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その他
番外編 〜 劇団のその後 〜
しおりを挟む「そこはモンスターが逃げ出した美女を追いかけていって、他の魔物から助けるシーンなんだから、もっと臨場感出して!!」
「「「はい!!」」」
「もう一度最初から!!」
「「「はい!!」」」
私たち劇団員の練習は過酷だ。
中でも主役を張る者の練習量は、あの汗の水溜りを見れば一目瞭然だろう。
けれど、そうまでしても、お客様に素晴らしい舞台をお見せしたい。その一心で、公演に向け練習を重ねるのだ。
小さな劇団は本来、特定の場所に長居はしない。もちろん私たちの劇団でもそれは変わらず、短期間の公演で全国を巡っていく。ロングラン公演など夢のまた夢。人気のある一部の大劇団にしか出来ない事だ。
そのはずだった。
5年前、ディバイン公爵領に立ち寄るまでは。
「今日はこの後、楽団との合同練習だからね! 気合い入れなさい!! なんたって、ディバイン公爵夫人が見学にお越しになるんだから!!」
「ディバイン公爵夫人が!?」
「この作品の生みの親であるあの、公爵夫人が来る……っ」
「また、監督してくれるのかしら!?」
「新たな話を作られているかもしれない!!」
「それなら音楽だって!」
団員たちが騒ぎ出したので、手を叩き、「あなたたち、静かになさい!」と声を上げる。
「私たちは、ディバイン公爵夫人が認めてくださった特別な劇団なのよ! 練習とはいえ、あの方に無様なものは見せられないでしょう!」
「「「はい!!」」」
そう、私たちはディバイン公爵夫人が直々に選んでくださった、誇り高き劇団“輪舞”。
世界で初めて、オペラとは違う、“ミュージカル”を生み出した劇団なのだから。
◇◇◇
「───ディバイン公爵夫人、お久しぶりでございます」
「団長、帝都でのロングラン公演おめでとうございます! 劇団輪舞の舞台はとても面白いと大評判だそうですわね!」
「これも全て、ディバイン公爵夫人のお陰です」
女が劇団の団長だと、興行中に何度侮られた事か。
「まぁ、元々評判の良かった劇団ですもの。わたくしが交流会でお声を掛けなくとも、大人気になっておりましたわ」
ディバイン公爵夫人は、そう言ってくださるが、女性という弱い立場の者が、この男社会でやっていくのは大変だ。公爵夫人がいなければ、きっと私たちのようなちっぽけな劇団は、大きな劇団に潰されていただろう。
何しろ、夫人が声をかけてくださる少し前から、帝都で人気の劇団から目の敵にされていたのだ。
「今回のディバイン公爵領では、“美女とモンスター”のミュージカルをしていただけると聞いておりますわ! 領民も皆楽しみにしておりますのよ!」
「光栄でございます!! 我々も、ディバイン公爵領(ホーム)で、こうして夫人の物語を演じる事が出来、夢のようです! それに、お借りできる舞台の素晴らしい事!!」
そう、今回新築されたという舞台は、王侯貴族のダンスホールをイメージさせるような、重厚感漂う華麗な造りの内装だが、それだけでなく、観客に音を美しく届けられるよう工夫されているらしい。
そして、舞台が回転し、舞台転換が素早く行う事のできる装置まであるのだ。大道具が急いでもお待たせしてしまうあの場面転換が、事前にセットしておける上、大規模で緻密なセットまで用意出来る利点がある。
我々劇団にとって、こんな素晴らしい舞台はない。
「喜んでいただけて良かったですわ。わたくしも初日の舞台を、旦那様と子供たちと一緒に楽しませていただきますわね」
「はい!! 夫人、お時間があれば、是非練習をご見学ください!」
「まぁ、よろしいの?」
「もちろんです! むしろ夫人に見ていただけるかもと、皆楽しみにしていたのです!」
「フフッ、ありがとう存じますわ」
はぁ……夫人の美しさは、普段造形の整った女優たちを見慣れている私すら、目が覚めるようだ。
「もし、ご助言などもございましたら、よろしくお願いいたします」
「プロの方に助言など……」
「何を仰るのですか! 夫人はミュージカルの発案者。そして一番最初の監督兼演出家兼作曲家ではありませんか!」
本当に、ディバイン公爵夫人でなければ、劇団にお迎えしたいくらいだ。
「あの時は素人の提案に、嫌がる素振りも見せず付き合っていただき、ありがとう存じましたわ」
などと謙虚な事を仰って、私たちの練習を見学していってくださったのだ。
モンスターを退治しにくる村人のリーダーは、今のイケメンを前面に盛ったものより、もっと自信満々なナルシストな感じがの方が良いと言われ、その通りに変えると、とてもしっくりきたので、さすが夫人だと心の中で拍手をおくったほどだ。
こうして久々に、ディバイン公爵領での公演初日を迎えた。
舞台は満員御礼で、早朝から長蛇の列が出来、回転舞台のお陰で、迫力あるものをお客様にお見せする事が出来たのだ。
しかし、私たち俳優よりも人気で、一番人混みが出来ていたのは、ディバイン公爵家のご一家だという事は間違いないだろう。
貴族でなければ、皆様を劇団にお迎えしたいものだ。
そんな事を思いながら、ディバイン公爵領でのロングラン公演をやりきった私たちは、次の新たな演目の練習に入ったのだった。
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