継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
46 / 187
番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 天使たちのしゅぎょお2 〜 ノア4歳

しおりを挟む


「あ、あなた……っ」
「フッ」

ビリビリに破れたスカート、ボタンが飛んでいった胸元、ボサボサになった髪の毛……、それをわたくしのせいにしているということは……これは……っ

「あなたっ、もしかしてわたくしを追いかけてくる途中に、盛大に転びましたの!?」
「はぁ!?」
「何てことかしら!!」

わたくしが羽織っていたケープを肩にかけてあげ、「すぐ皇后様に連絡を取って客室をお借りしましょう!」とミランダにアイコンタクトを取り、注目している騎士たちから目隠しするようにご令嬢を支える。

わたくしが偶々ケープを羽織っていて良かったですわ。

「あなた、お怪我はございませんの? 侍女は連れてらっしゃらないの? 転んでびっくりなさったのでしょう。もう大丈夫ですわ。すぐに客室に案内してもらいますからね」

ボサボサになった髪を直すように、頭を撫でる。

15歳だものね。きっと盛大に転んで、恥ずかしさと心細さでわたくしを追いかけて来たのだわ。

「ち、ちが……っ」
「ドレスならお借りする事も出来ると思うの。髪も整えてもらいましょう。あらあら、泣かないでちょうだい」
「うぅ……っ、ど、どぉしてぇ?」

子供のように泣き出したご令嬢を抱きしめて、涙を拭ってあげる。
その間にミランダが城のメイドを連れて来てくれて、客室へと案内してくれた。

ご令嬢を支えながら移動している時、テオ様がこちらに向かって来ていたが、首を横に振って、来なくて大丈夫ですわとアイコンタクトしておいたので、子供たちの「しゅぎょお」を続けてくれるだろう。



「───……ぐすっ、申し訳、ありませんでしたぁ……」

客室でメイドに髪やドレスを整えてもらったご令嬢は、ぐすぐすと鼻をすすりながらわたくしに謝罪した。

「まぁ、よろしいのよ。皇城で盛大に転んでドレスが破れてしまうなんて、どれほど心細かったか……、わたくの注意も少し厳しかったですわよね。怖がらせてしまってごめんなさいね」

わたくし、悪女顔ですものね。
きっと、あの後怖くなって動揺していて転んでしまったのかもしれませんわ。

「ちがぅんですぅ……っ、本当に、申し訳ありません! ディバイン公爵夫人が、ぐすっ、こ、こんなに、やざじく、してくださると、お、思ってなぐで……っ」

せっかく涙も収まっていたのに、また泣いてしまいましたわね。

「わ、わたじ、失礼な態度、とってしまって……っ、そ、それに……ドレスも、公爵夫人のせいに、し、しちゃって……っ、ごめんなさい!!」

うわぁんと小さな子供のように泣くご令嬢に、城のメイドも驚いている。

「あらあら、ほっとしたら涙が出てしまいましたのね」

抱きしめて、背中をポンポンしてあげると、徐々に落ち着いてきた。

この子はまだ、精神面が幼いのだわ。でも、素直にごめんなさいが出来るのだもの。きっと素敵なレディになりますわね。

「大丈夫ですわ。デビュタントしてからずっと、気を張って来たのでしょう」
「うぅ……っ、違うんですぅ~!」

ご令嬢が首を横に振り、わたくしに必死に何かを伝えようとするが、鼻水が垂れているのが気になり、ハンカチで拭ってあげた。

「ありがとうございます……。あの、実は……最近お父様が、お仕事が忙しい事を理由に家に帰って来なくなって……っ、そしたらお母様が……“わたくしは、ディバイン公爵夫人のように自立いたしますわ! 離婚よ!!”って言い出して……っ、だから、公爵夫人に少し意地悪して、お父様を困らせてやろうって思ったんですぅ……っ」

あら、じゃああの失礼な態度は、わざとしていたんですのね。

それにしても、ハリス侯爵夫妻……完全にわたくしたち夫婦の被害者ですわよね。
ハリス侯爵は、頭が薄くなるまでテオ様に扱き使われて、奥様は何故かわたくしのように自立……って、わたくし、テオ様を頼りに生活しておりますから、自立出来ているのかどうかは分かりませんが、多分お仕事がしたいって事ですわよね?

ともかく、何とかしないと、ハリス侯爵が離婚されてしまいますわ!

「あなた、えっと……ハリス侯爵の娘さんなら、一人娘のカレンデュラ様、ですわよね?」

貴族名鑑にはそう載っていたはず。

「あ、はいっ、名乗りもせず失礼いたしましたぁ! 私、ハリス侯爵の娘で、カレンデュラ・メイ・ハリスと申しますぅ」

本当はそういう喋り方ですのね。可愛らしいわ。

「わたくしは、イザベル・ドーラ・ディバインと申します。よろしくお願いいたしますわ」
「はい!」

嬉しそうに頷くカレンデュラ様は、最初とは別人のように可愛らしい。

「カレンデュラ様、ハリス侯爵がお家にお帰りになれない原因は、わたくしの夫にもございますの」
「え?」
「わたくしの夫が、ハリス侯爵を頼りにしておりますから、お仕事を割り振ってしまって、お忙しいのです」
「そうだったんですか……私、今日は父の様子を見ようとこっそりやって来たんです。もしかして、浮気してるんじゃないかって思って……」

ハリス侯爵! 娘に浮気を疑われていたとは……っ、テオ様が申し訳ない事をしてしまいましたわ。

「大丈夫です。ハリス侯爵は浮気なんてしておりません。でも……侯爵夫人との仲直りは必要ですわね……」
「はい……」

しょぼんとするカレンデュラ様が可哀想で、罪悪感が湧き上がる。

「分かりましたわ! わたくしにお任せください。ご両親を仲直り……いえ、以前よりももっと仲良くさせてみせますわ!!」
「えぇ!?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


「おかぁさま、いないの……」
「さっきまで、あそこのベンチに、いたはずなのに……あっ! もしかしたら、おはなをつみに、いったのかもしれない」
「おはな?」
「いぜん、ははうえがいっていた。じょせいは、よくおはなを、つみにいくのだと」
「おかぁさま、おはなだいすきよ!」
「うむ! きっと、たくさん、おはなをつんで、もどってくるから、たのしみにまっていよう!」
「はい!」

※「お花を摘みに行く」→お手洗いに行くの隠語として、皇后様は使っています。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...