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序章・執着と重い恋の始まりーヒーロー視点ー

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そうして始まったお嬢様の新学期。奴隷である私は屋敷にいることしかできず、寮暮らしのお嬢様に手紙でやりとりしながら帰りを待つ日々。

そんな日々に終わりを迎えたのは新学期からたった一ヶ月経った頃。まだ屋敷に帰ってくるには早すぎる時期に、お嬢様は顔を真っ青にして学園から馬車に乗って帰宅した。

「もう、学園に行きたくない……わかってたはずなのに……怖いの」

そう言ってお嬢様は部屋に閉じ籠るようになる。しかし、普段お嬢様を見向きもしないお嬢様の両親はこういうときに限ってお嬢様に近づくのだ。

「何をしている!高い金を払ってるんだ!さっさと学園に戻れ!」

「全く私たちに迷惑をかけないで!」

お嬢様が何故学園から逃げたのかを聞きもせず自分達の体裁しか考えない人たちには今考えても怒りでおかしくなりそうだ。

「お嬢様が怖がります!扉を叩かないでください!」

「貴様、あれが勝手に買った奴隷か、生意気な!」

「……っ」

お嬢様のためならと、立ちはだかるように扉の前に立てば、容赦なく叩かれる頬。しかし、それでもお嬢様を守りたいがためにせめてもと睨む。自分の娘をあれ呼ばわりし、お嬢様の気持ちを考えもしない人に従順になる気はこれっぽっちもなかった。

「その目は何よ!」

「あれもあれなら奴隷もろくなもんじゃないな!」

お嬢様から私に怒りが向いた瞬間、容赦なく振るわれる暴力。痛みはあれどこれでお嬢様に少しの間だけでも自分の時間を作ってあげられるならなんてことはなかった。

しかし、お嬢様はどこまでも優しくて………

「学園へ行きます。だから、ルシス様をいじめないでください」

「お、じょ……さま」

「奴隷に名前をつけるのは勝手だが、様をつけるな!そんなんだからあなどられるんだ」

「全く本当にだめな娘ね。恥ずかしいわ」

「申し訳ありません……」

私のせいでお嬢様をより辛い目に合わせてしまう結果となる。奴隷でしかない自分はそれをどうすることもできず、ただ痛みを耐えるだけ。今思ってもこの時の自分はあまりにも情けなかった。

守りたいものに守られる自分が。二人が去った後、自分謝罪するお嬢様を見て。

「ごめんね……痛かったでしょう?ごめんね」

「………」

何も言えなかった。何を言ってもお嬢様は謝る気がして。寧ろ謝りたかった私だが、きっと優しいお嬢様は私が謝れば罪悪感に苛まれる方だと理解しているばかりに何一つ言葉がでなかった。

それからまた学園へ通い始めたお嬢様からいくら手紙を送っても送り返されることはなくなった。
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