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なくした上靴
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「………。」
下駄箱に上靴がない。
これで二回目だ。
これが嫌でできるだけ早めに登校していたのにな。
溜息をついて扉を閉めると、裏側からくすくすと笑い声が聞こえて、走り去る音がした。
大方、犯人の見当はついているが、真正面からぶつかったところで話は通じず、ますます笑いものにされるだけだ。
樋口麻帆。高校3年生。
親友だと思っていた子とは、とある事情で絶縁状態が続いている。
「失礼しまーす……」
私は、とりあえずスリッパを貸してもらおうと職員室に行った。
辺りを見回すが誰もいない。やっぱり時間が早すぎたようだ。
職員用の下足室には来客用スリッパがあるのを知っている。私は独断で借りることにした。
しばらく靴下でうろうろしていたせいで、紺色ハイソックスの裏が真っ白だ。
パンパンと払ってから、小豆色のスリッパをはいた時、誰かがやってきた。
「びっくりした。どうしたの樋口さん、こんなとこで」
生物の吉村先生だった。
若いけど目立たなくて、生徒との関わりも希薄で、今時の事なかれ主義という印象。
「上靴を持ってくるの忘れたのでスリッパ借りようと思ったんです」
「平日なのに持って帰ったの?」
うっ。なかなか鋭い返し。
「……はい。持って帰りました……」
吉村先生は納得していないような顔で私を見ている。
それがさらに焦りを呼び、ぺらぺら言い訳してしまう。
「購買で新しいの買ってもいいんですけど、まだ開いてないし、今日はお金も持ってないから買えなくて」
「サイズは?」
「22.5です」
「予備置いてたんじゃないかな、どこかに。ちょっとついてきてくれる?」
「はい……」
吉村先生は少し前を歩き出す。
私は小豆色のスリッパをパタパタ鳴らしながら追いかけた。
吉村先生が、私のことを認識していることも意外だった。
けして生徒数は少なくないのに。
「あったあった。22.5cm。遺失物だけど半年ぐらいここにあるから、今日はこれ履いたら?」
「…………」
吉村先生が職員室の棚から出してくれたのは、前回取られた私の上靴だった。
下駄箱に上靴がない。
これで二回目だ。
これが嫌でできるだけ早めに登校していたのにな。
溜息をついて扉を閉めると、裏側からくすくすと笑い声が聞こえて、走り去る音がした。
大方、犯人の見当はついているが、真正面からぶつかったところで話は通じず、ますます笑いものにされるだけだ。
樋口麻帆。高校3年生。
親友だと思っていた子とは、とある事情で絶縁状態が続いている。
「失礼しまーす……」
私は、とりあえずスリッパを貸してもらおうと職員室に行った。
辺りを見回すが誰もいない。やっぱり時間が早すぎたようだ。
職員用の下足室には来客用スリッパがあるのを知っている。私は独断で借りることにした。
しばらく靴下でうろうろしていたせいで、紺色ハイソックスの裏が真っ白だ。
パンパンと払ってから、小豆色のスリッパをはいた時、誰かがやってきた。
「びっくりした。どうしたの樋口さん、こんなとこで」
生物の吉村先生だった。
若いけど目立たなくて、生徒との関わりも希薄で、今時の事なかれ主義という印象。
「上靴を持ってくるの忘れたのでスリッパ借りようと思ったんです」
「平日なのに持って帰ったの?」
うっ。なかなか鋭い返し。
「……はい。持って帰りました……」
吉村先生は納得していないような顔で私を見ている。
それがさらに焦りを呼び、ぺらぺら言い訳してしまう。
「購買で新しいの買ってもいいんですけど、まだ開いてないし、今日はお金も持ってないから買えなくて」
「サイズは?」
「22.5です」
「予備置いてたんじゃないかな、どこかに。ちょっとついてきてくれる?」
「はい……」
吉村先生は少し前を歩き出す。
私は小豆色のスリッパをパタパタ鳴らしながら追いかけた。
吉村先生が、私のことを認識していることも意外だった。
けして生徒数は少なくないのに。
「あったあった。22.5cm。遺失物だけど半年ぐらいここにあるから、今日はこれ履いたら?」
「…………」
吉村先生が職員室の棚から出してくれたのは、前回取られた私の上靴だった。
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