小説探偵

夕凪ヨウ

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Case196.真実②

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「何から話す?聞きたいことにはある程度、答えられると思うぜ。」

 そう言って、圭介は海里・真衣・龍・玲央・アサヒ・小夜・武虎の7人を見た。全員の視線が海里と真衣に集中する。

「え、私たちですか?」
「そりゃあね。話の趣旨はどう考えても君たちに集中しているし、2人のことを知らない限り、テロリストのことを聞いても意味なさそうだから。」
「・・・・では・・私と真衣は、何者なんですか?どんな家に生まれて、なぜ両親は命を落として、江本家に引き取られたんですか?」

 圭介は少し考えた後、驚くべきことを言った。

「まず、2人の両親が亡くなったと言われた時、2人はまだ生きていたんだ。母親はもう亡くなったけど・・・父親はまだ生きてる。」
「生きてる?じゃあどこにいるんですか?」

 その質問に圭介は言い淀んだ。彼は声を潜め、ゆったりとした口調で続ける。

「・・・・テロリストの本拠地。」
「本拠地・・⁉︎」
「え?圭介さん・・まさか・・・」

 真衣は信じられないという顔で尋ねた。圭介は頷く。

「そのまさかだよ。今警察が追っているテロ組織のボスは、海里・真衣、2人の実の父親だ。」

 戦慄が走った。武虎ですら驚きを隠せていない。

「父がテロ組織のボス・・・?な、何で・・・・」
「実は俺もその辺は知らないんだ。2人の父親がボスってことは知っているが、テロリストになった理由は知らねえ。西園寺家の部下を通じて聞いても教えてくれなかった。」
「で、でも!お父さんとお母さんは死んじゃったって義父さんたちから聞いたよ⁉︎それとも、義父さんたちが嘘をついてるの⁉︎」

 真衣の言葉に圭介は首を横に振った。

「嘘はついてない。あの人たちは本当に亡くなったと思ってる。で、江本家が2人を引き取った理由は昔お世話になったとかじゃなく、親戚だから。2人は江本家って言うけど、生まれた時から姓は江本だぜ?」
「生まれた時から?苗字が同じなんですか?」
「違うって。2人の実の父親は、一也・仁さんの異母弟にあたる。あの夫婦は伯父伯母だし、3人の子供は従兄妹なんだよ。」

 海里と真衣は頭がついていかなかった。圭介は続ける。

「一也さんたちはこのことを知らない。2人の父親は、一也さんの親父さんが不倫の末に作った子供だ。家で育てるわけにも行かなかったから、その存在は隠された。一也さんたちが2人のことを知った理由は、実の父親の告白だと思う。それ以外に知る術はないはずだ。」
「信じられませんね・・・。両親の写真とかありませんか?」
「あ、そういやあった。」

 圭介はポン、と手を叩き、家に帰って持って来た紙袋の中から小さなアルバムを取り出し、1枚の写真を見せた。

 そこには、子供の頃の海里・真衣・圭介の3人と、3人の両親が映っている。

「これ、2人の父親。海里そっくりだろ?母親は目の色以外、真衣と同じ顔してるだろ?」

 写真の中には、海里に瓜二つな美青年と、穏やかな笑みを浮かべた女性がいた。そして、その横には圭介そっくりの男性が満面の笑みを浮かべ、その隣に快活そうな女性がいる。

「これ・・・どこで撮ったんですか?」
「京都。俺たち3人とも、小学生までは家が隣同士だったんだ。これは海里の両親がうちの隣に偶然引っ越して来て、再会記念に撮った写真だよ。」
「撮影者は誰なんですか?」
「近所の人だったんじゃね?何せガキの頃だったから、あんまり覚えてねえんだよ。」

 少し一区切りついたのか、圭介は息を吐いた。既に全員驚いて言葉が出ていない。すると、龍が口を開いた。

「じゃあ、2人の記憶を西園寺茂が消した理由は?」
「2人の父親から心残りを消すためさ。テロリストとしての活動に情は不要ってのが茂と和豊の考えだからな。本人たちにとっちゃ、手段を選ばないために必要なことだったんだと思うぜ。
2人の両親は表向き火事で亡くなったことになってるけど、実際は身代わりを立てて姿を消したっていうのが本当だ。」
「神道君の両親がテロリストになった理由は?」
「友情だと思うぜ。両親同士、親友だったんだよ。その証拠に、俺の実の両親は海里と真衣の両親が亡くなった数日後に失踪した。」

 全員の表情が凍りついた。海里は驚きながら訪ねる。

「失踪・・・ですか?置き手紙などもなく?」
「全くなかったぜ。あの頃は訳が分かんなくて、泣き叫んで・・・。強盗が入った形跡もないから、自分たちの意思で姿を消したってことになってさ。でも1人じゃ生きていけないから、神道家に引き取られたけど。」

 その言葉を聞いたアサヒは冷静に尋ねた。

「・・・・あなたが神道家に引き取られた理由って、近くであなたを監視するためよね?大和の母親は私の叔母・・父の妹だもの。」
「だろうな。義母さんは何も知らないだろうけど、親父たちは俺を監視し、俺を通して海里たちの情報を得ていたんじゃねえかな。」

 圭介は苦笑した。玲央が尋ねる。

「君は、いつどうやってテロリストのことを知ったの?」
「両親が失踪して割とすぐさ。家の中に、こんな物があった。」

 圭介が出したのは波の絵が彫られたUSBメモリだった。彼はパソコンを取り出し、メモリを繋ぐ。

「これで知ったんだ。」
「これは・・・テロリストの内部編成?」
「ああ。見て分かる通り、海里と真衣の父親・江本拓海を筆頭として、幹部に西園寺家、天宮家、そして本城家がある。この三家にはそれぞれ役割が振られていて、西園寺家が技術、天宮家が頭脳、本城家が戦闘。九重浩史の弟だった早乙女佑月は、本城家の戦闘部隊に所属していたんだ。」
「江本君の父親が西園寺・天宮両家を集めたのは、同じく警察を邪魔だと思っているから?」
「おう。加えて財力など表社会での影響が大きかった。仲間にするには丁度良かったんだ。信頼はなくても、力になるなら構わないって感じかな。」
「・・・・でも・・・少し妙な話ね。」

 そう言ったのは小夜だった。

「お金と権力だけでそれほど大きな組織をまとめられる?警察が邪魔だから結託したと言うけれど、やり過ぎれば自分たちの悪事が知られる可能性もあるわ。テロリストの目的って、本当に警察を潰すことなの?」
「え・・・俺はそう聞いてるけど。」
「・・・・そう。」

 小夜はどこか納得が行っていないようだった。武虎も何か考えている。

「あともう1つ、こんな物が入ってたんだ。音声が収録された動画。」

 圭介がパソコンを操作すると、再生画面が現れた。ボタンを押すと、音声が聞こえ始める。


『圭介。俺たちは拓海を手伝うためにお前の前から姿を消した。勝手なことをして悪いと思うが、俺はあいつらを見捨てられねえ。親友として、拓海と真由香が受けた仕打ちを見て見ぬふりするわけには行かなねえんだ。』


 圭介によく似た声だったが、明るさはなかった。彼は声を聞きながら解説する。

「これは親父の声。ちなみに真由香は2人の実の母親の名前な。で、次に流れるのがお袋・本城咲恵の声だ。』


『あたしたちは拓海を手伝ってあいつの復讐を完成させる。もうあんたに会えないかもしれないけど、どうか神道家で何不自由なく暮らして欲しい。』


「・・・・これだけ、ですか?」
「ああ。気になるのは、“仕打ち”と“復讐”って言葉だが、俺には何のことかサッパリ分からねえ。心当たりねえのか?東堂たちは。」
「無いな。俺たちは事件を通して江本と知り合った。家の事情は知らなかったし聞かなかった。」
「同じく。彼らの目的って一体何ーーーー・・・父さん?」

 玲央がふと武虎を見ると、彼は眉を顰めていた。組まれた腕に力が込められ、口は固く引き結ばれている。

「あ・・・ううん。何でもない。気にしないで。」

 武虎はいつも通りの笑みを浮かべたが、その言葉が嘘だと全員が分かっていた。しかしその中で、真衣は気にせず口を開いた。

「気になったことがあるんだけど。」
「どうしたんです?真衣。」
「テロリストが関わる事件の時、何で龍さんと玲央さんが必ずいるのかなあって思って。」
「え・・・?」

 全員が動きを止めた。鼓動が速くなっている。

「考えたら不思議な話じゃない?兄さんが拐われた時は2人が協力して、早乙女佑月とは玲央さんが関わって、後になって龍さんにも接触した。ずっと正体を隠して来たのに、どの事件でも絶対に2人の前に現れるなんて、おかしな話だと思わない?」
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