小説探偵

夕凪ヨウ

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Case113.人形館の呪い③

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「詳しいことが分かった。人形が失くなったり壊されたりしたのは約2ヶ月前から。希ちゃんは普段から人形で遊んでいて、すぐに異常に気づいたらしい。で、それを佳代子さんに報告して、彼女もおかしいと気がついた。それが約1ヶ月半前。」
「1ヶ月半?ちょっと待て。そんなに前から異常に気づいていたのに、なぜ相談しに来なかったんだ?子供のいたずらじゃないと分かっていたんだろう。」

 玲央は頭を掻いた。

「俺も当然気になったよ。すぐに佳代子さんに尋ねたら、“沙代子さんからの反対があった”って。」
「反対?」
「そう。警察沙汰にして面倒なことになりたくない、人形が失くなったり壊れたにしたところで何の問題もないのだから放っておけばいい・・と。」
「はあ・・・?」

 龍は顔を歪めた。すると、海里が顔を上げ、呟く。

「もしくは、沙代子さんは犯人が誰か分かっているのでは?それが近しい者であれば、警察沙汰になって欲しくない理由にもなり得ますよ。」

 その場が静まり返った。圭介は思わず口笛を吹く。

「もう1つ仮説を立てるなら、彼女本人が犯人の場合だな。犯人として外れるのは仲村希1人だけだ。他は全員容疑者として調査する。」
「おいおい・・・警察の捜査に口は出さないつもりだったけど、佳代子さんも容疑者なのか?あの人、希ちゃんが人形大事にしていること知ってるだろ。」

 圭介の言葉に、龍は頷きながら言った。

「家の人間なら誰でも知ってることだ。容疑者から外す理由にはならない。」
「疑り深いなあ。」
「それが仕事だ。兄貴。仲村家の人間は何人いる?」
「数年前に佳代子さんの父親である孝一さんが亡くなったから・・・孝一さんの妻の沙代子さん、娘の佳代子さんと美菜子さん、佳代子さんの夫の麟太郎さん、麟太郎さんと佳代子さんの娘の希ちゃんの5人家族だね。
 このうち、佳代子さんの妹である美菜子さんは高校卒業時に家を出て、地方の大学に進学している。」
「地方か。麟太郎さんの仕事は?」
「教師。都内の高校に勤めているらしいよ。佳代子さんは専業主婦で、家事は沙代子さんと分担。希ちゃんは来年小学1年生。」
「つまり今が5歳・・・普通のハンマーは約380g・・5歳児には重いし危ないな。」

 龍の言葉に、海里は頷いた。

「ええ。人形作りをしていたのですから、倉庫にその程度の工具はあるはずです。やはり、内部の線が高いですね。」
「麟太郎さんが帰ってくるのは何時ごろ?」
「20時以降らしいです。」
「・・・少し遅いな。18時くらいになったら引き上げよう。佳代子さんたちに頼んで、麟太郎さんと美菜子さんに連絡を取って都合の良い日を探して、事情聴取をしよう。江本君も都合が良かったら来てくれる?」
「はい。神道さんはどうなさいますか?」
「真相が分かるまではちゃんと仕事はするさ。ただ、今日のうちに見ておきたい場所がある。沙代子さんたちの許可がいる場所だけどな。」

 圭介はそう言って、庭に降りた。奥にある離れを指さし、彼は続ける。

「あそこ、さっき少し見たら扉に鎖が巻かれて、南京錠がかかってた。気になるから見てみたい。」
「霊的なものがいるのか?」
「可能性としてはある。」
「まあ俺たちにその辺のことは分からないから口出しはしない。ただ、互いに何かあったら協力するってことで良いか?」
「おう。」

 その後、圭介は1人部屋を出て沙代子の元へ行った。部屋に残った海里たちは、互いに向き合い、息を吐いた。

「この事件・・・酷く矛盾していませんか?盗難ということは、恐らく金銭目的でしょう。しかし破損は違う。仮に同一犯だとしたら、辻褄が合わなくないですか?」
「確かにおかしい。となると、同一犯ではないってことになる。破損した人形の写真はないのか?」
「ありますよ。佳代子さんに言って写真を撮って頂きました。」

 海里は2人にスマートフォンを見せた。そこには、頭部や手足が大きく破損した人形の写真がある。

「酷いね。古いとはいえ、歴史あるものによくもまあ・・・。」
「全くだ。ただ、ハンマーで壊されたことは間違い無いな。着物の裏に手で支えた跡があるから・・・」

 龍はぶつぶつ言いながら近くにある人形をそっと持ち上げた。左手で人形を支え、右手で人形に触れる。

「こういうことだな。だが、全てがそれに当てはまっていない。特にこの・・1番初めに壊された人形。」
「ええ。これは何と言いますか・・・頭部に損傷がありますが、ただ“ぶつけただけ”という雰囲気がある。これは故意では無かったのかもしれませんね。」
「うーん・・・となると、江本君の言葉通り矛盾してるね。人形を盗んでいる人物、壊している人物、破損した人物は全員違う人間かもしれないってことか。前途多難だね、これは。」

 玲央は苦笑し、溜息をついた。すると、圭介が少し面白くなさそうな顔をして部屋に入って来た。

「ダメだったんですか?」
「ああ。あそこは開けないから、立ち入らないで欲しいし近寄るのもやめて欲しいんだと。」
「また怪しさが増すようなことを・・・」
「仕方ないさ。俺も無理弄りしたいわけじゃない。今日はとっとと引き上げるぜ。」

 その後、圭介は家族に報告をすると言って帰って行った。海里たちも18時になると家を去り、警視庁に向かった。

「随分と遅いお帰りじゃない。」

 アサヒは眠たそうな目を海里たちに向け、そう言った。玲央は色々あったからねと適当な理由を言いながら彼女の隣に腰掛ける。

「それで、あのメモ何か分かった?」
「ええ。文字が書かれたのは10~20年前。江本さんが見つけたこの紙は10年前に製造していた会社が潰れていて、今は販売していない。」
「なるほど。年数は合うか。」
「そうね。あと、あなたが送ってきた仲村家の筆跡鑑定・・・・どれも合わなかった。」
「合わなかった?仲村家の人間じゃないってこと?」
「まだ確定してないわよ。明日また調査に行くんでしょ?数年前に死んだっていう相談者の父親、妹、旦那3人の筆跡も・・・・」

 突如、アサヒは言葉を止めた。彼女の視線は、机に散らばった事件の資料に向いている。

「アサヒ?」
「・・・・結構闇が深い家ね。なーに隠してるんだか。」
「えっ?」
「見てないの?ほら、ここ。」

 アサヒが指し示したのは、佳代子の年齢の欄だった。そこには、“23”と印刷されている。

「仲村希は5歳。つまり、彼女が希を産んだのは18歳の時で、妊娠したのが17歳ってことになる。」
「高校生の時に・・妊娠と出産?」
「性的虐待を疑ったけど、従兄弟や叔父はいなかったし被害届けや怪しげな証言も無かったから、仲村麟太郎の子供に間違いはないのよ。で、仲村麟太郎は現在29歳。希が生まれた時に24歳だから、妊娠した?させた?のは23歳の時。」

 突如明かされる真実に、3人は唖然とした。仮に愛情があったとしても、犯罪になる年齢だ。沙代子が知らないはずがない。

「あの家、面倒よ。人形がどーとか言ってるけど、それ以前に解決するべき問題が山積み。おまけにこんな紙も出てくるし・・・」
「・・・・アサヒさんは、誰が、何の目的で、この紙を書いたと考えますか?」

 海里の真剣な表情に対して、アサヒは冷めた表情で口を開いた。

「私探偵じゃないけど。」
「簡単で結構です。」
「・・・何かを伝えようとした、とは思うのよね。誰かは知らないけど、家にあるなら仲村家の誰かの可能性が高い。結構意味深な話じゃないの?それに敢えて人形の裏に置くなんて、“人形が悪魔だと言わんばかり”じゃない。」
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