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第4章
第49話 第十王子シン・フェイの視点7
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事の発端は、1504年12月の初めだったか。私はアリサ・ニノミヤの名を見つけ出した。
そして彼女は1505年1月にスペード夜王国の外交補助役として台頭してきたのだ。正直、会って三秒で私がもっとも嫌うタイプの女性だった。
服装やアクセサリーに至るまであまりにも煌びやかで豪華な装いに、笑みが引きつりそうになった。
外交補助役は基本的には雑務が多いというのに、明らかに動きにくい服装をしている。パーティー会場であっても品性に欠ける服装に血の気が引いた。
あまりにも場違いで、楊明が機転を利かさなければ、即刻スペード夜王国に返したところだった。
(面倒だから殺すか? そうすればソフィの心配もない。事故死に見せかければいけるのでは……。いや後ろ盾の確認と諸々の情報を聞き出す方が先か。芋づる式に検挙出来るし、失脚させるのに、いい材料となるだろう)
基本的な活動はスペード夜王国で行ってもらい、アルギュロス宮殿の滞在は出来るだけさせないようにした。宮殿に長時間滞在すればソフィが気づく可能性があるからだ。
(ジェラルドには、報告しておくか)
***
王宮・宰相執務室。
ソフィの兄、ジェラルドの執務室は日の光が入る大きめの窓が目立つ。全体的に白を基調とした部屋は、執務室というよりサロンルームの方が近い印象だ。
机に書類の山があるが、それなりに整理整頓がされていた。彼は私が部屋に入っても手を止めず、目線も書類に向けたままだ。
ここ二、三年の間で眼鏡をかけているが、視力が悪くなったのではなく魔道具によるものだ。エルヴィンが作成した魅了、洗脳無効化の効果がある。ソフィの兄想いなところは微笑ましいが、ジェラルドの妹想いなところは正直、病的だった。
「なんだい。私は忙しいんだけれど」
「ソフィの事だ」
「何でも聞こう。そこに座ってさっさと説明してくれたまえ」
(本当、妹のことになると目の色が変わるな)
ジェラルドとの相談の結果、アリサ・ニノミヤを泳がせて、スペード夜王国での後ろ盾が誰か探るという結論に至った。
「しかし私の天使に全く話さないという訳にはいかない。どこまで話すかが問題になる。このあたりは国王と王妃に相談すべきだ」
「ああ。自称聖女が現れたと話をしても、話さなかったとしてもソフィを不安にさせるからな」
ここ最近は悪夢を見ることが多いせいか、ソフィは夜中に目を覚ます。そしてベッドの端で震えながら泣くのだ。
肌を重ねてソフィを抱きしめると、強張っていた体は緩み眠る。不安定な時期なのは女王の即位式、そして各国首脳会議が日に日に近づいてきているからだろう。
ようやく添い寝まで許して貰えたが、正式に結婚するまでは手を出すことを禁じられていた。愛くるしいソフィーリアと一緒に過ごす時間が増えるのなら、衝動的な欲も押さえ込むは容易だった。
むしろソフィーリアと離れる時間のほうが苦痛でしかない。
「作戦の全容をソフィに語る。下手に隠せば勘のいい彼女のことだから気づく。自称聖女を捕縛するためにも計画立案まで話せば──」
「それはあまりお勧めできないかな~」
「!?」
「今の声は──」
その白い猫は突如現れた。
背には羽根を生やした妖精の王、オーレ・ルゲイエ。ソフィと同じ琥珀色の瞳が宝石のように煌めく。彼の登場には私もジェラルドも心底驚いたが、それと同時に嫌な予感がした。
「妖精王オーレ・ルゲイエ!」
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「そりゃあ決まっているだろう。私の可愛い子供たちのため、特別大サービスで私が来てあげたんだよ~。あ、せっかくだからジェラルド、私のことを『じい様』と呼んでくれていいんだよ!」
「オーレ・ルゲイエ、それで私たちに何を教えてくださるのですか?」
「相変わらずだな~」
普段のジェラルドなら崇拝する妖精王相手に平伏するのだが、ことソフィ関係だとこの男はブレない。オーレ・ルゲイエよりもソフィ。その潔さにいっそ感心してしまった。
オーレ・ルゲイエは「一度ぐらい言ってくれてもいいのに~」と少し不満げな顔をしていたが、すぐに本題に入った。妖精王が姿を見せる──それだけでも異例なのだから。
一瞬にして空気が重苦しくなる。
ソフィといるとは、ふざけていることが多いが今回そう言った雰囲気はない。
「聖女は既に『原初の魔女』の捨て駒として取り込まれ、本来の光属性も消えている。そしてここからが大事なことだが、ソフィーリアの影に『原初の魔女』の祝福がかかっているから、彼女に話せば情報は筒抜けだよ~」
「!?」
『原初の魔女』──その単語は六年前にダイヤ王国国王から聞いた。それにソフィと因縁が深いのもなんとなく分かっていた。
十二回の時間跳躍。
妖精王ですら迂闊に出られない存在。
「だから六年前、ソフィが貴方に聞いた時に言葉を濁したのか」
「そうだよ~。ソフィーリアがこの世界に絶望することで、こことの繋がりを断ち切り本来の世界に戻す。それが精霊堕ちした怪物、『原初の魔女』の本当の目的なのだからね~」
「ちょっと待ってください、オーレ・ルゲイエ。なぜ妹限定なのですか? それは何か法則などがあるのでしょうか?」
「そうだね~。これはずっと昔の話になるかな~」
「……精霊が関わっていた(だから過去の私は護符の意味合いで短剣を……でもその真意をソフィに伝えていなかった)」
