小説探偵

夕凪ヨウ

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Case114.人形屋敷は呪いの渦中④

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「昨日はご一緒できず、すみませんでした」
 そう言いながら頭を下げたのは、佳代子の夫であり、依頼人の麟太郎だった。圭介は愛想笑いを浮かべて答える。
「いえいえ。お仕事でしたし、謝られることはありませんよ。ただ、麟太郎さんのご依頼で来たにも関わらず、あまり何も得られなかったことを、申し訳なく思うばかりです」
「はは・・・・。まあ、あの部屋の調査は難しいですよね。私も初めてこの家に入った時、驚きました」
 麟太郎と仲睦まじく話す圭介だったが、彼は内心、昨日帰ってから父に見せてもらった仲村家の調査結果に気になる点が多数あり、混乱していた。夫婦の年齢のことはもちろん、その他、気になる点はあったのだ。
 しかし、圭介はそれをお首にも出さずに会話を続けた。
「人形が失くなったり壊れたりした時のことは、昨日佳代子さんたちに詳細を伺いました。それで、1つ麟太郎さんにも見ていただきたいものがあるんですが」
 そう言いながら、圭介は上着のポケットから、昨日発見した“悪魔”の2文字が書かれた紙片を見せた。
「こちらに見覚えは?」
 麟太郎は不思議そうに首を傾げて考えていたが、やがて首を振りながら「生憎知りませんね」と答える。
「そうですか。人形が収納されている部屋に落ちていたんですが、佳代子さんが知らないとおっしゃったものですから、もしかしたら麟太郎さんは・・・・と思ったんですがね。ですが、家族の誰も知らないとなると、雑誌の切れ端でも落ちたのか・・・・」
 そんな都合のいいこと、あるわけねえ。掃除の行き届いているあの部屋で、あんな目立つところに落ちていた紙に気づかないわけがない。これは、誰かが故意に置いたものだ。そしてそれは、この家の住人と見るのが妥当。・・・・こんなことは考えたくねえが、誰かが嘘をついているのは明白だな。
「麟太郎さんは、今日もお仕事ですか?」
 今日は土曜日で、既に昼前だ。仕事に行くかどうか・・・・。ぶっちゃけ、行かれたくねえんだけどな。
 だが、圭介の願い虚しく、麟太郎は深く頷いた。
「できる限り早く帰りますよ。それじゃあ、本日もよろしくお願いします」
 そう言い残し、麟太郎さんは車を走らせて家を出て行った。仕方がないと思いつつも、圭介は再び人形のある部屋へ足を運んだ。


 昨日は刀と貴重品くらいしか持ってきていなかった圭介だが、今日は昨夜父から渡された、仲村家に関する資料を持っていた。そのために、大きめのショルダーバッグに束の資料が入っており、肩の負担が大きくなっていた。
 人形の収容部屋に入るなり、圭介は息を吐きながら鞄を下ろした。
「あーしんど。資料重過ぎだろ・・・・相変わらず細かいっつーか、丁寧っつーか・・・・」
 愚痴のような言葉を漏らしつつ視線を巡らせると、昨日はあまり見れなかった右側のガラスケースの側に、畳と異なる色をした細い何かが落ちていた。不思議に思いつつ近づいて拾い上げると、それは長い茶髪だった。
「あれ・・・・? 確か仲村家って」
 言いながら身を翻し、ショルダーバッグから資料を取り出した。素早く何枚か捲り、いくつかの写真がコピーされたページで手を止める。そのページの上部には、仲村家最後の人形師、孝一が生きていた頃の家族写真がある。奏は、まだ赤子だった。
 思った通りだ。仲村家で茶髪なのは、佳代子さんの妹の美菜子さんだけ。使用人がいない家だし、この部屋に客が入るとは思えない。となると、彼女は最近この部屋に入ったのか? 年末年始と父親の命日以外、大して帰ってこないと聞いたのに。妙な話だな。それにーー
 圭介は髪の毛をゴミ箱に捨て、さらに資料を捲った。
 それに、が失くなるなんてあり得ない。

            ※

「は? 父さん、何だよこれ。こんなのあるわけないじゃんか。あの部屋にはなかったんだぜ?」
 昨夜、父から仲村家の調査資料を見せられた圭介は、一読するなりそう言った。だが、父は首を振り、あるはずだと告げる。
「隠されてるっていうのか? で、理由がこれ? にわかには信じられねえよ。それに、そもそも何のために作ったっていうんだ? 

            ※

 あるわけがない。でも、あることは確実。だとしたら、どこに? そして、それが意味するのが“これ”なら、そのために作られたとは思えねえ。何か、別の理由があったはずだ。
 そもそも、この屋敷は幽霊屋敷と呼ばれていたらしいが、その手の怪奇現象が起こった試しはない。ぶっちゃけ、ただの噂にすぎず、人形には怨念が込められているだの何だの、一種の職業に対する歪んだ見方の結果ってところだ。だが、人形が魂の器だったり形代と呼ばれることが事実だから、一概に否定するのも難しい。しかも、この家には幽霊がいる。そして、そこには必ず何かしらの原因がある。そして、その原因こそーー
「・・・・行方不明の子供」
 約30年前、仲村家に出入りしていた近所の子供が、遊びに来たきり行方不明になった。当時、仲村家の門は開いており、大人たちは子供たちの様子を見つつも、基本的には室内にいた。その日は夏真っ盛りの暑い日だったから、熱中症にならないように気をつけろと、何度も言って。
 子供の姿が見えなくなったのは、その日の最高気温の時間帯ーー夕方の15時頃。親はもちろん、他の子供たちも必死に探したが見つからず、門が開いていたことから誘拐を疑い、警察を呼んで捜査した。だが、どれだけ捜査を続けても、子供が見つかることはなかった。
「その結果、行方不明のまま・・か」
 池で溺れてもおらず、家の中で隠れん坊をしていたわけでもなく、かと言って外に出るのを見た人間はいない。だが、家の中にいないから外にいることになった。その理屈は、別に間違っていない。気になるのは、その子供の失踪と同時に、目撃されていたはずの巨大な日本人形が失くなったこと。一体、どんな関係があるって言うんだ? さっぱりわからねえ。
 圭介はため息をついて立ち上がり、鞄と刀を背負って庭の池を見下ろした。3匹の鯉が泳いでおり、程よく太っている。広々とした庭には池を始めとして鹿威しや苔むした岩など、枯山水を思わせる風景が広がっていた。
 鹿威しの音を耳に残しつつ、圭介は離れを見つめる。昨日と全く同じ、鎖に南京錠だった。開けられた形跡は、ない。
 やっぱり、あの離れを調べるべきだ。あそこには、絶対に何かがある。強引なことはしたくねえけど、事態の収束のためなら、仕方のないことだってあるはずだ。
 しばらくの間、無言で庭を見つめていると、廊下を歩いてきた佳代子が声をかけた。
「神道さん」
「佳代子さん。すみません、今のところまだ詳しいことは・・・・」
 圭介の謝罪など聞こえていないかのように、佳代子は続けた。
「妹が帰ってきたんです。昨日連絡して、できれば来るように言っていましたから。お話し・・・・お聞きになりますか?」
「はい。ぜひ、お願いします」


 別室に行くと、出された緑茶を味わっている佳代子の妹、美菜子の姿があった。彼女は圭介に気がつくなり、顔を歪めながら姉の方を見る。
「お姉ちゃんたら・・・・.本当に部外者入れたの?」
 不機嫌を隠そうともしない口調だった。美菜子は明るめの茶髪を結い、厚化粧と派手な服装がよく目立った。きつめの香水が部屋に漂い、圭介は思わず鼻を摘みそうになる。
「で、何だっけ? 人形の話?」
「はい。失くなったり壊されたり・・・佳代子さんたちが心配されているんです」
 圭介の言葉に、美菜子は目を細めた。
「知らない。人形なんて不気味なもの、触りたくもないしね」
 確かに不気味だろうが、気に入っている奏ちゃんの前でいうべきではなくね? 何っつーか、ちょっと周り見えてないよなあ。血縁でもねえのに、麟太郎さんと妙なところ似てるし。
「・・・・そうですか。ところで、美菜子さんは元々茶髪ですか?」
「そうだけど。それが何?」
 訝しげな視線を送る美菜子に対して、圭介は何食わぬ顔で言葉を続けた。
「先ほど、人形のある部屋に入ったんですよ。異常がないか観察するためだったんですが、その時、長い茶髪を見つけたんです。ただ、この家には黒髪の方しかいらっしゃらず、茶髪なのは家を出ている美菜子さんだけですよね? 
 ですが、美菜子さんは年末年始と父の孝一さんの命日以外、帰ってくることはほとんどないと聞いています。現に、以前帰ってきたのはお正月で、それ以来帰って来ていないそうですね」
 圭介の言葉にさらに顔を歪め、美菜子は声を上げた。
「そうだけど、それが何」
「おかしいんです」
 なに探偵の真似事をしてるんだと思いつつ、圭介は自身の疑問を口にした。
「あの部屋は人形の保管をするため、掃除が非常に行き届いています。つまり、正月に訪れた美奈子さんの髪の毛が残っているなんてことはあり得ないんです。
 ーー美菜子さん。正直にお答えしてください。あなたは、お正月以来、本当にご実家に来ていないんですか?」
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