46 / 78
第六章 初恋は時空を超えて
理事長のお呼び出し
しおりを挟む
「ハナコ・モッリです。お呼び出しを受けてまいりましたわ」
覚悟を決めて、重厚な理事長室のドアをノックした。
理事長のリュシアン様には初めて会うから緊張しちゃう。
王子である山田のおじい様ってことは、それはすなわち前国王ってことで。現役時代は威厳ある王様だったって、そんな話をよく大人たちがしてたっけ。
「待っていたぞ」
ひとりでに開いたドアの奥から、落ち着いた声がした。
何このイケボ!
めちゃくちゃ好みの声なんですけど。
どんなイケオジが待っているのかと、期待しながら部屋に入った。
(ん? 誰もいない?)
見回しても人影はなくて。
その代わり、書斎机の横に飾られたオナガドリみたいな置物が目についた。
高いスタンド式の止まり木にいて、綺麗な尾羽根が長く床まで伸びている。
「まるで本物みたいね。剥製なのかしら……?」
「ひとを勝手に殺すな、失敬な娘だな」
と、鳥がしゃべった!
しかも魅惑のバリトンボイス!
「ご、ごめんなさい。わたくし、置物かと勘違いしてしまって」
「まぁ、いい。我が名はアーサー、リュシアンの使い魔だ。以後忘れるな」
「アーサー……様ですわね」
一応敬語にしてみたけど、対応は間違ってなかったみたい。アーサー、うむってうなずいてるし。
使い魔って気位が高くって、従う相手を選ぶらしい。魔力が強くても誰彼なく使役できるものじゃないんだ。理事長、さすがは元国王って感じだな。
「リュシアンならその転移サークルの向こうにいる。さっさと行くがいい」
広げた片翼の先の床に、魔法陣が描かれていた。
これは転移サークルって言って、決まった場所を行き来する個人用の転移門。
「こちらはどこに通じているのでしょう?」
「何、行けば分かる」
そっけないアーサーの言葉に押されて、サークルの真ん中に立った。
魔法陣の文字が輝いて、眩しさに目をつむる。光の柱が立ち昇るのと同時に、特有の浮遊感に包まれた。
次に目を開けたときは、転移先の魔法陣の上にいて。
さわやかな風が花の香りを運んでくる。見回すと、色とりどりの薔薇の花が揺れていた。
(あれ、ここって……?)
まさかって思ったけど、やっぱり見覚えのある庭園で。
とりあえず理事長を探すしかないか。
「わふん!」
「ビスキュイ!」
茂みから飛び出してきた大きなモップ犬を、とっさに全身で受け止めた。
ビスキュイがいるってことは、やっぱりここってお城なんだな。
ってかビスキュイ、メイク崩れるからあんま顔舐めまわさないでっ。
「なに? ついて来いって言うの?」
スカートのすそをひっぱってくるビスキュイに連れられて、庭の小路を進んだ。
しばらく行くと、夏に招かれたときにお茶したテーブルが見えたんだけど。
その椅子のひとつで、身なりのいい男の人が本を読んでいる。理事長かと思ったら、それはなんと保健医のヨボじいで。
ビスキュイがヨボじい目がけて走って行って、わふんっと大きくひと鳴きした。顔を上げたヨボじいが、わたしに気づいて手招きをしてくる。
「ハナコ嬢、良く来られましたな」
「先生も理事長にお呼ばれになったのですか?」
首をかしげると、ヨボじいは意地悪い感じでふっと笑った。なんだからしくないんですけど。
いつもの白衣じゃないから、そんなふうに感じるのかも?
まぁ、お城に招かれたんじゃ、ちゃんとした格好してないとマズいよね。
「それにしても、理事長はまだいらしてないのですね」
きょろきょろと見回していると、メイドがわたしの分のお茶を運んできた。
「どうぞおかけくださいませ。ハナコ・モッリ公爵令嬢様」
「ありがとう」
お礼を言うとちょっと驚いた顔をされちゃった。
ここは公爵令嬢として、当然とばかりにふんぞり返って座るべきだった?
「ではリュシアン様、ご用がございましたらすぐに参ります」
「うむ、しばらく下がっていなさい」
「仰せのままに」
ヨボじいに礼を取ったメイドを見送って。
ってか、メイドっ。
いまヨボじいに向かってなんつった!?
「先生、もしかしてあなたは……」
「そろそろネタばらしをしても良い頃合いかと思うてな」
イタズラが成功した子供みたいな顔で、ヨボじいはウィンクを飛ばしてくる。
驚きで固まったあと、じわじわと事情がのみ込めてきて。
「もう、先生が理事長でいらしただなんて! リュシアン様も人がお悪いですわ」
いまさら態度を変えるのもおかしい気がして、大きく頬をふくらませた。
リュシアン様もかっかっかと大きな笑い声を立ててくる。
ひとしきり拗ねて見せたあと、わたしは一度立ち上がった。貴族としての所作で礼を取る。
「リュシアン様、改めてご挨拶申し上げます。モッリ公爵家長女、ハナコと申します。知らなかったこととは言え、これまでの無礼の数々をお許しください」
「なに、かしこまらずともよい。騙しておったのはこちらの方ゆえな」
促されてまた椅子に座った。
どっしりと構えているリュシアン様、貫録が全身からあふれ出しててさすが元国王って感じ。
これまでヨボヨボっぷりは全部演技だったんだろうな。
「でもどうして校医をされているのですか……?」
理事長が保健医やってるなんてさ。まして元国王が就くような職ではないんじゃない?
理由が孫の山田が気になってとかだったら、じじバカにもほどがあるんですけど。
「前にも言ったがの、頭と体が働くうちはこの老いぼれも人様の役に立とうと思うてな。それに若者の青春をのぞき見するのは、なかなかに楽しいものよ」
かーっかっかって笑うと、リュシアン様は一転、真面目な顔でじっと見つめてきた。
覚悟を決めて、重厚な理事長室のドアをノックした。
理事長のリュシアン様には初めて会うから緊張しちゃう。
王子である山田のおじい様ってことは、それはすなわち前国王ってことで。現役時代は威厳ある王様だったって、そんな話をよく大人たちがしてたっけ。
「待っていたぞ」
ひとりでに開いたドアの奥から、落ち着いた声がした。
何このイケボ!
めちゃくちゃ好みの声なんですけど。
どんなイケオジが待っているのかと、期待しながら部屋に入った。
(ん? 誰もいない?)
見回しても人影はなくて。
その代わり、書斎机の横に飾られたオナガドリみたいな置物が目についた。
高いスタンド式の止まり木にいて、綺麗な尾羽根が長く床まで伸びている。
「まるで本物みたいね。剥製なのかしら……?」
「ひとを勝手に殺すな、失敬な娘だな」
と、鳥がしゃべった!
しかも魅惑のバリトンボイス!
「ご、ごめんなさい。わたくし、置物かと勘違いしてしまって」
「まぁ、いい。我が名はアーサー、リュシアンの使い魔だ。以後忘れるな」
「アーサー……様ですわね」
一応敬語にしてみたけど、対応は間違ってなかったみたい。アーサー、うむってうなずいてるし。
使い魔って気位が高くって、従う相手を選ぶらしい。魔力が強くても誰彼なく使役できるものじゃないんだ。理事長、さすがは元国王って感じだな。
「リュシアンならその転移サークルの向こうにいる。さっさと行くがいい」
広げた片翼の先の床に、魔法陣が描かれていた。
これは転移サークルって言って、決まった場所を行き来する個人用の転移門。
「こちらはどこに通じているのでしょう?」
「何、行けば分かる」
そっけないアーサーの言葉に押されて、サークルの真ん中に立った。
魔法陣の文字が輝いて、眩しさに目をつむる。光の柱が立ち昇るのと同時に、特有の浮遊感に包まれた。
次に目を開けたときは、転移先の魔法陣の上にいて。
さわやかな風が花の香りを運んでくる。見回すと、色とりどりの薔薇の花が揺れていた。
(あれ、ここって……?)
まさかって思ったけど、やっぱり見覚えのある庭園で。
とりあえず理事長を探すしかないか。
「わふん!」
「ビスキュイ!」
茂みから飛び出してきた大きなモップ犬を、とっさに全身で受け止めた。
ビスキュイがいるってことは、やっぱりここってお城なんだな。
ってかビスキュイ、メイク崩れるからあんま顔舐めまわさないでっ。
「なに? ついて来いって言うの?」
スカートのすそをひっぱってくるビスキュイに連れられて、庭の小路を進んだ。
しばらく行くと、夏に招かれたときにお茶したテーブルが見えたんだけど。
その椅子のひとつで、身なりのいい男の人が本を読んでいる。理事長かと思ったら、それはなんと保健医のヨボじいで。
ビスキュイがヨボじい目がけて走って行って、わふんっと大きくひと鳴きした。顔を上げたヨボじいが、わたしに気づいて手招きをしてくる。
「ハナコ嬢、良く来られましたな」
「先生も理事長にお呼ばれになったのですか?」
首をかしげると、ヨボじいは意地悪い感じでふっと笑った。なんだからしくないんですけど。
いつもの白衣じゃないから、そんなふうに感じるのかも?
まぁ、お城に招かれたんじゃ、ちゃんとした格好してないとマズいよね。
「それにしても、理事長はまだいらしてないのですね」
きょろきょろと見回していると、メイドがわたしの分のお茶を運んできた。
「どうぞおかけくださいませ。ハナコ・モッリ公爵令嬢様」
「ありがとう」
お礼を言うとちょっと驚いた顔をされちゃった。
ここは公爵令嬢として、当然とばかりにふんぞり返って座るべきだった?
「ではリュシアン様、ご用がございましたらすぐに参ります」
「うむ、しばらく下がっていなさい」
「仰せのままに」
ヨボじいに礼を取ったメイドを見送って。
ってか、メイドっ。
いまヨボじいに向かってなんつった!?
「先生、もしかしてあなたは……」
「そろそろネタばらしをしても良い頃合いかと思うてな」
イタズラが成功した子供みたいな顔で、ヨボじいはウィンクを飛ばしてくる。
驚きで固まったあと、じわじわと事情がのみ込めてきて。
「もう、先生が理事長でいらしただなんて! リュシアン様も人がお悪いですわ」
いまさら態度を変えるのもおかしい気がして、大きく頬をふくらませた。
リュシアン様もかっかっかと大きな笑い声を立ててくる。
ひとしきり拗ねて見せたあと、わたしは一度立ち上がった。貴族としての所作で礼を取る。
「リュシアン様、改めてご挨拶申し上げます。モッリ公爵家長女、ハナコと申します。知らなかったこととは言え、これまでの無礼の数々をお許しください」
「なに、かしこまらずともよい。騙しておったのはこちらの方ゆえな」
促されてまた椅子に座った。
どっしりと構えているリュシアン様、貫録が全身からあふれ出しててさすが元国王って感じ。
これまでヨボヨボっぷりは全部演技だったんだろうな。
「でもどうして校医をされているのですか……?」
理事長が保健医やってるなんてさ。まして元国王が就くような職ではないんじゃない?
理由が孫の山田が気になってとかだったら、じじバカにもほどがあるんですけど。
「前にも言ったがの、頭と体が働くうちはこの老いぼれも人様の役に立とうと思うてな。それに若者の青春をのぞき見するのは、なかなかに楽しいものよ」
かーっかっかって笑うと、リュシアン様は一転、真面目な顔でじっと見つめてきた。
0
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~
四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!
「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」
これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。
おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。
ヒロインはどこいった!?
私、無事、学園を卒業できるの?!
恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。
乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。
裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。
2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。
2024年3月21日番外編アップしました。
***************
この小説はハーレム系です。
ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。
お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)
*****************
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました
桃月とと
恋愛
娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。
(あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)
そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。
そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。
「復讐って、どうやって?」
「やり方は任せるわ」
「丸投げ!?」
「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」
と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。
しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。
流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。
「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」
これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる