34 / 78
第五章 天は我に味方せり
強制力と山田の思い
しおりを挟む
そして、場所は体育館。
チケットのない未希は入り口で待機中。
すでに中は薄暗くって、舞台裏からスモークが焚かれてる。さすが貴族の通う学園って感じだよね。無駄にお金がかかってるし。
座席はぜんぶ自由席で、前の方はほとんど埋まってた。
あ、後ろのあの席空いてるみたい。あそこなら目立たないし、出口にも近くてなかなかいいポジションそう。
「こちらのお席は空いていまして?」
「空いておりますゆえ、どうぞおかけくだされ。おや? あなたはいつぞやのお嬢さん」
げっ、何気なく声かけたら保健医のヨボじいだった!
存在自体忘れかけてたけど、ヨボじいも攻略対象なんだよね。聞いた手前、他に移動するのも失礼かな。
「まぁ、先生もいらしてたのですね」
「滅多にない機会ですからな。立場を使ってチケットを押さえましたのじゃ。なんとか譲ってくれないかと生徒たちにしつこく頼まれましてのぅ」
かっかっか、と笑うヨボじい。
こんなことになるならわたしも自分で取っとけばよかったな。山田からのチケットじゃなければ、土壇場で誰かに譲るって手も取れたのに。
「抽選に当たったお嬢さんは運がいいようですな」
「ハナコ・モッリですわ、先生。わたくしは招待されて観に来た口ですので」
「なんと、お嬢さんがかの有名なハナコ嬢でしたか。だとすればもっと前の席で見てはいかがかな? その方が招待主もよろこぶじゃろうて」
有名って、一体どんなふうに?
まぁ、聞かなくってもだいたい予想はつくけどさ。ヨボじいの口ぶりだと、招待したのは山田だって気づいてそうだし。
「いえ、わたくしはここで十分ですわ。もう始まりそうですし、あまり目立ちたくはありませんの」
「かっかっか、それでは仕方がありませんな」
王子も前途多難じゃのう、なんてつぶやきが聞こえてきたけど。前途多難なのはこっちだっつーの。
学園でも外堀埋められてきてるみたいでオソロシすぎる。
今日もみんなの前で山田にロックオンされたら面倒だし。終わったら見つかる前にソッコーで帰ろうっと。感想は後日ケンタ通じて伝えるってことで。
開始のブザーが鳴って、照明が落とされた。ゆっくりと舞台の幕が開いていく。
よかった、何事もなく始まって! これで代役なんて悪夢が起こることもなくなった。
あとはキスイベントを見守るだけだし、もう楽勝って感じだよね。せっかくだから気楽に劇をたのしんじゃおうっと。
『むかしむかし、さむい真冬のことでした……』
冒頭部分はナレーションに影絵って感じで始まった。
この声はダンジュウロウだな。クソ真面目に童話を朗読してる絵面を想像すると、なかなかシュールで笑えるんですけど。
白雪姫を生んだお妃様が亡くなって、後妻のお妃様を迎えたところで影絵は終了。
一度暗転した舞台に、スポットライトが当てられた。背中を向けたお妃様が大きな鏡の前に立っている。
アレもダンジュウロウなんだよね。残念。女装をたのしみにしてたのに、背を向けたまま顔を見せないで乗り切るつもりみたい。
「鏡よ鏡、この国でいちばん美しいのは誰かをお言い」
『この国でいちばん美しいのは、お妃様、あなたです』
両腕を大きく広げて、鏡に問うダンジュウロウお妃様。声はユイナの吹き替えっぽい。
鏡の精は我らが健太。演出で鏡が魔力で輝くけど、ここは声だけの出演の模様。
嘘をつかない鏡に同じ質問をたずねては、返って来る答えに満足してたお妃様。それが白雪姫が成長するにつれて……。
