2 / 3
先生のご褒美
しおりを挟む
「これ……私の……」
「えっ?」
踵に小さく書いていた名前が誰かに黒ペンで塗りつぶされているが、よく見ると薄く写っている。
「……ありがとうございます、これ履きます。失礼しました」
「あ、樋口さん!」
走って逃げた。
吉村先生に知られたくない。
私が、上靴を捨てられたり、クラスの女子に無視されたり、あらぬ噂を立てられていること。
教室に着くと、私の席の近くで二人の女子がいた。
「……おはよう」
目が合ったから、一応挨拶はするが返っては来ない。
それどころか背を向けてクスクスと笑っているだけだ。
高校生にもなって、子供じみててバカみたい。
「キモ。おはようだって」
「桜月、行こっ」
女子二人のうちの一人は――昔、親友だと思っていた植田桜月。
私は桜月の好きだった相手に告白された。
もちろん断ったが、その瞬間、桜月は私を無視し始め、あることないこと吹聴して回り、見事に私を孤立させた。
生まれてこの方誰ともつきあったことのない私は、周りの話では経験豊富なゆるい女という人物になっているらしい。
行きたい大学があるから、高校は休めない。
卒業まであと少し。そう言い聞かせて過ごすしかなかった。
放課後は図書室で勉強する。
毎日、問題を解いてから帰るのが日課になっていた。
朝は早く来て、帰りは遅く帰る。
そんな毎日。
無事に置いてあったローファーに履き替え、校舎を出る。
すると、目の前に吉村先生がいた。
先生のその姿と表情が、朝と違うように映る。
私の心が変わっただけなのかもしれないが。
「ああ。樋口さん。今日はよく会うね」
「そうですね……先生は今、帰りですか?」
「そうだよ。暗くなってきたから気を付けて」
「はい。……先生、さようなら」
「さようなら」
特に深い意味もない、何てことのない挨拶だ。
しかし、誰とも会話をしない私にとっては、今日一日のご褒美をもらった気分だった。
「えっ?」
踵に小さく書いていた名前が誰かに黒ペンで塗りつぶされているが、よく見ると薄く写っている。
「……ありがとうございます、これ履きます。失礼しました」
「あ、樋口さん!」
走って逃げた。
吉村先生に知られたくない。
私が、上靴を捨てられたり、クラスの女子に無視されたり、あらぬ噂を立てられていること。
教室に着くと、私の席の近くで二人の女子がいた。
「……おはよう」
目が合ったから、一応挨拶はするが返っては来ない。
それどころか背を向けてクスクスと笑っているだけだ。
高校生にもなって、子供じみててバカみたい。
「キモ。おはようだって」
「桜月、行こっ」
女子二人のうちの一人は――昔、親友だと思っていた植田桜月。
私は桜月の好きだった相手に告白された。
もちろん断ったが、その瞬間、桜月は私を無視し始め、あることないこと吹聴して回り、見事に私を孤立させた。
生まれてこの方誰ともつきあったことのない私は、周りの話では経験豊富なゆるい女という人物になっているらしい。
行きたい大学があるから、高校は休めない。
卒業まであと少し。そう言い聞かせて過ごすしかなかった。
放課後は図書室で勉強する。
毎日、問題を解いてから帰るのが日課になっていた。
朝は早く来て、帰りは遅く帰る。
そんな毎日。
無事に置いてあったローファーに履き替え、校舎を出る。
すると、目の前に吉村先生がいた。
先生のその姿と表情が、朝と違うように映る。
私の心が変わっただけなのかもしれないが。
「ああ。樋口さん。今日はよく会うね」
「そうですね……先生は今、帰りですか?」
「そうだよ。暗くなってきたから気を付けて」
「はい。……先生、さようなら」
「さようなら」
特に深い意味もない、何てことのない挨拶だ。
しかし、誰とも会話をしない私にとっては、今日一日のご褒美をもらった気分だった。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる