小説探偵

夕凪ヨウ

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Case129.瓜二つの容疑者②

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「なるほど。やっぱりそういうことだったんだ」
 事件の翌日、龍と玲央はアサヒから手渡された資料に目を通していた。
「俺たちの予想は間違ってなかった。となると、あの2人・・・・」
「そうね。でもまだ確証がないし、ボロを出すまで待つしかないんじゃない? 取り敢えずこの事件は解決しなきゃならないから、こっちの問題は後回しに」
「ああ。それに、江本は余計なことを考え始めると止まらないからな。黙っていた方がスムーズに事件が解決できるだろう」
 すると、扉をノックする音がした。玲央はそっと資料を封筒の中に仕舞う。
「おはようございます。皆さん早いですね」
 玲央はいつも通りの、優しくもどこか怪しい笑みを浮かべて答えた。
「おはよう、江本君。少し早く着いちゃってね。現場に行こうか」
                     
            ※

「やはり夫は他殺なんですか?」
「ええ。自殺であればナイフを腹部に刺すのはリスクが低い。病院で治療を受けたら、治る可能性も十分ありますから」
「そうですか・・・・」
「ただ、犯人は初犯だと思います」
 海里の言葉に、風子は驚いて顔を上げた。海里は続ける。
「先ほどナイフの位置は腹部だと言いましたが・・・・正確に言えば肝臓です。当然肝臓も致命傷になりうる場所ですから、殺意は各始末にあるでしょう。しかし、修さんの傷はあまり深くなかった。ナイフが貫通していなかったんです」
「つまり・・・・?」
「長時間苦しまれた後に亡くなったと思われます。身動きが取れないわけではなかったでしょうが、助けを呼ぶ力はなかった、とでも言いますか。家の中は荒らされていなかったので、強盗とも考えられませんし」
 風子は酷く考え込む風だった。海里はその態度に少し違和感を覚えるが、顔に出さないよう振る舞う。
「つかぬことを伺いますが・・・・」
「はい?」
「風子さんは、どのような経緯で修さんとご結婚を?」
「お見合い・・・・とお答えしたいところですが、違います。夫との出会いは、私が同僚に半ば強引に連れて行かれた合コンだったんです。」
 風子は苦笑した。
「夫は義母の旧姓を名乗っていて、立原家の人間とだと分からなかったんです。合コンが終わった後、夫が私に急に告白して来て・・・・本名を明かしました」
「それでお付き合いを? とんとん拍子ですね」
「そうですね。でも、私は早く結婚しないといけなかったんです」
 海里は首を傾げた。風子は苦い笑みを崩さないまま続ける。
「数年前に父が亡くなって、母は独り身の私を心配していました。早く誰かと一緒になって、安心させて欲しい・・・・って。だから、夫の告白を受けて結婚したんです。お義父さんには、あまりいい顔をされませんでしけど」
 そうか。良家の御令息とあれば生涯の伴侶は重要。にも関わらず突然現れた、しかも合コンという家柄から離れた場で付き合い始めた女性を、社長である誠也さんが信頼しないのも無理はない。いくら彼女自身に問題がなくとも、そう言った点で良い間柄とは言えないんだろうな。
「なるほど。立ち入ったことを聞いて申し訳ありませんでした」
「お構いなく。それに、私はもうこの家を出ます。1人息子の修さんが亡くなった以上、この家に私の居場所はない。また一から始めなければ」
「1人息子・・・・誠也さんにご兄弟などは?」
「いらっしゃらないと聞いています。会社は多分、部下のご家族にお任せするでしょう。
 何にせよ、私には関係のない話です。今だから正直に言いますが、夫が死んでも感情が揺れ動かなかった・・・・悲しみが湧かなかったんです。その程度の愛情ですから、真実を知る気も起きない。後は、お義父さんのためによろしくお願いします」
                    
            ※

「愛情がないとはいえ・・・・仮にも夫が死んだのに冷静すぎないか? いや、冷静というより、興味がないというべきか」
「同感。そもそも、風子さんの言葉は本心なのかな?」
「嘘をついている感じではありませんでしたよ。ただ、何となく言葉に矛盾が生じている気がします」
 海里は腕を組み、軽く溜息をついた。
「関係のない話と言いながらも、誠也さんのために謎を解いて欲しいと言った。しかし本当にどうでもいいなら事件が起きた日に家を出たり、結婚指輪を外したりしませんか? 彼女は大事そうに指輪を付けていますし、特別修さんを嫌っている様子もありません」
「修さんに夫婦のような愛情があったってこと?」
「可能性として0ではないかと」
 海里の言葉に、玲央は首を傾げた。
「・・・・分からないな。そもそも、彼女は仕事に行っていたんだろう? それなのに、なぜ途中で家に戻って来た? 病院に通報した様子がないということは、亡くなっていることを確認していることになる。そうなると犯人に近しいんだけど、修さんが亡くなった10時頃には仕事場に向かう彼女を近所の人が目撃している。その時点で、彼女のアリバイは証明されてーー」
 そこまで言うと、玲央は急に言葉を止めた。調べた資料を引っ張り出し、パラパラとめくり始める。
「兄貴?」
「成り立たない」
「何?」
「彼女のアリバイは成立しないかもしれない。嘘を吐いている可能性がある」
 驚く2人を他所に、玲央は無言で海里に資料を手渡した。
「近所の人の聞き取り調査の所、見て」
「・・・・?」
 目を丸くする海里に対し、玲央は冷静に続けた。
「おかしいだろう? 。それなのに、その服装だと昨日の彼女と合わない。家に戻って着替えたなんて、まずあり得ない。今考えても、彼女の発言は無茶苦茶だ。家に戻った理由を語らず、通報を終えたら仕事に行った。警察が来ることが分かっていたのに、なぜ仕事に行ったんだ?」
 バラバラになったパズルのピースが、海里の中で合わさった。
「服装が違えばアリバイは成立しない・・・・彼女と瓜二つの人間でない限り、近所の方々が間違えることはあり得ませんね」
 海里の言葉に、龍は頷いて続けた。
「この事件、突発的じゃない。計画的だ。これは、
                   
            ※

「急にどうされたんですか? 話があるって・・・・」
「風子さん・・・・あなたですよね?」
「えっ?」
「あなたが修さんを殺した」
 海里の短くも、真実を指す言葉に、風子は黙った。唇を噛み締め、軽く俯きながら、彼女は口を開いた。
「理由はあるんですか? 証拠は?」
「理由はともかく、証拠はあります。近所の家の玄関に設置してある防犯カメラです」
 風子の肩がピクリと震えた。海里は龍からパソコンを受け取り、机に置いて映像の再生ボタンを押す。
「この映像は、昨日の朝10時頃・・近所の方が目撃したあなたの姿です。おかしいですよね? 昨日私たちがここにきた時はスーツだったあなたが、なぜ私服で仕事場に向かっているんですか?」
「・・・・仕事場に行って、着替えを・・・・」
「嘘はやめてください」
 海里は風子の言葉を遮り、彼女を睨んだ。
「もう1つの根拠はほくろの位置です。あなたは右目の下にほくろがあるのに、これは左目の下にほくろがある。そして、あなたと同じ顔をして、左目の下にほくろがある人物を、私たちは知っています」
 風子は膝の上で拳を握りしめた。海里はパソコンを閉じ、息を吐く。
「一緒に会社に来てくださいますか? この事件の全貌はまだ解かれていない。残りの犯人に話を聞く必要があります」
「・・・・私1人でやったんです‼︎ 犯人は私!」
 絶叫に近い声で風子は怒鳴った。しかし、海里は静かに首を横に振る。
「嘘は結構だと申し上げたでしょう。全て把握しているので、逃げようとは思わないでください」
 事件を紐解き、犯人を追い詰めて行く海里。
 だが彼は1人、“事件の裏側”を知らなかった。
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