222 / 225
エピローグ②/アーシェとお喋り
しおりを挟む
魔帝大戦から一月が経過。
学園は長期休暇に入り、四十日間の休暇となった。
生徒たちは里帰りをしたり、学園に残って休暇を満喫する。アルベロたちは、イザヴェル領地でのんびり休暇を過ごすことにした。
アルベロが荷物をまとめていると、アーシェが手伝いに来てくれた。
「で、いいの? ラッシュアウト家は」
「ほっとけ。俺だって男爵……ああそっか、昇格したから侯爵なんだ。自分の領地でのんびり過ごしたい」
「……茶会の手紙、来てるんだけどね」
「ほっとけ」
アルベロは、男爵から昇格。叙爵し、正式にイザヴェル侯爵となった。
十六歳になり成人。ラッシュアウト家から除名され、アルベロ・イザヴェル侯爵となった。まだ十六歳というのに侯爵……異例の出世である。
世界を救った英雄として名が広がってしまい、取材やら茶会、王族や貴族から食事にも誘われるようになったが、そのほとんどを断った。
アルベロに少しでも関わろうと、イザヴェル領地には他国や周辺地域から多くの移住者が殺到……急速に都市が拡大しているらしい。
エステリーゼが手を回し、アルベロは正式にラッシュアウト家から除名されたが、今でも両親は『英雄アルベロは我らの息子』と吹聴しているそうだ。まぁ、両親から生まれた事実は変わらないので仕方ないのだが。
「ねぇ、エステリーゼさんのお茶会くらい参加してあげたら? ラッシュアウト家が公爵になって、アルベロの縁談とか山のように持ってきたんでしょ? それ、全部エステリーゼさんが処理してくれたみたいじゃない」
「…………」
「それに……あたしやラピスと婚約できたのも、エステリーゼさんが手を回してくれたから」
「…………むぅ」
そうなのだ。
ラピスと婚約できたのは、エステリーゼが後押ししたからだ。
アルベロには相応しい婚約者がいると、ラピスの実家に働きかけた。ラピスの実家もアルベロならと二つ返事で了承した。おかげで、縁談は全てキャンセル。
側室にとアーシェを押したのもエステリーゼだった。
「……まぁ、そのうちな」
「ふふ。エステリーゼさん、忙しいから早めにね」
「はいはい……」
エステリーゼは、ラッシュアウト公爵として国内で仕事をしている。
功績により、ラッシュアウト家の領地はさらに拡大。ラシルド、フギルにも領地を与え、領主としたらしい。
ラシルドとフギルは、領主としてエステリーゼの傍で学んでいる。ラシルドはともかく、フギルはきっといい領主になるとアルベロは思っていた。
「姉上やラシルドはともかく、フギル兄さんのところにはいきたいな」
「ふふ、アルベロ……姉上って自然に言ってるの、気付いてる?」
アーシェはなぜか嬉しそうだった。
「……ま、姉上は立派だしな。尊敬はしないけど」
エステリーゼは、女性公爵として国内で人気だ。
魔帝大戦の英雄。エステリーゼを主人公とした物語や小説がブームになったり、『恋人』エンプーサが無理やりファッションモデルに起用したりしたおかげで、今や他国にまで名前が広まった。
毎日数百人の婿入り希望が来るとか……あくまで噂だが。
エステリーゼ本人は結婚する気は今のところないらしい。
アルベロは、カバンを閉めながら言う。
「あのおとぼけ殿下、姉上と結婚できると思うか?」
「あー……う、うーん? あの殿下よりは、ウルブスさんのが……」
「……俺もそう思う」
ウルブスは、『ピースメーカー部隊』の総隊長となった。
エステリーゼの後釜だが、その人望は厚く、部下も大勢いるらしい。
他国から来た召喚士も、国に還らず部隊に残っているようだ。
おかげで、毎日忙しいとか。
アルベロは、カバンを投げる。
準備が整い、あとは出発するだけだ。
「とりあえず、まずは休暇を楽しもう。姉上の茶会はまた今度、帰ってきてからな」
「そうね。明日から長期休暇だし……それに、イザヴェル領地には」
「ああ。あいつがいる」
アルベロは、窓を開けて外の空気を入れる。
明日から長期休暇。二十日ほど、イザヴェル領地に滞在する。
胸いっぱいに空気を吸い、空を見上げた。
「シン、ちゃんとしてるかな……」
シン・アースガルズ。
アルベロは、シン・アースガルズを殺さなかった。
クイーンとの約束を果たすため、イザヴェル領地に匿っているのである。
「……今日はゆっくり寝て、早朝出発だからね」
「ああ」
アーシェは、部屋を出ていった。
まだ、複雑な心境なのだろう。
「…………ふぅ」
アルベロは、もう一度だけ深呼吸した。
学園は長期休暇に入り、四十日間の休暇となった。
生徒たちは里帰りをしたり、学園に残って休暇を満喫する。アルベロたちは、イザヴェル領地でのんびり休暇を過ごすことにした。
アルベロが荷物をまとめていると、アーシェが手伝いに来てくれた。
「で、いいの? ラッシュアウト家は」
「ほっとけ。俺だって男爵……ああそっか、昇格したから侯爵なんだ。自分の領地でのんびり過ごしたい」
「……茶会の手紙、来てるんだけどね」
「ほっとけ」
アルベロは、男爵から昇格。叙爵し、正式にイザヴェル侯爵となった。
十六歳になり成人。ラッシュアウト家から除名され、アルベロ・イザヴェル侯爵となった。まだ十六歳というのに侯爵……異例の出世である。
世界を救った英雄として名が広がってしまい、取材やら茶会、王族や貴族から食事にも誘われるようになったが、そのほとんどを断った。
アルベロに少しでも関わろうと、イザヴェル領地には他国や周辺地域から多くの移住者が殺到……急速に都市が拡大しているらしい。
エステリーゼが手を回し、アルベロは正式にラッシュアウト家から除名されたが、今でも両親は『英雄アルベロは我らの息子』と吹聴しているそうだ。まぁ、両親から生まれた事実は変わらないので仕方ないのだが。
「ねぇ、エステリーゼさんのお茶会くらい参加してあげたら? ラッシュアウト家が公爵になって、アルベロの縁談とか山のように持ってきたんでしょ? それ、全部エステリーゼさんが処理してくれたみたいじゃない」
「…………」
「それに……あたしやラピスと婚約できたのも、エステリーゼさんが手を回してくれたから」
「…………むぅ」
そうなのだ。
ラピスと婚約できたのは、エステリーゼが後押ししたからだ。
アルベロには相応しい婚約者がいると、ラピスの実家に働きかけた。ラピスの実家もアルベロならと二つ返事で了承した。おかげで、縁談は全てキャンセル。
側室にとアーシェを押したのもエステリーゼだった。
「……まぁ、そのうちな」
「ふふ。エステリーゼさん、忙しいから早めにね」
「はいはい……」
エステリーゼは、ラッシュアウト公爵として国内で仕事をしている。
功績により、ラッシュアウト家の領地はさらに拡大。ラシルド、フギルにも領地を与え、領主としたらしい。
ラシルドとフギルは、領主としてエステリーゼの傍で学んでいる。ラシルドはともかく、フギルはきっといい領主になるとアルベロは思っていた。
「姉上やラシルドはともかく、フギル兄さんのところにはいきたいな」
「ふふ、アルベロ……姉上って自然に言ってるの、気付いてる?」
アーシェはなぜか嬉しそうだった。
「……ま、姉上は立派だしな。尊敬はしないけど」
エステリーゼは、女性公爵として国内で人気だ。
魔帝大戦の英雄。エステリーゼを主人公とした物語や小説がブームになったり、『恋人』エンプーサが無理やりファッションモデルに起用したりしたおかげで、今や他国にまで名前が広まった。
毎日数百人の婿入り希望が来るとか……あくまで噂だが。
エステリーゼ本人は結婚する気は今のところないらしい。
アルベロは、カバンを閉めながら言う。
「あのおとぼけ殿下、姉上と結婚できると思うか?」
「あー……う、うーん? あの殿下よりは、ウルブスさんのが……」
「……俺もそう思う」
ウルブスは、『ピースメーカー部隊』の総隊長となった。
エステリーゼの後釜だが、その人望は厚く、部下も大勢いるらしい。
他国から来た召喚士も、国に還らず部隊に残っているようだ。
おかげで、毎日忙しいとか。
アルベロは、カバンを投げる。
準備が整い、あとは出発するだけだ。
「とりあえず、まずは休暇を楽しもう。姉上の茶会はまた今度、帰ってきてからな」
「そうね。明日から長期休暇だし……それに、イザヴェル領地には」
「ああ。あいつがいる」
アルベロは、窓を開けて外の空気を入れる。
明日から長期休暇。二十日ほど、イザヴェル領地に滞在する。
胸いっぱいに空気を吸い、空を見上げた。
「シン、ちゃんとしてるかな……」
シン・アースガルズ。
アルベロは、シン・アースガルズを殺さなかった。
クイーンとの約束を果たすため、イザヴェル領地に匿っているのである。
「……今日はゆっくり寝て、早朝出発だからね」
「ああ」
アーシェは、部屋を出ていった。
まだ、複雑な心境なのだろう。
「…………ふぅ」
アルベロは、もう一度だけ深呼吸した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,052
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる