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第45話「協力者」

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 『美味い飯』といってユーデルの表情は明るさを少しだけ取り戻したような気がする。そういえば、ユーデルの故郷は「アクアニア国」と舞が言っていた。他のものから消え去っているようにみえる『美味い』という感情はもしかしたらユーデルに残っていたりするのだろうか。


「ユーデル、食ってのは本来楽しいはずなんだ。美味い飯を満足いくまで食ったら幸せになって夜もよく眠れるし、思考も回るようになる。色んな考えを持てるようにもなる。ミケに固執しなくなるだろうし、今のこの現状を冷静に見ることができるようになる」


「……分かるような気もしますが……そんなに変わるのですか?」

「うん。おまえはあの三人の中では一番穏やかそうに見える。だからいろんなやつから色んなことを言われることも多いだろうし、もっといえば、だからこそちゃんと味あるものを食って、運動して、睡眠をとったら心の余裕も全然違うと思うぞ」

「た、たしかに……あんまり寝れてはいませんでしたが……それを特別苦痛だと思ったことはないです」

「それがおかしいんだって。とりあえずこの部屋の前から退く! そして、てめぇはさっさと寝ろ!!」

「で、でも……そしたらミケさんが……」


 ミケのことになると、全然話が進まない。本当は空き部屋を探して寝る予定だったのに。


「…………分かった。俺がここで寝る! 毛布あるか?」


 ユーデルに寝袋毛布を持ってきてもらい、仕方がないのでミケの部屋の前で寝ることにした。


 ユーデルから毛布を受け取り寝る準備を開始する。


「あ、あの……本当にここで寝るんです?」

「……おう」

「風邪ひきますよ」





 幸い、廊下に時計が飾られていたために時間を確認することはできた。

「…………おい、貴様、なぜこんなところで寝ている」

 頭上で聞き覚えがある声が聞こえてきた。視界にはぼんやりとレイが映っていて、ビックリして飛び起きる。


「……あ、レイ?」


 ユーデルの為にここにいましたなんて言えるわけもないし、なんでと言われたら何も言い返せない。言葉を返すことができないままシーンと静まり返る空間で、「あ、ん、んん……」ミケの部屋から何やらミケの声らしき声が聞こえてきた。

 …………ん? これって…………

 レイはなに食わぬ顔で「リリックが私の許可を得て、ミケの部屋の中に入っていったぞ」と俺に告げた。


 …………なっ!

「え!? なんで、俺寝てたろ!?」

 ドアの向こう側に聞かれないように、レイに小さく問う。するとレイは、「起きていなければ、こうして簡単に入られてしまうではないか」と、もっともな返しをしてきた。


 …………う、それもそうだけど。ユーデル、ごめん……!


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