上 下
46 / 62

第46話「何か大切なこと」

しおりを挟む


「貴様、何故こんなところで寝ている。そんなに私と一緒にいるのがイヤなのか?」

 レイはこれでもかと思うほど俺に詰め寄ってきた。


「ま、まて。部屋の中に聞こえるから」


 時計の針を確認すると朝の5時を指していた。

 やべぇ! ユーデルにキッチンに5時に来いって言ったのに!

 レイの腕を掴み「とりあえず一緒に来てくれ」とその場から連れ出した。キッチンへ向かい、先に来ていたユーデルはレイの顔を見て「……ッ!? レ……!?」声にならない声を出し腰を抜かした。


 コイツは本当に腰を抜かしてばっかりだ。


「な、なぜ……レイ様が?」

 ユーデルに質問にレイは息を吐くように返した。


「コイツがミケの部屋の前で寝ているところを発見し、起こしたらここに連れてこられただけだが? 貴様は何故ここにいる」

「私はソウル様にここに来いと言われただけで……」

「そうか。つい先ほどリリックがミケの部屋に入っていったが、ユーデルはミケの部屋に行かなくてよいのか?」


 レイの問いに目をまん丸く見開いたユーデル。俺に疑うような視線を向けてきた。


「……色々あって、ごめん」

 ぼそっと謝罪の言葉を口にすると、「色々とはなんだ。貴様が爆睡してたから入られたんだろう。まあ、リリックは居合わせた私に聞いてきたから許可したまでだが」と、さっきから余計でしかない言葉を並べるレイ。


 ユーデルがミケに対してどういう想いになっているのかを分かっていないレイは、傷口を抉っているようにしか見えない。その傷口に更に塩を盛かける俺。


「ユーデルはレイがミケを独り占めしていることををずっと妬んでいたんだと」


 一回レイにキツく言ってもらわなきゃユーデルは改心しない。


「俺は飯作るから。おまえはレイと話せよ。人もいないこの時間帯なら話せることがあるだろ」


 本当は朝ご飯を一緒に作ってもらおうかと思っていたけれど、そんなことより最優先事項が俺の中で決まったためにユーデルとレイをテーブルに座らせる。


 米を研いでご飯を炊き、その間にお吸い物や卵焼きなどを焼きながら二人の会話に耳を澄ませる。幸いにも二人の会話は俺まで聞こえてくるため、何を話しているのかは知ることができた。


 そんなユーデルの第一声は、

「レイ様、申し訳ございません!」

 謝罪だった。イスから立ち上がったユーデルは地面につきそうなほど頭を深く下げて土下座をしている。


「……何故謝る」

「その……ソウルさんがおっしゃった『妬んでいる』は事実でした。私はミケさんを好きすぎるあまりに、レイ様に嫉妬しておりました。これは赦されることではございません、私の首を切っていただいても構いません!」


 首を切るって……コイツ、正気か!?
 会話が気になって朝食を作るどころではない。


 レイはユーデルに『顔を上げろ』と諭していた。


「貴様の気持ちは分かる。私も、今のソウルが他の者と日中二人でいたら妬むし嫉妬する」


 えっ!? 今サラッと大事なことを言われたような気がして、気が動転して熱々のフライパンに自分の手を当ててしまい、「熱ッ!」軽く火傷をしてしまった。


 すぐに水で冷やし、引き続きレイとユーデルの会話に耳を傾ける。あんなことを言われたからか、心臓も一段と高鳴る。


「……ソウルさんがレイ様に欲情しているって噂は城内に広まっておりますが……?」


 『それではなく?』と聞きたそうにしているユーデルに、レイはその通りだ、と、頷いた。


「ユーデルもソウルと話をしてみて分かったとは思うが、以前のように私を殺そうとしているヤツではない。今は私の手となり足となりに尽くして、私の胃袋まで満たしている」


 サラッとご飯のことを褒めてくれるレイ。こういうツンデレなところがレイの魅力だ。まあ、そのおかげで今火傷してしまったけど、俺の火傷なんてあってないようなものだ。


「ユーデルがミケのことを気にしているということは分かったが、それはミケから出るフェロモンのせいじゃないのか? 本当にミケを愛しているのか?」


 その問いにユーデルは頷いた。

「寝ても覚めてもミケさんのことばかり考えてしまうんです……それが愛じゃないなら、なんとお考えでしょう」

「…………そんなもの私が知るか。そもそも、この国に『愛』はあるのか? 誰一人として国の、城のためを想って行動しているとは思えんが。まあ、私も含めて……だが、何か大切なことが欠けていることを、ソウルがきてから気付かされているようにも感じる」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)

サイ
BL
目が覚めたら、裸で見知らぬベッドの上に縛られていた。しかもそのまま見知らぬ美形に・・・! 右も左もわからない俺に、やることやったその美形は遠慮がちに世話を焼いてくる。と思ったら、周りの反応もおかしい。ちょっとうっとうしいくらい世話を焼かれ、甘やかされて。 そんなある男の異世界での話。 本編完結しました よろしくお願いします。

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

処理中です...