10 / 187
その他
番外編 〜 大工イフさんの場合 〜
しおりを挟むオレの名前はイフ。しがねぇ工務店の店主をやってた。
そう、工務店の店主だったんだよ。オレぁ……。
「社長、本日の予定は十時より社内会議、その後ベル商会、商会長との会食、十四時からは現場視察で十五時には本社へ戻っていただき、ディバイン公爵家の執事長との打ち合わせ、その後は夕食を兼ねたパーティーに出席、となっております」
「わかった……」
それなのに、今じゃ秘書を何人も持つ大手建設会社の社長だ。
多分、帝国でもトップ30には入る金持ちだろう。
「はぁ……、一体何がどうなってこんなことに……」
それもこれも全部、あのお嬢様との出会いから始まったんだ。
イザベル・ドーラ・ディバイン───……
『あなたがここの店主ですの?』
『息子のおもちゃを作ってほしいのですわ』
そう言って、ウチの工務店を訪れたお嬢様は、貴族嫌いのオレをその手腕で見事に懐柔し、雨季や怪我で仕事に有りつけねぇ仲間たちに、手を差し伸べてくれた。
そして、オレらの仕事を認めてくれたお嬢様は、公園開発事業や、ショッピングモール開発、レール馬車の駅やレールの開発など、様々な仕事を紹介してくれるようになった。
いつの間にか仲間が増え、仕事が増え、街の発展に、いや、国の発展に携わることができて、楽しくて嬉しくて、時間があっという間に過ぎていた。
気が付きゃオレも、もう40過ぎだ。
「お嬢様にゃ、本当、驚かされる事ばかりだぜ……」
公園開発と同時進行だったレール馬車、新素材の変な形の棒をずっと地面に並べてどうすんだと思っていたが、まさかその上に馬車を走らせるとは思わなかった!
しかも、あんなデケェ馬車を結構なスピードで走るんだぜ!? ありゃヤベェもん作っちまったなと思ったさ。
軍事利用してくれって言ってるようなもんだしな。
まぁ、お嬢様の旦那がそれを許すわけはねぇんだろうが。
そういやぁ、他国もアレを真似て作ったはいいが、新素材じゃねぇからメンテナンスをこまめにしねぇといけねぇわ、軍事利用するにゃ、国中にレールを整備しねぇといけねぇわで、金がいくらあっても足りねぇから断念したって聞いたな。
なのに、お嬢様はその金食い虫のようなもんで、利益を出してるってんだから、天才だ。
レール馬車のお陰で雇用も増えて、物流も改善され、盗賊に襲われることも激減したってんだから大したもんだよ。
それに、ショッピングモール。
これも画期的で、一つのデケェ建物の仲に、商店街が丸々入っちまったような便利な店だ。
このショッピングモールが出来たからといって、商店街が廃れたかというとそうでもねぇ。
何故なら、ショッピングモール内で売っている商品と、商店街で売っているものは全然違うからだ。
簡単にいえば、ショッピングモールは贅沢品、商店街は実用品という具合に、お嬢様曰く、差別化を図っているのだとか。
何よりすげぇのは、建物の造りだ。
工務店の社長としては、お嬢様の頭の中を覗いてみてぇほど、今までにないもんだった。
とにかく、お嬢様はすげぇ。
その一言に尽きる。
オレは、本当はこんな偉ぇ立場は似合わねぇが、お嬢様の理想の未来にゃ興味があんだよなぁ。
多分、あの人が考える未来は、もっとすげぇはずだ!
「社長、一週間後に、ディバイン公爵夫人より面会の希望が入っておりますが、いかがいたしましょうか。この日はすでに取引先の社長との打ち合わせが入っていますが」
「あぁ!? お嬢様の連絡は最優先事項だっていつも言ってんだろうがよ」
「承知いたしました。それでは、打ち合わせはキャンセルいたします」
「ああ、そうしてくれ」
さて、お嬢様が今回はどんな驚きの提案してくれるのか、楽しみだ。
2,181
お気に入りに追加
8,334
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

義妹が私に毒を盛ったので、飲んだふりをして周りの反応を見て見る事にしました
新野乃花(大舟)
恋愛
義姉であるラナーと義妹であるレベッカは、ラナーの婚約者であるロッドを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるレベッカが一方的にラナーの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、ラナーの事が気に入らないレベッカは、ラナーに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる