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第二章 秘められた悪意
憲兵の自覚
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――憲兵としての……公僕としての自覚があまりに足りない。
歯に衣着せず、そうはっきりと言い切る四角い顔の男に。
エフェルローンの青灰色の眼光が鋭く光る。
「……自覚? 俺に憲兵の自覚がないと?」
そう凄むエフェルローンを、四角い顔の男は苦々しい顔で見下すと、吐き捨てるようにこう言い切った。
「お前、自分で自分の立場ってものが分かってるのか? いいか、この際はっきり言ってやる。確かに、事件解決率九割弱の実績はあるだろうさ。だが、ふたを開けてみりゃどうだ。[魔魂石]をガンガン使ってのその実績だ。そんなお前のせいで、只でさえ少ない憲兵庁の経費は赤字スレスレときてる。それはつまり……他の憲兵が受けるべき恩恵を奪っているって、そう云うことなんだぞ! まったく、迷惑な話だぜ……」
そう言って、地面に唾を吐く四角い顔の男に、ルイーズが顔を真っ赤にして噛み付いた。
「貴方に! 貴方に先輩の何が分かるって言うんですか! 先輩の事件解決率が高いのは、[青銅の魔魂石]の力じゃない! 先輩が、自分を犠牲にしてでも事件を解決しようという心意気の現れなのよ!」
「は? 心意気だぁ? 馬鹿馬鹿しい! 心意気で経費が戻ってくるのかよ……」
そう言って呆れ返る四角い顔の男に。
ルイーズはカッと顔を赤らめるも、すぐに負けじとこう言い放った。
「じゃあ、聞くけど……貴方の事件解決率は? 先輩より何倍も優秀だって聞こえる貴方の事件解決率は? それは、貴方に経費がつぎ込まれれば跳ね上がるものなの?」
自分の一・五倍はありそうな大男に気後れすることもなく、ルイーズはそう言って男に詰め寄る。
そんなルイーズに、男はしてやられたとばかりにニヤリと笑う。
「……へっ、言うじゃねぇか。だがな」
そう言ってエフェルローンを見下ろすと。
四角い顔のガタイの良い男は、まじめな顔でこう言った。
「国民の税金が必要以上にこいつに使われているのは事実だ。まあ、上の意向ってのもあるんだろうが、俺は納得してない」
(そんなこと、知るかよ……)
エフェルローンは心の中でそう呟く。
とはいえ、検挙率の件を盾に現場の憲兵として働くことを上に認めさせたのは、何を隠そうエフェルローン自身である。
本来なら、低級魔術師と判断された時点で、自ら内勤に回るべきだったのかもしれない。
そのことに関していえば、少なからず後ろめたさを感じなくはない。
だからこそ、四角い顔の男の言葉はエフェルローンの心を容赦なく突き刺した。
とはいえ、この手のやり取りは初めてのことではない。
エフェルローンは、ため息を一つ吐くと面倒くさそうにこう言った。
「つまり、俺に憲兵を……現場を去れと、そう言いたい訳か?」
挑戦的に、エフェルローンはそういうと、にやりと笑ってこう続ける。
「やなこった」
エフェルローンのその答えに、四角い顔の男は鼻で笑うとこう言った。
「図々しい奴め。少し身の程を分からせてやるとするか」
(図々しい、か。確かにその通りだな)
エフェルローンは、心の中で嗤った。
「だが、俺にも事情ってのがあってね。そこは絶対に譲れない」
内勤の仕事に就けば、確かに色々と肩の荷は下りる。
だが内勤の給与では、姉弟二人、生きてはいけない。
自分の幸せも犠牲にし、エフェルローンを支え続ける、姉・リア。
そんなリアを、自分が楽する為だけに犠牲にする訳にはいかない。
(だから、俺はどんな事をしてでもこの場所にしがみ付く)
脳裏を過ぎるのは、両親の面影――。
あの人たちの分も、俺は姉貴を守らなくちゃいけない。
「準備はいいか、坊や」
そう言って、両手をボキボキと鳴らす、四角い顔の男。
エフェルローンも、地面に唾を吐き、手の甲で口元を拭う。
「ち、ちょっと……止めてください! 二人とも!」
ルイーズがそう抗議の声を上げるものの、二人は既に臨戦態勢に入っている。
そして、互いに今にも襲い掛かろうというそのとき――。
「二人とも、お止めなさい! もし、このまま殴り合うというのなら、同じ憲兵といえども[暴行罪]で捕縛しますよ!」
茶色い革の分厚い手帳を片手に。
銀縁眼鏡が知性を感じさせる中肉中背の男は、そう言って二人の男の間にするりと割って入るのだった。
歯に衣着せず、そうはっきりと言い切る四角い顔の男に。
エフェルローンの青灰色の眼光が鋭く光る。
「……自覚? 俺に憲兵の自覚がないと?」
そう凄むエフェルローンを、四角い顔の男は苦々しい顔で見下すと、吐き捨てるようにこう言い切った。
「お前、自分で自分の立場ってものが分かってるのか? いいか、この際はっきり言ってやる。確かに、事件解決率九割弱の実績はあるだろうさ。だが、ふたを開けてみりゃどうだ。[魔魂石]をガンガン使ってのその実績だ。そんなお前のせいで、只でさえ少ない憲兵庁の経費は赤字スレスレときてる。それはつまり……他の憲兵が受けるべき恩恵を奪っているって、そう云うことなんだぞ! まったく、迷惑な話だぜ……」
そう言って、地面に唾を吐く四角い顔の男に、ルイーズが顔を真っ赤にして噛み付いた。
「貴方に! 貴方に先輩の何が分かるって言うんですか! 先輩の事件解決率が高いのは、[青銅の魔魂石]の力じゃない! 先輩が、自分を犠牲にしてでも事件を解決しようという心意気の現れなのよ!」
「は? 心意気だぁ? 馬鹿馬鹿しい! 心意気で経費が戻ってくるのかよ……」
そう言って呆れ返る四角い顔の男に。
ルイーズはカッと顔を赤らめるも、すぐに負けじとこう言い放った。
「じゃあ、聞くけど……貴方の事件解決率は? 先輩より何倍も優秀だって聞こえる貴方の事件解決率は? それは、貴方に経費がつぎ込まれれば跳ね上がるものなの?」
自分の一・五倍はありそうな大男に気後れすることもなく、ルイーズはそう言って男に詰め寄る。
そんなルイーズに、男はしてやられたとばかりにニヤリと笑う。
「……へっ、言うじゃねぇか。だがな」
そう言ってエフェルローンを見下ろすと。
四角い顔のガタイの良い男は、まじめな顔でこう言った。
「国民の税金が必要以上にこいつに使われているのは事実だ。まあ、上の意向ってのもあるんだろうが、俺は納得してない」
(そんなこと、知るかよ……)
エフェルローンは心の中でそう呟く。
とはいえ、検挙率の件を盾に現場の憲兵として働くことを上に認めさせたのは、何を隠そうエフェルローン自身である。
本来なら、低級魔術師と判断された時点で、自ら内勤に回るべきだったのかもしれない。
そのことに関していえば、少なからず後ろめたさを感じなくはない。
だからこそ、四角い顔の男の言葉はエフェルローンの心を容赦なく突き刺した。
とはいえ、この手のやり取りは初めてのことではない。
エフェルローンは、ため息を一つ吐くと面倒くさそうにこう言った。
「つまり、俺に憲兵を……現場を去れと、そう言いたい訳か?」
挑戦的に、エフェルローンはそういうと、にやりと笑ってこう続ける。
「やなこった」
エフェルローンのその答えに、四角い顔の男は鼻で笑うとこう言った。
「図々しい奴め。少し身の程を分からせてやるとするか」
(図々しい、か。確かにその通りだな)
エフェルローンは、心の中で嗤った。
「だが、俺にも事情ってのがあってね。そこは絶対に譲れない」
内勤の仕事に就けば、確かに色々と肩の荷は下りる。
だが内勤の給与では、姉弟二人、生きてはいけない。
自分の幸せも犠牲にし、エフェルローンを支え続ける、姉・リア。
そんなリアを、自分が楽する為だけに犠牲にする訳にはいかない。
(だから、俺はどんな事をしてでもこの場所にしがみ付く)
脳裏を過ぎるのは、両親の面影――。
あの人たちの分も、俺は姉貴を守らなくちゃいけない。
「準備はいいか、坊や」
そう言って、両手をボキボキと鳴らす、四角い顔の男。
エフェルローンも、地面に唾を吐き、手の甲で口元を拭う。
「ち、ちょっと……止めてください! 二人とも!」
ルイーズがそう抗議の声を上げるものの、二人は既に臨戦態勢に入っている。
そして、互いに今にも襲い掛かろうというそのとき――。
「二人とも、お止めなさい! もし、このまま殴り合うというのなら、同じ憲兵といえども[暴行罪]で捕縛しますよ!」
茶色い革の分厚い手帳を片手に。
銀縁眼鏡が知性を感じさせる中肉中背の男は、そう言って二人の男の間にするりと割って入るのだった。
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