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序章・執着と重い恋の始まりーヒーロー視点ー
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そしてお嬢様の笑顔が戻った日からお嬢様はよくわからないことを言うようになった。
「ルシス様はね、本当は隣国の王子様なの」
「隣国ってあの大国ですか?」
まるで夢でも語るようなその話。大国の王子なら奴隷になっていないだろうに。そう思いながら流すように私はお嬢様の夢物語を話半分に聞いていた。
「そうよ。今は包帯で隠しているけど、その手の甲にある紋様はその証なの」
「そんな……これは生まれつきのただのアザですよ」
必ずアザを隠すようにお嬢様に言われたのは買われた日のこと。確かにアザにしては何かの模様のように思える綺麗さはあるが、それでもぱっと見はアザにしか見えない。
だからお嬢様は私がアザを気にしないよう夢物語を聞かせてくれているのだとばかり思っていた。それは後に本当のことだと知ることになるのだが……。
「本当はね、私がルシスに会わせなかったお客様はルシスの親だったの。大国の陛下と王妃様。ルシス様を奴隷にしてると知ってルシス様に酷い扱いをした私が殺されるはずだった日なのよ。あの日は」
「……それが本当ならあの日両親に会わなくてよかったと思います」
そんなことはありえないと思いつつもお嬢様が死ぬくらいなら、両親を知らないままお嬢様の奴隷でいたいと思えるくらいにはお嬢様を大事に想う自覚はその日もそうだったと自信を持って言えるほどにはあった。
「ルシス様は優しいわね」
「そんなことは……」
本心なのに。そう胸が締め付けられたのは、知らないからそう言えるのだとばかりにお嬢様が悲しく微笑むせい。
この時の私がお嬢様の話を信じきっていないことをお嬢様は理解していたのだろう。それでも、それを信じたとしてもきっと私の気持ちは変わらなかっただけに信じてもらえないことが悲しかった。
今思えば最初にお嬢様の未来予知を信じなかったのは自分だというのに。
それが本当と知った時お嬢様はこの世におらず、私の心にはまた後悔が増え蔓延る結果となるだけなのは当然のこと。信じていれば……お嬢様の運命を変えられたはずなのだから。
「私ね、婚約者に卒業式の日に処刑を言い渡されるの」
未来予知の中でも話されて一番信じなかったことが罪であったのはこの言葉だろう。自分の死について淡々と告げるお嬢様はそれこそ本の文を読み上げるようにして言ってのけた。そんなお嬢様の言う婚約者はこの国の第一王子であり、将来この国を治める方。その王子は奴隷の私にも優しい方だったため、その当時どの未来予知よりも信じられない気持ちだった。
それも、お嬢様が亡くなった後は誰よりも恨むべき対象になってしまった今では、王子がそんなことするはずがないと信じた自分が愚かだったと思うばかりだが。
「ルシス様はね、本当は隣国の王子様なの」
「隣国ってあの大国ですか?」
まるで夢でも語るようなその話。大国の王子なら奴隷になっていないだろうに。そう思いながら流すように私はお嬢様の夢物語を話半分に聞いていた。
「そうよ。今は包帯で隠しているけど、その手の甲にある紋様はその証なの」
「そんな……これは生まれつきのただのアザですよ」
必ずアザを隠すようにお嬢様に言われたのは買われた日のこと。確かにアザにしては何かの模様のように思える綺麗さはあるが、それでもぱっと見はアザにしか見えない。
だからお嬢様は私がアザを気にしないよう夢物語を聞かせてくれているのだとばかり思っていた。それは後に本当のことだと知ることになるのだが……。
「本当はね、私がルシスに会わせなかったお客様はルシスの親だったの。大国の陛下と王妃様。ルシス様を奴隷にしてると知ってルシス様に酷い扱いをした私が殺されるはずだった日なのよ。あの日は」
「……それが本当ならあの日両親に会わなくてよかったと思います」
そんなことはありえないと思いつつもお嬢様が死ぬくらいなら、両親を知らないままお嬢様の奴隷でいたいと思えるくらいにはお嬢様を大事に想う自覚はその日もそうだったと自信を持って言えるほどにはあった。
「ルシス様は優しいわね」
「そんなことは……」
本心なのに。そう胸が締め付けられたのは、知らないからそう言えるのだとばかりにお嬢様が悲しく微笑むせい。
この時の私がお嬢様の話を信じきっていないことをお嬢様は理解していたのだろう。それでも、それを信じたとしてもきっと私の気持ちは変わらなかっただけに信じてもらえないことが悲しかった。
今思えば最初にお嬢様の未来予知を信じなかったのは自分だというのに。
それが本当と知った時お嬢様はこの世におらず、私の心にはまた後悔が増え蔓延る結果となるだけなのは当然のこと。信じていれば……お嬢様の運命を変えられたはずなのだから。
「私ね、婚約者に卒業式の日に処刑を言い渡されるの」
未来予知の中でも話されて一番信じなかったことが罪であったのはこの言葉だろう。自分の死について淡々と告げるお嬢様はそれこそ本の文を読み上げるようにして言ってのけた。そんなお嬢様の言う婚約者はこの国の第一王子であり、将来この国を治める方。その王子は奴隷の私にも優しい方だったため、その当時どの未来予知よりも信じられない気持ちだった。
それも、お嬢様が亡くなった後は誰よりも恨むべき対象になってしまった今では、王子がそんなことするはずがないと信じた自分が愚かだったと思うばかりだが。
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