病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

文字の大きさ
23 / 71

【本物って誰のこと?】その4

しおりを挟む
  カキコカキコカキコ・・・・・・。
 私は今、使い慣れないペンを使い、とても立派な机の上でお手紙を日本語で書いている。
 西の聖女・・・もとい、ノエミちゃんへのご挨拶の手紙を正式にこちらの国の言葉で書いてから、そのままの言葉を翻訳してノエミちゃん用に書いているのである。
 目の前にいる“聖女の世話係”は、上品な灰色の髪をオールバックにキメ、がっしりとした黒縁メガネで、私の手元をじっとりと見つめている。
「余計な事は書いていませんよね?」
「はい、ちゃんと余所行よそいき用に丁寧な言葉で書いていますよ」
 嘘である。
「・・・ちゃんとノエミ様に何て書いてあるか、1字1句聞きますからね?」
「済みません、書き直します」
 カキコカキコカキコ・・・・・・。
 ソラルさま警備突破事件から一夜が明けた。
 (侵入した賊って・・・ソラルさまの事なんだろうか? それとも別の侵入者?)
 賊が侵入したと言う情報は世話係全員に通達されていたが、ベランダでの出来事は誰にも話してはいない。
 当たり前だ、あんな事は口が裂けても、言えない。
 でも、頭の片隅に何かが引っかかっていた。
 (う~ん・・・なんか大事な事を忘れているような?)
「ヒロコ、実は急で申し訳ないのですが・・・今日この後、謁見えっけんが入っていまして・・・」
「え? 謁見? 陛下もまだなのに部外者に会っていいの?」
「ヒロコは立場上、謁見される側なのですが・・・部外者ではなく・・・正式に、その・・・本来はきちんとご挨拶をしなければならなかったのですが・・・色々あったもので」
「部外者じゃない? 本来はきちんと挨拶が必要な相手?」

 西側の聖女(見習い)ノエミちゃん宛の挨拶の手紙・・・まだ、ミリアンの正体が聖女ヒロコだって言っていないのだ。
 マテオ様に正式に「ノエミちゃんと聖女として会いたいな? いいかな?」と言うお伺いと、「ちゃんとした戦闘訓練をソラルさまの近くで習いたいな!」と言う希望(願望)書である。
 ちなみにこの訓練の希望書は後出しだ。
 既に騎士の訓練の横っちょで見学まがいな事はしていた。
 立場上 、ちゃんとこーゆー事しないと、みんなに迷惑かけちゃうしな。
 ナトンが「僕が教えるって言ったじゃん!」と、ねかねないのだ。
 ついでに、トリュフチョコレートを自分で(大量に)作りたいから、厨房の使用許可と材料の取り寄せの依頼書を書いて、誰かが勝手に手紙を開けられないように、クレーに封をしてもらった。
 (へい、ひと仕事終わったよ! 今日のお昼ご飯は何かな?)
 昨晩はひと騒動あったので、遅めのお目覚め・・・朝食と昼食は一緒に、と言う感じでセッティングしてもらった。

 クレーが私の手紙をマテオGの宰相室に届ける為、ナトンと一緒に出てしまっていた。
 ナトンは体術が得意で、とっても頼りになるボディーガードなのだ!
 ・・・んで、お昼ご飯の給仕は誰がやるのかというと・・・イスマエルである。
 食事を乗せたカートを押して、座っている私に前掛けのナプキンを首に巻いて、目の前に懇切丁寧に食器を並べ、さっと食前に常温のマリーゴルドのお茶を出し、前菜のキャベツのおひたしを出した。
 以外に合う組み合わせだった。
 (うんうん、私が食べ過ぎないように気を使ってくれているのだなあ・・・)
 もぐもぐもぐもぐ。
 このキャベツは柔らかくて新鮮で、高級感があった・・・深夜のスーパーで見切り品を買い漁る派遣時代が、なんだか悲しい思い出になってしまった。
 ちなみに、冷蔵庫が食料で満タンになった事など一度もない。
「確か私の死亡保険なら教育ローンを完済してもお釣りが出るはず・・・」
「ん? どうしたヒロコ?」
 しゃもじを持ったイスマエルが、皿に白米をよそいながら私の方を見た。
「あ、ごめん、ちょっと独り言・・・」
「そうか」
 実は私は二重の教育ローンを組んでしまっていた。
 大学はワケあって一年で中退、その後、専門学校で経済学を学んだ。
 故に、教育ローン貧乏である・・・しくしく(涙)。
「金利が4%と6%じゃ辛いよなぁ・・・でも電車止めちゃったし・・・」
(賠償金とかあるのかなぁ?)
「どうした、ヒロコ? 悩み事か?」
「うん、お金の悩み事」
 カシャーン・・・
 金属製のしゃもじが落ちた――――。
 (ここはしゃもじもオサレっぽいな)
 お皿を持ったままイスマエルが固まっている。
 「イスマエルは白い割烹着も似合いそうだなぁ」などと睡眠不足の私は、ぼうっとしながら考えていた。
 直ぐにイスマエルは拾ったしゃもじを水魔法を使って空中で洗浄し、気を取り直して食事の支度を進めた。
 どこからともなく現れた水は、どこからともなく消えていった。
 マジシャンみたいにキレイな魔法を使う・・・と、私は感嘆の溜め息をこぼした。
「済まないヒロコ・・・食事が質素だったか・・・」
「ううん、ぜんぜん! 毎日おいしいごはんありがとう! 調理師さんにも今度ご挨拶したいな?」
「そうか・・・」
 (なんだかイスマエルが涙目になっているよ? どうしたイスマエルの兄貴!?)
 今日のお昼ご飯は、キャベツのおひたし・白米・和風スープ・魚のソテーだった。
 この国で手に持つ茶碗などは、下級の庶民しか使わないそうなので、却下された。
 とりあえず、立派なお箸は作って貰ったのだが・・・作法の勉強の為、あまり使わせてもらえないのだ。
 今日は特別にお許しがもらえた。
 もぐもぐもぐもぐ・・・美味しい食事に思わず笑みがこぼれまくる私であった。
「やはり・・・幼いなヒロコは・・・」
「そお?」
 もぐもぐもぐもぐ・・・。
「そんな質素な食事を美味しそうに、頬張って・・・」
「質素じゃないよ? 誰かが自分の為にこんなに美味しいごはんを作ってくれるなんて、奇跡だよ?」
「なんと純粋な・・・」
 この貴族様感覚は、どうも馴染めない。
 (こいつ根っからの坊ちゃんだな)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

処理中です...