上 下
125 / 225

アルベロVSミドガルズオルム④/仲間

しおりを挟む
 巨大亀ミドガルズオルムとジャバウォック化したアルベロの戦い。
 ミドガルズオルムは全長四十メートル以上。それに対してアルベロは身長約二メートルほどだ。比べるのも馬鹿馬鹿しい体格差がある。
 だが、アルベロは負ける気つもりがない。
 この『完全侵食エヴォリューション』状態なら、どんな敵にだって負ける気はしない。
 アルベロは、右腕を『硬化』させ、さらに巨大化させる。

「行くぞ───『召喚獣殴りバンダースナッチ』!!」

 巨大化した腕が伸び、ミドガルズオルムに向かって伸びていく。
 だが───やはり能力は健在だった。
 ミドガルズオルムに近づいた途端、アルベロの右腕がスローモーションとなったのだ。

「っぐ───能力か」
『無駄だよ。ヒト型の時とはワケが違う!!』

 ミドガルズオルムの甲羅にある突起が伸び、発射された。
 今までにない攻撃方に、アルベロは驚愕。
 腕がノロくなった瞬間に引き戻したが、まだ動きがノロく戻ってこない。そして、飛んできた『棘』がアルベロの身体に直撃した。

「ぐ、あがぁ!?」

 完全侵食状態の身体に亀裂が入った。
 常時『硬化』されているジャバウォックの外殻に亀裂。

「ぐ……やられた、全身硬化の弱点……!!」

 原因は、ミドガルズオルムの『スロウ』が付与された棘だった。
 アルベロの外殻は常に『硬化』されている状態だ。だが、アルベロは自身の身体に『硬化』を付与する場合に限り、硬化を自在に解除できる。全身硬化をしてしまうと、関節や内臓、血流なども止まってしまうからである。
 なので、完全侵食状態の常時硬化は、身体を動かす場合だけ解除される。動きを止めた時だけ、外殻の表皮だけを硬化するのである。
 今は、腕を伸ばしたまま引き戻した状態だ。だから硬化が効いていない。ダメージを受けた原因はそれだった。

『───へぇ』

 ミドガルズオルムは面倒くさがり屋だ。
 やる気はあまりないし、感情をあらわにすることもあまりない。それが逆に言えば冷静沈着であり、観察力が高いということでもあった。
 
『あははっ……なんかわかっちゃったかもね。きみの五指に触れる前に吹っ飛ばせばいいや』
「……やれるもんならやってみろ!!」

 アルベロは右手の五指に力を入れる。
 召喚獣の王ジャバウォックだけが使える二つ目の能力。『終焉世界ハンプティダンプティ』を使ってミドガルズオルムに触れれば、この『スロウ』は消える。
 
「お前に触れれば俺の勝ちだ。だったら……ここからは根性の見せ所だ!!」

 そう叫び、アルベロは右手を巨大化させ走り出した。

 ◇◇◇◇◇◇
 
「ん、うぅ……くぁぁ───あれ?」

 リデルは目を覚ました。
 身体を起こし、大きく欠伸をして、頭をポリポリ掻き……ハッとする。

「あ!? ま、魔人───は倒したのか。あ、魔獣!? みんな!!」

 ガバッと立ち上がり、身体を確認する。
 完全侵食を習得し、バハムートを倒したのは覚えている。
 その後、疲労で少しだけ目を閉じていたのだが、思った以上に時間が経過していたようだ。
 
「腕、脚───……うん、動く。能力……うん、大丈夫」

 腕を回し、その場で跳躍。『レッドクイーン』を顕現させる。
 どれも問題ない。それに、完全侵食状態から戻ったせいなのか、怪我も全て消えていた。
 やや疲労はある。だが、戦闘に支障はない。

「…………そういえばアタシ、一人で魔人を倒したのよね……う、今さらだけど、けっこう無謀だったかも……頭にきてたけど、もうあんな無謀な真似やめよう」

 リデルのいいところは、こういう反省ができるところだ。
 首を振り、大きく頷く。

「まずは、みんなと合流しなきゃ!! ここ───……どこ?」

 見覚えのないところだった。
 地面に激突したせいかクレーターができている。
 まずは、地形の把握が先だ。

「『噴射口ブースターユニット』、跳躍!!」

 リデルは両足に噴射口を造り、跳躍した。
 一瞬で上空百メートル以上舞い上がる。飛ぶのではなく噴射なので細かい調整は難しい。だが、厳しい訓練で噴射口の制御をモノにしたリデルは、短時間の飛行が可能になっていた。
 上空から周囲を見渡し───……驚愕した。

「───なにあれ」

 巨大な亀と、完全侵食状態のアルベロが戦っていた。
 
「あんなサイズの魔獣……魔獣? そういえば、ミドガル、なんとか?……が来てるとか言ってたっけ。ああもう、考えるの後!! まずは……助けないと!!」

 噴射口から火が噴き、アルベロの元へ向かって行く。
 このまま勢いをつけて蹴れば、亀の甲羅を貫通できるかもしれない。
 そう考え、リデルは勢いを増す。

「だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 だがそれは、ミドガルズオルムの能力を知らないリデルにとって悪手だった。

 ◇◇◇◇◇◇

「だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
「え───リデル!? やばいっ!! ちょ、待った!! ああもう!!」

 リデルがいきなり現れ、ミドガルズオルムに向かって飛び蹴りを食らわせようとした。
 だが、ミドガルズオルムの『スロウ』がある限り奇襲は意味をなさない。というか、あんなに大声で叫んでは奇襲もクソもない。
 アルベロはミドガルズオルムに向かおうとしたが急ブレーキ。右手を巨大化させて伸ばす。

「え!? ちょ、わぶっ!?」

 右手に受け止められたリデルは、そのままアルベロの元へ。
 さすがに、これには怒るリデル。

「ちょ、なにすんの!? いい感じで勢い付けたのにぃ!!」
「勢い付けても無意味だ。あいつの能力、近づけばみんなノロくなるんだよ」
「え」

 アルベロは石を拾い、全力で投げつける。
 石は時速百キロ以上の速度で飛んだが、ミドガルズオルムに近づいた途端にノロくなった。
 リデルは顔を蒼くする。

「あ、あんな能力あり?……」
「ありだな。それより、来てくれて助かった。手ぇ貸してくれ」
「もちろん。それに……アタシも役に立てると思うよ」
「え……?」
「『完全侵食エヴォリューション』」
「え」

 リデルの身体に真紅の装甲が纏われる。
 完全侵食。これにはアルベロも驚いた。

「おお……すっげぇ」
「ふふ、ピンクが力をくれたの」
「これならいけるな。よーし、二人でやるぞ!!」
「うん!!」

 アルベロとリデルは互いに構えを取る。
 ミドガルズオルムは、納得していた。

『ああ、バハムートはきみにやられたのか。ってことは、さっきの爆発も?』
「まぁね。次はアンタの番!!」
『……怖いなぁ』

 アルベロとリデル、そしてミドガルズオルム。
 魔人との戦いは、終盤に向かっていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

空間魔法って実は凄いんです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:305pt お気に入り:3,920

異世界のんびり料理屋経営

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:3,727

マヨマヨ~迷々の旅人~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:58

薬の知識を手に入れたので、裏稼業でもしてみようか

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:38

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:338

転生幼女な真祖さまは最強魔法に興味がない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:452

鍛冶師と調教師ときどき勇者と

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:58

処理中です...