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第3幕

第27話 エルヴィンとの再会

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 中庭の薔薇は見事に咲き誇っており、独特の香りが鼻腔をくすぐる。しかし薔薇以外の植物はあまり見られなかった。
 国境付近では妖精の加護も薄いのか、植物の数が王都に比べて少ない。

(だからほんの少し寂しいような気がするのかしら?)

 私は中庭の奥に進むと、ガゼボを見つけた。
 少し休憩するにちょうどいい。

(それにしても、婚約のお披露目パーティーなんてあったかしら?)

 古い記憶を遡ろうとするが、この辺りは朧気になってしまっている。ただ何となく今回は少しずつ違った方向に進んでいるような手ごたえはあった。なにより妖精たちの協力は心強い。

『私や妖精たちもいるのだから、あまり気負い過ぎないでいいよ~』
「じい様。……うん、妖精のみんなに手伝ってもらう事は増えたわ。いつもありがとう」
『愛し子の願いなら、できる限りのことをすると決めているからね~』
(できる限り……。つまり私が何度も同じ時間軸を繰り返していることや諸々のことに関して、じい様ができることはない……ってこと?)

 白猫姿のオーレ・ルゲイエは、私の肩に乗るのがお気に入りのようだ。
 私は妖精たちに頼んでダイヤ王国の特産品や、食料、人材、国力などを調べて貰っており、時間がある時にそれを集計していた。自国の発展のためにも調査と開拓などできることはたくさんある。

 四か国同盟解除を回避する方法、あるいは解除されても対抗できるだけの対策が必要だ。
 六年は長いようであっという間なのだから。どれだけのことが出来るか分からないが、やれることを一つずつ積み重ねていくしかない。

『食料はねー、植えたらいっぱい実がなるよー』
『ソフィが植えたらいっぱい育つ。愛し子だから』
「…………理屈は全く分からないけれど、そうなのね」

 私は妖精たちの言葉を書き留める。この国の事なら彼らは何でも知っているし、教えてくれた。妖精たちは楽しいことをなにより好む。

『人材足りない。みんな趣味一番』
「そうよね。この国の人たちは陽気で、天才だけど気分屋ばかり。働いているのは週に二日ぐらいだし……。他国はそれ以上働いているって聞いた時は卒倒しそうになったわ」

 この国は作物を育てるという概念がない。妖精の恩恵により、食料不足になることは無い。そのため労働は最低限で、みな趣味に没頭していた。妖精の姿が見えなかった時間軸であっても食料は充分にあったのだ。

『ほかの国から人が住む場所いっぱいあるよ』
「移住ね……」

 移住することは出来なくはないが、妖精たちとの生活を受け入れられるか、悪事を働かないかが重要だ。人が増えれば摩擦が起こりやすい。これは保留だ。

(私、売国とか考えているのだけれど……、不敬罪で国外追放されるかしら)
『ソフィはいいの』
「いいの!? 自国の利益よりも相手国の利益を優先すること考えているんだけど……」
『うん。でも、そうしないとこの国終わる、だからでしょ』
「それは……」

 言いよどむ私に、妖精たちは集まってきた。

『この国滅ぶ、悲しい』
『悲しいのいや』
『だから、悲しくならないなら、売国いいのー』
『そうだよ~。私たちから見れば愛し子の行為は私利私欲でもないし、ソフィが悪用するような子ではない。好きなだけ国を売るがいいさ~』
「それ妖精王のじい様が言ったらいけないセリフだと思うわ」
『あははのは~』

 白猫は私の肩から離れると空を飛んだ。妖精の羽根が七色に煌めき、自由気ままに空を飛ぶ姿は羨ましくもある。そのままオーレ・ルゲイエは、どこかに飛んで行ってしまった。

「相変わらず妖精に大人気だね、ソフィちゃんは」
「!?」

 のんびりとした口調と、その呼び名に私は慌てて振り返った。
 薔薇の庭園入り口に佇んでいたのは、一人の少年だった。深緑色の切り揃えられた髪、天使のような愛らしい顔立ちに、オッドアイの印象的な瞳は宝石のように美しい。少女に見えるが男の子だ。

 エドウィン・フォスター。
 のちに魔導具博士と呼ばれ、魔法国随一の大魔導士となる天才。よく見るとクローバー魔法国の魔導士のみ羽織ることができるローブを着ていた。この時間軸でも彼は優秀なようだ。

「フォスター様、お久しぶりです」
「もうー、同い年なんだからエルヴィンでいいのにー。もしくはエル」
「ですが……」
「じゃあ、せめて名前呼び。友達なんだから、それぐらいいでしょう!」

 エルヴィン様は勢いよく私に駆け寄って、ギュッと抱きしめた。最初会った時と変わらず、女の子みたいに可愛い。あと砂糖菓子のような甘い匂いがする。

「ね、ソフィちゃん」
「わ、わかりました。エルヴィン様」
「むー。まあいいや。いつかエルって呼んでね」
「善処します。……ところで、どうしてここに? クローバー魔法国からの急ぎの用ですか?」
「ううん。国境近くにソフィちゃんが来ているって知って、遊びに来ちゃった」
「そんな簡単に来てしまって大丈夫なのですか? ご家族の方が心配するのでは?」

 周囲を見回すものの護衛者の姿は見られない。最初に会った時もエルヴィン様には付き添いも護衛者もいなかった。

「ん? ああ。クローバー魔法国は基本的に自分の研究にしか興味ないからね。ほら、この腕輪。クローバーの紋章があるでしょう。これで位置を特定していて、危険が迫ると転移魔法が自動的に発動するようになっているんだ。でもさ、付与魔法って一つの道具に一つしかできなくて不便なんだ」

 エルヴィン様は腕輪を私に見せる。
 シンプルな腕輪だが、鉄色の重たそうなそれは腕輪というより手枷のようにしか見えない。それが痛々しく見えるのは私だけなのだろうか。

「腕輪は、重くないの?」
「ううん。ソフィちゃんが思うほど重くもないよ」

 私の言葉の意味に気づいたのか、彼は天使のような笑みを返す。可愛いと思うのも無理ないだろう。声変わりもまだな高い声は女の子のようだ。本人はそう言うと不機嫌になるので言わないが。

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