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第5章
第82話 グエン国王の依頼完遂とそれから
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「二人ともお帰りなさい」
「お母様!?」
「王妃!」
「あらあら、仲良しさんね」
「こ、これは……ですね、お母様」
「まあまあ。やっと二人お揃いの物をするようになったのね」
(ふぁああ! さすがお母様、よく見ていらっしゃる)
「ええ。ソフィが選んでくれたのです」
かつてないほどフェイ様はご機嫌だった。けれどお母様がいる場なら、フェイ様の過剰なスキンシップも少しは落ち着くはず。
予想通り、私をソファに降ろすとフェイ様はその隣に腰を下ろした。向かいにお母様がいるので、不自然ではないが距離がちょっと近い。
(まあでも膝の上じゃないからいいかしら………)
「こちらは楽しく過ごさせていただきましたが、王妃はいかがでしたか?」
「そうね。第六王子の病を治すことを条件に、王位継承権を破棄してもらったわ。誓約書もグエン国王に提出済みよ」
お母様はサラッと重大報告を一言で済ませた。詳しく話を聞こうとしても「樹木の精霊の力を借りた」の一点張りだった。
「でもお母様、病が治ったらお母様との約束を破って、王位継承権を狙う可能性もでてくるのでは?」
「ええ、その通りよ。弱点が弱点でなくなったら誰だって高望みしてしまうものよね。約束なんて所詮は口約束だもの」
この国の人たちは基本的に欲張りで強欲。打算的で合理主義者が多い。
狡猾さがなければ生きていけないのだろう。
(フェイ様が多少意地悪になったのは、この国の環境のせいかしら……?)
「私のは意地悪ではなく、ソフィを愛しているからこそ、少し揶揄ってみたいという気持ちなのだけれど」
「そうやって心を読むの、やめてください」
「読んでない。顔に書いてある」
「え!」
頬に手を当てて表情を隠そうとするが、フェイ様を楽しませるばかりだということに気づく。
「本当にソフィは可愛い」
「うう……。そ、それでお母様はどんな予防策を取ったのですか?」
「あら、簡単よ。今回相談を受けたのは第六王子の母親、伯夫人ですもの。第六王子はそもそも本を読むのが好きで、王位に興味がなかったのだから、もし約束を破った場合『破ろうとした諸共、その病が再発する』と伝えたわ」
(つまり、第六王子に王位継承権を持たせようと画策した人たちは、同じ病を発症すると……。え、怖い)
「第六王子は不治の病って聞いたが……さすがはダイヤ王国王妃と樹木の精霊の御業」
(樹木の精霊たちって、やっぱりすごいのね。そして精霊の前で約束をしたのなら、その約束からは逃れられない)
「まあ、第六王子自身は聡明だったから安心したわ」
「もし雨露王子に何かあった場合は伯家として責任を取ります」
「そうね。ここから先はフェイ様に任せるわ」
「はい」
(あ、伯家はフェイ様の母方の実家だったわね。確かに母様が出張るよりもフェイ様が立ち回った方が色々と動きやすいのかも?)
ローズが紅茶と茶菓子を用意する間、私はお母様にキャラバンでのことを話した。さらに第七王子セイエン様に突き付けられた婚約破棄の話と、それを私が断るまでの流れまで話はフェイ様が生き生きと語った。
(そこまで詳細に語らなくてもいいのに!)
「──とソフィの言葉は本当に素晴らしかった」
「フェイ様……。恥ずかしいので、そのぐらいにしてください!」
「あらあら」
「愛らしい顔で微笑まれたら、それだけで幸せだった。でも今は傍にいないと仕事が手に付かなくなりそうだ」
「ふ、フェイ様は何故、甘いセリフを簡単に言えるのですか?」
フェイ様の溺愛ぶりというか甘いセリフがさらに増した。もう聞いているこちらが恥ずかしい。
ジッと睨むが、彼にはまったく効果はなく、むしろ笑みを深めている。
「事実だからだろう。それに思っているだけでは伝わらない。伝えても三分のニも伝わってないかもしれないのだから、全力で口説こうと決めた。なにより口説きたい相手にはいくらでも言葉が出てくるようだ」
「ふぁああ……! そういうことを……」
「あらあら♪」
「お母様、そして愛しのソフィーーーー! お前の兄様が帰ったぞ」
「チッ」
フェイ様、舌打ちしましたよね。
聞こえたのですが。
「お帰りなさい、ジェラルド」
「ジェラルド兄様、妖精の護衛者、お帰りなさい」
「ただいま!」
ジェラルド兄様が部屋を訪れて、賑やかさが増した。兄様の武勇伝を聞いている間に時間は過ぎていく。
夕食は私たちだけで食べてしまい、王族と顔を合わせることもなかったのは、正直有難い。
ダイヤ王国の接待をしようと考える王族が減ったからだろう。いやもしかしたら、フェイ様が知らない所で手を回してくれたのかもしれない。
あくまで観光目的でこの国に来ているのだから、もてなしは婚約者である第十王子がすると言い出せば角は立たないだろう。
三日後にはスペード夜王国を出立する。
最終日にグエン国王との謁見があるだけだ。一応、王位継承権を持っている王子全員に会ったことになるので、グエン国王の依頼は完遂したことになる。
第一王子トウヨウ、第二王子ヒショウ、第三王子レキスウは王位継承権を剥奪。
第四王子シンタン、第五王子コウク、第六王子ウロは既に王位継承権を放棄している。これにより城内の勢力図も大きく変わり様変わりするだろう。
今まで身を潜ませていた第七王子が頭角を現したことで、今後セイエン様は忙しくなるのだろう。彼が王位に継ぐのなら、いい王様になるような気がした。
(それにしても、王位継承権を巡ってここまで過激なことが起こるなんて思っていなかったわ。ジェラルド兄様の話だと自称聖女の黒幕との決着もついたとは言っていたけど……)
これで時間跳躍での流れとは大きく外れた──はず。
十二月に行われる四か国会議で『婚約破棄』と『同盟解除』の確率は多少低くなったと考えてもいいのかもしれない。それならこの国に来ただけの甲斐はあっただろう。想像していた旅行とはかけ離れたものだったが。
(欲をいうならフェイ様と市井をお忍びで回ってみたかったわ)
「お母様!?」
「王妃!」
「あらあら、仲良しさんね」
「こ、これは……ですね、お母様」
「まあまあ。やっと二人お揃いの物をするようになったのね」
(ふぁああ! さすがお母様、よく見ていらっしゃる)
「ええ。ソフィが選んでくれたのです」
かつてないほどフェイ様はご機嫌だった。けれどお母様がいる場なら、フェイ様の過剰なスキンシップも少しは落ち着くはず。
予想通り、私をソファに降ろすとフェイ様はその隣に腰を下ろした。向かいにお母様がいるので、不自然ではないが距離がちょっと近い。
(まあでも膝の上じゃないからいいかしら………)
「こちらは楽しく過ごさせていただきましたが、王妃はいかがでしたか?」
「そうね。第六王子の病を治すことを条件に、王位継承権を破棄してもらったわ。誓約書もグエン国王に提出済みよ」
お母様はサラッと重大報告を一言で済ませた。詳しく話を聞こうとしても「樹木の精霊の力を借りた」の一点張りだった。
「でもお母様、病が治ったらお母様との約束を破って、王位継承権を狙う可能性もでてくるのでは?」
「ええ、その通りよ。弱点が弱点でなくなったら誰だって高望みしてしまうものよね。約束なんて所詮は口約束だもの」
この国の人たちは基本的に欲張りで強欲。打算的で合理主義者が多い。
狡猾さがなければ生きていけないのだろう。
(フェイ様が多少意地悪になったのは、この国の環境のせいかしら……?)
