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第二部 第2章
342.みんなで行く? 〜 テオバルド視点 〜
しおりを挟むテオバルド視点
「旦那様、先ほどの雷はどうやら、貴族街と皇城を繋ぐ道に落ちたようです」
近くに落ちたと思ってはいたが、目と鼻の先ではないか。
ウォルトの報告を聞き、眉間に皺が寄る。これではまた、ベルに眉間をマッサージされそうだ、と考え、あの優しい指を思い出し口の端が上がる。
それにしても、かなり大きな音だったが……、ベルたちは怖がっていないだろうか。
「被害は出たのか?」
「運悪く、近くを馬が走っていたようで、騎乗者が落馬し、診療所へ運ばれたようです」
「……悪天候の中、皇城から、もしくは皇城に向かって馬を走らせていただと?」
「そのようです」
まさか、早馬を飛ばしていた……?
「……ウォルト、その騎乗者についての動向を調べろ」
「かしこまりました」
細かい事かもしれないが、気になったものはすぐ調べるようにしている。
暫く後、影から報告が入ったらしいウォルトが、真剣な顔をして私の前に立った。
「……旦那様、落馬した者ですが、オリヴァー様が旦那様宛に出された緊急の報せを届ける為に、早馬を飛ばしていたと発覚しました」
「何だと?」
オリヴァー殿に、何かあったのか!?
思わず立ち上がると、そこへ侍従が入って来る。
「旦那様、奥様がお話されたい事があるようで、お越しになっています」
「ベルが? すぐに通してくれ」
やはり、オリヴァー殿に何かあったのかもしれん。どうも嫌な予感がする……。
「テオ様、お仕事中に申し訳ありませんわ」
何度も見てもハッとするような美しい妻が、遠慮がちに扉の近くへ立ったままこちらを見るので、光に引き寄せられる虫のように、足が勝手に向かってしまう。
「いや、君ならいつ来ても歓迎する。それよりもベル、慌てているようだが、何かあったのか……ん? ノアとぺーもいるのか」
ベルの足元にはノアが、後ろには、マディソンに抱き上げられたぺーがいた。その隙間を縫って妖精たちが勝手に入ってくる。
また厄介事を持ち込んだか……。
子供たちとマディソンも部屋に入れると、ベルが口を開く。
「テオ様にはお見通しのようですわね……。実は───」
ドニーズの足取りが教会で途切れ、オリヴァー殿が教会へ向かったのだ、とベルが話してくれたのだが、ドニーズが狙われたという事は、やはりフローレンスが聖女だと、枢機卿は気付いているのだろう。
なるほど。奴の特異魔法が何か、わかった気がする。一つ引っ掛かるのは雷だが……。
「テオ様?」
「……わかった。私が教会へ行ってこよう」
「え!? テオ様が直接教会へ乗り込むのですか!?」
「ああ。大司教の見舞いとでも言っておけば理由になるだろう」
「ぅりぇ、お! ぺぇちゃ、みょ!」
ぺーが大司教という単語にすぐさま反応するが、ぺーを連れて行くわけにはいかない。
「おとぅさま、わたちも、いく!」
「ぺぇちゃっ、ぺぇちゃ、みょ!」
「えぇ!? ノアもぺーちゃんも、何があるかわかりませんのよ。ここはお母様に任せて、お留守番をお願いいたしますわ」
「おかぁさま、めっ」
「みゃ!」
「子供たちに怒られてしまいましたわ……っ」
少し頭痛がするんだが……。
『みんなで、いくー!!』
「却下だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ シモンズ伯爵タウンハウス ~
「とぅた、まぁだ?」
今までおもちゃに夢中だったフローレンスは、ふと顔を上げ、つい先日ならお世話をしてくれている女性の顔を見る。
「フローレンスちゃん、ドニーズさんはまだ帰ってきていないの」
「にぃにも、ないの」
先程まで一緒に遊んでいたオリヴァーもいない事に、不安になったのか、立ち上がりウロウロし始める。
「オリヴァー様も教会に行ったみたいなの」
「しゃみちぃ……」
寂しいと涙目になったフローレンスは、キョロキョロと周りを見て、何かを探しているようだ。
女性は、オリヴァーやドニーズを探しているのだろうと頷くと、「寂しいよね……あ、そうだ! フローレンスちゃんがお父さんとオリヴァー様を迎えに行ってあげるのはどうかな?」などとおかしな提案をするではないか。
しかし、ここにそれを不審に思う使用人はいない。なぜなら、ここはフローレンスの部屋で、今は女性と二人きりだったからだ。
「! ぁい。ふりょ、とぅた、にぃに、おむかぁ、しゅりゅ!」
「じゃあ、お姉さんと一緒に教会へ行きましょう」
「ぁーい」
大好きな二人を迎えに行けると、フローレンスはにこにこと笑い、女性と手を繋いで部屋から出たのだ。
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