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敵はすぐそこに

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 ◆◆◆ 沖縄 某所 ◆◆◆

 ホワイトウォーターはすでに動いていた。
 久保くぼ 能道たけみちに仕掛けていた位置情報GPSを追い、三人の精鋭がオーハ島を目指していたのだ。

「ボス、このまま追いますか」

 指示を仰ぐ黒人の男の名はメイス。ホワイトウォーターの幹部である。

「愚問だな、メイス。我々は随分と余裕を失くした。これも、あのガキ共のせいだ。ヤツ等が財宝を独り占めしなければ、我々はここまで追い詰められることはなかった」

 ボスの男は冗談のように、そんなことを言った。
 しかし、現実にホワイトウォーターは解体危機にまで陥っていたのだ。
 数々の不祥事がネット掲示板を通じて露呈しはじめているからだ。
 アメリカ政府もこれを重く受け止め、ホワイトウォーターの一時的な活動停止を命じていた。だが、ボスの男はその命令を無視し、仲間と共に沖縄までやって来た。

 財宝さえ手に入れれば、きっと政府も分かってくれると信じて。

「では、手配した船で向かいましょう」

 もうひとりの幹部・ロスが大きな荷物を背負い、港へ歩き出す。

「ロス、予定通り夜襲作戦でいく」
「もちろんです、ボス。その為に夜戦装備を整えましたからね」

 カバンの中には夜用の装備が整っていた。
 寝込みを襲う方が手っ取り早いからだ。

 ボスの男は不敵に笑った。

「……たった三人だが、十分だろう。我々は数々の戦場を生き延びてきたのだからな」

 三人の男たちは、オーハ島を目指す。



 ◆◆◆ オーハ島 ◆◆◆

「というわけです、啓くん」

 北上さんが手配を進めてくれたようで、久保くぼは強制送還することにした。
 しかも、ただ送り返すだけではない。北上さんの知り合いに刑事がいるらしく、その人に対応してもらうことになった。
 というか、北上さんの人脈ってどうなっているんだか。

「分かった。ところで久保は……」
「ずっと気絶したままです。意識は戻っていませんね」
「大丈夫なのか、それ」
「脈は正常ですし、大丈夫ですよ」

 まあいいか、ぼちぼち久保とはお別れだ。
 もう会うこともあるまい。

 そんな時だった。

 久保が眠そうに瞼を開け、キョロキョロと周囲を見渡し始めた。……お、意識を取り戻したのか。


「…………こ、ここは? ぐっ、頭がカチ割れそうに痛い……!」
「よう、久保」
「早坂、貴様!! なんだこれは……チェーン!?」

 あれから北上さんがロープからチェーンに変えていた。この方が絶対に逃げられないからと。容赦ないなー。でも、この方が安心感はあるな。

 ジタバタと暴れる久保だが、さすがにチェーンでは抜け出せない。

 憐れに思っていると、北上さんが銃を久保に向けて脅していた。

「久保 能道……ひとつ聞かせなさい」
「な、な、なんだよォ!? 銃、向けんな! つか、それ本物だよなぁ!?」
「ええ、そうです。実弾が入っています。それより、あなたは本当にひとりで島へ来たのですか?」

「あ、当たり前だ!」

「ここへ来る前に誰かと接触した覚えは?」
「そんなのねーよ。俺は、ただ仇を取りたくて……早坂、お前を追ってきたんだ!」

 ギロッと俺を睨む久保。
 俺を恨まれても困る。
 そもそもの原因は、こいつの父親。
 学年主任の橘川が船を沈めなければ、こんなことにはならなかった。

 しかし、もう起きてしまったことを変えることもできない。

 俺は……俺たちはもう普通の高校生活を送れない。

 だからこそ、幸せを掴むために一刻も早く財宝を現金化しなければならない。

「いいか、久保。覚えがあるなら、ハッキリいった方が身の為だ。俺はともかく、北上さんはガチでヤバいぞ」

 マジかと久保は疑心暗鬼に陥るが、北上さんは自分がどれだけ本気か証明する為に、銃を発砲。久保の頬を銃弾がかすめた。


「うぎゃああああああああああ!?!?!?」


 そら、そんな至近距離で撃たれれば誰だってビビるよな。俺もビビった。


「本当に誰とも接触していないのですね?」
「…………ひ、ひぃッ!?」

 あーあ、すっかり怯えちゃったぞ。
 この分だと刑事に引き渡す前に、久保の命が危うそうだ。

「北上さん、ほどほどにな」
「ええ、でもまあ……久保は単独犯のようですね」
「らしいな。一応、身体検査しておくか」
「ですね。万が一、GPSなんて仕込まれていたら厄介ですから」

 俺は念のために久保の体をまさぐった。

「ヒ……ヒヒ」
「妙な声だすな、久保」
「…………馬鹿共が」
「なに?」

 その時、久保の襟になにか妙なものがついていた。これはなんだ……?
 取り出すと北上さんが血相を変えていた。

「そ、それは……発信機ですよ!」
「な!?」
「やられましたね。この久保は、誰かに超小型の発信機をつけられていたようです。位置情報を自動送信するタイプのようですね」

 く、くそっ……やっぱり誰かと接触していたんだ。
 誰だ……誰と!?

「久保!! 今すぐ吐け!!」
「……アメリカ人さ」
「アメリカ人?」
「そうさ。ここまでの交通費を全部出してくれた!! 親父の元同僚だとか言っていた! それ以上は知らん!!」

 親父の知り合い?
 つまり、橘川の……ホワイトウォーターか!
 ロシア人ではなかったのか……?
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