料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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ラインハルトに引っ張られながら執務室に向かって歩く。

さながら、断頭台に向かって歩く囚人のような気分だ。
ヴェインさんの説教はそのくらい怖い。
正直、師匠の説教なんて比じゃない程だ。

得意な氷魔法のせいもあってか、本当に周りの体感温度が下がるのだから精神的にかなり削られるのだ。

「なぁ、トオル。」
前を歩くラインハルトが声をかけてきた。

「ん?」

「アレンが遠征に出て連絡が届かなくなって心配なのはわかるけどな、ちょっと無理しすぎだぞ?」

「無理はしてないつもりなんだけど…。」

「お前、鏡で自分の顔みたか?
クマだって酷いし疲れた顔してるぞ?
ちゃんと寝れてるか?」

そう言うと魔法で水?を作って俺の顔を写す。

ラインハルトに言われるまで気づかなかった。
写った俺の顔にはクマがあり、いかにも体調が良くなさそうだ。

確かに最近ちょっと眠りが浅い気がする。
宿舎に来てからは、アレンと一緒に寝る事が多かったから横にアレンが居ないと正直寂しくて仕方ない。

「……俺ってこんなに弱かったかなぁ。」

元の世界では、誰かと一緒に寝ることなんてほぼ無かったのに…。

まぁ、仕事を始めてからは疲れすぎて泥のように眠ってただけのような気もするけど。

「それは、弱いんじゃなくて大切な物が出来ただけだろ。
でも、無理は良くないな。
別にアレンの部屋で寝てもいいって言われたんだろ?」


「そうだけどさ、やっぱりアレンが居ないあの部屋は俺には広すぎるから…。」


俺の言葉にラインハルトはちょっとだけ考えてから口を開く。

「もし、そんな寂しいなら偶に俺の部屋来るか?」


「いや、ラインハルトと同じベッドで寝るのはちょっと……。」


ラインハルトのことは好きだけどアレン以外の男と同じベッドで寝る趣味はないなぁ。

なんてことを考えていたら、ラインハルトにチョップされた。

「アホか!俺だってお前と同じベッドで寝たくないわ!
そうじゃなくて簡易のベッドを運ぶから、寝るまでの話し相手くらいには、なってやれるぞって事だよ!」

「痛い……。
でも、ありがとう…。」

チョップされた頭は、痛いけどラインハルトの優しさでちょっとだけ心が暖かくなる。

「お前が倒れたら帰ってきたアレンに俺たちが怒られるからな。
アレンなら大丈夫だよ。
あいつは、この国1番の騎士だ。
性格に難はあるけど実力は、確かだってトオルだって知ってるだろ?
すぐ帰って来るさ。」

「うん…。」

「だから、今お前は、とりあえずヴェインからの説教をどうやって耐えるか自分の心配をした方がいいぞ?
あいつ、怒ると本当に怖いからな?」

いつの間にか執務室の前まで着いてしまっていて今の状況を思い出した。

あぁ、俺、無事に明日を迎えられるんだろうか?

まだ、心の準備が出来ていないのにラインハルトが執務室の扉を開いて入って行ってしまう。

まだ魔法をかけられたままだから当然俺も引きづられて中に入る。

「ヴェインー、トオル連れてきたぞー!」

ヴェインさんは俺たちを見るやいなや不機嫌そうな顔をした。

「ラインハルト、拘束魔法風の鎖を使ってるってことは……。」

途中で言葉を切り俺を見る。

「あぁ、逃げようとしたから捕まえてきた。」
ラインハルトが魔法を解きながらヴェインさんに言う。

「ほぅ?トオル逃げようとしたのか?
なにか、やましい事でもあるのか?」

部屋の温度が下がった気がする。
ヴェインさんが冷ややかな目で俺を見つめてくる。

「い、いや、その、ヴェイン、ごめんなさい!」

言い逃れは逆効果だ。
そう悟った俺は、その場で土下座しそうな勢いで平謝りを繰り返す。

「なんで怒ってるかわかってるんだな?」

ヴェインさんが静かな声で聞いてくる。

「はい、無理をしたからでしょ?
本当にごめんなさい…。」


俺の返答にヴェインさんは、呆れた様にため息をつく。

「はぁ、トオル、別にそれに対しては怒ってない。
いや、いいことでは無いから反省はして欲しいが、それについては俺たちも配慮が足らなかった。
でもな、俺たちはそんなに頼りないか?
そんなに信頼出来ないか?」

