継母の心得

トール

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第二部 第2章

343.ノアの決意

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「ドニーズと妖精の卵が消息を絶った場所へ行くのだから、幼いお前たちを連れて行くわけにはいかないだろう。それに、外は大雨だ。危険も増す」

ベルも皇宮で待機していてほしい、とテオ様は言うが、わたくしはテオ様も心配ですのよ。

『え……な、何でフローレンスが外に出てるの!?』

その時、正妖精が真っ青な顔で叫んだのだ。

「フロちゃんがどうしましたの!?」
『大変だ! 誰かが、フローレンスを外に連れ出した!!』
「フロちゃんが……誘拐!?」

ドニーズさんが教会で消息を絶ち、聖女であるフロちゃんが誘拐された……っ

「早くフロちゃんを助けなくては!」

どうしましょう!? フロちゃんは教会に向かっておりますのよね!? これは、教会で待ち伏せするのが良いのかしら!? 今頃、フロちゃんは泣いているかもしれませんわ……っ

隣にいるノアを見ると、ノアが誘拐された時を思い出して胸が痛む。

「ベル、落ち着くんだ」
「ですがテオ様……っ」

フロちゃんの正体がバレていたとしたら、何をされるか……!

『た、大変だ! ボク、すぐにフローレンスの所へ戻るよ!』

そう言い残して消えた正妖精に、胸騒ぎを覚える。

「テオ様……っ」
「どうやら、フローレンスが聖女だと知られているようだ」
「ぅりょ……、ぅりょ、っちゅ!?」

ぺーちゃんが目をまん丸にしているけれど、きっと、ノアのおともだちのフロちゃんは大丈夫なの!? と心配していますのね……。優しい子ですわ。

「わたくし、皇后様の所へ行ってきますわ」
「ベル、もしフローレンスが聖女だと知られているなら、命の危険はない。だから君が無茶をするような事は止めてくれ」
「テオ様、わたくしノアの一件で思ったのです。命の危険がないとしても、その時に感じた恐ろしさは、ずっと残り続けるのだと」

ノアは、あの後わたくしたちの前では元気に振る舞っていますけれど、時々うなされていますのよ。涙を流す事だってあって……そんなノアを見るたび、悔しくて、悲しくなりますわ。だから決めたのです。もう二度と、子供たちの心を傷つけさせたりしないと!

「フロちゃんは、ノアにとってもわたくしにとっても、大事な子です」
「ベル……わかっている。君の大事な人は私も大事にしたいと思っているんだ」

テオ様はわたくしの両手をその手で包むように握る。温かくて優しい手だ。

「おとぅさま、おかぁさま、わたちアオと、フロちゃんのところ、いく!」

ノアが心を決めたように、わたくしたちの服の端を掴む。

「え……ノア、何を……」
「おかぁさま、わたち、てんいできる!」
「ノア、お前がフローレンスを転移で連れ帰ると言うのか」
「はい!」

凛々しい顔をしたノアは、テオ様にそっくりで、こんな時でなければ感動的だったと思うのだけど……

「そんな危ない事、ノアにさせるわけにはいきませんわ!」
「おかぁさま、わたち、フロちゃん、おたしゅけちたいの」
「ノア……っ」
「だってね、わたち、おかぁさまのきちよ」

まっすぐわたくしを見るノアは、まさに騎士のような清廉さと、正義感を併せ持ち、力強い眼差しをしていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あめ、じゃ、じゃー」

玄関を開けると土砂降りで、フローレンスは足を止め、空を見上げた。

「ドニーズさんはこの雨で困っているかもしれないわ。早く教会へ迎えに行ってあげましょうね」
「ぁーい」

女性がドニーズが待っているだろう話をすると、フローレンスはそうだった、という顔をしてうんうんと頷く。

「あなたが乗る馬車は、門の外にあるから、濡れないように抱っこしてあげる」
「らっこ!」

傘をさしてフローレンスを抱き上げた女性は、そのまま足早に庭を突っ切って門の外に待たせていた馬車へと乗り込んだのだ。


「───ねぇ、あの新人さん、いつから入ってたんだっけ?」
「え? 新人なんて入ってないわよ?」
「じゃあ、さっきフローレンスちゃんと一緒にいた女性、誰なの……?」

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