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第六章 初恋は時空を超えて

もぎとった確約

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「それでだ、ハナコ嬢。シュン王子と一度話し合ってはもらえまいか? 理事長の名で呼びつけておいて、こんな頼みをするのは申し訳ないのだが」

 いきなり切り出された本題に、思わず口ごもっちゃった。
 予想通りの展開にため息しか出ないんですけど。

 それに申し訳ないって思うなら、初めっから言わないでほしいって感じ。
 こっちが断れっこないのはリュシアン様も承知のくせに。

「弁明だけでも聞いてやってはもらえんかのう? このまま執着を向け続けられるのは、ハナコ嬢にとっても心地よいものではないだろうて」

 う、それは確かにそうなんだけど。

 リュシアン様の口ぶりじゃ、話を聞いた上できっぱり断ってもいいってことかな?
 山田との対決が避けられないのなら、こっちが有利になるよう話を進めた方が賢明なのかも。

 返答を待つリュシアン様に見つめられながら、何を言うべきかを急いで頭の中で整理した。

「シュン様とお話しをするのなら、お願いしたいことが三つあります」
「うむ、言ってみなさい」

 静かにうなずいたリュシアン様。
 正直に言うけど、怒ったりしないでね!

「まず、ふたりきりでは嫌です」
「では話し合いには、このわしが立ち会うとしよう」

 なら少しは安心できるかな。
 健太に頼んでもいいんだけど、山田が暴走したら厄介だよね。立場上、健太じゃ止められないこともあるだろうし。

「次に、シュン様には適切な距離を保っていただきたいです。触れられるのは……今はまだ怖くって」
「無理もない。若気の至りとは言え、王子の所業は行き過ぎた面もあったゆえな。うむ、所定の範囲には近づかぬよう、王子にはしっかりと言い含めておこう」

 リュシアン様、山田の行き過ぎ行為は平常運転ですことよ?
 それはさておき、最後の一個は慎重にお願いしないとなんなくて。

「あともうひとつ……」

 その先を口にするのを、やっぱりためらってしまった。
 下手したらわきまえない発言と捉えられてしまうかも。

「無茶を言っているのはこちらの方だ。遠慮せずに言うといい」
「……今後のことを、絶対に無理強いはしないと、そうお約束していただきたいのです」

 いまわたしがしてる抗議なんて、王子の山田ならねじ伏せることも簡単だ。
 立場にものを言わせて求婚されでもしたら、公爵家の人間として断るなんてできっこない。

「あい分かった。このリュシアン・ヤーマダの名にかけて約束しよう。王子が私欲で権力をふるうことを決して許さぬと」
「リュシアン様……心より感謝いたします」

 っしゃあ! 確約もぎ取ったった!

 内心では雄たけびを上げたけど。
 表向きは、ほっとした顔で令嬢らしく涙ぐんでおいた。

「しかし、王子も嫌われたものよのぅ……」

 呟いたリュシアン様、残念そうにため息ついてる。
 不詳の孫持つと、おじいちゃんもたいへんだよね。

「言うておくが、今日の件は孫可愛さゆえのじじいの勇み足じゃ。シュンに頼まれたわけではないことだけは知っておいてくれまいか」

 山田が泣きついて来たってわけじゃないのか。
 そこまで情けない奴じゃないから、誤解しないでほしいってことなんだろうけど。

 本当に山田のことを大切に思ってるんだな。それなのにリュシアン様は、あのとき山田からわたしを助けてくれたんだ。

 公明正大な王様だったってよく耳にするし。
 このひとなら信頼しても大丈夫だって、こころからそう思えた。

「ハナコ嬢がシュンの嫁に来てくれるのなら、わしの老後も安泰なんだがのぅ……」

 ぎゃっ、なんてあきらめの悪いご発言っ。
 全力で聞こえなかったフリさせていただきますっ。
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