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Case197.真実③
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「お2人が事件に関わるなんて、当たり前じゃないんですか?」
海里の質問にアサヒがすかさず答えた。
「そうでもないわよ。仮にも2人の階級は警部。どちらかと言うと現場を統括して指示を与える役目だもの。頻繁に現場に行って後輩よりも働くなんて普通はあり得ない。上司・部下共に信頼されているから現場に行って仕事をしているだけ。」
アサヒの言葉に2人は頷いた。海里はなるほど、と言いながら今までのテロリストと関わった案件を思い返す。確かに、2人の片方もしくは両方が必ず関わっている。
「つまり真衣、どういうことなんですか?」
「うーん・・何て言うか・・・テロリストの目的って警察を潰すことなのかな?さっきの小夜さんの言葉と被るけど、おかしいよ。どちらかって言うと、2人を始末したいように見えるもん。」
真衣は淡々と説明したが、全員が違和感を覚えていた。
「有能だから狙うって言っても理屈が通らないわ。本当に2人を狙っているなら、なぜすぐに殺しに来ないの?江本さんを狙うだけで、2人に直接の被害はほとんどないじゃない。」
「苦しめることが目的なら理屈は通ります。現に、江本さんを失いかけたことで私たちは酷く動揺しました。もし本当に失っていたら、今こうやって話をしているとは思えない。」
アサヒと小夜はすぐに議論を交わした。圭介は考え込む。
「東堂家を苦しめることが目的?確かに警視総監の地位にいるけど、本人を狙わないのはおかしいぜ。何かの因縁でもあんのかよ?」
「・・・・そのことなんだけど。」
口を開いたのは武虎だった。彼はいつも通りの笑みを浮かべ、言った。
「1日時間をくれない?個人的に調べたいことがあるんだ。運が良ければ、テロリストの目的が分かるかもしれない。」
「調べ物?じゃあ俺たちも・・・」
「いや、君たちは仕事をしてくれ。事件の報告書とか色々あるだろ?」
「まあ・・・多少は。」
「それなら俺に任せて。明日のこの時間、集まれる?」
全員が頷いた。武虎は笑う。
「じゃあお先。また明日ね。」
颯爽と去っていた武虎を見て、全員が呆然とした。圭介は頭を掻く。
「あんたらの親父、テロリストのこと知ってたのか?」
「いや。九重警視長から聞いて初めて知ったはずだ。しかし調べ物でテロリストの目的なんて分かるのか・・・?」
※
「警視総監。お早いお帰りですね。」
「まあね。あ、しばらく個人的な調べ物したいから誰も資料室に入れないで。」
「はあ・・・?分かりました。」
武虎は資料室に行くと、数10年前の資料を片っ端から引っ張り出した。
「違う・・違う・・・これじゃない。これでもない。どこだ・・・⁉︎」
(やっぱりもうないのか?いや、無許可で資料を捨てるなんてこと、警視総監でも許されないんだ。絶対どこかにある。でも、もし俺の予想が当たっていれば、テロ組織発足の発端は間違いなくーーーー・・・・。)
武虎は集中するかのように首を横に振った。次々と資料を引っ張り出してめくる紙の音だけが、部屋の中に響いた。
1時間は経った頃、武虎は資料を見る手をピタリと止めた。震える指で文字をなぞり、荒い息を吐く。
「はっ・・ははっ・・・。冗談でしょ?こんな・・こんなこと・・・。」
乾いた笑いを漏らす傍で、武虎は圭介が放った“因縁”という言葉を思い出していた。
「的を射てるね。あーあ・・・知りたくなかったなあ、こんな真実。」
“武虎。どうか、正しい人になってね。それだけが私の願いよ。そして、あなたが幸せを掴んだ時、子供たちにも、同じことを教えてあげてね。”