「鏡よ鏡、この国でいちばん美しいのは誰かをお言い」
『この国でいちばん美しいのは、白雪姫です、お妃様』
舞台の端に別のスポットライトがぱっと当たった。そこには白雪姫のユイナがいて。
指にとまった小鳥と無邪気にたわむれる白雪姫。さすが腐ってもヒロインだな。観客席から感嘆のため息が漏れてるし。
白雪姫の美しさに嫉妬したお妃様。背中だけで妬み嫉みを表現してるダンジュウロウ、まさに迫真の演技って感じ。
そんな継母に命を狙われて、森の奥へと逃げた白雪姫は無事に小人の住処へ。
だいぶ端折ってるみたいだけど、人数限られてるからこんなもんか。
ここで小人に扮した三角帽子の健太が登場。コミカルな動きに会場が笑いに包まれて。
でも残りの小人六人を魔法で動かす様子に、みんな驚きで舞台にくぎ付けになってる。我が弟ながらスゴイって思っちゃう。
健太の百分の一でもいいから、わたしにも魔力があったらなぁ。そしたら箱ごとティッシュを引き寄せることだって、余裕でできたかもしれないのに。
それはさておき。
小人たちと面白おかしく暮らす白雪姫と、白雪姫がまだ生きていることを知るお妃様。
そんな場面が交互にライトアップされていく。舞台を半分に区切って、暗転した方の小道具を魔法で瞬時に移動させてるみたい。
照明の演出とか、森の動物たちだとか。これ全部山田が魔法で担当してるって話。
劇って言うより、もはやイリュージョンの世界だな。国内随一の優秀な魔力を、贅沢に無駄遣いしてるって言えなくもないけれど。
あの手この手で白雪姫の命を狙うお妃様。毒入りリンゴを渡すシーンは、フード付きマントを目深にかぶってて。
ダンジュウロウめ、どうあっても女装は拒否したんだな。なんだよ、もっとファンサービスしろって感じ。
そして毒リンゴをかじった白雪姫は仮死状態に。それを死んでしまったと勘違いした小人たち。白雪姫はガラスの棺に大切に寝かされて。
さて、いよいよ王子の登場だな。
通りがかった王子が白雪姫の美しさに目を奪われて、キスしたら白雪姫が目覚めるんだっけか?
ホントはグリム童話では棺を担いだ家来のひとりがけつまずいて、ノドからリンゴのかけらが飛び出すんだよね。
でも観客はやっぱりキスシーンを期待してるみたい。
お客さん、これからホンマモンのあっついラブちゅうが拝めまっせ。
って、頭ん中でエセ関西弁を披露してるうちに舞台袖からマサトが登場。
「こちらです、王子」
「うむ、案内ご苦労」
それだけでマサトは退場していった。
やだ、セリフ本当にそんだけなの!?
っていうか、村人A、別にいなくてもよかったんじゃ。
「おお、これはなんと美しい姫だろうか」
山田は山田でセリフが棒読みだし。ダンジュウロウたちの迫真の演技がいっぺんで台無しになっちゃったよ。
普段から王子してるから、衣装すら山田の普段着って感じでさ。
相変わらずの瓶底眼鏡には、みんな疑問を持ったりしないのかな? 言ってもあの人相の悪さを舞台で披露はできないだろうけど。
わたしの胸中をガン無視で、舞台はついにクライマックスへ。
「愛しい白雪姫。どうか目を覚まし、その瞳にわたしを映しておくれ」
ユイナが眠る棺をのぞき込む山田。その瓶底眼鏡がどんどんユイナの顔に近づいて。
観衆が固唾を飲んで見守る中、山田の動きがガキンッって感じで不自然に止まった。
なんだか見えない力に抗っているふうなんですけど。
お、いいぞ。キスのフリで済ますところを、ユイナが可愛すぎてマジキスしたくなってるんだな。
ビバ、ゲームの強制力!
そのままイベント通りにコトが運んでくれ!
ん? なんだか山田、思いっきり歯を食いしばってるぞ? しかも棺の枠を掴んでる腕が、ブルブル震えて青筋まで立ててるし。
キスしたいけど理性と戦ってるのかな?
変に無理したりしないで、遠慮なくユイナにキスしちゃえばいいのに。ほら、観客席もおかしな空気になってるよ?
「ハナコっ!!」
「は、ハイぃっ!」
突然山田に叫ばれて、思わず返事をしちゃってた。
ってか、なにが起きたのっ。いきなりわたしの席にスポットライトが当てられたんですけどっ。
「わたしはっ、ハナコ以外、認めない……っ!」
意味不明なセリフとともに、山田はガバっと身を起こした。その勢いで舞台を飛び降りて、迷いなくこっちに歩み寄って来る。
(ななななにっ、なんなの、やまだっ)
劇そっちのけの山田に、みんな唖然としてて。
わたしも驚きすぎて、椅子が倒れんばかりに立ち上がる。そのときにはもう目の前に山田がいた。
「ハナコ、わたしにはお前だけだ」
「え……?」
真剣な山田に戸惑うしかない。
どうしていいか分からなくて目を泳がせたとき。
山田に唇を奪われた。
一瞬何が起きたのかが分からなくって。
近すぎてぼやけて見える山田の顔。頬に当たる冷たいレンズ。
逃げられないよう、山田の手が後頭部を強く押さえこんでくる。
それだけじゃない。腰に回された腕も、押し付けられた唇も。
何もかもが乱暴で、こんな山田、わたし知らない。
「いや……っ!」
バチンと乾いた音が天井高い体育館に響いた。
山田は王子でわたしは公爵令嬢で。そんな置かれた立場とかぜんぶ真っ白になって、気づけばこの手で山田の顔を叩いてた。
「ハナコ……」
頬を押さえ呆然とたたずむ山田を置いて、わたしは外へ飛び出した。
山田が呼ぶ声とか観客のざわつきだとか。後ろから聞こえたけど、みんな無視して闇雲に走り続けた。
なんなの、なんなの、なんなの。
何も考えられない。どうしてあんな。そんな言葉と一緒に、山田にキスされた場面が何度も何度も頭ん中で繰り返される。
人のいない廊下の先、目の前にいきなり山田が転移魔法で現れた。
止まりたくっても急には無理で。ぶつかるようにその胸に飛び込んだ。
「違うんだ、ハナコ! これには訳があって……!」
「いやっやめて、離してっ!」
つかまれた腕を全力で振りほどく。山田から離れたくて、対峙したままあとずさった。
「これはいけませんのぅ」
誰かの手が肩に乗せられて、やさしく後ろに引き寄せられた。
振り向くとそこにいたのはヨボじいで。
「先生……」
「ここはわしにお任せなされ」
茶目っけたっぷりにウィンクされる。
上手く返事もできないまま、涙が頬を滑り落ちた。
わたしを後ろ手にかばうと、ヨボじいは山田に冷たい視線を向ける。
「シュン王子よ。王子は己の正義のためならば、他者を傷つけることをも良しとなさるのか」
厳しい声音に、山田が言葉を詰まらせてる。
青ざめてわたしの顔を見てきたけど、ヨボじいの後ろに隠れるようにしてさっと視線をそらしてしまった。
「王子は少し頭を冷やしなされ」
それだけ言い残し、ヨボじいは転移魔法でこの場からわたしを連れ去った。
チケットのない未希は入り口で待機中。
すでに中は薄暗くって、舞台裏からスモークが焚かれてる。さすが貴族の通う学園って感じだよね。無駄にお金がかかってるし。
座席はぜんぶ自由席で、前の方はほとんど埋まってた。
あ、後ろのあの席空いてるみたい。あそこなら目立たないし、出口にも近くてなかなかいいポジションそう。
「こちらのお席は空いていまして?」
「空いておりますゆえ、どうぞおかけくだされ。おや? あなたはいつぞやのお嬢さん」
げっ、何気なく声かけたら保健医のヨボじいだった!
存在自体忘れかけてたけど、ヨボじいも攻略対象なんだよね。聞いた手前、他に移動するのも失礼かな。
「まぁ、先生もいらしてたのですね」
「滅多にない機会ですからな。立場を使ってチケットを押さえましたのじゃ。なんとか譲ってくれないかと生徒たちにしつこく頼まれましてのぅ」
かっかっか、と笑うヨボじい。
こんなことになるならわたしも自分で取っとけばよかったな。山田からのチケットじゃなければ、土壇場で誰かに譲るって手も取れたのに。
「抽選に当たったお嬢さんは運がいいようですな」
「ハナコ・モッリですわ、先生。わたくしは招待されて観に来た口ですので」
「なんと、お嬢さんがかの有名なハナコ嬢でしたか。だとすればもっと前の席で見てはいかがかな? その方が招待主もよろこぶじゃろうて」
有名って、一体どんなふうに?
まぁ、聞かなくってもだいたい予想はつくけどさ。ヨボじいの口ぶりだと、招待したのは山田だって気づいてそうだし。
「いえ、わたくしはここで十分ですわ。もう始まりそうですし、あまり目立ちたくはありませんの」
「かっかっか、それでは仕方がありませんな」
王子も前途多難じゃのう、なんてつぶやきが聞こえてきたけど。前途多難なのはこっちだっつーの。
学園でも外堀埋められてきてるみたいでオソロシすぎる。
今日もみんなの前で山田にロックオンされたら面倒だし。終わったら見つかる前にソッコーで帰ろうっと。感想は後日ケンタ通じて伝えるってことで。
開始のブザーが鳴って、照明が落とされた。ゆっくりと舞台の幕が開いていく。
よかった、何事もなく始まって! これで代役なんて悪夢が起こることもなくなった。
あとはキスイベントを見守るだけだし、もう楽勝って感じだよね。せっかくだから気楽に劇をたのしんじゃおうっと。
『むかしむかし、さむい真冬のことでした……』
冒頭部分はナレーションに影絵って感じで始まった。
この声はダンジュウロウだな。クソ真面目に童話を朗読してる絵面を想像すると、なかなかシュールで笑えるんですけど。
白雪姫を生んだお妃様が亡くなって、後妻のお妃様を迎えたところで影絵は終了。
一度暗転した舞台に、スポットライトが当てられた。背中を向けたお妃様が大きな鏡の前に立っている。
アレもダンジュウロウなんだよね。残念。女装をたのしみにしてたのに、背を向けたまま顔を見せないで乗り切るつもりみたい。
「鏡よ鏡、この国でいちばん美しいのは誰かをお言い」
『この国でいちばん美しいのは、お妃様、あなたです』
両腕を大きく広げて、鏡に問うダンジュウロウお妃様。声はユイナの吹き替えっぽい。
鏡の精は我らが健太。演出で鏡が魔力で輝くけど、ここは声だけの出演の模様。
嘘をつかない鏡に同じ質問をたずねては、返って来る答えに満足してたお妃様。それが白雪姫が成長するにつれて……。
「鏡よ鏡、この国でいちばん美しいのは誰かをお言い」
『この国でいちばん美しいのは、白雪姫です、お妃様』
舞台の端に別のスポットライトがぱっと当たった。そこには白雪姫のユイナがいて。
指にとまった小鳥と無邪気にたわむれる白雪姫。さすが腐ってもヒロインだな。観客席から感嘆のため息が漏れてるし。
白雪姫の美しさに嫉妬したお妃様。背中だけで妬み嫉みを表現してるダンジュウロウ、まさに迫真の演技って感じ。
そんな継母に命を狙われて、森の奥へと逃げた白雪姫は無事に小人の住処へ。
だいぶ端折ってるみたいだけど、人数限られてるからこんなもんか。
ここで小人に扮した三角帽子の健太が登場。コミカルな動きに会場が笑いに包まれて。
でも残りの小人六人を魔法で動かす様子に、みんな驚きで舞台にくぎ付けになってる。我が弟ながらスゴイって思っちゃう。
健太の百分の一でもいいから、わたしにも魔力があったらなぁ。そしたら箱ごとティッシュを引き寄せることだって、余裕でできたかもしれないのに。
それはさておき。
小人たちと面白おかしく暮らす白雪姫と、白雪姫がまだ生きていることを知るお妃様。
そんな場面が交互にライトアップされていく。舞台を半分に区切って、暗転した方の小道具を魔法で瞬時に移動させてるみたい。
照明の演出とか、森の動物たちだとか。これ全部山田が魔法で担当してるって話。
劇って言うより、もはやイリュージョンの世界だな。国内随一の優秀な魔力を、贅沢に無駄遣いしてるって言えなくもないけれど。
あの手この手で白雪姫の命を狙うお妃様。毒入りリンゴを渡すシーンは、フード付きマントを目深にかぶってて。
ダンジュウロウめ、どうあっても女装は拒否したんだな。なんだよ、もっとファンサービスしろって感じ。
そして毒リンゴをかじった白雪姫は仮死状態に。それを死んでしまったと勘違いした小人たち。白雪姫はガラスの棺に大切に寝かされて。
さて、いよいよ王子の登場だな。
通りがかった王子が白雪姫の美しさに目を奪われて、キスしたら白雪姫が目覚めるんだっけか?
ホントはグリム童話では棺を担いだ家来のひとりがけつまずいて、ノドからリンゴのかけらが飛び出すんだよね。
でも観客はやっぱりキスシーンを期待してるみたい。
お客さん、これからホンマモンのあっついラブちゅうが拝めまっせ。
って、頭ん中でエセ関西弁を披露してるうちに舞台袖からマサトが登場。
「こちらです、王子」
「うむ、案内ご苦労」
それだけでマサトは退場していった。
やだ、セリフ本当にそんだけなの!?
っていうか、村人A、別にいなくてもよかったんじゃ。
「おお、これはなんと美しい姫だろうか」
山田は山田でセリフが棒読みだし。ダンジュウロウたちの迫真の演技がいっぺんで台無しになっちゃったよ。
普段から王子してるから、衣装すら山田の普段着って感じでさ。
相変わらずの瓶底眼鏡には、みんな疑問を持ったりしないのかな? 言ってもあの人相の悪さを舞台で披露はできないだろうけど。
わたしの胸中をガン無視で、舞台はついにクライマックスへ。
「愛しい白雪姫。どうか目を覚まし、その瞳にわたしを映しておくれ」
ユイナが眠る棺をのぞき込む山田。その瓶底眼鏡がどんどんユイナの顔に近づいて。
観衆が固唾を飲んで見守る中、山田の動きがガキンッって感じで不自然に止まった。
なんだか見えない力に抗っているふうなんですけど。
お、いいぞ。キスのフリで済ますところを、ユイナが可愛すぎてマジキスしたくなってるんだな。
ビバ、ゲームの強制力!
そのままイベント通りにコトが運んでくれ!
ん? なんだか山田、思いっきり歯を食いしばってるぞ? しかも棺の枠を掴んでる腕が、ブルブル震えて青筋まで立ててるし。
キスしたいけど理性と戦ってるのかな?
変に無理したりしないで、遠慮なくユイナにキスしちゃえばいいのに。ほら、観客席もおかしな空気になってるよ?
「ハナコっ!!」
「は、ハイぃっ!」
突然山田に叫ばれて、思わず返事をしちゃってた。
ってか、なにが起きたのっ。いきなりわたしの席にスポットライトが当てられたんですけどっ。
「わたしはっ、ハナコ以外、認めない……っ!」
意味不明なセリフとともに、山田はガバっと身を起こした。その勢いで舞台を飛び降りて、迷いなくこっちに歩み寄って来る。
(ななななにっ、なんなの、やまだっ)
劇そっちのけの山田に、みんな唖然としてて。
わたしも驚きすぎて、椅子が倒れんばかりに立ち上がる。そのときにはもう目の前に山田がいた。
「ハナコ、わたしにはお前だけだ」
「え……?」
真剣な山田に戸惑うしかない。
どうしていいか分からなくて目を泳がせたとき。
山田に唇を奪われた。
一瞬何が起きたのかが分からなくって。
近すぎてぼやけて見える山田の顔。頬に当たる冷たいレンズ。
逃げられないよう、山田の手が後頭部を強く押さえこんでくる。
それだけじゃない。腰に回された腕も、押し付けられた唇も。
何もかもが乱暴で、こんな山田、わたし知らない。
「いや……っ!」
バチンと乾いた音が天井高い体育館に響いた。
山田は王子でわたしは公爵令嬢で。そんな置かれた立場とかぜんぶ真っ白になって、気づけばこの手で山田の顔を叩いてた。
「ハナコ……」
頬を押さえ呆然とたたずむ山田を置いて、わたしは外へ飛び出した。
山田が呼ぶ声とか観客のざわつきだとか。後ろから聞こえたけど、みんな無視して闇雲に走り続けた。
なんなの、なんなの、なんなの。
何も考えられない。どうしてあんな。そんな言葉と一緒に、山田にキスされた場面が何度も何度も頭ん中で繰り返される。
人のいない廊下の先、目の前にいきなり山田が転移魔法で現れた。
止まりたくっても急には無理で。ぶつかるようにその胸に飛び込んだ。
「違うんだ、ハナコ! これには訳があって……!」
「いやっやめて、離してっ!」
つかまれた腕を全力で振りほどく。山田から離れたくて、対峙したままあとずさった。
「これはいけませんのぅ」
誰かの手が肩に乗せられて、やさしく後ろに引き寄せられた。
振り向くとそこにいたのはヨボじいで。
「先生……」
「ここはわしにお任せなされ」
茶目っけたっぷりにウィンクされる。
上手く返事もできないまま、涙が頬を滑り落ちた。
わたしを後ろ手にかばうと、ヨボじいは山田に冷たい視線を向ける。
「シュン王子よ。王子は己の正義のためならば、他者を傷つけることをも良しとなさるのか」
厳しい声音に、山田が言葉を詰まらせてる。
青ざめてわたしの顔を見てきたけど、ヨボじいの後ろに隠れるようにしてさっと視線をそらしてしまった。
「王子は少し頭を冷やしなされ」
それだけ言い残し、ヨボじいは転移魔法でこの場からわたしを連れ去った。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
モブ令嬢アレハンドリナの謀略
青杜六九
恋愛
転生モブ令嬢アレハンドリナは、王子セレドニオの婚約者ビビアナと、彼女をひそかに思う侯爵令息ルカのじれじれな恋を観察するのが日課だった。いつまで経っても決定打にかける二人に業を煮やし、セレドニオが男色家だと噂を流すべく、幼馴染の美少年イルデフォンソをけしかけたのだが……。
令嬢らしからぬ主人公が、乙女ゲームの傍観者を気取っていたところ、なぜか巻き込まれていくお話です。主人公の独白が主です。「悪役令嬢ビビアナの恋」と同じキャラクターが出てきますが、読んでいなくても全く問題はありません。あらすじはアレですが、BL要素はありません。
アレハンドリナ編のヤンデレの病み具合は弱めです。
イルデフォンソ編は腹黒です。病んでます。
2018.3.26 一旦完結しました。
2019.8.15 その後の話を執筆中ですが、別タイトルとするため、こちらは完結処理しました。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした
Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。
同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。
さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、
婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった……
とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。
それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、
婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく……
※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
に出てくる主人公の友人の話です。
そちらを読んでいなくても問題ありません。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる