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涙の施設実習
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しおりを挟む夜勤業務は主に、夕食から寝かしつけまでと、翌朝の起床から登校までの時間を子どもたちと過ごす。今は夏休み中なので、登校するのは部活がある児童だけだ。
夕食後、聖がプレイルームに行くと、奥に敷かれた絨毯の上で、小学生が数名頭を突き合わせ、ボードゲームを楽しんでいた。その中に茜の姿もある。
「あ、聖くん」
聖に気付いた茜が、嬉しそうに名前を呼ぶ。
茜に続き、他の児童も「聖くんだ」と瞳を輝かせた。
聖は女子児童から『聖くん』と呼ばれている。『政にぃ』と呼ばれ一目置かれている政宗とはえらい違いだが、本人は特に気にする素振りはない。
「みんな何してたの?」
にっこり微笑み、聖は輪の中を覗き込んだ。
それは、昔流行った双六ゲームだった。
「あたしね、デザイナーになったの」
「私はお医者さん」
皆口々に、ゲーム上での職業を我先にと聖に話して聞かせた。
「聖もやるか?」
その中の男児が、聖を誘った。
さすがに男児は『聖くん』とは呼ばない。
「んー……。でも途中みたいだから、それが終わってからでいいよ」
「そっか。じゃ、また後でな」
男児がルーレットを回し始めた。
――まただ。
突然背中に刺すような視線を感じ、聖は後ろを振り返った。
少し離れたテーブル席に、一人の男児が座っている。
高藤海里。小学六年生の男の子だ。
海里は入所して間もない少年で、これといった仲間もいなく、いつも一人で本を読んでいる。
特に仲間外れにされている訳ではなく、自ら一人を選んでいるようだ。
常に周りに壁を作り、他者との関わりを遮断している。
他の児童もそんな彼の世界を壊すことなく、必要最低限の関わりしか持たないようにしている。
ここにいる者は皆、心に何かしらの傷を負っている。お互い深く追求しないのが、ここでの暗黙のルールなのだ。
聖の視線に気付くと、海里は慌てて本を閉じ、プレイルームから出て行ってしまった。
「あ……」
追いかけようとして、踏みとどまった。
海里のしつこくまとわりつくような視線は、今に始まったことではない。
実習初日からずっと、海里は聖を目で追っていた。
塗り絵をしている時。鬼ごっこをしている時。食事をしている時。勉強を教えている時。
気がつくとそこには、海里の視線があった。
切れ長の大きな瞳をきつく尖らせ、聖の一挙手一投足を少しも逃すまいと追いかけてくる。
その目は、憎い敵に復讐するようでもあり、不遇の者を憐むようでもあった。
まるで心の奥底を覗き込まれているようなその眼差しに、聖は何とも言えぬ居心地の悪さを覚えるのだった。
その視線の意味を知りたくて、何度か問い詰めたことはあるが、その度に海里は「なんでもない」と言って口を噤んでしまうのだった。
今日は夜勤で、時間はたっぷりある。
今日こそ真相を突き止めようと立ち上がろうとした時。
「次、聖も参加する?」
先程の児童に声を掛けられた。
既にゲームは終わっていて、二回戦に突入する者がゲーム上の金を集めたりチケットを整理したりしている。
飽きて他の遊びに移る児童もいる中、茜を含めた三人の児童が二回戦の準備に取り掛かっていた。
「あ……。ああ、そうだな。やろっかな」
浮かせ掛けた腰を再び下ろし、聖は駒を選び始めた。
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