大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑳

第609話、久しぶりのフレキくん(後編)

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 薬院には、薬師の個性が出る……って、シャヘル先生が言っていた。
 最初は意味がわからなかった。正直、今でもわからない……そう思っていたが、フレキくんの薬院に入り、ようやくシャヘル先生が言った意味がわかった。
 
「フレキくんの薬院か……」
「し、師匠。あの……何か変でしょうか?」
「村長。フレキとウチの薬院やでー」

 大きさはそれほどでもない。だが、使っている薬品の匂いや、フレキくんが使っている調合の道具、洗って干してある包帯、診療記録の棚……俺の薬院とは違う『匂い』を、俺は感じていた。
 もしかしてと思い、フレキくんに聞く。

「フレキくん。自分の薬院を持つようになって気付いたこと、ある?」
「気付いたことですか? そうですね……やっぱり、師匠の薬院と『匂い』というか、雰囲気が違うような気がします。薬の匂いから、物の位置とか……」

 フレキくんも感じている。
 そうか。これが個性、薬師の個性なんだ。
 俺は、エンジュの淹れたお茶を飲む。

「エンジュも、頑張ってるみたいだな」
「当然や。あ、聞いてぇな村長。ウチとフレキ、千切れた腕をくっつける手術やったんやで」
「え、本当に!?」
「ほんまやでー! な、フレキ」
「うん。あはは……丸1日かかっちゃいました。師匠だったらもっと早く終わったと思います」
「おお……フレキくん、その時の診療記録ある?」
「もちろん。それと師匠、ボクの書いた論文を見て欲しいんですけど……あと、いくつか薬品に関する質問もありまして」
「いくらでも付き合うよ。今日は泊まりだから」
「ありがとうございます!!」
「あ、でも夜はブランと飲む約束が……そうだ。せっかくだしフレキくんたちも一緒にどう? エルミナも来てるし、みんなで飲もう」
「い、いいんですか? じゃあぜひ」
「やった。村長の奢りやで!」

 エンジュ、ちゃっかりしやがって。まぁいいけど。
 フレキくんは「じゃあさっそく」と言い、論文や診療記録、俺への質問を書いた羊皮紙の束を抱えてきた。
 というか、質問多すぎる……羊皮紙の束、論文より分厚いぞ。

 ◇◇◇◇◇

 フレキくん、エンジュと話していると、エルミナが薬院に来た。

「やっほー、久しぶり」
「エルミナさん、お久しぶりです!!」
「どもどもー」

 フレキくんはガバッとお辞儀、エンジュは軽く手を上げ挨拶する。
 ちょっぴり酒臭いエルミナは、俺の隣に座った。
 寝てしまい、俺の太ももを枕にするルミナの頭を撫でながら言う。

「いやー、飲みすぎちゃった。夜は長の家で宴会あるし、ちょっと休憩」
「ブランは?」
「あいつも長の家で昼寝してる。あ、今言ったけど、夜は長の家で宴会あるからね。フレキたちも参加してよ」
「ぼ、ボクらもですか?」
「ええやん。タダで酒飲めるの最高やで」
「そういうこと! ふふふ、楽しみね」
「お前……飲みすぎて醜態晒すなよ」
「うっさいわね」
「みゃうぅぅぅ……ん、なんだお前!? さわるなっ」

 エルミナが撫でているのに気付いたのか、ルミナが飛び起き俺の背に隠れた。

「あん、そろそろ触らせてよ~」
「やだ」
「あはは。ルミナさん、相変わらずエルミナさんには触らせないんですね」
「ホント、難儀な黒猫やでー」

 エルミナを威嚇するルミナは、俺にくっつくと胸に顔を埋めた。
 とりあえず、ネコミミを触りながら頭を撫でる。

「ところでフレキくん、困ったことはない?」
「困ったこと、ですか?」
「あるある!! あのな村長、フレキの弟子のロムルスのことなんやけど」
「ロムルスくん?」

 竜騎士に弟子入りした人狼族のレムスくんの弟、ロムルスくん。
 レムスくん、アセナちゃんといい雰囲気なんだよな。お弁当作ってもらったり、夕飯を一緒に食べたり……お付き合いしてると俺は踏んでいる。
 エンジュは、腕組みして俺に言う。

「ロムルスのやつ、勉強勉強で友達いないんや。毎日ぶ厚い本抱えて、カリカリカリカリ字ぃばっか書いて。知識だけならフレキより上かもしれへんで」
「……まじで?」
「まじやで。ロムルス、勉強が好きで好きでしょうがないんや」

 と、フレキくんも言う。

「もう少し、余裕を持って欲しいと思ってます。ぼくが師匠のところで学んでたときも、午前中は師匠の元で勉強して、午後は自習でしたから。薬院の仕事も交代制で、いろんな患者さんに触れあって勉強して……でも、ロムルスはとにかく勉強勉強で、全く休まないんです」
「なるほどねぇ」
「師匠、なんとかなりませんか……?」

 いやはや、フレキくん……立派な師匠だね。
 俺は思わずウンウン頷いてしまい、ルミナのネコミミが顎に触れた。

「なんや村長。嬉しそうやないか」
「いや、苦労してるんだなって。同時に、フレキくんがすごく優秀な弟子だって再確認できた」
「え、え……?」
「俺さ、フレキくんのことで困ったこと、あんまりないんだ」

 一番困ったことと言えば、早朝の挨拶。声がデカすぎてみんな起きちゃうことくらいだった。地声がデカいのは仕方ないって、みんな笑ってたけどな。
 フレキくんがいなくなって、数日はみんな寝坊した。あの声、目覚まし代わりだった。
 じゃなくて……今はロムルスくんのことだ。

「いや、ロムルスくんが優秀じゃないって意味じゃない。俺も未経験だから、何ていえばいいのか……答えはないけど、一緒に考えることはできるよ」
「そうですか……ありがとうございます」
「フレキ、照れてるわねー」
「ほんまや。あはは、可愛い」

 優秀と言われて照れたようだ。
 すると、ルミナが顔を上げた。

「あたい、なんとなくわかる。勉強が楽しくて仕方ない気持ち」
「わかるのか?」
「みゃう。あたいも、一日中本を読んだり、勉強したりするの好き。そのロムルスとかいう奴、好きでやってる。止めさせたりするのダメだと思うぞ」

 ルミナのアドバイスをみんな聞いていた。
 フレキくんはムムムと唸る。

「でも、勉強しすぎだと思うし……」
「それはお前がそう思ってるだけ。好きなことを取り上げるのはよくない。みゃう」
「そういうものなの? アシュト」
「俺に言われても……まぁ、勉強を好きでやってるって気持ちはわかるかも」

 知識をモノにする感覚って気持ちいいんだよな。
 すると、薬院のドアが開いて噂のロムルスくんが戻ってきた。
 人狼の姿で、重そうな本を大量に抱えていた。

「師匠の師匠、大師匠!! お久しぶりです!!」
「だ、大師匠……うん、久しぶり」

 本をテーブルに置き、人の姿に戻る。
 俺に頭を下げ、エルミナとルミナにも頭を下げた。
 そして、さっそくフレキくんの元へ。

「あの、師匠に質問が」
「なんだい?」
「ハクネ草の効能のことなんですけど……」

 ロムルスくんはぶ厚い本をめくる。付箋が貼られ、かなり使い込んだ本だ。
 小さいのに、よくこんなぶ厚い本読めるなぁ。
 フレキくんに質問し、答えをもらって満足したのかメモを取る。そして、本を片手に言った。

「ぼく、こっちで勉強していますので」
「うん。あの……こっちでお話しないかい?」
「いえ。大丈夫です。では」

 ロムルスくんはもう、俺たちを見ていなかった。
 机に向かい、本を開いて勉強を始めた。
 うーん……マジで勉強好きみたいだな。

「フレキくん。これは邪魔しない方がいいかも」
「そう、ですか……」
「まぁでも、少しは遊ぶ時間が必要か。よし……フレキくん、午後は暇かな?」
「はい。いちおう、休診ですけど……」
「じゃあ、みんなで森に行って薬草採取しに行こうか。フレキくん、温室で栽培した薬草だけで薬を作ってるでしょ? たまには外で薬草採取もしないと」
「あ、あの……なんで、温室だけの薬草で作った薬品だと?」
「棚の中にある薬品を見て思っただけさ」

 薬品棚を見て思った。
 ここにある薬は、通常使用するクスリばかりだ。怪我の化膿止め、血止め、栄養剤などがメイン。
 森の薬草を使った薬のレシピは渡してあるから作れるはず。
 フレキくんは、嬉しそうに微笑んだ。

「さすが師匠です……すごいです!!」
「あはは、そんなことないよ」
「じゃあ、午後は薬草採取に行きましょうか!!」
「ああ、よろしくね」

 さて、俺もロムルスくんとお話してみるか。

 ◇◇◇◇◇

 午後になり、全員で近くの山に薬草を採りにでかけた。
 エルミナ、ルミナも付いてきた。エンジュにフレキくん、護衛にマカミちゃんもいる。
 俺は本を片手にブツブツ言いながら薬草を見ているロムルスくんの元へ。

「や、ロムルスくん」
「大師匠!」
「あ、ああ。その大師匠ってのやめて欲しいな……アシュトでいいよ」
「では、アシュト様」
「うん。それでいいよ」
「ふわ……」

 ロムルスくんを撫でると、恥ずかしそうに首を振った。

「ロムルスくん、薬草採取は好きかい?」
「んー……どっちでもないです。でも、直に薬草を探すのは大変ですし、必要な薬草だけを栽培すればいいとも思います」

 合理的だな。
 まぁ、間違っていない。

「でも、世の中には栽培できない薬草もあるんだ」
「え?」
「例えば、これ」

 俺は目の前に生えていた雑草のような草を一本抜く。

「これは、雑草?」
「ああ。雑草にもちゃんと名前がある。これはツルユキっていう雑草でね、煎じればお茶になるし、冷え性に効くんだ」
「え、そうなのですか!?」

 ロムルスくんはメモを取る。そして、本のページをめくる。

「の、載ってないのです」
「あはは。ま、そうだよね、これは最近発見されたばかりのことだから」

 ビッグバロッグ王国で、シャヘル先生の描いた論文で初めて知ったことだ。

「しかもこのツルユキ……どうやって生えるのか、さっぱりわからない。花も咲かないし実や種も付けない。気が付いたら生えている。こればかりは、栽培できないんだ。だから、薬草採取が必要なんだ」
「………‥」
「本だけじゃ得られない知識もある。ロムルスくん……もっといろんな人と話して、いろんな知識を身に付けてごらん。俺も……ずっと勉強ばかりでさ、緑龍の村を作って、いろんな人とふれあって、初めて本当の薬師になれたと思ってる」
「……大師匠」

 また大師匠に戻ってるが、気にしないことにした。

 ◇◇◇◇◇

 それから数日後。俺は緑龍の村に届いた一通の手紙を読んでいた。

「ロムルスくん。村の子供たちと遊ぶようになったって」
「へー、よかったじゃん」

 エルミナが紅茶を飲みながら言う。
 ルミナは、俺に甘えながら言った。

「みゃうー、めんどくさいやつだな」
「そうかもな。でも……もう大丈夫だろ」
「にゃあ。お茶のお代わりー」

 ミュアちゃんがお茶のお代わりを注ぎに来た。
 甘えるルミナにちょっとだけムッとしたが、すぐにちゃんと仕事をする。
 ミュアちゃんみたいに、甘えつつもちゃんと仕事をするような子になれば、ロムルスくんももっと成長できるだろう。子供らしく、遊びながらも勉強をした方がいい。

「みゃうぅ、ごろごろ」
「もう、ルミナは甘えすぎー!」
「うるさいぞ。仕事しろ……ごろごろ」
「にゃうぅぅ!」

 さて、喧嘩が始まる前に、ミュアちゃんを甘やかそうかな。
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