小説探偵

夕凪ヨウ

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Case42.見えない狙撃手④

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『龍』
 正しいモールス信号を見た瞬間、電話をかけた玲央は、ただ名前を呼んだ。
「分かってる。当たりだ。あれを出しているのは江本だろう」
『ああ。俺が先に1人を撃破して信号を送る。君は出来るだけ江本君に近い場所で待機しろ』
 玲央は言い終わらぬうちに駆け出していた。居場所が割れた以上、ぐずぐずしている暇はない。いつ何時敵の気持ちが変わるかなど、分かるはずもないのだ。海里を殺させないために、迅速な逮捕が必要だった。
「あれか・・・・」
 玲央は墓地の上に立つ男を見た。モールス信号を送り、こちらには気づいていない。玲央はカメラがないことを確認しながら、忍足で階段を登り、男に近づいた。
 階段を登り終えると、玲央は近くの枝葉をわざと踏んだ。音に気づいて、男が素早く振り向く。
「何だ、お前・・・・!」
 男は銃を出したが、玲央の動きの方が早かった。抜かれた銃を蹴り飛ばし、胸倉を掴んで男を地面にねじ伏せる。あまりにも一瞬の出来事に、男は言葉を発する暇すらなかった。
 玲央は素早く手錠を取り出し、慣れた手つきで男の腕にかける。
「君に聞きたいことは沢山ある。逃げ出されても死なれても困るから、少し大人しくしておいてくれ」
 そう言って、玲央は男の腹を殴った。気絶したのを確認すると、男が隠していた武器を全て荷物や服から抜き取り、自分の近くに置いた。近くにあった木に男が持っていたロープで縛りつけ、すぐに照明に手をかけた。
「あ、やっと連絡が来た」
 男の言葉を受け、海里はモールス信号に視線を移した。正しいかったので、すぐさま信号を読み取る。


 無事? 龍が向かっている。少し待っていて。


「返事をしましょう。確か、“刑事たちが来た”、という伝言でしたね? “了解”と返してください。指示通りにお願いします」


 無事です。分かりました、お待ちしています。


 信号を送った途端、海里はその場に崩れ落ちそうになった。だが、今隙を見せれば、撃たれる可能性は非常に高い。仕方なく信号を打っている男の隣に座り、口を開く。
「あなた方は警察を殺すつもりですか? これまでも、そうして来たように」
「当然ですよ。それがのやり方ですから」
 目的ではないのか、という問いは飲み込み、海里は曖昧に頷いた。


 その頃、龍は海里のいる廃屋の近くまで来ていた。壁にもたれて息を整え、敵の数を改めて確認する。海里の報告に間違いはなく、敵を撃破するならば、銃を封じなければならなかった。そう考えた時、龍は思わず聞こえない程度のため息をつく。
「何が射撃が上手いから、だ。乱戦しないよう、上手く立ち回れって言ってるだけじゃねえか」
 文句を言っている龍だが、この行動が、玲央の自分に対する信頼の証だということは分かっていた。できるか分からないと思っている自分に対して、できると断言している玲央の意思が強すぎて、なぜか苛立ちを覚えた。
 すると、スマートフォンが光った。玲央からの電話である。龍はスピーカーに切り替え、胸ポケットに入れたまま会話を始めた。
『今どこ?』
「江本のいる廃屋の近くだ。ただ、狙撃をするなら相手の位置を変える必要がある。江本が撃たれる可能性の排除はもちろん、数の利がないからな」
『分かった。ちょっと待ってて』
 玲央は信号を利用して海里に距離を取るよう伝え、彼は適当な理由をつけて男たちから離れた。飛び降りても軽傷で済む高さまで下り、指示を待ったのだ。
『銃の破壊と動きの封じ込めを同時にやらきゃいけない。敵は4人、弾は5発。失敗は許されないから頑張ってね』
「頑張ってじゃねえよ。どれだけ大変だと思ってんだ」
『君ならできるでしょ? まあまずは、敵が武器を持つ必要がある』
 そう言って、玲央は倒した男から奪ったライフルを手に取った。弾は入れられており、引き金を引けば終わりである。人目を忍ぶためか、消音銃になっていることは幸運だった。
 龍は電話越しに金属音を聞き、ハッとする。
「おい、お前まさか・・・・」
『大丈夫だよ。建物に当てれば銃くらい構えるでしょ』
 玲央はそれ以上龍の言葉を聞かず、躊躇なく引き金を引いた。弾丸は見事に海里のいる廃屋の窓に命中し、その途端、男たちは動揺する。
「銃を構えてください! 方向は正面!」
「正面? だが、あちらには・・・・!」
「構いませんよ! 飛んできたことに間違いはない‼︎」
 男たちが慌てて動き始める中、海里は少しずつ後ろに下がった。腕は縛られたままだが、足の自由が効くため、重傷にはならないだろうと感じる。
『3時の方向に1発撃て。狙うのは右肩。恐らく全員右利きだ』
 龍は敵の目につかないように建物から飛び出し、言われた方向に1発撃った。微かな悲鳴と、銃が下手な方向に撃たれた音がする。
「敵襲か⁉︎」
『今の方向から左に30度ズレた位置に撃て』
 龍は2発目を撃ち、また隠れた。正直、いつ気づかれてもおかしくなかった。
『もう少し奥に隠れて。怪しんでいる。ライフルで狙いにくいことが幸運だけど、バレたら死ぬよ』
 玲央の指示は嫌になるほど的確だった。龍は1度建物の奥まで走り、壁にもたれかかる。疲れか、安堵か、長いため息溜息が出た。
『大丈夫?』
「怪我はしてねえよ。江本は少しずつ逃げ道を作っているし、あと2人撃てば何とかなるだろ。お前こそヘマすんなよ」
 龍の言葉に玲央はふっと笑った。
『警戒してるよ。さあ、次だ。2時の方向に』
 龍は再び飛び出し、3人目を撃った。男が倒れ、銃が再び明後日の方向へ火を吹く。弾は残り2発、敵は1人だけになっていた。
 その時、隠れた位置から廃屋を見ると、龍は男と目があった。海里がモールス信号を教えた、あの男である。
「あなたが、」
「飛び降りろ!」
 男の声を遮って龍は叫んだ。そして、彼の声が聞こえた瞬間、海里は廃屋から飛び降りた。腕を縛られているので、受け身が上手く取れず、地面に激突する。痛みが走ったが、骨が折れた気配はなかった。
 男は逃げた海里の姿を視界の端に捉え、思わず振り返った。その瞬間、龍はすかさず男の右肩を撃つ。
「ゔっ・・・・!」
 悲鳴と共に、男は銃を落として倒れた。龍はすぐさま建物の屋上に飛び乗り、男たちの銃を地面に叩き落として警察手帳を見せた。
「警察だ。銃刀法違反及び拉致監禁の現行犯で逮捕する」
 よく通る声と共に、パトカーのサイレンが近づいてきた。
                    
