きんだーがーでん

紫水晶羅

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涙の施設実習

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 バスケ対決の噂は瞬く間に広がり、政宗は中高生男子の間で憧れの存在となった。
 また、地元ではトップレベルの高校を目指すほどの頭脳の持ち主の政宗は、勉強の教え方も上手く、家庭教師的な役割も担っていた。
 施設内を歩けば常に周りを取り囲まれ、いつも子どもたちの中心にいた。

「政宗、大人気じゃん」
 その日の実習を終え部屋に戻った政宗に、先に戻っていた聖が声を掛けた。
「お前だってモテモテだろ?」
 洗い籠からマグカップを二つ取り出し、政宗がニヤリと笑った。

 実習生の居室には、簡易キッチンが備え付けてある。
 ここでお湯を沸かして、持参したお茶やコーヒーなどを自由に飲んで良いことになっている。
 カップはもちろん自前だ。
 黒一色のシンプルなマグカップと、ブランドロゴの入った茶色のマグカップにそれぞれインスタントコーヒーの粉末を入れ、政宗はそこにポットのお湯を注ぎ込んだ。

 ふわりとコーヒーの芳ばしい香りが立ちのぼる。
「茜ちゃんだっけ? お前にベッタリじゃん」
 両手にマグカップを携え、政宗は聖の方を振り返った。
「羨ましい?」
 座卓に頬杖をつき、聖がくしゃりと笑った。
「そうだな。俺がまだ十歳若かったらな」
 皮肉な笑みを浮かべ、政宗は聖の前にロゴ入りのマグカップを置いた。

 聖は、初日に茜と仲良くなったのをきっかけに、小中学生と接する機会が多くなった。
 見た目の柔らかさも手伝ってか、聖の周りには常に女児がまとわりついている。
 座って塗り絵やお絵描きなどしている聖にもたれかかったり、抱きつくようにして膝の上に乗ってきたりと、皆かなり積極的だ。

「俺、変なフェロモン出てんのかな?」
 クンクン鼻を鳴らし、聖が自分の腕や胸元の匂いを嗅いだ。
「知るかよ」
 コーヒーを一口飲むと、政宗はバッグの中から実習日誌を取り出した。
「そういや聖、明日夜勤だろ?」
「うん」
 同じく実習日誌を座卓に広げ、聖が答えた。

 施設では、通常勤務の他に、早番、遅番、夜勤がある。実習生も一応、それらの勤務を一通り経験することになっている。

「どんな感じか、あとで教えろよ」
「オッケー」
 政宗の夜勤は、聖が終わった翌日だ。事前に情報を仕入れておけば、少しは不安な気持ちも和らぐ。
 自分が先じゃなくて良かったと、政宗は密かに安堵した。

「夜勤かぁ。どんなことするんだろ? 楽しみだなぁ」
 ペンケースから筆記用具を取り出し、聖が独り言のように呟いた。
「お前はいいな。能天気で」
 聖の顔をチラリと見たあと、政宗は、実習日誌に視線を落とした。

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