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第2章 氷の王子と消えた託宣

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     ◇
 くだんの髪型がうつくしく仕上がって、リーゼロッテはようやく解放された。ソファに腰かけ、紅茶を一口ふくむ。
 ベッティとジークヴァルトが自分の髪質について意気投合する姿に、この世界の貴族はやはり、自分が思うものとは違うのだと妙に納得した。
 その様子に気分はほぐれたが、今の状況から目をそらしてばかりもいられない。

「あの、ヴァルト様、わたくしはいつまでここにいればよろしいのでしょうか?」
「これからジョンの調査が行われる。その結果次第だ」

 そう言われ、リーゼロッテの表情が曇った。

「問題ない。すぐに戻れるよう手配する」
「はい……ヴァルト様」

 もはや自分でどうこうできる事態ではないのだろう。泣き虫ジョンを思うと胸が痛むが、今の自分はあまりにも無力だ。

「それと、わたくし、王子殿下にご相談したいことがあるのですが……」
「ハインリヒに?」

 ジークヴァルトがむっとした顔をする。

「オレには言えないことなのか?」
「え? いえ、わたくしの力と異形の者の存在を、エラに話してもいいかをお聞きしたくて」
「そんなことはハインリヒに聞くまでもない。話したかったら話せばいい」

 そっけなく言ってジークヴァルトは、リーゼロッテの髪に手を伸ばした。そのまま指を絡めていていく。あれだけいじり倒したくせに、まだ飽きることはないらしい。

「以前、王子殿下に他言無用だと言われましたわ」
「言えることなら言っても構わない」

 逆に言うと、言ってはならないことは、龍に目隠しされるということだろう。だが、王子に命令されているのに、それに逆らうのもどうかと思う。納得がいかないと言ったふうに「ですが」とリーゼロッテは困ったように首をかしげた。

「わかった……。どのみち今日の午後、ハインリヒのところに行く予定だ。その時にお前も一緒に連れて行く」
「よろしいのですか?」
「ああ。その代わり、絶対にオレのそばを離れるなよ」

 その言葉に、後ろで控えていたベッティの目がきらーんと光った。

「王子殿下の御前おんまえにあがるのでしたら、それなりの格好をしないとですねぇ! お支度に時間がかかりますので、公爵様はまた後ほどお迎えにいらしてくださいぃ」

 有無を言わさない圧でジークヴァルトを追い出すと、ベッティによる着せ替え攻撃が始まったのだった。
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