「え?」

さっきカベロくん達にも言われた。
皆、頼りになるし、大切な人だと思ってる。

「ヴェインはな、辛いときや寂しい時はちゃんと言えって言ってるんだよ。
俺たちは仲間なんだから。
もちろん、アレンの代わりにはなれないけど話くらいは聞くぞって」

ラインハルトがヴェインさんの言わんとすることを教えてくれる。

仲間…。

そうか、俺が自分だけで抱え込んで周りに頼ろうとしなかったからヴェインさんは怒ってるのか…。

何故か不思議と涙がこぼれそうになった。

ヴェインさんが近くに来て頭を撫でてくれる。
ラインハルトも撫でてきた。

「俺たちは、アレンからお前のことを頼まれたんだぞ?
もちろんそれが理由って訳じゃないけどもっと相談してくれてもいいんじゃないか?」

「うん……2人ともありがとう…。」

「トオルはさ、大概のことを1人で抱え込んでなんとかしようとする癖があるよな。
それに、実際なんとか出来ちゃうからタチが悪い。」
ラインハルトが苦笑いしながら言う。

「だがな、1人でなんとか出来るからって無理して1人で抱え込む必要なんて無いんだ。
お前が無理して倒れたら心配する奴が沢山居るんだから。」
ヴェインさんが優しい声で言ってくれた。

脳裏に皆の顔が浮かぶ。

この世界に来て、アレンに助けて貰って、兄のようなヴェインさんや、親友って呼べるくらい仲がいいラインハルトや、俺の事を兄の様に慕ってくれるカイルくんや、頼りになる同僚のリオルくんやコルムくん、カベロくん……。

色んな人に会えた。

今、俺は、凄く凄く幸せなんだなぁ。


「俺、この世界に来られて本当によかった…。」

俺の言葉にヴェインさんとラインハルトは嬉しそうに笑ってくれた。

「まぁ、わかってくれたならこの話は終わりだ。
とりあえず座れ。
お茶を淹れるから。」

ヴェインさんがソファーを勧めてくれる。
腰掛けると直ぐにお茶を淹れてくれた。

いつもの紅茶ではなくハーブティーのようだ。
ほんのり苦味があって癖があるが抹茶のような苦味だから飲めなくは無い。

1口飲むと張り詰めていた気持ちが少し解れた気がする。

「美味しい…。ん?あれ?この世界ってハーブティーあったんだっけ?」

香草自体はあるけどそれを煎じて飲む文化があったなんて聞いてない。

「あぁ、これか?この前、トオルが言ってた話を思い出してな、香草にはそれぞれ色々な効果があるんだろ?
体力を回復するものや滋養強壮に効くものを合わせて作って見たんだ。」

ヴェインさんが教えてくれる。

「料理以外ならヴェインは優秀だからなぁ…。」
隣に座ったラインハルトが呟く。

確かに、ヴェインさんって薬とかの調合も得意ってラインハルトが言ってたもんなぁ。

「まぁ、上手くいったのはこれだけだけどな。
ラインハルトからは世に出しては行けない劇薬みたいなこと言われた…。」

悔しそうにヴェインさんがラインハルトを睨む。

「いや、あれを普通に飲んでるお前が異常なんだよ!
効能重視で味は二の次とかただの薬じゃないか!」

実験に付き合わされた時のことを思い出したのかラインハルトが遠い目をする。

お茶なのに劇薬…。
怖いもの見たさで気になってしまったが後悔しそうだから今は黙ってよう……。

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