正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第二章 秘められた悪意

裏取引

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「まったく。何を考えているんですか、あなたたちは」

 眼鏡の中心を几帳面そうに押し上げる短髪黒髪の男は、そう言って二人を交互に見遣る。
 その黒く鋭い瞳は、明らかに二人の血気盛んな大人に「憲兵としての自覚」を問うていた。
 と、そんなエリート然とした眼鏡男を渋い顔で見遣ると、四角い顔のごつい男は面倒くさそうにチッと舌を鳴らす。

 どうやらこの男、この眼鏡男が苦手のようである。

 眼鏡男は、まず呆れたようにエフェルローンを見ると、ため息交じりにこう言った。

「憲兵の制服を着ているということは、小さくても、あなたは憲兵ですよね? 暴力沙汰は身内であっても検挙の対象です。知らない訳ではないでしょう? 自重じちょうして下さい」

 淡々とそう言うと、眼鏡男は呆れた表情かおのまま、今度は四角い顔の男を見る。
 そして、大きなため息を一つ吐くと「情けない」というようにこう言った。

「それに、バリィ。貴方も貴方ですよ。こんな幼い子供相手に暴力沙汰を起こそうとは……まったく、憲兵の風上にも置けません」

 エフェルローンを横目に、眼鏡の男は眉間に縦皺たてじわを刻むとそう言った。
 四角い顔の男――バリィと呼ばれた男は、ふて腐れたようにこう言う。

「そのガキ、只のガキじゃないぜ? 憲兵隊のお荷物――[戦う魔術師]クェンビー伯爵様さ」

 バリィの言葉に、眼鏡男は驚いたように目を見開く。
 そして、エフェルローンを物珍しそうに眺めやると、納得したようにこう言った。

「貴方があの、[呪われた天才魔術師]クェンビー伯爵ですか。お噂はかねがね……」

 銀縁眼鏡ぎんぶちめがねの男はそう言うと、襟元えりもとを正しながらこう言った。

「私は、アーロン。アーロン・ソーヤーと言います。あなたの魔術の精度は、あなたが下級魔術師クラスに転落した今も、我がアルカサール魔術師団の中ではトップクラスのもの。それを理解できるのは、魔術師の中でも最上級クラスの者だけでしょう。その貧弱ひんじゃくな魔力をもってして最高レベルに近い検挙率を叩き出せる貴方は、やはり天才です、伯爵。この度は連れが失礼致しました」

 そう深々と礼をする眼鏡男、アーロン。
 それを面白くなさそうに見つめる四角い顔の男、バリィ。

 何はともあれ、傷害沙汰を回避できたことに、エフェルローンは取り合えず礼を述べる。

「いや、こちらこそ済まなかった。このまま殴り合っていれば、危うく牢獄行きだった。ついカッとなって、本当に悪かった」

 所々にイラッとする感はあったものの、エフェルローンは一応謝罪の言葉を述べる。
 そのエフェルローンの言葉に、ソーヤーと名乗った男は片手でエフェルローンの言葉を制すると、首を横に振ってこう言った。

「いえ、お気になさらず。ここはお互い水に流しましょう。で、ところで伯爵」

 そう言うと、眼鏡男ソーヤーは不思議そうにこう尋ねた。

「今日は、どうしてこんなところに?」

 アーロンの質問に、エフェルローンは正直にこう言った。

「友人が……憲兵を辞めた友人を訪ねてここへ」

 その言葉に、アーロンは少し考える素振りを見せるものの、すぐに思い当たる節があったのだろう。
「なるほど」というように、大きく頷くとこう言った。

「ああ、ディーン・コールリッジ元捜査官のことですね。それにしても、残念な話です。正義感に溢れるとても良い捜査官だったのに、まさかアデラと裏取引をしていたかもしれないなんて」

「え……」

 エフェルローンとルイーズは同時にそう声を上げると、目を丸くした。

(ディーンが、アデラと取引?)
 
 エフェルローンは耳を疑った。
 
 あのディーンが?
 正義感の塊のあの男が?
 
 ――嘘だろ。

 エフェルローンはディーンの家の扉を見つめる。

「どうして……どうして俺に一言も、何も相談してくれなかったんだ……」

(俺ごときじゃ、役に立てないって……そういう事なのか、ディーン)
 
 互いに何でも打ち明けられる、そんな親友だと思っていたディーンとギル。
 だが、ディーンにとってもギルにとっても、エフェルローンは実際、友ですらなかったということなのだろうか。

 ディーンの家の扉を見つめながら。
 
 エフェルローンはその事実に、頭を殴られたような強い衝撃を覚えるのだった。
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