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第1幕

第10話 恩を売って、売りまくる

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 第一王子トウヨウ、第二王子ヒショウ、第三王子レキスウは傲岸不遜な態度で、自分たちが世界の中心と思っているような人種だ。正直、どの時間軸でも好きではなかった。
 まともなのは王位継承権を放棄した武人の第四王子シンタンと、魔法研究が趣味の第五王子コウクだろうか。第四、第五王子は社交辞令という形で挨拶をしたのち、軽食ブースに消えていった。

(王位継承権を放棄した王子のほうがまともなのよね。この国大丈夫かしらって、毎回思うんだけれど……)
「兄上の誕生パーティーで暇だろう。私たちが遊んでやろう」

 第一王子が私の髪に触れようとした瞬間、第一から第三王子たちは見事にその場から姿が消えた。

「ぎゃ」
「なっ、わっ!?」
「兄様――」

 短い悲鳴が漏れたがパーティー会場は音楽や談笑の声で掻き消えた。
 彼らは、ここが何処なのか忘れていたのだろう。
 今頃転移魔法によって強制的にダイヤ王国の外に放り出されているはずだ。アレクシス殿下が腰にある剣を抜きそうだったので、一瞬焦ったが大事にならなくてよかった。

(ビックリしたけど、いなくなってくれてよかった……)
「ソフィーリア様を害する気配がしたので、強制転移魔法を発動させていただきました」
「ひゃ」

 執事の姿をした妖精が恭しく頭を下げた。いつの間に現れたのか──という疑問は妖精に対して無意味ナンセンスだ。

「報告ありがとう。……でも、後でスペード夜王国から文句言われない?」
「そのことですが」
「んー、ああ。この国にはいる時に、次期女王及び王族、国民に対して危害を加えた場合の忠告及び誓約書は書いている。こちらの落ち度だ、すまなかった」

 そう言って頭を下げたのは、第四王子シンタン様だ。アレクシス殿下に負けず劣らずの長身で筋骨隆々の大男だ。うん、怖い。近づくと皮膚がピリピリする。威圧感が半端ないがここは我慢だ。

「シンタン様、グエン国王へのご報告を任せてもよろしいでしょうか」
「ああ、承った」

 アレクシス殿が代わりに提案をしてくれて、シンタン様はあっさりと了承してくれた。お互いに武将っぽい感じだからなのか息ぴったりだ。

(これで面倒な人たちに絡まれることがなくてよかった)
『こくがいついほーだけじゃ生ぬるい?』
(いえいえ、そんなことないですよ?)
『ついでに爆発させて、滅ぼす?』
(そ、そこまでしなくていいから!)

 傍に浮遊している妖精たちは愛らしいのに口にする単語が物騒過ぎる。愛らしい分とんでもなく怖い。
 普通なら国際問題になりかねない案件なのだが、ダイヤ王国ではそうはならない。というのも「この国に入国する際に『悪意ある行動』『王族への危害』『敵視や殺意』などを妖精たちが不快と感じ取った瞬間、国外に強制転移する」と前もって説明しているからだ。この国は妖精と共存するので、そのルールを破ったのが他国の王族であろうと関係ない。
 執事から指摘されて、「そうだった」と私は思い出す。やり直しの時間軸では妖精たちが殆ど見えなくなってしまったから、どうにも忘れていた。
 
「ふふふ、あの馬鹿王子を強制退場させるなんて、すごい子なのね」

 鈴を転がしたような声に振り返ると、とんでもなく美しい少女が佇んでいた。
 オレンジ色の長い髪に、紫色の瞳、女性用のカンフクというスペード夜王国の民族衣装を身に纏い、ドレスとはまた違った袖や裾の長い服装に目が惹かれる。

「(素敵な人。でもこんな人いたかしら?)えっと……」
「ああ、失礼しました。私は第七セイエンです」
「……王子?」

 どう見ても見目麗しい美女にしか見えないのだが、どうやら男性のようだ。
 女装は何か意味があるのだろうか。それとも他国の伝統的なものだとしたら、変に聞くのも失礼かもしれない。
 深読みしているとセイエン様の背後から、ひょこっと双子の少年少女が顔を出す。

「僕はソウハ、こっちはライハ」
「ボク、この国のお菓子甘くて好き」
「ねー」

 第七王子の後ろにいた双子の美少年と美女は第八王子ソウハ第九王子ライハと挨拶してくれた。
 顔立ちこそ王子たちの中でかなり美形だが、服装は第一王子たちに比べると質素に見える。兄弟でも階級制度ヒエラルキーが激しいのだろう。それにしても第七王子セイエン様の顔色が悪い。目にクマが見えた。

(寝不足? ううん、この感じはたぶん……)

 毒だ。中毒を起こしているのかもしれない。他国では後継者争いが頻繁に行われるらしく、兄弟でも骨肉の争いを起こすという。

(解毒剤とか処方してもらった方が良いかな?)
『いいのあるよ。この間、マクルドさんが発明していた』
『完成品だって』
『ソフィ必要だと思ったから、取ってきた』
この子妖精たちは……。いや、有難いのだけれど)

 そう言って妖精たちは、私の両手に香水ほどの小さな瓶を置いていった。

(うーん、後で父様から研究馬鹿の従弟マクルドに謝罪してもらおう)
「ソフィーリア様、その小瓶はどこから?」
「こ、これは妖精たちが貴方を心配して出してくれたんです。大丈夫、これを飲めばきっとよくなると思いますよ」
「!」

 初対面の相手に警戒を持つのは当然だ。
 けれど「大丈夫だ」と伝えるためにセイエン王子の手を掴んだ。ひんやりと冷たい手だが、私は出来るだけにこやかに微笑んだ。頑張って表情筋。

 信じるのは、とても勇気がいる。
 私だってそうだ。
 他人が怖いし、頭から信じられない。十二回も沢山裏切られてきたのだ。それでもこの世界には、悪意ばかりがある訳じゃないと信じたい。
 ちょっとした言葉やすれ違いで悲しいことになってしまっただけだと──そう思いたいから。

 それに私が人に優しくしようと思ったのは、昨日の一件でジェラルド兄様とアレクシス殿の態度を見て考えたのだ。題して恩を売って、売って、売りまくって味方に付ける作戦だ。

「(十二回の時間軸でもちょこちょこっとやっていたけれど、今回はこれでもかと大盤振る舞いする!)良ければお使い下さい」
「それは──」
「と、とにかく、お渡ししましたので。どうするかはセイエン様に委ねますわ!」

 私はセイエン様に瓶を押し付けると、その場を後にした。
 パーティー会場の熱気にも耐えられず、夜風にあたろうとバルコニーへと向かうことにした。

(人に親切にして恩を売りまくろう作戦だったけれど、親切にするって難しいかも……。次はもっと自然になるようにしないとだわ)
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