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第21話 冒険者2
しおりを挟む「あれか?」
俺は冒険者登録の為、クレハ達とギルドの受付へ向かっていた。
すると──まあ……如何にも受付ですが何か? という、感じの受付に、絵に描いたような受付嬢がいる。
「うん、そうだよ」
隣を歩くクレハが、こくりと頷く。
その後ろからは、不機嫌そうなエメレアと、その後ろに隠れるように歩くミリアも付いてきている。
そして、俺はその受付嬢の中に、一人だけ違う服装の人物を見つける。そしてよく見るとその人物は耳が尖っており、種族はエルフだ。
──俺はこの人物には見覚えがある。
なので、窓口はいくつかあるみたいだが……
俺は『こいつに頼むか』と考えて、受付にいるそのエルフの女性に話しかける。
「──よう。フォルタニア? 冒険者登録をしたいんだが、ここであってるか?」
と、何故か受け付け窓口にいる──このギルドの副ギルドマスターである、金髪の長い髪にデコ出しが印象的で、豊満な胸を持つ、エルフのフォルタニアに話しかける。
「ユキマサ様。お待ちしていました。それに私の事も、覚えて貰えていたみたいで嬉しく思います」
フォルタニアは柔らかな表情で返事をして来る。
「こちらこそ、覚えて貰えていたようで何よりだ」
それにコイツは〝審判〟とか言うスキルで、相手が嘘を付いてるかどうか分かるんだったな。
「お疲れ様です。フォルタニアさん」
ペコリとお辞儀をするクレハと、それに合わせて後ろのエメレアとミリアもお辞儀をする。
「ご苦労様です。クレハさん、それにエメレアさんにミリアさんも──それと〝第8騎士隊〟は本日はお休みと聞いていましたが、ご存じですか?」
「はい。システィア隊長から聞いています。後、これはシスティア隊長に頼まれたのもありますけど……私的には、ユキマサ君の個人的な付き添いです」
「私はそこの〝黒くて変態な女誑し野郎〟の見張りとクレハの護衛です!」
と、俺に指をさしエメレアは宣言する。
(おい、何か悪口増えてないか?)
「わ、私は付いてきました……!」
そしてエメレアの後ろから──ぴょこっと顔を出したミリアが、自分の経緯を簡潔に話す。
「ふふ、皆さん仲良くなりましたね。ユキマサ様。では、こちらへ記入をお願いできますか?」
俺はフォルタニアに、ペンと少し魔力を感じる紙を渡される。
(記入と言っても名前だけみたいだな?)
どちらかと言うと、契約書みたい感じだ。
俺は、一通り文をよく読んだ後にサインを書き──
「これでいいか?」
と、フォルタニアに渡す。
「ありがとうございます。それと規則で血判と──〝ステータス画面〟を確認させてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
身分証明と判子みたいなものか?
「分かった」
俺は魔力を込めた指を軽くスライドし、この異世界だと一般的な物である、ゲームのような〝ステータス画面〟を見せる。
「確認いたしました。次に血判なのですが、これにより、万が一冒険者方が亡くなった場合、こちらの紙が真っ赤に染まるようになっており、生死が分かるようになってます」
何か〝魔力〟を感じる、見たこと無い紙だなと思ってたら、そんな仕掛けがあったのか?
「便利だな。他には何かあるのか?」
もし居場所が分かるだとかの機能があるなら……
正直、個人的にはあまり乗り気しないな。
「いえ、他は特にございません。あくまでも、こちらはギルトからの冒険者の方々の、安否確認の一環としてお願いしております」
「そうか、ならいい」
それを確認すると、俺は自分の親指の爪で、人指し指を軽く指パッチンをするような要領で薄く切り、血判を押す。
「こんな感じでいいか?」
「ありがとうございます。後、こちらポーションです」
フォルタニアが、ポーションを染み込ませたガーゼみたいな物を俺に渡して来る。
(なるほど──〝異世界〟だとそう来るのか?)
注射の後の絆創膏のシールみたいなもんか?