「・・・・無理だよ。世代を通して恨まれて、自分の正しさなんて信じられるわけないじゃないか。」
意味の分からぬ苦しげな呟きが、武虎の心を締め付けた。
※
「昨日は急に帰ってごめんね。」
「いえ。調べ物は終わられたのですか?」
「うん・・・。テロリストの目的も・・分かった・・・・かな。」
武虎は深い溜息をついて壁にもたれかかった。
「どうしたんだよ、親父。寝てないのか?」
「眠れなかっただけだよ。とりあえず、話をするから座って?」
龍たちは椅子に腰掛けた。
「まず、テロリストたちの目的の前に、俺の父親の話をしないといけないんだ。」
その言葉に龍と玲央は驚いた。海里たちは突然の話題転換に意味が分からずにいる。
「俺たちの祖父?俺たちが生まれる前に亡くなったって言ってたよね?」
「うん。でも、ごめん。その話嘘なんだ。本当にあの人が亡くなったのは、君たちが中学生くらいの頃だったかな。」
「何で黙ってたんだよ。」
「そりゃ言いたくなかったからさ。あんな・・・酒と女と金に溺れる、暴力主義でろくでなしの祖父の話なんて聞きたくないだろ?」
武虎は失笑した。玲央と龍は祖父を罵倒する父親に唖然とする。
「東堂家は、代々警察官をやってるんだ。当然俺の父親も警察官で、俺も子供の頃から警察官になるよう言われて育った。玲央と龍には好きな将来を選ぶよう言ったけど、最終的に自分の意思で警察官を選んだから、それはそれで構わない。。」
「あ・・ああ。」
2人はまだ祖父の話についていけないのか、混乱していた。武虎は淡々と続ける。
「俺の父親・東堂信武は、酒好き・女好きでおまけに酒癖も悪かった。家ではしょっちゅう雑魚寝してたし、部下の前で完璧な顔をしているなんてとても思えなかったんだ。」
名前すら初めて聞いたのだろう。龍と玲央は曖昧に頷いていた。
「加えて、立派な警察官なんかじゃなかった。不正・賄賂・隠蔽、何でもありの男だった。俺も子供の頃からそんな話を聞いていたから、あの人の上司に話したりしたけど、犯罪を隠すためか信頼しているからか、取り合ってはくれなかったよ。」
「そんな話、聞いたことないんだけど。」
「隠されて来たって言うのもあるし、その年代の人間がもういないからね。知っているのは俺と君たちの伯父くらい。そして俺は偉くなりすぎて、父親の犯罪を暴露するなんてできなくなった。証拠も無いし。」
「・・・・それが、テロリストと関わってくるのかよ?」
圭介の質問に、武虎は頷いた。少しの間があった後、彼は衝撃的な発言をした。
「16年前、東堂信武は都内へ旅行に来ていた江本真由香に乱暴を働いた。江本拓海は現場を目撃したが、犯人の顔は見ておらず、彼は犯人の声のみを聞いたーーーー。」
「え・・・⁉︎」
全員が言葉を失った。武虎は声を小さくして言う。
「当然、被害者の真由香さんは信武の顔を見ただろう。ただ皮肉なことに、その事件の調査をしたのは信武を信頼していた刑事だった。だからいくら姿を見て声を聞いても、調査している本人が嬉々と語る人間が犯人だなんて信じられないし言えるわけがなかった。」
武虎は1度言葉を止め、深い溜息をついた。
「これが全ての始まり。テロ組織発足の原因だよ。」
「・・・・父たちが東堂さんたちを狙うのは、私怨だったんですね。信武さんに苦しめられた母の代わりに、父が始めた復讐劇・・・。」
海里の呟きに武虎は頷いた。
「そういうこと。君の父親が君を狙ったのは、俺たちとの関係があったからだ。信武本人が死んでいても、その家族すら江本拓海は恨んでいる。でも殺すだけじゃ生ぬるいと考え、周囲の人間に手を出し、その命を奪い、苦しませて来た。
君の命を狙った以上、復讐がやめられなくなっているだけかもしれないけど・・どの道、俺の父親が原因ってことに変わりはないよ。」
誰も何も言えなかった。受け入れ難い真実と、苦しみだけが彼らの心を締め付けていた。
世代を超えても消えない罪が、彼らの心に重くのしかかっていた。
海里の質問にアサヒがすかさず答えた。
「そうでもないわよ。仮にも2人の階級は警部。どちらかと言うと現場を統括して指示を与える役目だもの。頻繁に現場に行って後輩よりも働くなんて普通はあり得ない。上司・部下共に信頼されているから現場に行って仕事をしているだけ。」
アサヒの言葉に2人は頷いた。海里はなるほど、と言いながら今までのテロリストと関わった案件を思い返す。確かに、2人の片方もしくは両方が必ず関わっている。
「つまり真衣、どういうことなんですか?」
「うーん・・何て言うか・・・テロリストの目的って警察を潰すことなのかな?さっきの小夜さんの言葉と被るけど、おかしいよ。どちらかって言うと、2人を始末したいように見えるもん。」
真衣は淡々と説明したが、全員が違和感を覚えていた。
「有能だから狙うって言っても理屈が通らないわ。本当に2人を狙っているなら、なぜすぐに殺しに来ないの?江本さんを狙うだけで、2人に直接の被害はほとんどないじゃない。」
「苦しめることが目的なら理屈は通ります。現に、江本さんを失いかけたことで私たちは酷く動揺しました。もし本当に失っていたら、今こうやって話をしているとは思えない。」
アサヒと小夜はすぐに議論を交わした。圭介は考え込む。
「東堂家を苦しめることが目的?確かに警視総監の地位にいるけど、本人を狙わないのはおかしいぜ。何かの因縁でもあんのかよ?」
「・・・・そのことなんだけど。」
口を開いたのは武虎だった。彼はいつも通りの笑みを浮かべ、言った。
「1日時間をくれない?個人的に調べたいことがあるんだ。運が良ければ、テロリストの目的が分かるかもしれない。」
「調べ物?じゃあ俺たちも・・・」
「いや、君たちは仕事をしてくれ。事件の報告書とか色々あるだろ?」
「まあ・・・多少は。」
「それなら俺に任せて。明日のこの時間、集まれる?」
全員が頷いた。武虎は笑う。
「じゃあお先。また明日ね。」
颯爽と去っていた武虎を見て、全員が呆然とした。圭介は頭を掻く。
「あんたらの親父、テロリストのこと知ってたのか?」
「いや。九重警視長から聞いて初めて知ったはずだ。しかし調べ物でテロリストの目的なんて分かるのか・・・?」
※
「警視総監。お早いお帰りですね。」
「まあね。あ、しばらく個人的な調べ物したいから誰も資料室に入れないで。」
「はあ・・・?分かりました。」
武虎は資料室に行くと、数10年前の資料を片っ端から引っ張り出した。
「違う・・違う・・・これじゃない。これでもない。どこだ・・・⁉︎」
(やっぱりもうないのか?いや、無許可で資料を捨てるなんてこと、警視総監でも許されないんだ。絶対どこかにある。でも、もし俺の予想が当たっていれば、テロ組織発足の発端は間違いなくーーーー・・・・。)
武虎は集中するかのように首を横に振った。次々と資料を引っ張り出してめくる紙の音だけが、部屋の中に響いた。
1時間は経った頃、武虎は資料を見る手をピタリと止めた。震える指で文字をなぞり、荒い息を吐く。
「はっ・・ははっ・・・。冗談でしょ?こんな・・こんなこと・・・。」
乾いた笑いを漏らす傍で、武虎は圭介が放った“因縁”という言葉を思い出していた。
「的を射てるね。あーあ・・・知りたくなかったなあ、こんな真実。」
“武虎。どうか、正しい人になってね。それだけが私の願いよ。そして、あなたが幸せを掴んだ時、子供たちにも、同じことを教えてあげてね。”
「・・・・無理だよ。世代を通して恨まれて、自分の正しさなんて信じられるわけないじゃないか。」
意味の分からぬ苦しげな呟きが、武虎の心を締め付けた。
※
「昨日は急に帰ってごめんね。」
「いえ。調べ物は終わられたのですか?」
「うん・・・。テロリストの目的も・・分かった・・・・かな。」
武虎は深い溜息をついて壁にもたれかかった。
「どうしたんだよ、親父。寝てないのか?」
「眠れなかっただけだよ。とりあえず、話をするから座って?」
龍たちは椅子に腰掛けた。
「まず、テロリストたちの目的の前に、俺の父親の話をしないといけないんだ。」
その言葉に龍と玲央は驚いた。海里たちは突然の話題転換に意味が分からずにいる。
「俺たちの祖父?俺たちが生まれる前に亡くなったって言ってたよね?」
「うん。でも、ごめん。その話嘘なんだ。本当にあの人が亡くなったのは、君たちが中学生くらいの頃だったかな。」
「何で黙ってたんだよ。」
「そりゃ言いたくなかったからさ。あんな・・・酒と女と金に溺れる、暴力主義でろくでなしの祖父の話なんて聞きたくないだろ?」
武虎は失笑した。玲央と龍は祖父を罵倒する父親に唖然とする。
「東堂家は、代々警察官をやってるんだ。当然俺の父親も警察官で、俺も子供の頃から警察官になるよう言われて育った。玲央と龍には好きな将来を選ぶよう言ったけど、最終的に自分の意思で警察官を選んだから、それはそれで構わない。。」
「あ・・ああ。」
2人はまだ祖父の話についていけないのか、混乱していた。武虎は淡々と続ける。
「俺の父親・東堂信武は、酒好き・女好きでおまけに酒癖も悪かった。家ではしょっちゅう雑魚寝してたし、部下の前で完璧な顔をしているなんてとても思えなかったんだ。」
名前すら初めて聞いたのだろう。龍と玲央は曖昧に頷いていた。
「加えて、立派な警察官なんかじゃなかった。不正・賄賂・隠蔽、何でもありの男だった。俺も子供の頃からそんな話を聞いていたから、あの人の上司に話したりしたけど、犯罪を隠すためか信頼しているからか、取り合ってはくれなかったよ。」
「そんな話、聞いたことないんだけど。」
「隠されて来たって言うのもあるし、その年代の人間がもういないからね。知っているのは俺と君たちの伯父くらい。そして俺は偉くなりすぎて、父親の犯罪を暴露するなんてできなくなった。証拠も無いし。」
「・・・・それが、テロリストと関わってくるのかよ?」
圭介の質問に、武虎は頷いた。少しの間があった後、彼は衝撃的な発言をした。
「16年前、東堂信武は都内へ旅行に来ていた江本真由香に乱暴を働いた。江本拓海は現場を目撃したが、犯人の顔は見ておらず、彼は犯人の声のみを聞いたーーーー。」
「え・・・⁉︎」
全員が言葉を失った。武虎は声を小さくして言う。
「当然、被害者の真由香さんは信武の顔を見ただろう。ただ皮肉なことに、その事件の調査をしたのは信武を信頼していた刑事だった。だからいくら姿を見て声を聞いても、調査している本人が嬉々と語る人間が犯人だなんて信じられないし言えるわけがなかった。」
武虎は1度言葉を止め、深い溜息をついた。
「これが全ての始まり。テロ組織発足の原因だよ。」
「・・・・父たちが東堂さんたちを狙うのは、私怨だったんですね。信武さんに苦しめられた母の代わりに、父が始めた復讐劇・・・。」
海里の呟きに武虎は頷いた。
「そういうこと。君の父親が君を狙ったのは、俺たちとの関係があったからだ。信武本人が死んでいても、その家族すら江本拓海は恨んでいる。でも殺すだけじゃ生ぬるいと考え、周囲の人間に手を出し、その命を奪い、苦しませて来た。
君の命を狙った以上、復讐がやめられなくなっているだけかもしれないけど・・どの道、俺の父親が原因ってことに変わりはないよ。」
誰も何も言えなかった。受け入れ難い真実と、苦しみだけが彼らの心を締め付けていた。
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