31 / 100
涙の施設実習
4
しおりを挟む夜勤業務は主に、夕食から寝かしつけまでと、翌朝の起床から登校までの時間を子どもたちと過ごす。今は夏休み中なので、登校するのは部活がある児童だけだ。
夕食後、聖がプレイルームに行くと、奥に敷かれた絨毯の上で、小学生が数名頭を突き合わせ、ボードゲームを楽しんでいた。その中に茜の姿もある。
「あ、聖くん」
聖に気付いた茜が、嬉しそうに名前を呼ぶ。
茜に続き、他の児童も「聖くんだ」と瞳を輝かせた。
聖は女子児童から『聖くん』と呼ばれている。『政にぃ』と呼ばれ一目置かれている政宗とはえらい違いだが、本人は特に気にする素振りはない。
「みんな何してたの?」
にっこり微笑み、聖は輪の中を覗き込んだ。
それは、昔流行った双六ゲームだった。
「あたしね、デザイナーになったの」
「私はお医者さん」
皆口々に、ゲーム上での職業を我先にと聖に話して聞かせた。
「聖もやるか?」
その中の男児が、聖を誘った。
さすがに男児は『聖くん』とは呼ばない。
「んー……。でも途中みたいだから、それが終わってからでいいよ」
「そっか。じゃ、また後でな」
男児がルーレットを回し始めた。
――まただ。
突然背中に刺すような視線を感じ、聖は後ろを振り返った。
少し離れたテーブル席に、一人の男児が座っている。
高藤海里。小学六年生の男の子だ。
海里は入所して間もない少年で、これといった仲間もいなく、いつも一人で本を読んでいる。
特に仲間外れにされている訳ではなく、自ら一人を選んでいるようだ。
常に周りに壁を作り、他者との関わりを遮断している。
他の児童もそんな彼の世界を壊すことなく、必要最低限の関わりしか持たないようにしている。
ここにいる者は皆、心に何かしらの傷を負っている。お互い深く追求しないのが、ここでの暗黙のルールなのだ。
聖の視線に気付くと、海里は慌てて本を閉じ、プレイルームから出て行ってしまった。
「あ……」
追いかけようとして、踏みとどまった。
海里のしつこくまとわりつくような視線は、今に始まったことではない。
実習初日からずっと、海里は聖を目で追っていた。
塗り絵をしている時。鬼ごっこをしている時。食事をしている時。勉強を教えている時。
気がつくとそこには、海里の視線があった。
切れ長の大きな瞳をきつく尖らせ、聖の一挙手一投足を少しも逃すまいと追いかけてくる。
その目は、憎い敵に復讐するようでもあり、不遇の者を憐むようでもあった。
まるで心の奥底を覗き込まれているようなその眼差しに、聖は何とも言えぬ居心地の悪さを覚えるのだった。
その視線の意味を知りたくて、何度か問い詰めたことはあるが、その度に海里は「なんでもない」と言って口を噤んでしまうのだった。
今日は夜勤で、時間はたっぷりある。
今日こそ真相を突き止めようと立ち上がろうとした時。
「次、聖も参加する?」
先程の児童に声を掛けられた。
既にゲームは終わっていて、二回戦に突入する者がゲーム上の金を集めたりチケットを整理したりしている。
飽きて他の遊びに移る児童もいる中、茜を含めた三人の児童が二回戦の準備に取り掛かっていた。
「あ……。ああ、そうだな。やろっかな」
浮かせ掛けた腰を再び下ろし、聖は駒を選び始めた。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる