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本編

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白魔法を使っているせいで、半分くらいまで回復した魔力が凄い勢いで減って行っている。

「ラインハルト!」

俺のすぐ隣で血を吐きながら崩れている彼を見て、ヴェインさんが青ざめた顔で近寄って来た。

「トオル、大丈夫か!?」

後ろからアレンの声が聞こえる。
しかし、魔法を使うのに必死で応える余裕は無かった。

全力で魔力を注ぎ混んでも指輪は、黒い靄を出しながら俺の魔法に拮抗してくる。

「くっ…。」
もっと、もっと力を込めるんだ。

不意に後ろから抱きしめられた。
驚く俺を、大好きな人の香りが包み込む。

「トオルは、魔法の制御に集中しろ。
少しでも魔力を渡す…。」

アレンが触れた場所から、暖かい力が流れ込んできた。


「アレン…ラインハルトは?アイリーンちゃんは?」
彼の方を見ずに話しかける。

「ラインハルトは、ヴェインが見ている。
アイリーンは、ヒューガが…。」

彼の言葉をアイリーンちゃんの呻き声が遮った。

「う゛ぅ……い…たい……くる…し……。」

「これは!?」
彼女の呻き声の後にヒューガさんの困惑した声がした。

アレンがくれた魔力のお陰で力の拮抗が崩れ、禍々しい力を押し返し始めた時、異変は起こった。

「ヒューガ、何が起きてる!?」
アレンの声が響く。

「くっ…。穢れを纏い過ぎたんだ…。
このままでは、彼女の身体が魔物化する…。」

アイリーンちゃんが魔物に?

先程、襲いかかってきた化け物を思い出す。

まさか、彼女もあんな風に…?

「ヒューガ!なんとかしろ!」

「今やってる!だが、俺の力では……。」
ヒューガさんの悔しそうな声が響いた…。
そんな…。

視界の端で、彼女の身に纏う禍々しい気配がどんどん大きくなって行くのがわかった。

溢れ出した靄は、彼女の身を包み込み少しずつ異形の姿へと変えていく。

「くそっ…。カイル、ライリー!グレイブの所に行ってレオンと言う男を連れてこい!
何をしてでも起こして連れてくるんだ!」

俺を殺そうとしていた化け物達を全て倒した所だった2人に向かって、アレンが叫ぶ。

突然呼びかけられた2人は状況を理解出来ずに固まるが、アレンの焦り様からただ事では無いと感じとったカイルくんは、

「直ぐに連れてきます!」


と叫び返し、ライリーくんを引っ張りながら鍛錬場を飛び出していく。

「ヴェイン…薬をくれ…。」
ラインハルトの弱々しい声が隣から聞こえた。

「だが…そんな状態で薬を飲んだら…。」
ヴェインさんが泣きそうな声で返す。

「頼む……。」

ラインハルトの懇願に彼は渋々薬を差し出した。

「ありがとう…。」
ラインハルトは、ヴェインさんから薬を受け取ると直ぐに飲み干した。

苦しそうな顔で立ち上がり、ヒューガさんとアイリーンちゃんの元へと歩き出す。


「アイリーン…。すまなかった。
俺が…俺の覚悟が足らなかったばかりに…。こんな姿に…。」


彼は肩で息をしながら、カバンから更にヴェインさんの薬を2本取り出した。

「!?ラインハルト一体何を?」
彼の行動に驚きながら止めようとするヴェインさんをラインハルトが抱き締める。

「ヴェイン、すまない…。愛してる。」
彼は、ヴェインさんを抱き締めたまま魔法を詠唱しそれをヴェインさんに放った。

ラインハルトがよく使う風の拘束魔法だった。
ヴェインさんは、その場に見えない鎖に寄って繋ぎ止められる。

「ラインハルト、何を!?」

魔法の天才であるヴェインさんからしたらそんな拘束を外すのは数秒あれば十分だった。

しかし、それはラインハルトにとっても同じだった様だった。

ヴェインさんが魔法を打ち消しラインハルトの方へ意識を向けた時には既に、2本の薬を飲み干しながらアイリーンちゃんの元にたどり着く。

苦しむ妹を見ながらラインハルトが呟く。

「アイリーン…。
苦しかったよな…。
大丈夫…お前の時間は俺が貰うから…。」



彼のしようとしている事まではわからなかった。

でも、あんな身体で時間の魔法を使おうとしているのだけはわかる。
彼の魔法の代償は、自分の寿命だ。
俺が知っているだけでも、もう既に3回も魔法を使っている。

前に、生き物を対象にすると消費が激しいと言っていた。
このままじゃラインハルトが…。

「アレン!ラインハルトを止めて!
あんな身体で固有魔法を使ったら…。」

アレンに伝えた時には既にラインハルトの詠唱が始まっていた。

「永遠に流れる時よ。
絶え間なく刻む時計の針よ…。」
彼とアイリーンちゃんの元に魔法陣が現れる。

「ラインハルト?何を?」
近くで様子を見ていたヒューガさんが怪訝そうに彼に聞く。

「ヒューガ、後は頼む…。」
ラインハルトは、詠唱を一旦止めてヒューガさんにそれだけ呟くと詠唱を再開した。

「回れ回れ…この世の理を巻き戻せ。
〖時間回帰〗」

時を刻んでいた長針が逆回転に回り出して行く。

その針が回る度にアイリーンちゃんの変異した身体が時間を巻き戻したかのように元に戻って行き、彼女の周りにまとわりついていた黒い靄も綺麗に無くなった。

そして彼女の身体から、代わりに無数の泡が湧き出してくる。

その一つ一つにラインハルト達の下の魔法陣と同じ模様が浮かび上がっていた。

「グハッ……。」
ラインハルトが再び血を吐きながら片膝をつく。

ヴェインさんが彼の元に寄る。
「ラインハルト!大丈夫か!?
アイリーンは、もう無事だ。
早く魔法を解け!」

「ヴェ…イン…まだだ…。」 
ラインハルトか駆け寄って行くヴェインさんを弱々しい声で止めた。

「過ぎた時間を戻すにはその時間をだれかが受け入れないといけない…。」

彼は、アイリーンちゃんから湧き出した泡に手をかざす。


「!?ラインハルト、まさか…。
やめろ!」


ヴェインさんが息を呑む。

ヴェインさんの言葉を無視してラインハルトは自分に向かって流れてくる時の阿波に身を任せた。

少しずつ、ラインハルトの身体に泡が入って行った。
泡が入るたびに彼の周りに黒い靄がまとわりついていく。


「ぐっ…グハッ……。」

ラインハルトは、その身を穢れに犯されながらも必死に耐えていた。
苦しいのか呻き声をあげている。

彼の周りの黒い靄がラインハルトの身体に収束していく。

靄は、ラインハルトの身体を蝕み、彼の身体を異形の姿へと変えていった。

角が生え、翼が生えていく。
皮膚は、黒ずんで行った。


彼が苦しみに耐えれず、獣の様な咆哮をあげた。

「ラ、ラインハルト……。
そ、そんな…嘘だろ?」

ヴェインさんは、ラインハルトの変わりようを見て絶望したように膝から崩れ落ちた。



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