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本編
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アレンが旅立ってから1週間が経った。
最初の2~3日は、声の魔法が届いて居た為、彼の状況を知ることが出来た。
しかし、4日目からついに声の魔法が届かなくなり様子が分からなくなってしまった。
「はぁ…アレン大丈夫かな?」
夕食の準備をしながら、ついついため息をついて独り言が出てしまう。
「あっ!トオルさん!
僕たちの仕事まで取らないでくださいよ!」
ちょうど休憩に出ていたリオルくん達が戻ってきたみたいだ。
リオルくんは、俺を見るやいなや頬を膨らませながら詰め寄ってきた。
「3人ともおかえり!」
「おかえりじゃないですよ!
アレン様が出発されてからトオルさん働き過ぎです!」
頬を膨らませながらプンプン怒っているリオルくんの姿がカイルくんに重なりちょっとだけにやけてしまう。
血が繋がってなくてもちゃんと兄弟なんだなぁ…。
ちゃんと聞いてない事が気に触ったのかリオルくんが更に怒り出してしまう。
「コルムさんとカベロさんも、トオルさんになんとか言ってくださいよ!」
リオルくんが後ろから入ってきた2人に援護を頼む。
「確かにトオルさんちょっと働き過ぎですよ?なぁ、カベロ?」
「そうだな。俺たちそんなに頼りないのかってちょっと凹むくらい働き過ぎですよ?」
コルムくんとカベロくんにもそんなことを言われてしまった…。
「いや、そんなことないよ?3人とも凄く仕事早いし、凄く頼りにしてるって!
ただ、ちょっと身体を動かしてないといろいろ考えちゃってさ……。」
料理をしてないとずっとアレンのことばっかり考えてしまうのだ。
俺の言葉に3人はちょっとだけ困ったような顔を見せる。
「アレン様が心配なのは分かりますけど流石に働き過ぎですよ?
カイルだって心配してましたよ?」
リオルくんの言葉にハッとする。
「そういえば、カイルくんどうだった?
様子見に行くって言ってたでしょ?」
カイルくんは試験で受けた怪我の為しばらく療養中だ。
アレンが出発した次の日にカイルくんは王宮から帰ってきた。
骨が何本か折れていたらしく歩くのも辛そうだった。
急いで白魔法を使おうとしたけど、カイルくん自身に止められてしまった。
「この怪我は、僕の鍛錬不足の結果なので戒めの為に自分で治させてください。」
そう言っていたカイルくんは、試験に行く前よりも勇ましい顔つきをしていた。
「それに、まだ確定した訳じゃないんですけどトオルさんはアレン様が戻るまで魔法を使わない方がいい気がします。」
意味は理解出来なかったが、カイルくんが真剣な顔で言うから何も言えなかった。
理由を聞きたかったが、彼はそのままぐったりとしてしまったから、ラインハルトが急いで部屋に送り届けたのだ。
今は騎士団の治療師の治療を受けながら療養しているのである。
「カイルならだいぶ元気になりましたよ。
さっきも部屋から勝手に抜け出して訓練に参加しようとしてたみたいでヴェイン様に怒られてました…。
次、抜け出そうとしたらラインハルト様を見張りに付かせるって言われて渋々大人しくベッドに戻りましたけど…。」
その時の様子を思い出したのかリオルくんが苦笑いを浮かべている。
いくら魔法がある世界って言っても治療魔法は対象の自然治癒力を上げるだけって聞いたし、折れた骨が3~4日でくっつくわけないもんなぁ…。
でも…。
「俺だったら多分すぐ治せるんだけどなぁ…。」
自分の掌を見つめながら誰に言うでもなく呟いた。
「その事でも、ヴェインが話があるらしいぞ。」
いつの間にか厨房に来ていたラインハルトに突然声をかけられて声にならない悲鳴をあげた。
「ラ、ラインハルト!
だから、気配を消して突然現れるのやめろって!」
「いや、今のは気配消してないし、3人が俺に挨拶したのすら気づいてなかったお前が悪いだろ?」
ラインハルトが苦笑いしながら答える。
「え?嘘?」
3人を見ると生暖かい目をしながら無言で頷いていた。
「ん?さっき、その話でもって言った?
つまり他にもヴェインが話があるってこと?」
アレンから何か頼りが来たんだろうか?
ちょっとだけソワソワしながらラインハルトに聞く。
「あー、残念ながらアレンから連絡がきたって話じゃないぞ?」
ラインハルトがちょっと申し訳無さそうに答える。
なんだ……。
ちょっとガッカリしながら中断していた作業を再開しながらラインハルトの話の続きを促そうとすると、リオルくんが肩を掴んでニッコリと笑いかけてきた。
な、なんだろう…。
顔は笑ってるのに目が笑ってない……?
後ろからゴゴゴゴッと言うバトル漫画のような効果音すら聞こえる気がする。
冷や汗を流しながら恐る恐る口を開く。
「あ、あの、リオルさん?ど、どうしたんでしょうか…?」
彼は更にニッコリ笑いながら
「先程、ヴェイン様にお会いした時にトオルさんのお話を少しさせて貰いました。」
え?……つまり?
首を錆びたロボットの様にギギギギッとラインハルトの方に向ける。
ラインハルトは、とてもいい笑顔で
「今からちょっとヴェインに怒られてこい!」
とサムズアップ付きの死刑宣告をしてきた。
やばい、ヴェインさんの説教なんて怖すぎる……。
に、逃げよう……。
そうしよう。
アレンがいる時ならまだ庇って貰えるけど今は俺の愛しい人は遠い異国だ。
逃げようと決めて即走り出す。
元陸上部の意地を見せてやる!
厨房から飛び出した瞬間に後ろから声がかかった。
「トオル、バカだなぁ…。
俺からトオルが逃げられるわけないだろ?」
次の瞬間にはラインハルトが目の前に現れ、見えない何かで俺を縛りあげ拘束した。
「お、お前、魔法は狡いだろ!」
しかも、今絶対に時間操作とか使ったじゃん!
瞬間移動だったじゃん!
「さぁ、キビキビあるけー!
俺も一緒に怒られてやるから。」
ラインハルトは、俺の言葉を無視して拘束した俺を引っ張りながらヴェインさんのいる執務室まで歩き始める。
リオルくん達に助けを求めてみる。
「トオルさん、途中の作業は任せて安心して怒られて来てくださいね!」
「むしろ、そのまま今日は仕事終わりにしてゆっくり休んでください!」
「ヴェイン様のお説教なんてちょっと羨ましいです!」
ちょっと待って、コルムくんだけちょっと反応可笑しくない?
こうして厨房から送り出されてしまった。
最初の2~3日は、声の魔法が届いて居た為、彼の状況を知ることが出来た。
しかし、4日目からついに声の魔法が届かなくなり様子が分からなくなってしまった。
「はぁ…アレン大丈夫かな?」
夕食の準備をしながら、ついついため息をついて独り言が出てしまう。
「あっ!トオルさん!
僕たちの仕事まで取らないでくださいよ!」
ちょうど休憩に出ていたリオルくん達が戻ってきたみたいだ。
リオルくんは、俺を見るやいなや頬を膨らませながら詰め寄ってきた。
「3人ともおかえり!」
「おかえりじゃないですよ!
アレン様が出発されてからトオルさん働き過ぎです!」
頬を膨らませながらプンプン怒っているリオルくんの姿がカイルくんに重なりちょっとだけにやけてしまう。
血が繋がってなくてもちゃんと兄弟なんだなぁ…。
ちゃんと聞いてない事が気に触ったのかリオルくんが更に怒り出してしまう。
「コルムさんとカベロさんも、トオルさんになんとか言ってくださいよ!」
リオルくんが後ろから入ってきた2人に援護を頼む。
「確かにトオルさんちょっと働き過ぎですよ?なぁ、カベロ?」
「そうだな。俺たちそんなに頼りないのかってちょっと凹むくらい働き過ぎですよ?」
コルムくんとカベロくんにもそんなことを言われてしまった…。
「いや、そんなことないよ?3人とも凄く仕事早いし、凄く頼りにしてるって!
ただ、ちょっと身体を動かしてないといろいろ考えちゃってさ……。」
料理をしてないとずっとアレンのことばっかり考えてしまうのだ。
俺の言葉に3人はちょっとだけ困ったような顔を見せる。
「アレン様が心配なのは分かりますけど流石に働き過ぎですよ?
カイルだって心配してましたよ?」
リオルくんの言葉にハッとする。
「そういえば、カイルくんどうだった?
様子見に行くって言ってたでしょ?」
カイルくんは試験で受けた怪我の為しばらく療養中だ。
アレンが出発した次の日にカイルくんは王宮から帰ってきた。
骨が何本か折れていたらしく歩くのも辛そうだった。
急いで白魔法を使おうとしたけど、カイルくん自身に止められてしまった。
「この怪我は、僕の鍛錬不足の結果なので戒めの為に自分で治させてください。」
そう言っていたカイルくんは、試験に行く前よりも勇ましい顔つきをしていた。
「それに、まだ確定した訳じゃないんですけどトオルさんはアレン様が戻るまで魔法を使わない方がいい気がします。」
意味は理解出来なかったが、カイルくんが真剣な顔で言うから何も言えなかった。
理由を聞きたかったが、彼はそのままぐったりとしてしまったから、ラインハルトが急いで部屋に送り届けたのだ。
今は騎士団の治療師の治療を受けながら療養しているのである。
「カイルならだいぶ元気になりましたよ。
さっきも部屋から勝手に抜け出して訓練に参加しようとしてたみたいでヴェイン様に怒られてました…。
次、抜け出そうとしたらラインハルト様を見張りに付かせるって言われて渋々大人しくベッドに戻りましたけど…。」
その時の様子を思い出したのかリオルくんが苦笑いを浮かべている。
いくら魔法がある世界って言っても治療魔法は対象の自然治癒力を上げるだけって聞いたし、折れた骨が3~4日でくっつくわけないもんなぁ…。
でも…。
「俺だったら多分すぐ治せるんだけどなぁ…。」
自分の掌を見つめながら誰に言うでもなく呟いた。
「その事でも、ヴェインが話があるらしいぞ。」
いつの間にか厨房に来ていたラインハルトに突然声をかけられて声にならない悲鳴をあげた。
「ラ、ラインハルト!
だから、気配を消して突然現れるのやめろって!」
「いや、今のは気配消してないし、3人が俺に挨拶したのすら気づいてなかったお前が悪いだろ?」
ラインハルトが苦笑いしながら答える。
「え?嘘?」
3人を見ると生暖かい目をしながら無言で頷いていた。
「ん?さっき、その話でもって言った?
つまり他にもヴェインが話があるってこと?」
アレンから何か頼りが来たんだろうか?
ちょっとだけソワソワしながらラインハルトに聞く。
「あー、残念ながらアレンから連絡がきたって話じゃないぞ?」
ラインハルトがちょっと申し訳無さそうに答える。
なんだ……。
ちょっとガッカリしながら中断していた作業を再開しながらラインハルトの話の続きを促そうとすると、リオルくんが肩を掴んでニッコリと笑いかけてきた。
な、なんだろう…。
顔は笑ってるのに目が笑ってない……?
後ろからゴゴゴゴッと言うバトル漫画のような効果音すら聞こえる気がする。
冷や汗を流しながら恐る恐る口を開く。
「あ、あの、リオルさん?ど、どうしたんでしょうか…?」
彼は更にニッコリ笑いながら
「先程、ヴェイン様にお会いした時にトオルさんのお話を少しさせて貰いました。」
え?……つまり?
首を錆びたロボットの様にギギギギッとラインハルトの方に向ける。
ラインハルトは、とてもいい笑顔で
「今からちょっとヴェインに怒られてこい!」
とサムズアップ付きの死刑宣告をしてきた。
やばい、ヴェインさんの説教なんて怖すぎる……。
に、逃げよう……。
そうしよう。
アレンがいる時ならまだ庇って貰えるけど今は俺の愛しい人は遠い異国だ。
逃げようと決めて即走り出す。
元陸上部の意地を見せてやる!
厨房から飛び出した瞬間に後ろから声がかかった。
「トオル、バカだなぁ…。
俺からトオルが逃げられるわけないだろ?」
次の瞬間にはラインハルトが目の前に現れ、見えない何かで俺を縛りあげ拘束した。
「お、お前、魔法は狡いだろ!」
しかも、今絶対に時間操作とか使ったじゃん!
瞬間移動だったじゃん!
「さぁ、キビキビあるけー!
俺も一緒に怒られてやるから。」
ラインハルトは、俺の言葉を無視して拘束した俺を引っ張りながらヴェインさんのいる執務室まで歩き始める。
リオルくん達に助けを求めてみる。
「トオルさん、途中の作業は任せて安心して怒られて来てくださいね!」
「むしろ、そのまま今日は仕事終わりにしてゆっくり休んでください!」
「ヴェイン様のお説教なんてちょっと羨ましいです!」
ちょっと待って、コルムくんだけちょっと反応可笑しくない?
こうして厨房から送り出されてしまった。
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