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葉書、まで

葉書

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 動物病院から、葉書が届いた。
 雪さんのワクチン注射を今月中にしてください、というリマインドだ。
 初めて健康診断に行ったとき、会からもらったワクチン接種の証明書を見せたので、注射から一年後をお知らせしてくれたのだ。
 あれから、もう半年以上も経つのか。
 そうか、マイクロチップも埋めてもらわないと。
 でも、注射に、更に太い注射針でマイクロチップって、嫌われそうだ。
 いやいや、今の僕らの絆であれば、大丈夫、なはず?

「はいー、大丈夫ですよおー」
 中年坊主頭の獣医が、助手が押えている雪さんをすっごい低姿勢で診察している。
「体重は、変わりないですね。粗相も治ったようですし、お尻もよさそうですし、」
 覗き込む、と雪さんが、ものすごく不快を表す声を出したので、平謝りする先生。
「すみません、すみません。それでは、ワクチン注射と、マイクロチップを施術します」
 マイクロチップは在庫がない可能性があるから事前予約、と言われていたのを、すっかり忘れていたが、幸い在庫は、あった。
 空いていたからだろう、なんてもう言えない。
 以前に比べる、と各段に混んでいた。
 (もちろん病気の動物がいないに越したことはないけど)混んでよかったね。
 金属のトレーに、注射器と注射器が、置かれていた。
 うわ、針太い、ちょっと引く。
 助手さんが押さえて、
「まず、ワクチン注射を脚にします」
 フトモモに、注射。
 雪さんは、小さく、「にゃ」と鳴いた。
 助手さんが、更にぎゅっと押さえて、
「次に、背中に、マイクロチップです」
 雪さんが、「しゃー」と唸った。
 白い毛に、血が滲んでいるのを、脱脂綿で拭う。
 触るなオラーと、しゃーしゃー言う雪さん。
 マイクロチップ・リーダーの輪っか部分を背中に近づけると、ピっと音がして、十五桁の数字が読み取れた。
 やんのかオラー、と雪さんは、臨戦態勢だ。
「すみません、すみません。血液検査をやるにしても、今度にした方がいいですね」
 うん、僕もそう思う。

 お金を払うと、ワクチン接種証明書とマイクロチップの登録番号を渡された。
 チップの番号登録書は、病院が申込み先に送ってくれるとのこと。
 でも、引っ越ししたら、登録変更は、自分でやらないといけない。
 今のところ予定はないけど、店失敗したら、住所変わるかも・・・
 一番大事なのは、番号登録に数日かかるので、その間に、もし脱走してリーダーで番号がわかっても、飼い主情報は空欄ということだ。
 マイクロチップ入れた帰りに脱走、チップ無意味なんて、笑えない。
 時期ということで、カレンダーをもらえたので、笑顔。
 犬版と猫版があり、もちろん猫だ。
 譲渡会で買ったカレンダーもあるから、猫カレンダーが、いっぱいだ。

 部屋に帰る、と疲れたのか、雪さんは、僕のベッドで寝てしまった。
 嫌われたかな、と恐る々々そばに寄るが、チラと見ただけで、逃げなかった。

 ワクチン接種証明書のコピーと、ワクチンの負担金の領収書に、戻り金は寄付します、と書いて、譲渡会に送った。
 ワクチンもして、マイクロチップもして、譲渡会に報告もしてなんだか、より家族になった気がする。
 一眠りして、元気になった雪さんに、缶詰を出した。
(ツナ缶と安い猫缶は見ないふり)
 その器と、ハレの日仙人を注いだグラスで、乾杯した。

 来年も、同じ時期に注射なので、忘れないように動物病院からの葉書(来年も時期になれば届くけど)と、マイクロチップの番号をコルクボードに留めた。
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