことには、します」
「よっしゃ」
アキラくんは満面の笑みで私に振り向いて「ほな走ってくるわ!」と言った。
「は、え!?」
「見ててや華、俺の勇姿~。ハイハイ皆さんゴメンなさいよ、山ノ内くんが通りますよーと」
観客をかき分け、黒田くんのところへ向かうアキラくん。
「こら、何してるの」
止めに入る別の先生に、相良先生は「その子は今日休みの小林の、いとこの叔母さんの大叔母さんの家に時々くる三毛猫の本来の飼い主の隣の家の親戚のクソガキらしくて、小林の代理で走るそうです!」と叫んだ。なんだそりゃ。
言われた先生もぽかんとしている。その隙に、呆れ顔の黒田くんの横に立って、私に向かって両手でVサインなんかしてみせてる。
もーしーらなーい。
女子たちからは「なにあのイケメン!?」とか歓声なんか上がっちゃって、アキラくんは余裕の笑みでそっちに手なんか振っちゃってる。
スターターの体育委員の女の子もちょっと見惚れてて、アキラくんの微笑みながらの「バーンしてや、バーン」で慌てて「位置についてー!」と声を張り上げた。
ばあん、という号砲。
4人が同時にスタートして、少しずつ黒田くんとアキラくんが後の2人を引き離し始めた。
(うわ、2人とも速っ!)
黒田くんも足が速いの、知ってたけど。走る競技のはずのバスケしてるアキラくんと同じくらいなの!? すごい!
アキラくんはアキラくんで、そもそも学年下なのに、まったくそんなことを感じさせない。2人ともすごい!
私は思わず興奮して、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、2人を応援する。
そして2人はほとんど同時にゴールテープに転がるように突っ込んだ。
「どっち!?」
周りからも歓声が上がる。
ゴールにいた体育委員が「同時!」と叫んで、また歓声が上がった。それを合図にするように、先生たちが駆けてくる。そりゃ飛び入りでこんなことしたら、こうなるに決まってる。
「やっば」
アキラくんは観客席を越えて私のところまで走ってくる。
「華、すまん! 逃げるわ! 借り物競走の勇姿見れへんで残念やけど!」
「あ、うん、気をつけて」
すれ違いざまに私の髪にさらりと触れて、にやりと笑ってアキラくんは校門のほうへ走っていった。
「設楽、知り合いか!?」
追いかけてきた先生に聞かれる。
「今日休みの小林くんの、いとこの叔母さんの大叔母さんの家に時々くる三毛猫の本来の飼い主の隣の家の親戚のクソガキっていうことしか分かりません」
「そうか、こら待て、くそッ逃げ足速いな!」
先生たちが駆けていく。その間に、退場門から黒田くんたちが出てきた。
「何しに来たんだアイツ」
私の前まで来た黒田くんが呆れ顔で言う。それから悔しそうに「けど俺、完敗だったな」と呟く。
「え?」
私は首を傾げた。
「同時ゴールじゃなかった?」
「あいつスウェットだろ、明らかに走りにくいじゃねぇか」
「あ」
確かに言われればそうだ。
「クッソ、走り込み増やすか」
「あは、でも2人ともすごかったよ。かっこよかった」
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思わず素直に感想を言うと、黒田くんは少し照れたように口を尖らせた。
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