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本編
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しおりを挟むアレンに抱き上げられたまま、まだ太陽が上がる前の宿舎内を移動する。
アレンが貸してくれた上着のお陰で寒さは感じなかった。
お互い無言のまま次第に別れが続いてくる寂しさを感じていた。
アレンがゆっくりゆっくりと外門まで足を進める。
宿舎の外門に着いてしまいアレンが俺を下ろしてくれた。
もうお別れか……。
寂しさが込み上げて視界が歪みそうになる。
アレンが俺の様子に気づき身体を抱きしめてくれた。
「すぐ帰ってくるから…。」
彼は、寂しさを押し殺すように呟き、キスをくれた。
「うん。待ってる。気をつけてね…。」
「おい、お前ら、いつまでやってんだよ。
今生の別れか!」
突然の後ろから声に驚いて短い悲鳴を上げてしまう。
「今、トオルと幸せな時間を過ごしてるんだから邪魔するな…。」
アレンが声のした方向へ冷たい視線を向けながら言った。
彼越しに後ろを見ると眠そうに目を擦っているラインハルトを伴ったヴェインさんが冷たい目をしながら立っていた。
「2人ともおはよう。
アレンの見送りに来てくれたの?」
「トオル、おはよう。
まぁ、一応な。
もっともアレンにとっては余計なお世話だったみたいだけどな。
トオルも2人の甘い時間を邪魔しちゃって悪かったな。」
ラインハルトが苦笑いしながら答える。
そんなことないと思うけどなぁ…。
「トオル、おはよう。
ついでにアレンもな。
所でお前達いつまで抱き合ってるつもりだ?
ほら、アレンもさっさと出発しろよ。
こんな寒い中、大切な恋人を外に居させていいのか?」
ヴェインさんの言葉にアレンが悔しそうに唸る。
「くっ……。
わ、わかってる……。」
アレンは、呟くように口から言葉を漏らすと更に力強く俺を抱きしめてから身体を離した。
俺としてはもう少しアレンと一緒に居たいんだけどそういう訳にも行かないもんね……。
「さっさと出発して、さっさと無事に帰ってこい。
お前の仕事はちゃんと残しといてやるからな。」
ヴェインさんの言葉にアレンがあからさまに嫌そうな顔をした。
そのまま2人がいつもの様に口喧嘩を始めてしまう。
いつの間にか俺の隣に来ていたラインハルトが2人の会話を聞いてクスクスと笑っている。
「ヴェインも素直じゃねぇなぁ。
素直に、早く無事に帰ってこいって言えばいいのに……。」
彼は俺にだけ聞こえるくらいの声で呟く。
いつもケンカばかりだけど2人は幼なじみだ。
アレンの事を心配してくれてるんだな。
もちろん、ラインハルトもだ。
2人ともアレンの事を心から心配してくれてるからこそ、昨日あんなに遅くまで準備をしてくれて、疲れてるのにこんな朝早くから見送りに来てくれたんだろう。
「ラインハルトも、アレンを心配してくれてありがとうね。」
俺が言う言葉では無いような気もしたけど、自然と口から零れた。
俺の言葉にラインハルトが苦笑いする。
「まぁ、本当のところを言うとアレンがトオルを離さないんじゃないかって思って来てみたんだけどな…。」
いやいや、流石にそれは無いでしょ……。
無いよな?無いとは言いきれないほどにアレンといつもくっついてる気がする…。
しばらく口喧嘩をしていたアレンとヴェインさんは、満足したようにお互い頷くと俺たちを見た。
「トオル、行ってくる。」
アレンは、俺の頭を撫でながら言った。
「うん、アレン、行ってらっしゃい。」
もっと言いたいことが沢山あったがキリがないからそれだけ伝えた。
アレンは、俺の言葉に何処か満足気に頷く。
「ラインハルト、ヴェイン、トオルの事を頼んだ。
トオル、くれぐれも街に1人で行くなよ?」
俺は子供かっ!
平気だって言おうとしたのにラインハルトが肩を組んで来て邪魔されてしまう。
「あぁ、任せろ。
俺か、カイルのどっちかが必ず一緒に居るから。
お前は、安心して任務をこなしてこい。」
「あぁ、頼んだ。
でも、俺のトオルに気安く触るな。」
俺とラインハルトを引き離しながらアレンが満足気に答えた。
アレンは、いつの間にか近くに待機していた馬に乗って出発して行った。
どうか…どうか、アレンが無事に早く帰って来ますように。
コア様、アレンを護ってください。
頂上に大きな樹がある山を遠くに見ながら、この国の守護竜に心から祈った。
♦♦♦♦♦
長い間更新が空いてしまい申し訳ありませんでした。
いつの間にか新年度になってしまいました…。
相変わらず絶賛社畜生活を謳歌しております。
不定期更新になってしまいますが、少しずつ無理のない範囲で更新して参りますので気長に生暖かい目で見守って頂けると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m
応援ありがとうございます!
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