「薔薇の精霊は、時の精霊の力の一部を奪っていった」
「時の精霊って、六大精霊の一角ではないですか?」
そして彼女は1505年1月にスペード夜王国の外交補助役として台頭してきたのだ。正直、会って三秒で私がもっとも嫌うタイプの女性だった。
服装やアクセサリーに至るまであまりにも煌びやかで豪華な装いに、笑みが引きつりそうになった。
外交補助役は基本的には雑務が多いというのに、明らかに動きにくい服装をしている。パーティー会場であっても品性に欠ける服装に血の気が引いた。
あまりにも場違いで、楊明が機転を利かさなければ、即刻スペード夜王国に返したところだった。
(面倒だから殺すか? そうすればソフィの心配もない。事故死に見せかければいけるのでは……。いや後ろ盾の確認と諸々の情報を聞き出す方が先か。芋づる式に検挙出来るし、失脚させるのに、いい材料となるだろう)
基本的な活動はスペード夜王国で行ってもらい、アルギュロス宮殿の滞在は出来るだけさせないようにした。宮殿に長時間滞在すればソフィが気づく可能性があるからだ。
(ジェラルドには、報告しておくか)
***
王宮・宰相執務室。
ソフィの兄、ジェラルドの執務室は日の光が入る大きめの窓が目立つ。全体的に白を基調とした部屋は、執務室というよりサロンルームの方が近い印象だ。
机に書類の山があるが、それなりに整理整頓がされていた。彼は私が部屋に入っても手を止めず、目線も書類に向けたままだ。
ここ二、三年の間で眼鏡をかけているが、視力が悪くなったのではなく魔道具によるものだ。エルヴィンが作成した魅了、洗脳無効化の効果がある。ソフィの兄想いなところは微笑ましいが、ジェラルドの妹想いなところは正直、病的だった。
「なんだい。私は忙しいんだけれど」
「ソフィの事だ」
「何でも聞こう。そこに座ってさっさと説明してくれたまえ」
(本当、妹のことになると目の色が変わるな)
ジェラルドとの相談の結果、アリサ・ニノミヤを泳がせて、スペード夜王国での後ろ盾が誰か探るという結論に至った。
「しかし私の天使に全く話さないという訳にはいかない。どこまで話すかが問題になる。このあたりは国王と王妃に相談すべきだ」
「ああ。自称聖女が現れたと話をしても、話さなかったとしてもソフィを不安にさせるからな」
ここ最近は悪夢を見ることが多いせいか、ソフィは夜中に目を覚ます。そしてベッドの端で震えながら泣くのだ。
肌を重ねてソフィを抱きしめると、強張っていた体は緩み眠る。不安定な時期なのは女王の即位式、そして各国首脳会議が日に日に近づいてきているからだろう。
ようやく添い寝まで許して貰えたが、正式に結婚するまでは手を出すことを禁じられていた。愛くるしいソフィーリアと一緒に過ごす時間が増えるのなら、衝動的な欲も押さえ込むは容易だった。
むしろソフィーリアと離れる時間のほうが苦痛でしかない。
「作戦の全容をソフィに語る。下手に隠せば勘のいい彼女のことだから気づく。自称聖女を捕縛するためにも計画立案まで話せば──」
「それはあまりお勧めできないかな~」
「!?」
「今の声は──」
その白い猫は突如現れた。
背には羽根を生やした妖精の王、オーレ・ルゲイエ。ソフィと同じ琥珀色の瞳が宝石のように煌めく。彼の登場には私もジェラルドも心底驚いたが、それと同時に嫌な予感がした。
「妖精王オーレ・ルゲイエ!」
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「そりゃあ決まっているだろう。私の可愛い子供たちのため、特別大サービスで私が来てあげたんだよ~。あ、せっかくだからジェラルド、私のことを『じい様』と呼んでくれていいんだよ!」
「オーレ・ルゲイエ、それで私たちに何を教えてくださるのですか?」
「相変わらずだな~」
普段のジェラルドなら崇拝する妖精王相手に平伏するのだが、ことソフィ関係だとこの男はブレない。オーレ・ルゲイエよりもソフィ。その潔さにいっそ感心してしまった。
オーレ・ルゲイエは「一度ぐらい言ってくれてもいいのに~」と少し不満げな顔をしていたが、すぐに本題に入った。妖精王が姿を見せる──それだけでも異例なのだから。
一瞬にして空気が重苦しくなる。
ソフィといるとは、ふざけていることが多いが今回そう言った雰囲気はない。
「聖女は既に『原初の魔女』の捨て駒として取り込まれ、本来の光属性も消えている。そしてここからが大事なことだが、ソフィーリアの影に『原初の魔女』の祝福がかかっているから、彼女に話せば情報は筒抜けだよ~」
「!?」
『原初の魔女』──その単語は六年前にダイヤ王国国王から聞いた。それにソフィと因縁が深いのもなんとなく分かっていた。
十二回の時間跳躍。
妖精王ですら迂闊に出られない存在。
「だから六年前、ソフィが貴方に聞いた時に言葉を濁したのか」
「そうだよ~。ソフィーリアがこの世界に絶望することで、こことの繋がりを断ち切り本来の世界に戻す。それが精霊堕ちした怪物、『原初の魔女』の本当の目的なのだからね~」
「ちょっと待ってください、オーレ・ルゲイエ。なぜ妹限定なのですか? それは何か法則などがあるのでしょうか?」
「そうだね~。これはずっと昔の話になるかな~」
「……精霊が関わっていた(だから過去の私は護符の意味合いで短剣を……でもその真意をソフィに伝えていなかった)」
「薔薇の精霊は、時の精霊の力の一部を奪っていった」
「時の精霊って、六大精霊の一角ではないですか?」
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