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第46話「何か大切なこと」
しおりを挟む「貴様、何故こんなところで寝ている。そんなに私と一緒にいるのがイヤなのか?」
レイはこれでもかと思うほど俺に詰め寄ってきた。
「ま、まて。部屋の中に聞こえるから」
時計の針を確認すると朝の5時を指していた。
やべぇ! ユーデルにキッチンに5時に来いって言ったのに!
レイの腕を掴み「とりあえず一緒に来てくれ」とその場から連れ出した。キッチンへ向かい、先に来ていたユーデルはレイの顔を見て「……ッ!? レ……!?」声にならない声を出し腰を抜かした。
コイツは本当に腰を抜かしてばっかりだ。
「な、なぜ……レイ様が?」
ユーデルに質問にレイは息を吐くように返した。
「コイツがミケの部屋の前で寝ているところを発見し、起こしたらここに連れてこられただけだが? 貴様は何故ここにいる」
「私はソウル様にここに来いと言われただけで……」
「そうか。つい先ほどリリックがミケの部屋に入っていったが、ユーデルはミケの部屋に行かなくてよいのか?」
レイの問いに目をまん丸く見開いたユーデル。俺に疑うような視線を向けてきた。
「……色々あって、ごめん」
ぼそっと謝罪の言葉を口にすると、「色々とはなんだ。貴様が爆睡してたから入られたんだろう。まあ、リリックは居合わせた私に聞いてきたから許可したまでだが」と、さっきから余計でしかない言葉を並べるレイ。
ユーデルがミケに対してどういう想いになっているのかを分かっていないレイは、傷口を抉っているようにしか見えない。その傷口に更に塩を盛かける俺。
「ユーデルはレイがミケを独り占めしていることををずっと妬んでいたんだと」
一回レイにキツく言ってもらわなきゃユーデルは改心しない。
「俺は飯作るから。おまえはレイと話せよ。人もいないこの時間帯なら話せることがあるだろ」
本当は朝ご飯を一緒に作ってもらおうかと思っていたけれど、そんなことより最優先事項が俺の中で決まったためにユーデルとレイをテーブルに座らせる。
米を研いでご飯を炊き、その間にお吸い物や卵焼きなどを焼きながら二人の会話に耳を澄ませる。幸いにも二人の会話は俺まで聞こえてくるため、何を話しているのかは知ることができた。
そんなユーデルの第一声は、
「レイ様、申し訳ございません!」
謝罪だった。イスから立ち上がったユーデルは地面につきそうなほど頭を深く下げて土下座をしている。
「……何故謝る」
「その……ソウルさんがおっしゃった『妬んでいる』は事実でした。私はミケさんを好きすぎるあまりに、レイ様に嫉妬しておりました。これは赦されることではございません、私の首を切っていただいても構いません!」
首を切るって……コイツ、正気か!?
会話が気になって朝食を作るどころではない。
レイはユーデルに『顔を上げろ』と諭していた。
「貴様の気持ちは分かる。私も、今のソウルが他の者と日中二人でいたら妬むし嫉妬する」
えっ!? 今サラッと大事なことを言われたような気がして、気が動転して熱々のフライパンに自分の手を当ててしまい、「熱ッ!」軽く火傷をしてしまった。
すぐに水で冷やし、引き続きレイとユーデルの会話に耳を傾ける。あんなことを言われたからか、心臓も一段と高鳴る。
「……ソウルさんがレイ様に欲情しているって噂は城内に広まっておりますが……?」
『それではなく?』と聞きたそうにしているユーデルに、レイはその通りだ、と、頷いた。
「ユーデルもソウルと話をしてみて分かったとは思うが、以前のように私を殺そうとしているヤツではない。今は私の手となり足となりに尽くして、私の胃袋まで満たしている」
サラッとご飯のことを褒めてくれるレイ。こういうツンデレなところがレイの魅力だ。まあ、そのおかげで今火傷してしまったけど、俺の火傷なんてあってないようなものだ。
「ユーデルがミケのことを気にしているということは分かったが、それはミケから出るフェロモンのせいじゃないのか? 本当にミケを愛しているのか?」
その問いにユーデルは頷いた。
「寝ても覚めてもミケさんのことばかり考えてしまうんです……それが愛じゃないなら、なんとお考えでしょう」
「…………そんなもの私が知るか。そもそも、この国に『愛』はあるのか? 誰一人として国の、城のためを想って行動しているとは思えんが。まあ、私も含めて……だが、何か大切なことが欠けていることを、ソウルがきてから気付かされているようにも感じる」
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