「私のは意地悪ではなく、ソフィを愛しているからこそ、少し揶揄ってみたいという気持ちなのだけれど」
「そうやって心を読むの、やめてください」
「読んでない。顔に書いてある」
「え!」
頬に手を当てて表情を隠そうとするが、フェイ様を楽しませるばかりだということに気づく。
「本当にソフィは可愛い」
「うう……。そ、それでお母様はどんな予防策を取ったのですか?」
「あら、簡単よ。今回相談を受けたのは第六王子の母親、伯夫人ですもの。第六王子はそもそも本を読むのが好きで、王位に興味がなかったのだから、もし約束を破った場合『破ろうとした諸共、その病が再発する』と伝えたわ」
(つまり、第六王子に王位継承権を持たせようと画策した人たちは、同じ病を発症すると……。え、怖い)
「第六王子は不治の病って聞いたが……さすがはダイヤ王国王妃と樹木の精霊の御業」
(樹木の精霊たちって、やっぱりすごいのね。そして精霊の前で約束をしたのなら、その約束からは逃れられない)
「まあ、第六王子自身は聡明だったから安心したわ」
「もし雨露王子に何かあった場合は伯家として責任を取ります」
「そうね。ここから先はフェイ様に任せるわ」
「はい」
(あ、伯家はフェイ様の母方の実家だったわね。確かに母様が出張るよりもフェイ様が立ち回った方が色々と動きやすいのかも?)
ローズが紅茶と茶菓子を用意する間、私はお母様にキャラバンでのことを話した。さらに第七王子セイエン様に突き付けられた婚約破棄の話と、それを私が断るまでの流れまで話はフェイ様が生き生きと語った。
(そこまで詳細に語らなくてもいいのに!)
「──とソフィの言葉は本当に素晴らしかった」
「フェイ様……。恥ずかしいので、そのぐらいにしてください!」
「あらあら」
「愛らしい顔で微笑まれたら、それだけで幸せだった。でも今は傍にいないと仕事が手に付かなくなりそうだ」
「ふ、フェイ様は何故、甘いセリフを簡単に言えるのですか?」
フェイ様の溺愛ぶりというか甘いセリフがさらに増した。もう聞いているこちらが恥ずかしい。
ジッと睨むが、彼にはまったく効果はなく、むしろ笑みを深めている。
「事実だからだろう。それに思っているだけでは伝わらない。伝えても三分のニも伝わってないかもしれないのだから、全力で口説こうと決めた。なにより口説きたい相手にはいくらでも言葉が出てくるようだ」
「ふぁああ……! そういうことを……」
「あらあら♪」
「お母様、そして愛しのソフィーーーー! お前の兄様が帰ったぞ」
「チッ」
フェイ様、舌打ちしましたよね。
聞こえたのですが。
「お帰りなさい、ジェラルド」
「ジェラルド兄様、妖精の護衛者、お帰りなさい」
「ただいま!」
ジェラルド兄様が部屋を訪れて、賑やかさが増した。兄様の武勇伝を聞いている間に時間は過ぎていく。
夕食は私たちだけで食べてしまい、王族と顔を合わせることもなかったのは、正直有難い。
ダイヤ王国の接待をしようと考える王族が減ったからだろう。いやもしかしたら、フェイ様が知らない所で手を回してくれたのかもしれない。
あくまで観光目的でこの国に来ているのだから、もてなしは婚約者である第十王子がすると言い出せば角は立たないだろう。
三日後にはスペード夜王国を出立する。
最終日にグエン国王との謁見があるだけだ。一応、王位継承権を持っている王子全員に会ったことになるので、グエン国王の依頼は完遂したことになる。
第一王子トウヨウ、第二王子ヒショウ、第三王子レキスウは王位継承権を剥奪。
第四王子シンタン、第五王子コウク、第六王子ウロは既に王位継承権を放棄している。これにより城内の勢力図も大きく変わり様変わりするだろう。
今まで身を潜ませていた第七王子が頭角を現したことで、今後セイエン様は忙しくなるのだろう。彼が王位に継ぐのなら、いい王様になるような気がした。
(それにしても、王位継承権を巡ってここまで過激なことが起こるなんて思っていなかったわ。ジェラルド兄様の話だと自称聖女の黒幕との決着もついたとは言っていたけど……)
これで時間跳躍での流れとは大きく外れた──はず。
十二月に行われる四か国会議で『婚約破棄』と『同盟解除』の確率は多少低くなったと考えてもいいのかもしれない。それならこの国に来ただけの甲斐はあっただろう。想像していた旅行とはかけ離れたものだったが。
(欲をいうならフェイ様と市井をお忍びで回ってみたかったわ)
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