20 / 378
第19話 エメレア襲来
しおりを挟む──ったく、何なんだ!? こいつは……?
クレハの部屋の前に立ち塞がり、戦闘体制でクレハの部屋を死守する……エメレアに俺は頭をかかえる。
……そしてエメレアの目を見るに本気みたいだ。
「──な、なんの騒ぎ!? って、あれ? エメレアちゃん?」
バタン! と、自身の部屋から何事かと、飛び出して来たクレハが状況を確認すると──いつの間にか自分の部屋を死守している、エメレアを見つけ『えーと?』と困ったように首を傾げている。
「クレハ! 良かった! 無事だったのね!」
本気で涙を浮かべ喜ぶエメレア。
「えっと……うん、私は無事だよ?」
と、クレハは返事を返すが……
表情を見るに、やはり困惑気味の様子だ。
「クレハ、この男に何かされなかった!? というか何でこの〝黒い変態〟がここにいるの!?」
(だから、誰が〝黒い変態〟だ、誰が……)
「えっと……色々あって、ユキマサ君には昨日は家に泊まってもらったの」
……できれば、色々の部分をもう少し詳しく、尚且つ誤解を生まないようにエメレアに伝えてくれ。
──じゃないと、死人が出るぞ……?
「…………ぐはッ──」
ほらみろ。効果は抜群みたいだ……
大ダメージ(精神)を食らったエメレアは、一度床に倒れるが──ゆっくりと起き上がると、悪鬼羅刹の如く俺を睨み、惜しみ無い殺気をぶつけてくる。
「……覚悟はできてるでしょうね? ユキマサ?」
ふひひひひ……と、不気味な笑いを浮かべ──ゆらり……ゆらり……とエメレアがこちらに歩いてくる。
……てか、エルフってこんな感じの種族だったか?
まあ〝元いた世界〟の勝手なイメージだけどさ?
いや、エメレアがこうなだけか。少なくとも、同じエルフで、ギルドの副ギルドマスターでもある、フォルタニアは真面目だったし。
「──おい、何か誤解して無いか?」
「ユキマサ……私の親友に何をしたの? まさか、私のクレハを泣かせたり、いやらしい事とかしてないでしょうね……? それを証明できたら、話しだけなら、聞くだけは聞いてあげるわ」
「……」
(いやらしい事とは、何処までが、エメレアのラインか知らないが、クレハを泣かせたかと言えば、泣かせたな?)
1つ目は、お婆ちゃんの病気を治したら泣いた。
2つ目は、昨夜に魔王の話で、クレハの両親の話になり、昔を思い出させてしまい、泣かせてしまった。
「いやらしい事ってのが、何処から何処かまでなのか、分からないが──昨日クレハは2回泣いた……俺のせいかと聞かれたら、無関係とは言いきれないな?」
と、素直に打ち明ける。これは、どちらも俺が居なければ、昨夜に泣くことは無かった筈だ。
ピキッ……とエメレアは再び固まる。
「ちょ、ちょっとッ! ユキマサ君、言い方! 言い方があるよ! それじゃ勘違いしちゃうでしょ!」
「……く……クレハ……それ……ほ……んと……?」
声に成らない声を、何とか声を絞り出すエメレア。
「えーと、うん。泣いちゃったのは本当だけど、それは嬉しかったのと、お母さんとお父さんの昔の事を思い出したからだよ?」
「そ、そうなの…………?」
クレハの説明のお陰で、エメレアは少し落ち着きを取り戻す。
「うん。それに一緒に抱き合って寝ちゃったのも、私の寝相が悪かったせいだから! ……まあ、でも、ユキマサ君の腕が私を離してくれなかったのもあるけど……」
やっと、鎮火しかけてた〝エメレア火山〟に、巨大隕石をぶちこむような発言をするクレハ。
「《風刃よ・我が命を聞き届け・彼の──》」
エメレアは再び固まるかと思いきや……
無表情で、魔法の詠唱を唱え始める。
「ちょちょちょ、ちょっと待って! エメレアちゃん、ストップッ! ストーップ!!」
「──ッわ! クレハ! 何で止めるの!?」
必死にクレハが止めにかかり詠唱が止まる。
「もうッ、一回こっち来て!!」
──ヒュンッ! パッ!!
クレハが〝空間移動〟を使い、クレハとエメレアの二人が一度家の外に出る。
そして、一瞬にして辺りが静かになる。
……てか、エメレアは何なんだよ?
クレハが大好きなのは分かるが……まあ、言動はあれだが、友達──いや、親友を思っての事だろう。クレハやミリアの為に限っては、全てに於いて善意100%だしな。
……俺には悪意100%だけど。
(というか、何か取り残されたな?)
ポツンと、その場で5分ぐらい待つと……
──ヒュンッ! パッ!! と二人が帰ってくる。
「おかえり」
「うん、ただいま……」
申し訳なさそうな表情のクレハと、何か全身をぐったりとさせ、今にも倒れそうな様子のエメレア。
「……一先ず、クレハの貞操が無事なのは分かったわ」
クレハの貞操が無事って……
かなりストレートに言って来たな?
「え、エメレアちゃん!!」
顔を真っ赤にし抗議するクレハ。
「う……ご、ごめんなさい」
恥ずかしがりながら怒るクレハに、エメレアは流石にデリケートな部分だったと反省し、素直に謝る。
「…………」
じっ……と俺を無言で見るエメレア。
(今度は何だ?)
悔しそうな顔をしているが……
先程みたいな、殺気を向けては来ない。
「──おや? その声はエメレアかい?」
すると、食器の片付けを終えた婆さんがこちらに普通に歩いて来て、エメレアに声をかける。
「お、お婆ちゃん!? 病気は大丈夫なの?」
サラっと元気に歩いてきた婆さんを見て、エメレアは『!?』と驚愕の表情をしている。
そーいや、エメレアは小さい頃からよく遊びにも来たりしてたらしいしな? 最近もこうして家に来た時は、病気の婆さんの心配もしていたのだろう。
「心配かけたわね。この通りすっかり治ったわ」
二の腕をぐッとしながら、陽気にポーズを取る婆さんは、エメレアに病気の完治を報告する。
「え、お婆ちゃんッ!? 病気治ったの? 本当、本当なの!? よかったぁぁぁぁぁ!!」
エメレアはギュッっと婆さんに抱きついた後に、両手を握って「え、本当!? 何で、何で! でも、よかったぁ!」と、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
「えっとね、エメレアちゃん、お婆ちゃんの病気は、ユキマサ君が治してくれたんだよ?」
そんな二人を嬉しそうに見ていたクレハが、クレハの婆さんの病気が治った経緯を教える。
「……は……!? ……ど、どうやって?」
驚くエメレアは俺の方を振り向く。
「えっと。ユキマサ君の回復魔法だと、病気も治るみたい」
「はぁぁぁぁぁぁ!? 何それ、そんなの聞いたこと無いわよ! 病気には、魔法は効かない筈でしょ!」
すると、エメレアは何やら考え込み始め……
「確かに言われてみれば……さっきは嬉しくて気づかなかったけど──完治は難かしいって言われた病気のお婆ちゃんが、体力も限界になって、凄く衰弱してきちゃってたのに……2日ぶりに会ったら、病気がすっかり治ってるなんて……普通はあり得ないわ──そして、あり得ないと言えばユキマサ。なるほど……!」
小さく何度も頷く。
「『なるほど……!』じゃねーよ!」
と、俺が突っ込みをいれると──
エメレアは顎に手を当て、探偵みたいなポーズで……
「ふーん……ふーん……ふーん……ちッ……ふーん」
俺の全身を、隅々まで見てくる。
(おい、今、さらっと舌打ちしなかったか?)
「……何だよ?」
「何でもないわよ……こんな〝あり得ない変態〟の一体どこがいいのかしら……?」
エメレアは、ぷいッとそっぽを向く。
そんなエメレアを婆さんはニコニコと笑って見ており、クレハは『えーと……あはは……』と苦笑い。
「あ、そろそろ本当にギルド行かなきゃ!」
「支度はできたのか?」
「うん、バッチリ!」
と、頷くクレハ。
「じゃあ、お婆ちゃん、行ってきます!」
クレハは婆さんに『行ってきます』を言う。
「ええ、クレハ。それにエメレアも、ユキマサさんもいってらっしゃいな。気を付けて行くんだよ」
「うん、行ってきます。お婆ちゃん今度はミリアとシスティアさんも連れて改めてお祝いに来るわね!」
と、エメレアは俺への表情とは、正反対の笑顔で、婆さんに嬉しそうに笑いながら言う。
友達思いと言うか、仲間思いと言うか……根は凄く良い奴なんだよな。
(いや、俺が嫌われてるだけか……)
「ええ。ミリアにもシスティアにも、また元気な姿で会いたいわ。いつでも遊びに来ておくれ」
またまた嬉しそうな婆さん。
「婆さん世話になったな。それに病気が治って嬉しいのはいいが、舞い上がって無理とかするなよ?」
「お世話になったのはこちらの方さね。ユキマサさん本当にありがとう。忠告通り無理もしないでおくよ」
「──何よ! 喜ぶのは良いことじゃない!」
と、エメレアは俺の発言が気に入らない様子だ。
「気を抜くなって事だ。それはお前達も一緒だぞ?」
「何よそれ……」
やはり納得がいかない様子のエメレア。
「油断大敵ってことだよ。エメレアちゃんも、油断しないで頑張ろ!」
エメレアの肩に軽く触れ、ニコッと笑いながら、クレハが声をかける。
「まあ、クレハがそういうなら……それに確かに油断大敵ね! 昨日のヒュドラの事もあるし、もっと強くもならなきゃ!」
なるほど、俺が言うから嫌って事か?
最早、清々しいぐらいの嫌われっぷりだな。
「準備できたなら行くぞ? エメレアも行くだろ?」
「そもそも私はクレハを迎えに来たのだけど? というか、何でユキマサが仕切ってんのよ!」
「喧嘩しないの! ほら、二人とも行くよ!」
クレハに注意されると、途端にエメレアは静かになる。
(お前、ホントにクレハの言う事は聞くんだな?)
相変わらず……キッ! と睨んでは来るが……
まあいい。何か、慣れてきたしな?
……いや、別に、慣れたくは無いんだけどさ。
でもまあエメレアはクレハが大好きなんだな。それだけはひしひしと伝わってくる。
良いことじゃねぇか、何かを誰かを好きってのはとても素敵なことだと誰かに聞いたことがある。
はて、いつ、誰に聞いたんだったかな? 凄く昔の記憶だ。それだけは思い出せる。
そんなことを思い出しながら俺はクレハとエメレアに続くのだった。
123
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる