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ジャバウォック&レッドクイーンvsミドガルズオルム/決着

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 さて、どうするか。
 ミドガルズオルムに近づけばノロくなる。ならば攻撃は自然と遠距離に限られる。
 先ほどは逃げ場をなくすほどの大地で四方を囲い、上空から巨大化させた『右手』で押しつぶした。だが、このサイズではその手は使えない。
 すると、リデルが言う。

「ねぇ、のろくなるだけで、攻撃が当たらないわけじゃないんだよね?」
「ああ。でも、見ての通り……ノロい分、硬そうだ」

 ミドガルズオルムは巨大な『亀』だ。
 突起の生えた甲羅は硬そうだし、その突起を飛ばしての攻撃もまた脅威だ。
 すると、ミドガルズオルムが言う。

『なんか面倒くさくなってきたし……本気で終わらせるよ』
「「!!」」
『光栄に思いなよ。本気のオレはバハムートより強い』

 ミドガルズオルムの手足、そして頭が甲羅の中に引っ込んだ。
 甲羅が手足や頭を引っ込めた穴をふさぎ、さらに甲羅の突起が鋭利になる。そして、ミドガルズオルムは超高速で回転し、突起を飛ばしてきたのだ。

「なっ!? リデル、俺の後ろに!!」
「う、うん!!」

 アルベロは右手を巨大化させ、盾のように広げた。
 すると、突起が右手に直撃───……動きが、遅くなった。
 
「しまっ───……った───……」

 突起の一つ一つに『スロウ』が付与されている。
 そして、地面に突き刺さった突起もまた、半径二メートル圏内に『スロウ』の効果が。
 周囲は突起だらけ。つまり、アルベロとリデルは『スロウ』に囚われてしまった。

「リ───……デ───……ル───……」
「やっ───……っばぁ───……」

 身体が重く、動きが鈍い。
 完全に術中に囚われていた。
 そして、動きの止まったミドガルズオルムがにょきっと頭を出す。

『捕まえた。あっはっは、もう終わりだよ』

 がぱっと、ミドガルズオルムの口が開いた。
 そこに、黒いエネルギーが集中していくのが見えた。
 身体が動かない。中途半端な『硬化』では防げないかもしれない。
 アルベロは必死に考えた。だが、思考能力もノロくなっている。
 
「ア───ル───ベ───ロ───……た───え───て───……」
「……え」

 前を向いていたアルベロには見えなかった。
 リデルの『レッドクイーン』の下半身。スカートのような部分が展開され、地面めがけてミサイルが発射されていた。
 ミドガルズオルムの黒いエネルギー球がどんどん大きくなる。

「───っ!!」
「───!?」

 そして、アルベロとリデルのいる地面が爆発した。
 アルベロには何が起きたのかわからなかった。ゆっくりと爆発し、爆風で身体が浮き上がっていく。
 ミドガルズオルムの黒球が完成した。あまりの大きさにミドガルズオルムの視界も遮られ、アルベロたちの地面が爆発し、身体が徐々に浮き上がっていることに気付いていない。
 油断───最初で最後のチャンス。アルベロは歯を食いしばった。

『じゃあ───さよなら』

 ボッ───と、黒い塊が発射された。
 同時に、爆破で上空二メートルほどに吹き飛ばされたアルベロとリデルは、『スロウ』の効果範囲から逃れ、爆風で思い切り上空へ打ち上げられた。

「うおぁぁぁぁぁっ!?」
「いったぁぁぁぁっ!?」

 ぐるぐるときりもみ回転。二人がいた場所を黒い球体が通り過ぎていく。
 リデルはアルベロの身体を掴み、空中で体勢を整えた。

「アルベロ!! これが最初で最後の───」
「ああ、勝機!!」
『───え?』

 ここで、ミドガルズオルムは気付いた。
 アルベロとリデルが上空にいる。そして、アルベロの右腕が巨大化し、ミドガルズオルムの真上から振り下ろしていたのだ。
 これには、驚くしかなかった。

『な、なんで!?』

 右腕は、ミドガルズオルムの二メートル圏内へ入った。
 動きがノロくなる。
 ミドガルズオルムは焦っていた。

『やべ、やべ、やべぇぇぇぇっ!!』
「っっっ───……ッ!!」

 そして、ついにアルベロの五指がミドガルズオルムの甲羅に触れた。

「『終焉世界ハンプティダンプティ』!!」

 次の瞬間───ミドガルズオルムの全ての能力が消えた。
 『スロウ』が消えた。そして、着地したリデルの背中に巨大な弐門の砲身が形成される。

「『雷電磁砲ライトニングブラスター』!!」

 紫電の光線が発射され、ミドガルズオルムの甲羅を砕いた。

『ギャァァァァァァァァァァァ!?』
「とどめだ!!」

 甲羅が砕け、衝撃でひっくり返ったミドガルズオルムに向かって、右腕を叩きつける。
 今なら『硬化』が使える。

「『停止世界アリス・ワールド』───『圧縮コンプレッション』!!」

 『硬化』により空間、時間、その他諸々が固まり、アルベロの右手によって硬化された空間が圧縮されていく。ミドガルズオルムの身体が砕け、圧縮され縮んでいく。

『あーあ……負けちゃった……まぁ、しばらく……のんびり、でき、そう……』

 最後まで語ることなく、ミドガルズオルムは圧縮され消滅した。
 こうして、村を襲撃した二体の魔人は討伐された。
 アルベロとリデルは完全侵食を解き、ハイタッチする。

「終わったぁ~……のよね?」
「たぶん。村の方の魔獣はアーシェたちがなんとかしてる。まぁ、A級の連中もいるし、大丈夫だろ」
「うん……あれ? そういえばキッドは?」
「…………」

 アルベロは、答えられなかった。
 リデルが首を傾げると、首筋に小さな雫がぽつり、ぽつりと当たる。

「あ……雨かな」
「…………みたいだな」

 小降りの雨は、やがて大雨となり大地を潤した。

 ◇◇◇◇◇◇

 空から降る雨は、火照った身体を優しく包む。
 
「うふふ。もうおしまい?」

 あんなに熱かった身体は、すっかり冷えてしまった。
 全身傷だらけ、意識も失いかけ、腕も上がらない。
 キッドは、大岩に叩きつけられ、大鎌で刻まれ血まみれだった。

「んん~……きみ、今まで残した子の中でも最高に感じさせてくれたわぁん♪ ふふ、お姉さん濡れちゃったぁ……んん? もちろん雨にだけどね♪」

 『色欲』の魔人フロレンティアは、無傷だった。
 大鎌を抱き、くねくねした動きでキッドを見下ろしている。

「わかったでしょう?」

 ふと、真面目な声で言う。

「お姉さん、男の子が大好きなの。強い恨みを持った子なんて特にねぇ♪……そんな子を徹底的にいたぶって殺して犯すのが、本当に大好きなの♪」

 キッドは答えない。
 意識を失っているのか。それとも、チャンスを狙っているのか。

「それと、もう一つ……お姉さんが男の子を残す理由」

 フロレンティアは大鎌をカランと投げ捨て、前かがみになってキッドに顔を近づけた。
 あまりにも無防備───……そして。

「───ッ!! 死にやがれ!!」

 最後の力を振り絞り、ズタズタに引き裂かれた左腕をにフロレンティアの眉間に向け、翡翠の弾丸を発射した。
 フロレンティアは、微笑を浮かべたままだ。
 弾丸は、フロレンティアの眉間へ飛んでいく───……だが、弾丸はフロレンティアの肌を傷つけることなく、一瞬で分解され塵となった。

「これが、その理由。ふふ……レイヴィニアちゃんに聞かなかったの? 私のコト」

 フロレンティアは大鎌を拾い、髪をかき上げた。

「私の能力は『男子禁制アンタッチャブル』───……全ての男は・・・・・私に触れることが・・・・・・・できない・・・・

 これが、フロレンティアの能力だ。
 いかなる男もフロレンティアに触れることができない。フロレンティア自身が自分の意志で触れることは可能だ。だが、『男』は手でも足でも『能力』ですらも、フロレンティアに干渉できない。
 フロレンティアが残した『男』がいくら強くなろうとも、どんな能力を持っても、フロレンティアに勝てない理由はここにあった。

「あなた、まだ諦めてないわねぇ……ん~、それじゃつまんないわぁ。もっと絶望して、全てを諦めて、その瞬間に殺すのが最高なのにぃ……もう」
「て、めぇ……」
「そんなに殺意ふりまいちゃダメダメ。ん~……少し早かったかしら。ま、いいわ。今回は見逃してあげる♪ そもそも、あなたは今食べる予定じゃなかったしね♪」
「…………ッ」

 フロレンティアは雨を楽しむように空を見上げ、キッドに背を向けた。
 
「じゃぁね~ん♪」
「ま、まち、やが……れ!!」

 左腕を持ち上げる。だが、出血がひどく弾丸は出なかった。
 たとえ発射しても、傷一つ付けられなかっただろうが。
 やがて、フロレンティアは見えなくなり……キッドは一人、残された。

「っ……ッっ!! ぐ、っっ……あ、あぁ、アァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーっ!!」

 土砂降りの中、キッドは全力で叫んだ。
 己の無力さを呪う怨嗟の叫びは、雨の音に混じり響いていた。
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