126 / 225
ジャバウォック&レッドクイーンvsミドガルズオルム/決着
しおりを挟む
さて、どうするか。
ミドガルズオルムに近づけばノロくなる。ならば攻撃は自然と遠距離に限られる。
先ほどは逃げ場をなくすほどの大地で四方を囲い、上空から巨大化させた『右手』で押しつぶした。だが、このサイズではその手は使えない。
すると、リデルが言う。
「ねぇ、のろくなるだけで、攻撃が当たらないわけじゃないんだよね?」
「ああ。でも、見ての通り……ノロい分、硬そうだ」
ミドガルズオルムは巨大な『亀』だ。
突起の生えた甲羅は硬そうだし、その突起を飛ばしての攻撃もまた脅威だ。
すると、ミドガルズオルムが言う。
『なんか面倒くさくなってきたし……本気で終わらせるよ』
「「!!」」
『光栄に思いなよ。本気のオレはバハムートより強い』
ミドガルズオルムの手足、そして頭が甲羅の中に引っ込んだ。
甲羅が手足や頭を引っ込めた穴をふさぎ、さらに甲羅の突起が鋭利になる。そして、ミドガルズオルムは超高速で回転し、突起を飛ばしてきたのだ。
「なっ!? リデル、俺の後ろに!!」
「う、うん!!」
アルベロは右手を巨大化させ、盾のように広げた。
すると、突起が右手に直撃───……動きが、遅くなった。
「しまっ───……った───……」
突起の一つ一つに『スロウ』が付与されている。
そして、地面に突き刺さった突起もまた、半径二メートル圏内に『スロウ』の効果が。
周囲は突起だらけ。つまり、アルベロとリデルは『スロウ』に囚われてしまった。
「リ───……デ───……ル───……」
「やっ───……っばぁ───……」
身体が重く、動きが鈍い。
完全に術中に囚われていた。
そして、動きの止まったミドガルズオルムがにょきっと頭を出す。
『捕まえた。あっはっは、もう終わりだよ』
がぱっと、ミドガルズオルムの口が開いた。
そこに、黒いエネルギーが集中していくのが見えた。
身体が動かない。中途半端な『硬化』では防げないかもしれない。
アルベロは必死に考えた。だが、思考能力もノロくなっている。
「ア───ル───ベ───ロ───……た───え───て───……」
「……え」
前を向いていたアルベロには見えなかった。
リデルの『レッドクイーン』の下半身。スカートのような部分が展開され、地面めがけてミサイルが発射されていた。
ミドガルズオルムの黒いエネルギー球がどんどん大きくなる。
「───っ!!」
「───!?」
そして、アルベロとリデルのいる地面が爆発した。
アルベロには何が起きたのかわからなかった。ゆっくりと爆発し、爆風で身体が浮き上がっていく。
ミドガルズオルムの黒球が完成した。あまりの大きさにミドガルズオルムの視界も遮られ、アルベロたちの地面が爆発し、身体が徐々に浮き上がっていることに気付いていない。
油断───最初で最後のチャンス。アルベロは歯を食いしばった。
『じゃあ───さよなら』
ボッ───と、黒い塊が発射された。
同時に、爆破で上空二メートルほどに吹き飛ばされたアルベロとリデルは、『スロウ』の効果範囲から逃れ、爆風で思い切り上空へ打ち上げられた。
「うおぁぁぁぁぁっ!?」
「いったぁぁぁぁっ!?」
ぐるぐるときりもみ回転。二人がいた場所を黒い球体が通り過ぎていく。
リデルはアルベロの身体を掴み、空中で体勢を整えた。
「アルベロ!! これが最初で最後の───」
「ああ、勝機!!」
『───え?』
ここで、ミドガルズオルムは気付いた。
アルベロとリデルが上空にいる。そして、アルベロの右腕が巨大化し、ミドガルズオルムの真上から振り下ろしていたのだ。
これには、驚くしかなかった。
『な、なんで!?』
右腕は、ミドガルズオルムの二メートル圏内へ入った。
動きがノロくなる。
ミドガルズオルムは焦っていた。
『やべ、やべ、やべぇぇぇぇっ!!』
「っっっ───……ッ!!」
そして、ついにアルベロの五指がミドガルズオルムの甲羅に触れた。
「『終焉世界』!!」
次の瞬間───ミドガルズオルムの全ての能力が消えた。
『スロウ』が消えた。そして、着地したリデルの背中に巨大な弐門の砲身が形成される。
「『雷電磁砲』!!」
紫電の光線が発射され、ミドガルズオルムの甲羅を砕いた。
『ギャァァァァァァァァァァァ!?』
「とどめだ!!」
甲羅が砕け、衝撃でひっくり返ったミドガルズオルムに向かって、右腕を叩きつける。
今なら『硬化』が使える。
「『停止世界』───『圧縮』!!」
『硬化』により空間、時間、その他諸々が固まり、アルベロの右手によって硬化された空間が圧縮されていく。ミドガルズオルムの身体が砕け、圧縮され縮んでいく。
『あーあ……負けちゃった……まぁ、しばらく……のんびり、でき、そう……』
最後まで語ることなく、ミドガルズオルムは圧縮され消滅した。
こうして、村を襲撃した二体の魔人は討伐された。
アルベロとリデルは完全侵食を解き、ハイタッチする。
「終わったぁ~……のよね?」
「たぶん。村の方の魔獣はアーシェたちがなんとかしてる。まぁ、A級の連中もいるし、大丈夫だろ」
「うん……あれ? そういえばキッドは?」
「…………」
アルベロは、答えられなかった。
リデルが首を傾げると、首筋に小さな雫がぽつり、ぽつりと当たる。
「あ……雨かな」
「…………みたいだな」
小降りの雨は、やがて大雨となり大地を潤した。
◇◇◇◇◇◇
空から降る雨は、火照った身体を優しく包む。
「うふふ。もうおしまい?」
あんなに熱かった身体は、すっかり冷えてしまった。
全身傷だらけ、意識も失いかけ、腕も上がらない。
キッドは、大岩に叩きつけられ、大鎌で刻まれ血まみれだった。
「んん~……きみ、今まで残した子の中でも最高に感じさせてくれたわぁん♪ ふふ、お姉さん濡れちゃったぁ……んん? もちろん雨にだけどね♪」
『色欲』の魔人フロレンティアは、無傷だった。
大鎌を抱き、くねくねした動きでキッドを見下ろしている。
「わかったでしょう?」
ふと、真面目な声で言う。
「お姉さん、男の子が大好きなの。強い恨みを持った子なんて特にねぇ♪……そんな子を徹底的にいたぶって殺して犯すのが、本当に大好きなの♪」
キッドは答えない。
意識を失っているのか。それとも、チャンスを狙っているのか。
「それと、もう一つ……お姉さんが男の子を残す理由」
フロレンティアは大鎌をカランと投げ捨て、前かがみになってキッドに顔を近づけた。
あまりにも無防備───……そして。
「───ッ!! 死にやがれ!!」
最後の力を振り絞り、ズタズタに引き裂かれた左腕をにフロレンティアの眉間に向け、翡翠の弾丸を発射した。
フロレンティアは、微笑を浮かべたままだ。
弾丸は、フロレンティアの眉間へ飛んでいく───……だが、弾丸はフロレンティアの肌を傷つけることなく、一瞬で分解され塵となった。
「これが、その理由。ふふ……レイヴィニアちゃんに聞かなかったの? 私のコト」
フロレンティアは大鎌を拾い、髪をかき上げた。
「私の能力は『男子禁制』───……全ての男は、私に触れることができない」
これが、フロレンティアの能力だ。
いかなる男もフロレンティアに触れることができない。フロレンティア自身が自分の意志で触れることは可能だ。だが、『男』は手でも足でも『能力』ですらも、フロレンティアに干渉できない。
フロレンティアが残した『男』がいくら強くなろうとも、どんな能力を持っても、フロレンティアに勝てない理由はここにあった。
「あなた、まだ諦めてないわねぇ……ん~、それじゃつまんないわぁ。もっと絶望して、全てを諦めて、その瞬間に殺すのが最高なのにぃ……もう」
「て、めぇ……」
「そんなに殺意ふりまいちゃダメダメ。ん~……少し早かったかしら。ま、いいわ。今回は見逃してあげる♪ そもそも、あなたは今食べる予定じゃなかったしね♪」
「…………ッ」
フロレンティアは雨を楽しむように空を見上げ、キッドに背を向けた。
「じゃぁね~ん♪」
「ま、まち、やが……れ!!」
左腕を持ち上げる。だが、出血がひどく弾丸は出なかった。
たとえ発射しても、傷一つ付けられなかっただろうが。
やがて、フロレンティアは見えなくなり……キッドは一人、残された。
「っ……ッっ!! ぐ、っっ……あ、あぁ、アァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーっ!!」
土砂降りの中、キッドは全力で叫んだ。
己の無力さを呪う怨嗟の叫びは、雨の音に混じり響いていた。
ミドガルズオルムに近づけばノロくなる。ならば攻撃は自然と遠距離に限られる。
先ほどは逃げ場をなくすほどの大地で四方を囲い、上空から巨大化させた『右手』で押しつぶした。だが、このサイズではその手は使えない。
すると、リデルが言う。
「ねぇ、のろくなるだけで、攻撃が当たらないわけじゃないんだよね?」
「ああ。でも、見ての通り……ノロい分、硬そうだ」
ミドガルズオルムは巨大な『亀』だ。
突起の生えた甲羅は硬そうだし、その突起を飛ばしての攻撃もまた脅威だ。
すると、ミドガルズオルムが言う。
『なんか面倒くさくなってきたし……本気で終わらせるよ』
「「!!」」
『光栄に思いなよ。本気のオレはバハムートより強い』
ミドガルズオルムの手足、そして頭が甲羅の中に引っ込んだ。
甲羅が手足や頭を引っ込めた穴をふさぎ、さらに甲羅の突起が鋭利になる。そして、ミドガルズオルムは超高速で回転し、突起を飛ばしてきたのだ。
「なっ!? リデル、俺の後ろに!!」
「う、うん!!」
アルベロは右手を巨大化させ、盾のように広げた。
すると、突起が右手に直撃───……動きが、遅くなった。
「しまっ───……った───……」
突起の一つ一つに『スロウ』が付与されている。
そして、地面に突き刺さった突起もまた、半径二メートル圏内に『スロウ』の効果が。
周囲は突起だらけ。つまり、アルベロとリデルは『スロウ』に囚われてしまった。
「リ───……デ───……ル───……」
「やっ───……っばぁ───……」
身体が重く、動きが鈍い。
完全に術中に囚われていた。
そして、動きの止まったミドガルズオルムがにょきっと頭を出す。
『捕まえた。あっはっは、もう終わりだよ』
がぱっと、ミドガルズオルムの口が開いた。
そこに、黒いエネルギーが集中していくのが見えた。
身体が動かない。中途半端な『硬化』では防げないかもしれない。
アルベロは必死に考えた。だが、思考能力もノロくなっている。
「ア───ル───ベ───ロ───……た───え───て───……」
「……え」
前を向いていたアルベロには見えなかった。
リデルの『レッドクイーン』の下半身。スカートのような部分が展開され、地面めがけてミサイルが発射されていた。
ミドガルズオルムの黒いエネルギー球がどんどん大きくなる。
「───っ!!」
「───!?」
そして、アルベロとリデルのいる地面が爆発した。
アルベロには何が起きたのかわからなかった。ゆっくりと爆発し、爆風で身体が浮き上がっていく。
ミドガルズオルムの黒球が完成した。あまりの大きさにミドガルズオルムの視界も遮られ、アルベロたちの地面が爆発し、身体が徐々に浮き上がっていることに気付いていない。
油断───最初で最後のチャンス。アルベロは歯を食いしばった。
『じゃあ───さよなら』
ボッ───と、黒い塊が発射された。
同時に、爆破で上空二メートルほどに吹き飛ばされたアルベロとリデルは、『スロウ』の効果範囲から逃れ、爆風で思い切り上空へ打ち上げられた。
「うおぁぁぁぁぁっ!?」
「いったぁぁぁぁっ!?」
ぐるぐるときりもみ回転。二人がいた場所を黒い球体が通り過ぎていく。
リデルはアルベロの身体を掴み、空中で体勢を整えた。
「アルベロ!! これが最初で最後の───」
「ああ、勝機!!」
『───え?』
ここで、ミドガルズオルムは気付いた。
アルベロとリデルが上空にいる。そして、アルベロの右腕が巨大化し、ミドガルズオルムの真上から振り下ろしていたのだ。
これには、驚くしかなかった。
『な、なんで!?』
右腕は、ミドガルズオルムの二メートル圏内へ入った。
動きがノロくなる。
ミドガルズオルムは焦っていた。
『やべ、やべ、やべぇぇぇぇっ!!』
「っっっ───……ッ!!」
そして、ついにアルベロの五指がミドガルズオルムの甲羅に触れた。
「『終焉世界』!!」
次の瞬間───ミドガルズオルムの全ての能力が消えた。
『スロウ』が消えた。そして、着地したリデルの背中に巨大な弐門の砲身が形成される。
「『雷電磁砲』!!」
紫電の光線が発射され、ミドガルズオルムの甲羅を砕いた。
『ギャァァァァァァァァァァァ!?』
「とどめだ!!」
甲羅が砕け、衝撃でひっくり返ったミドガルズオルムに向かって、右腕を叩きつける。
今なら『硬化』が使える。
「『停止世界』───『圧縮』!!」
『硬化』により空間、時間、その他諸々が固まり、アルベロの右手によって硬化された空間が圧縮されていく。ミドガルズオルムの身体が砕け、圧縮され縮んでいく。
『あーあ……負けちゃった……まぁ、しばらく……のんびり、でき、そう……』
最後まで語ることなく、ミドガルズオルムは圧縮され消滅した。
こうして、村を襲撃した二体の魔人は討伐された。
アルベロとリデルは完全侵食を解き、ハイタッチする。
「終わったぁ~……のよね?」
「たぶん。村の方の魔獣はアーシェたちがなんとかしてる。まぁ、A級の連中もいるし、大丈夫だろ」
「うん……あれ? そういえばキッドは?」
「…………」
アルベロは、答えられなかった。
リデルが首を傾げると、首筋に小さな雫がぽつり、ぽつりと当たる。
「あ……雨かな」
「…………みたいだな」
小降りの雨は、やがて大雨となり大地を潤した。
◇◇◇◇◇◇
空から降る雨は、火照った身体を優しく包む。
「うふふ。もうおしまい?」
あんなに熱かった身体は、すっかり冷えてしまった。
全身傷だらけ、意識も失いかけ、腕も上がらない。
キッドは、大岩に叩きつけられ、大鎌で刻まれ血まみれだった。
「んん~……きみ、今まで残した子の中でも最高に感じさせてくれたわぁん♪ ふふ、お姉さん濡れちゃったぁ……んん? もちろん雨にだけどね♪」
『色欲』の魔人フロレンティアは、無傷だった。
大鎌を抱き、くねくねした動きでキッドを見下ろしている。
「わかったでしょう?」
ふと、真面目な声で言う。
「お姉さん、男の子が大好きなの。強い恨みを持った子なんて特にねぇ♪……そんな子を徹底的にいたぶって殺して犯すのが、本当に大好きなの♪」
キッドは答えない。
意識を失っているのか。それとも、チャンスを狙っているのか。
「それと、もう一つ……お姉さんが男の子を残す理由」
フロレンティアは大鎌をカランと投げ捨て、前かがみになってキッドに顔を近づけた。
あまりにも無防備───……そして。
「───ッ!! 死にやがれ!!」
最後の力を振り絞り、ズタズタに引き裂かれた左腕をにフロレンティアの眉間に向け、翡翠の弾丸を発射した。
フロレンティアは、微笑を浮かべたままだ。
弾丸は、フロレンティアの眉間へ飛んでいく───……だが、弾丸はフロレンティアの肌を傷つけることなく、一瞬で分解され塵となった。
「これが、その理由。ふふ……レイヴィニアちゃんに聞かなかったの? 私のコト」
フロレンティアは大鎌を拾い、髪をかき上げた。
「私の能力は『男子禁制』───……全ての男は、私に触れることができない」
これが、フロレンティアの能力だ。
いかなる男もフロレンティアに触れることができない。フロレンティア自身が自分の意志で触れることは可能だ。だが、『男』は手でも足でも『能力』ですらも、フロレンティアに干渉できない。
フロレンティアが残した『男』がいくら強くなろうとも、どんな能力を持っても、フロレンティアに勝てない理由はここにあった。
「あなた、まだ諦めてないわねぇ……ん~、それじゃつまんないわぁ。もっと絶望して、全てを諦めて、その瞬間に殺すのが最高なのにぃ……もう」
「て、めぇ……」
「そんなに殺意ふりまいちゃダメダメ。ん~……少し早かったかしら。ま、いいわ。今回は見逃してあげる♪ そもそも、あなたは今食べる予定じゃなかったしね♪」
「…………ッ」
フロレンティアは雨を楽しむように空を見上げ、キッドに背を向けた。
「じゃぁね~ん♪」
「ま、まち、やが……れ!!」
左腕を持ち上げる。だが、出血がひどく弾丸は出なかった。
たとえ発射しても、傷一つ付けられなかっただろうが。
やがて、フロレンティアは見えなくなり……キッドは一人、残された。
「っ……ッっ!! ぐ、っっ……あ、あぁ、アァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーっ!!」
土砂降りの中、キッドは全力で叫んだ。
己の無力さを呪う怨嗟の叫びは、雨の音に混じり響いていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,052
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる