小説探偵

夕凪ヨウ

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Case195.真実①

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「意識を取り戻した?」

 ボスに聞かれ、茂は頷いた。

「治療が完璧であっても弾丸に塗った毒薬で殺せるはずだったが、予想外だ。どうする?もう1度殺しに行くか?」

 ボスは首を横に振った。必要ない、と呟く。

「種は既に蒔いていると言うのだな?」

 茂の言葉にボスは頷き、しばらく何もしないと言った。茂は分かった、と言い、暗く、長い廊下を歩いて行った。
                    
         ※

「海里!大丈夫か⁉︎」
「圭介さん。はい、もう安定していますよ。昨夜、大和さんが毒抜きもしてくださったので後は安静にしているだけです。」

 圭介は安堵の溜息をつき、しゃがみ込んだ。両手で顔を覆い、涙を拭う。

「兄さんから連絡もらって・・・居ても立っても居られなくなってよ。無事で、本当に良かった。」
「ありがとうございます。」
「あ、圭介さん!」

 真衣が見舞いの品を持って部屋に入って来た。2人は軽く挨拶を交わし、海里を交えて談笑を始める。

「それにしても、海里兄さんよく目が覚めたよね。みんな諦めかけたたんだよ?」
「そうですね。私も諦めかけました。でも・・・」
「九重さんが助けてくれた?」
「ええ。妄想じみた話かもしれませんが、たしかにあの時、あの人の声が聞こえたんです。あり得ないと思うのに、手を握った感触すらどこか残っている気がします。」
「不思議なこともあるんだね。その辺は分からないの?圭介さん。」

 真衣の質問に圭介は首を捻った。

「死後の世界はな~。それに、九重って人は未練が無いから死を選んだんだろ?霊として現世に留まっているとは考えにくいぜ。」
「考えにくいってことは、可能性があるんですか?」
「その辺は本格的な研究じゃねえと言い切れねえな。ただ海里がそう思ってるなら、それで良いんじゃねえか?」

 海里は嬉しそうに笑った。すると、扉が開き龍と玲央が入って来た。

「お仕事はいいんですか?」
「休憩時間だからね。それにしても・・・神道君、昨日とはうって変わって明るいね。何かあったの?」

 玲央の質問に、圭介は目を瞬かせた。海里が言葉を引き継ぐ。

「昨夜、いらしてくださったんですよね?東堂さんたちからお聞きしました。」
「・・・・いや・・俺、昨日ここには来てねえよ?」
「えっ?でも・・会って話をしたって・・・・。昨日の夜ぐらいに・・・」
「夜?いやいや、俺昨日は夕方から夜まで除霊の仕事したぜ?海里のことはさっき兄さんからの連絡で知ったって言ったろ?」

 海里たちは訳が分からなくなった。何より、龍と玲央は圭介自身の口から内通者から聞いているのだ。姿も声も、圭介だと確信し、本人も否定しなかったのだから。

「お前の仕事を知っている人間は?」
「兄さんが知ってるけど。」

 龍は急いで大和に聞きに行った。彼は“仕事に行っていた”と言い、依頼主からもお礼の電話があったと言ったのだ。

「どういうこと・・・⁉︎君が仕事に行っていたのなら、昨日俺たちの前に現れた“あれ”は誰だと言うんだ?」

 その言葉で、圭介の眉がピクリと動いた。真剣な顔をして椅子から立ち上がる。

「俺とそっくりの男が、あんたたちと話したって言うんだな?」
「ああ。名前を呼んでも否定しなかったし、何より君にしか見えなかったからね。・・・・何か知ってるの?」

 圭介は頷き、溜息をつきながら再び椅子に腰掛けた。

「・・・・あんたたちが昨夜会ったのは、俺の親父だよ。」
「親父?それにしては顔がそっくり・・・・」
「だから親父だよ。神道家の義理の父親じゃなくて、俺の、実の父親・本城圭。」

 全員、意味が分からなかった。圭介は続ける。

「親父はこんなこと言ったんだろ?“自分はテロリストの内通者”、“海里が目覚めたら全て話す”・・・。」
「ああ、そう言ってたよ。だがそれが分かるってことは、お前はテロリストのことを知っていて、父親も一味だと考えていいんだな?」
「いいぜ。つーか親父は幹部だし。」

 何でもない風に明かされる真実が、海里たちには信じられなかった。圭介は苦い笑みを浮かべる。

「どうせ俺がここに来ること予想してやったんだ。真実を明かしやすくするために、俺に変装してお前らに内通者であることを話したんだろ。まあ親父たちが海里を殺しかけた以上、俺もケジメをつけて話をしなきゃならない。」
「圭介さん・・・?」

 首を傾げる2人に江本兄妹に対し、圭介は真剣な顔で言った。

「海里、真衣。俺たちは幼馴染みで、子供の頃は親友と呼べる間柄だった。俺の両親とお前たちの両親が親友で、俺たちも仲良くなったんだ。まあ、覚えてないだろうけど。」

 海里は頷いた。玲央がここぞとばかりに海里に尋ねる。

「どうして覚えてないの?事故や事件が起こったショックで記憶が曖昧になるとかは偶に聞く話だけど、友人のことまで忘れるなんて。」
「・・・・いえ、両親や・・友人のことだけではないんです。」

 海里の言葉に玲央は首を傾げた。

「えっ?どういうこと?」
「私は12歳より前、真衣は10歳より前の記憶が一切ないんですよ。圭介さんのことも、両親の顔や名前すら覚えていない。私たちの1番古い記憶は、江本家に引き取られた時です。それ以前の記憶は、何1つありません。」

 そう断言した海里の横で、真衣も頷いた。龍と玲央は言葉が出て来ず唖然とする。

「そんなことあり得るのか?」
「あり得ないと思います。何度か医師に見てもらいまたしが、脳に異常はないそうです。何かしらの事件のショックだと言われました。実際・・・どうなのかご存知ですか?圭介さん。」
「ああ。原因は、西園寺茂が2人に飲ました薬だ。成分は知らないが、記憶に支障が出るもので、海里と真衣はそれを飲んで記憶がなくなった。でも永久効果じゃないから、記憶に関することが起こったり無意識に思い出そうとすれば断片的に思い出す。経験あるだろ?」

 海里は頷いた。圭介は龍と玲央に向き直り、頭を下げる。

「俺は確かにテロリストのことを知ってた。でも、情報を横流ししたわけじゃない。俺は、海里が襲われることも九重浩史が関わっていたことも知らなかった。あくまで、テロ組織の存在を知っているだけだ。」
「例えそうでも、得られる情報はあるんだろ?話す気はあるのか?」
「ある。ずっと前から、話そうとしていた。でも、何も知らない海里に話しても混乱するだけだったし、何より警察との関わりなんて簡単に持てない。だから、奥に仕舞い込んだんだ。」
「なるほどね。君の父親も、情報まで与える気はないって訳だ。」

 圭介は頷いた。海里が不安そうな目で2人を見る。

「そんな顔しなくても、逮捕なんてしねえよ。存在を知っていても明確な事情を知らない以上、罪には問わない。寧ろ貴重な情報提供者だ。」
「・・・いいのか?裏切ったり・・とか考えないのかよ。」
「君そういうことできない性格でしょ?見てれば分かる。君がどれだけ正直で、優しい人間か。だから、君の言葉に嘘があるとは思っていない。嘘をつく人間は・・・正面から人を見ることはしないからね。」

 圭介は泣きそうな顔をした。袖口で目元を拭き、顔を上げる。その顔には、決意が宿っていた。

「テロリストの真実を知るべき人間を集めてくれ。テロリストのこと、海里と真衣のこと、俺が知っている情報、全て教える。辛い話になるかもしれないけど、覚悟はあるか?海里。」

 海里は笑った。どこか不安げな笑みだ。

「正直に言うと、あまりありません。でも、信頼できる人たちがいるから、前に進めます。存分に話してください。」

 圭介は安堵し、歯を見せて笑った。

「おう!」
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