きんだーがーでん

紫水晶羅

文字の大きさ
上 下
30 / 100
涙の施設実習

しおりを挟む

 バスケ対決の噂は瞬く間に広がり、政宗は中高生男子の間で憧れの存在となった。
 また、地元ではトップレベルの高校を目指すほどの頭脳の持ち主の政宗は、勉強の教え方も上手く、家庭教師的な役割も担っていた。
 施設内を歩けば常に周りを取り囲まれ、いつも子どもたちの中心にいた。

「政宗、大人気じゃん」
 その日の実習を終え部屋に戻った政宗に、先に戻っていた聖が声を掛けた。
「お前だってモテモテだろ?」
 洗い籠からマグカップを二つ取り出し、政宗がニヤリと笑った。

 実習生の居室には、簡易キッチンが備え付けてある。
 ここでお湯を沸かして、持参したお茶やコーヒーなどを自由に飲んで良いことになっている。
 カップはもちろん自前だ。
 黒一色のシンプルなマグカップと、ブランドロゴの入った茶色のマグカップにそれぞれインスタントコーヒーの粉末を入れ、政宗はそこにポットのお湯を注ぎ込んだ。

 ふわりとコーヒーの芳ばしい香りが立ちのぼる。
「茜ちゃんだっけ? お前にベッタリじゃん」
 両手にマグカップを携え、政宗は聖の方を振り返った。
「羨ましい?」
 座卓に頬杖をつき、聖がくしゃりと笑った。
「そうだな。俺がまだ十歳若かったらな」
 皮肉な笑みを浮かべ、政宗は聖の前にロゴ入りのマグカップを置いた。

 聖は、初日に茜と仲良くなったのをきっかけに、小中学生と接する機会が多くなった。
 見た目の柔らかさも手伝ってか、聖の周りには常に女児がまとわりついている。
 座って塗り絵やお絵描きなどしている聖にもたれかかったり、抱きつくようにして膝の上に乗ってきたりと、皆かなり積極的だ。

「俺、変なフェロモン出てんのかな?」
 クンクン鼻を鳴らし、聖が自分の腕や胸元の匂いを嗅いだ。
「知るかよ」
 コーヒーを一口飲むと、政宗はバッグの中から実習日誌を取り出した。
「そういや聖、明日夜勤だろ?」
「うん」
 同じく実習日誌を座卓に広げ、聖が答えた。

 施設では、通常勤務の他に、早番、遅番、夜勤がある。実習生も一応、それらの勤務を一通り経験することになっている。

「どんな感じか、あとで教えろよ」
「オッケー」
 政宗の夜勤は、聖が終わった翌日だ。事前に情報を仕入れておけば、少しは不安な気持ちも和らぐ。
 自分が先じゃなくて良かったと、政宗は密かに安堵した。

「夜勤かぁ。どんなことするんだろ? 楽しみだなぁ」
 ペンケースから筆記用具を取り出し、聖が独り言のように呟いた。
「お前はいいな。能天気で」
 聖の顔をチラリと見たあと、政宗は、実習日誌に視線を落とした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

女子小学五年生に告白された高校一年生の俺

think
恋愛
主人公とヒロイン、二人の視点から書いています。 幼稚園から大学まである私立一貫校に通う高校一年の犬飼優人。 司優里という小学五年生の女の子に出会う。 彼女は体調不良だった。 同じ学園の学生と分かったので背負い学園の保健室まで連れていく。 そうしたことで彼女に好かれてしまい 告白をうけてしまう。 友達からということで二人の両親にも認めてもらう。 最初は妹の様に想っていた。 しかし彼女のまっすぐな好意をうけ段々と気持ちが変わっていく自分に気づいていく。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

処理中です...