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第20話 冒険者
しおりを挟むギルドまでは、徒歩で約10分程で着いた。
クレハ達とギルドに着くと、ギルドの中は、朝から、結構な人で賑わっていた。
「──人が多いな。いつもこんなもんなのか?」
俺は改めて広いギルドを眺める。
「今日はいつもよりちょっと人が多い方かな?」
隣を歩くクレハは、きょろきょろと、誰かを探すように辺りを見渡しながら答えてくる。
(これでちょっとか、大都市ってのは確かみたいだな)
「探してるのは、あそこのミリアとシスティアか?」
ギルドに到着するや否や、二人して誰かを探してる様子のクレハとエメレアに、俺はギルドの奥の方で、受付嬢っぽい人と話している──システィアと、その後ろに隠れるように立つミリアを発見して指をさす。
「あ、本当だ! ミリア、具合は大丈夫かな?」
昨日の戦いで、魔力を使い過ぎて〝魔力枯渇〟を起こしかけていたミリアをクレハは心配する。
エメレアは「嘘……ミリアの発見に、この私がこんな変態ごときに遅れをとるなんて……」と凹んでいる。
取り敢えず、エメレアはスルーし、
二人と合流する為、近づいていくと──
向こうも、こちらに気づいたらしく……
「──クレハ! エメレア! それにユキマサも一緒だったのか!」
システィアが、手を振りながら呼び掛けてくる。
隣にいるミリアも、クレハとエメレアを見つけると、小さくだが、嬉しそうにしっかり手を振ってる。
「よう、朝からご苦労だな。システィア」
昨日、俺やクレハが帰った後も、報告だの何だので、遅くまで仕事をしていた筈だが……それなのに、俺達より早くギルドに来ているとは大変そうだな。
「何だ、私を心配してくれたのか?」
まあ、そう言われればそうなんだが……
屈託の無い表情で返され、少し反応に困る。
「あ、あのッ、お、おはようございます……!」
システィアの後ろに隠れてたミリアが、ひょこりと顔を出しながら、ペコリと頭を下げてくる。
お、あまり噛まずに言えたな?
「おはよう、ミリア。具合はどうだ?」
「ひゃ、ふぁい、げ、元気です……!」
あ、今度は噛んだな。
まあ、でも、十分な進歩だ。少なくとも、挨拶はあまり噛まずに言えたからな。
すると俺の隣にいるクレハは、ミリアの体調が良さそうなのを見て『良かった』と微笑んでいる。
「──失礼しますッ!」
すると、先程までシスティアと話していた、ギルドの受付嬢のような格好の、眼鏡をかけた獣耳の女性が話しかけてくる。
「私はこのギルドの職員の──ロロ・イープスと申します。先日は、夫のルイードが命を助けていただいたようで、本当にありがとうございます!」
(……夫? ……ルイード?)
俺は少し考え……昨日の事を思い出す。
「ああ、あの最後に治療した。ヒュドラの毒を食らった犬耳の冒険者か?」
そういや『私には帰りを待ってくれる妻が……』とか、何とか言ってたな?
「はい、そうです。夫はお陰さまで生きて帰って来る事ができました。本当にありがとうございます!」
ロロは深々と頭を下げてくるが、
「いいよ、無事でよかったな」
と、俺は軽めに返す。
「……はあ。システィアが言ってたとおり、何か不思議な感じの方ですね。あ、いえ、すいません! 私は断じて悪い意味ではありません!」
「──おい。それでは、私が悪い意味で言っていたみたいじゃないか!」
すかさずシスティアが突っ込む。
「別にそういうわけじゃ……それにそんな細かい事を気にしないの。これじゃ彼氏どころか、結婚だ何てまだまだ先の話ね……?」
ほほほ。と口に手をあて、ロロはニヤリと挑発的な笑みをシスティア向ける。
「なッ……!? なんだと! と、というか、お前は、最近自分が結婚したとたん……偉そうに……!」
「貴方も頑張りなさいってこと、長い付き合いなんだし、私は貴方にもいい人が見つかるのを応援してるわ」
するとシスティアは『はぁ~』とため息をつき……
「全く分かったから。ほら、早く仕事に戻れ……」
と、ロロに向けてしっしっと手を動かしている。
「は~い。じゃあ、皆さん失礼しますね。あ、ミリアちゃんもまたね!」
名前を呼ばれてビクッとするミリアは、いつの間にかエメレアの後ろに隠れており、そこから「は、はい……!」と言いながら軽くお辞儀をしている。
そんな人見知りなミリアの頭を、エメレアが優しくなでて、落ち着かせている。
「そうだ、ユキマサ。ギルドマスターからの伝言で、依頼を受けるにあたって〝冒険者登録〟をしてほしいとの事だ」
(冒険者登録? これも鉄板だな?)
「分かった。どうすればいい?」
「受付に言って書類を書いてもらうだけだ。クレハ。案内してやってくれ」
システィアはクレハに案内役を指名する。
「あ、はい。分かりました!」
「ちょ、ちょっと待って! これの案内は私がするわ! この〝黒い変態〟をこれ以上クレハに近づけさせたく何て無いわ!」
ぐぐぐぐぐ……と渋い表情をしたエメレアが、俺を睨みながら話に入って来る。
「何だ、ユキマサは変態だったのか?」
システィアは、真顔でエメレアの俺への変態扱いを『何だ、今日は雨なのか?』ぐらいの、軽いノリで把握したとばかりに言葉を返してくる。
(そういうお前は天然だったのか?)
「知らん。エメレアから見ればそうなんだろ?」
と、俺は流すが相変わらずエメレアは睨んでくる。
「ふふ。否定しないとはユキマサらしい答えだな──それと、さっきギルドマスターが〝第8隊〟は今日は休みでいいとの事だ。昨日のヒュドラの件で、精神的にも疲労してるものが多いからな。特にミリアはゆっくり休むんだぞ?」
システィアは、俺の回答に満足そうに笑う。
(ロキのやつ気が利くな? 胡散臭い奴だったが、流石はギルドマスターだ。確かに精神的な疲労は無理せず休んだ方がいい……)
特に、魔物や魔獣と戦い──命のやり取りをする騎士なんかは尚更だろう。一瞬の油断が自分の命取りになるし、他人の命取りにもなるからな。
「え、お休みですか!?」
あれ? と拍子抜けのクレハ
「ああ、せっかく来てもらったのにすまない」
「あ、いえ、それは全然大丈夫です。あとユキマサ君の案内は私に任せてください!」
クレハは休みでも案内してくれる気のようだ。
「く、クレハ? だからそれは私に任せて……ね?」
意気込むクレハにエメレアは押され気味である。
「なら、二人で行けばいじゃないか? 休みだが冒険者登録ならそんなに時間もかからないだろう?」
「わ……あの! 私も行きましゅ……す……あみゅ……」
1対1の会話では無く、複数の話し合いに入ってくる感じだと、ミリアはクレハ達とは言え、タイミングがあまりつかめなく緊張してしまうみたいだ。
結構噛みながら最後は『やってしまった……』とばかりに、ミリアは恥ずかしそうに顔を赤くする。
でも、タイミングも言ってる事も問題ないぞ?
後は気持ちの持ちようだ。自信を持てよ。
「まあ、それなら……」
しぶしぶ納得するエメレアだが、噛んでしまい『あみゅ……』と恥ずかしがるミリアの頭を『大丈夫よ。一緒に行きましょ?』と優しく撫でている。
「うむ。話しはまとまったかな? それとすまないが、私は本日〝アーデルハイト王国〟の王族が来るそうなのでな。その出迎えと護衛なので、此処で少し席を外させてもらうぞ?」
(アーデルハイト王国……?)
正直な話、王様とか貴族とかはあまり会いたく無いな。その国の王族がどんな奴かはよく知らんが──変に権力とかを振りかざして来ても、色々面倒だしな。
(その手の権力を悪用するような馬鹿共は〝元いた世界〟でも、たくさん見てきたからな……)
「アーデルハイト王国ですか!? 珍しいですね。あの国の王族の方がいらっしゃるなんて……」
「ギルドマスターが言うには前から決まっていたみたいだぞ? まあ、私も昨日あの後、急に『明日〝アーデルハイト王国〟の王族の方が来ますので、すいませんが出迎えと護衛をお願いできますか?』と頼まれたのだがな」
……いや、お前も昨日聞いたのかよ?
(てか、ロキはロキで王族が来るってのに……そんな〝人が足りないから明日のバイトのシフト出れる?〟みたいな感じで護衛頼んだのか?)
「あ、すまない。では、私はそろそろ失礼するぞ?」
と、手を振りながらシスティアは去っていく。
「──それじゃあ、私たちは受付に行こっか?」
「悪いな、休みまで付き合わせて」
「もー。だから、気にし無くていいってば!」
と、クレハは少しムスッとしてくるので
「……ありがとう。休みまで付きあってもらって」
俺は『悪いな』から『ありがとう』に言葉を訂正してクレハに伝えると……
「うん、どういたしまして!」
と、どうやら納得してくれた様子だ。
「ん、んッ! ユ キ マ サ 早く行くわよ?」
エメレアは分かりやすくわざと咳払いをし〝私のクレハから離れなさい!〟とばかりに──笑顔だが、額に青筋を立てながら、強引に俺の腕を引っ張り、そのまま腕を組む形で歩き出す。
(だから、お前、腕組むと……昨日もそうだが、当たってるんだよな。腕に柔らかいものが……)
しかも服の上からパッと見た感じより……
……って言うか、なんつーか、大きい気がする。
所謂、着痩せするタイプか?
「ちょっと、エメレアちゃん!」
「ま、待って!」
と、クレハとミリアが追いかけてくるが……
──どんどんエメレアは歩いて行く。
「……おい、エメレア? 昨日も言ったが、腕に当たってるんだが……?」
と、俺はまた気づいてないエメレアに、胸が当たってることを軽く伝えると……
「──ッ!? ……本っ当……に…へ、変態……///」
赤面しながらも、腕は離さずに俺を睨んでくる。
「……そ……そんなに触りたいの?」
と、じっと俺を睨みながら見つめて、エメレアは何故かそんな事を聞いて来る。
それだと俺から触ったみたいだろ……!?
しかし、予想外の質問に少し面食らう。
「だから、昨日も今もお前が当ててきたんだろうが! てか、それ以前にお前みたいな美人が触れてきたら、嫌でも意識しちまうだろ!」
しかも、クレハもそうだが……
最初の、そう言う素の〝乙女反応〟みたいなのをされると、尚更意識しちまう。
「び、美人て……な、何よそれ、私に言ってるの?」
『なに言ってんのコイツ?』といった感じの目で、エメレアは俺を見てくる。
「この話の中で他に誰に言うんだよ。残念ながら、俺はそこまで意志疎通は下手じゃないぞ?」
そんなやりとりをしてると……
「──何してるの? ふたりとも?」
後ろから、クレハに声をかけられる。
それに、何だかその声は不機嫌そうだ。
よく見ると、クレハの後ろには、ミリアがおり、雰囲気を察してか──『く……クレハ、ど、どうしたの?』と言いながらあたふたとしている。
「く……クレハ、違うのよ、これはッ……!」
クレハに不機嫌そうな声で話をかけられたエメレアは、今にも泣きそうだ。
「ユキマサ君も、本当にわざとじゃ無いよね?」
と、俺の腕とエメレアの柔らかな胸部が当たっている所をじッ……とクレハはジト目で見てくる。
「わざとも何も掴んでるのはコイツだろ!?」
「そのわりには……嫌そうじゃないよね……エメレアちゃんの……おっきいもんね……私よりも……」
──じぃぃぃぃぃぃぃ…………
と、俺の腕を見つめ、更に不機嫌になるクレハ。
するとエメレアは、
「い、いつまで触ってるのよ変態ッ!」
俺を押し飛ばしクレハにかけよる。
「エメレアちゃんも、心配してくれるのは嬉しいけど、ユキマサ君をあんまり目の敵にしちゃダメだよ?」
ムスリッと怒るクレハにエメレアは……
「う……善処します……」
ガックリと肩を落とし、しぶしぶ納得している。
それを見ていたミリアが『エメレア大丈夫?』と、心配そうに声をかけており、エメレアは『だ、大丈夫よ!』と答えながらミリアに抱きついている。
「ユキマサ君、こっち! 早く行くよ!」
と、まだ絶賛ムスッと中のクレハに、クイクイっと袖を引っ張られながら、俺は冒険者登録をする為、ギルドの受付に向かうのだった──。
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