            ※

「真衣は病院にいたのですね」
「うん。江本さんを呼び寄せるための嘘だったみたい。
 それにしても・・・・建物から飛び降りるとか危なすぎ! 全身を痛めたくらいで済むなんて奇跡だよ?」
「仕方ありませんよ。撃たれるよりマシです」
 海里は飛び降りた際の怪我と疲労で数日間入院することになった。まだ危機が完全に去っていないという理由から個室であり、龍たちがいることでわずかな賑やかさがあった。
 龍たちは男たちの逮捕と聴取を部下に任せ、病室を訪れると危険に巻き込んだことに対して謝罪をした。しかし、予想通りと言うべきか、海里は気にしていないと答えた。
「事件に関わるのは私の意思ですし、今回のこともその延長戦ですよ。だから謝らないでください」
「そうは言っても、危険な目に遭ったことに変わりはないだろ。警察として、民間人を事件に巻き込んだ形になるんだ。例えお前が探偵として活動していても、警察でない以上、民間人であることに変わりはない」
「東堂さんらしいですね。では、謝罪は受け取らせて頂きます」
「そうしてもらうと助かるよ」


 しばらく和やかな時間が続いた。しかし、やがて海里は何かを決めたように笑みを消し、龍たちを見据えた。
「話してくれませんか? こんなことがあった以上、敵も私を完全に認識し、殺そうとします。
 何も知らないまま関わるより、全てを知って関わった方がいい。皆さんが私に何を隠していて、何を危惧しているのか・・・・全て教えて欲しいんです」
 全員が浩史を見た。しばらくして、彼は微かに頷き、それを見た龍が軽く息を吐いた。
「俺が以前、強盗殺人で家族を喪ったことは話しただろ」
「はい。確か3年前、と。」
 心なしか、龍の声は沈んでいた。彼は声色を変えずに言葉を続ける。
「そうだ。3年前の12月24日。俺は・・・・いいや、俺たちは、それぞれ喪ったんだ。守り、大切にしていた存在を」
「同じ日に・・・・?」
 信じられない、というように海里は呟いた。龍が頷く。
「同じ日の同じ時間に、俺たちはそれぞれ喪った。しかも、その最中に俺たちが捜査していた事件は、今回と同じ警察官連続殺人事件だ。
 だからこそ今回の事件が起こった時、お前の命が狙われると思って捜査から遠ざけた。まあ、拉致されたんじゃ同じようなものだから、意味があったのかは分からないけどな」
 龍は失笑したが、海里は否定するように首を横に振った。彼はその様子には何も言わず、言葉を続ける。
「全ては3年前から始まった。
 偶然とは言い難いこの事件の始まりを、どうか聞いて欲しい」
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