でも、一応はポーションだし、完全に上位互換だな。
「どうしました?」
ポーション付きガーゼを、珍しそうに眺める俺を見て『何か不手際でもありましたか?』と心配そうな顔をするフォルタニア。
「いや、何でもない。ありがとう」
と、俺はポーション付きガーゼを受け取る。
「これで、登録完了でいいのか?」
「はい。こちらで登録完了です。それともしよろしければ〝魔力量測定〟はいかがですか?」
そういうのもあるのか? でも、冒険者登録からの、魔力測定は何となく予想していた。
……が、強制ではないらしいので
「いや、遠慮しておく」
と、俺は丁重に断る。
「………そうですか、分かりました」
少し間の空いた返事のフォルタニアは、表情には出さないが、何となくガッカリした様子だ。
「「「じ~~~~~~ッ」」」
クレハ、エメレア、ミリアから、何か視線を感じるが、スルーしよう。
「悪いな。それじゃ、俺は失礼するぞ?」
「いえ、とんでも御座いません。こちらこそありがとうございました。また、何かあれば、いつでもギルドへお越しください」
丁寧にペコリとお辞儀をしながら、フォルタニアが見送ってくれる。
「あ、ちょっと、ユキマサ君──!」
もぉ……と言いながらも、しっかりとフォルタニアに頭を下げながら、クレハが追いかけてくる。
「〝魔力〟は測らなくて良かったの? まあ、私がユキマサ君の魔力量に、興味あったんだけど。それに見た感じ、ユキマサ君……魔力量かなり高いでしょ?」
と、俺はクレハに横目で聞かれる。
「……本当か嘘かは知らんが、アルテナには高いって言われたぞ?」
クレハには俺が〝異世界〟から来た事も、アルテナの事も話したので、特に何も隠さずに答える。
「いやいや、神様がそんな嘘吐かないでしょ?」
片手をブンブンと振るクレハに、俺は冷静に突っ込まれる。
「さっきから二人して何の話してるのよ……?」
後ろからついて来てる、膨れっ面のエメレアがそんなことを聞いてくる。
先ほどクレハに『あまりユキマサ君を目の敵にしちゃダメだよ』と言われてからは、かなり渋々の様子だが、少し当たりが柔らかくなった気がする。
「えっとね……これは内緒の話しで……」
クレハは少し困惑気味に俺とエメレアを交互に見てる。クレハは視線で『言っちゃダメだよね?』と聞いてくる。
ダメって訳じゃないが……流石にここでベラベラと喋ってもなので、俺は「あー、うん……」と曖昧に返す。
「わ……私にも秘密なの……クレハぁ……」
ガーンッ……! と大きく肩を落とし、本気でエメレアはショックな様子だ。何か少し可哀想になって来た。
「エ、エメレア、クレハはきっと何か言えない理由があるんだよ! それに何となくだけど悪い事じゃ無いと思うよ!」
クイクイと、今にも気絶しそうなエメレアの服の袖を、何回も優しく引っ張りながら、頑張ってエメレアを励ますミリア。
(ミリア、こういう所はしっかりしてるんだよな)
「み……ミリアぁ……」
と、感動した様子で、カバッとエメレアはミリアを思いっきり抱き締める──だが、思いっきり抱きつかれたミリアは息が出来なくなり「ふみゅッ!」と苦しそうにしている。
「そ、そうなの! これはユキマサ君の話だから、私が一人で話していいか決めちゃダメな話しなの……エメレアちゃん、本当にごめんね!」
あせあせとクレハはエメレアに謝っている。
「な、なんだぁ、そうだったのね! よかった。ユキマサの事なら私はどうでもいいわ!」
ホッ……とエメレアは胸を撫で下ろす。
(何か、俺……〝精神耐性〟付いてきた気がするぞ? 新しくスキルでも追加されて無いかな?)
そんな、馬鹿な事を考えてると──
エメレアのハグによって、先程から息ができていないミリアが、本格的にヤバそうになって来たので、
「おい、そんな事よりも、ミリアが苦しそうだから早く離してやれ──それ、息できてないぞ?」
と、自身のハグでミリアが〝呼吸困難〟に陥ってることに、まだ気づいて無いエメレアを、俺は注意し、先程から何とか空気を吸い込もうと、頑張って、もごもごとしているミリアに助け船をだす。
俺の言葉に『──はッ!』として、ようやく今の状況を理解したエメレアが、慌ててミリアを離す。
「み、ミリアごめんね! だ、大丈夫!?」
エメレアのハグから解放されたミリアは「ぷはっ!」と大きく息を吸い込む。
「う……うん……だ、大丈夫……エメレアも大丈夫?」
「大丈夫よ。ごめんね、ありがとう」
と、返すエメレアは懲りずに、今度はミリアの頭をなでなでと撫でている。
と、その時──
──ドテッ!!
俺の後ろで、誰かが転ぶような音が聞こえたので、振り返ってみると……
5、6歳ぐらいの獣耳に、モフっとした尻尾の生えた、小さな亜人の女の子が派手に転んでいた。
その手には、お弁当のような物を持っており、転んだ時、とっさにお弁当を守ろうとしたのだろう──
両手でお弁当を持ち、頭の上に掲げるような体勢で、思いっきり転んでいる。
その結果。お弁当は無事なのだが……
その身を呈してお弁当を守った〝モフっ子幼女〟は、両手がお弁当で塞がっており、受け身も取れず、顔から思いっきり地面にダイブして転んでしまっている。
「──おい! お前、大丈夫か?」
俺は、そのモフっ子幼女にかけよるが、
「う……ぐす……お弁当……お兄ちゃん……ふぇぇん!」
と、ポロポロと泣いてしまう。
「あ、おい、泣くな? お前のお陰で弁当は無事だ。それとほら、どこが痛い? 怪我みせてみろ?」
と、俺は〝モフっ子幼女〟を抱き抱えて起こす。
すると状況を察したクレハ達も「だ、大丈夫ッ!?」と言いながらかけよって来る。
「ひぐッ……うぐ……泣いて……ない……鼻……」
「そうか、そりゃ悪かった。じっとしてな?」
と、俺はこのモフっ子幼女に回復魔法を使うと、
「……あれ? 痛くない」
目をパチクリさせて、モフっ子幼女は驚く。
「もう、大丈夫そうか?」
と、モフっ子幼女に聞いていると……
今度は何やら誰かがこちらに
──ドダダダダダダ!! と走ってくる音がする。
「──オイッ、貴様あぁぁァァ!! 私の大切な家族に何をしている!!」
と、声を荒らげた、前髪を後ろに流した──20代半ばぐらいの金髪の男が走ってくる。
「あ、お兄ちゃん!」
それを見たモフっ子幼女は表情が明るくなる。
「お兄ちゃん……? お前が、この子の兄か?」
見た感じ、この金髪男は人間だろう。
この亜人のモフっ子幼女とは、血の繋がりがあるようには見えない。
するとその男はモフっ子幼女の肩をガシッと掴み、
「大丈夫か、怪我はないか! 痛い所は無いか!?」
と、直ぐ様に安否を確認する。
「うん、大丈夫!」
さっき、怪我は俺が治しておいたので、すこぶると元気な様子のモフっ子幼女は笑顔で返事を返す。
「そうかそうか、それは良かった」
モフっ子幼女が無事だと分かると、金髪男は此方を振り返り、怒気を含んだ声で話しかけて来る。
「おい、そこの貴様! 私の家族に何をしていた! 事と次第によっては馬の骨にして、魔王領に放り投げてやるぞ!!」
──何だそりゃ!?
いや、罵倒してるのは分かるが。
てか、何だよ!? 『馬の骨にして』って?
初めて聞いたぞ? そんな言葉……?
『魔王領に放り投げてやる』も初めて聞いたけど。
(異世界だと、人を馬の骨に変える魔法でもあるのか?)
「こっちの質問は無視かよ……」
はぁ、と溜め息を吐き、頗る面倒だなと思う俺。
「──ちょっと待ってください! 流石に失礼じゃ無いですか! ユキマサ君は転んだその子を助けて、怪我の治療までしてくれたんですよ!」
先程まで黙って様子を見ていたクレハだが、金髪男の物言いに、結構な怒り気味で話しに入ってくる。
「そうだよ。その黒いお兄ちゃんは私を助けてくれたんだよ! 鼻が凄く痛かったけど直ぐ治してくれたの!」
モフっ子幼女の弁解もはいると、金髪男は少し頭が冷えたのか……
「……そ、そうだったのか。すまない……とんだ勘違いを……私はこの子たちの事になると頭に血が上ってしまってな、本当に申し訳ない!」
と、言いながら丁寧に頭を下げて謝ってくる。
「いいよ。まあ、気持ちも分からなくも無いしな」
家族の為、仲間の為で、必要以上に頭に血が上る気持ちはよく分かる。元いた世界の孤児院で、俺も色々あったし……牧野には『やり過ぎだ!』って怒られた事も多々あったからな。
「なんとッ! 同志であったか!」
何故か、感動したような金髪男。
……でも、話しが噛み合ってない気がする。
「悪い。どういう意味だ?」
「ハッハッハッハ! 照れるでない! 私は幼女が大好きなんだ! 貴様もそうなのだろう?」
金髪男は高らかにロリコン宣言をする。
「──は……?」
「いや、失礼した。この思いは大好きと言う言葉じゃ収まりきらないな! もはや、愛していると言った方が正しいかもしれない! ──イッツ、ラブだ!!」
グッと親指を立てながら、金髪男はキリッとキメ顔で言ってくる。
「………あ、いや、違います。人違いです」
ヤベ、驚き過ぎて思わず敬語になっちまった──
「ハッハッハッハ! 恥ずかしがることは無いぞ、同志よ! さあ、一緒に、小さな女の子を愛し、明るい未来へ導こうでは無いか!」
ぜんッぜんッブレ無いなコイツ?
どんなメンタルしてんだ?
「おお! そういえば、自己紹介がまだであったな。私は──クシェラ・ドラグライト! 全世界の幼女を明るい未来へ導く愛の戦士だ! よろしく頼む!」
キリッと白い歯を見せ、見た目だけは、一般的に見て、カッコいいのであろう……自称〝全世界の幼女を明るい未来へ導く愛の戦士〟は爽やかな笑顔で、中々にパンチの効いた自己紹介をしてくるのであった──。
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