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#82 拓哉の悩み

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「うぅ~っ」

「美晴ちゃん、まだ引き摺ってるの?」

「だって、本当に惜しかったんすもん~」


 学校の交流時間にて、真人班の皆んなでのんびりとした時間を過ごしていたのだが、いつもの美晴らしくなく、今日は終始元気がなく、ぐにゃあっと机に頭を擦り付けていた。

 というのも、つい先日の土日に柔道部の県大会があったらしく、美晴は個人戦であと一歩で全国大会というところまで行ったのだが、惜しくも負けてしまい、それを未だに引き摺っているのだ。

 ちなみに音夢も同日に県大会があったのだが、バレーボール部はなんと久しぶりの全国大会への切符を掴み、今日登校した時も「祝バレーボール部全国大会出場」という垂れ幕が掲げられていた。


「でも、県内の一年生ではトップの成績だったんですよね?」

「そうっすけど~、本当に惜しかったんすよ~」

「ドンマイ」

「むぅ~、音夢っちはいいっすよねー、全国行けて……」

「結構運が良かったところもある。 美晴が負けたのも、時の運。 どうしようもない時もある」

「確かにそれはそうかもしんないっすけど……」

「美晴はまだまだこの先もあるから、また頑張って……?」

「うー、真人っちにまで励まされてたらダメっすよね。 そうっすね、まだまだやれる事はあるっすから頑張るっす!」

「うん、応援してるよ……!」


 キーンコーンカーンコーンッ


「あ、もう時間終わってしまいましたね」

「ダーリン、次の授業行ってくるね」

「ウチもっすー」

「うん、みんな頑張ってね……」

「まさくん、ちょっと外歩かない? この時間ずっと座ってたし!」

「そうだね、行こうか……」


 梓以外のメンバーは授業の準備のために教室に戻っていった。

 そして真人と梓は気分転換に少し外を散歩することになった。


「お、真人じゃんか」

「あ、拓哉くん……」


 すると、下駄箱の所で拓哉とすれ違った。

 拓哉も同じように外に出ようとしていたらしく、班員の女子と一緒にいた。


「あー、そうだ、ちょっと真人に聞きたい事があるんだ」

「うん……? なにかな……?」

「その、出来れば2人きりで相談したいんだけど、いいか?」


 拓哉は主に自分の班員の子と梓を気にしているらしく、その2人にまずは問いかけていった。

 梓も拓哉班の子も反対する理由も無いので、少し離れた所で女子は女子同士で話すとのことだ。

 女子2人と別れた真人と拓哉は校舎を出て近くのベンチに座った。


「それで、聞きたいことって……?」

「その…… もう6月で入学してから2ヶ月経ったじゃんか?」

「うん……」

「真人はさ、班員の女子達とすげー仲良いだろ? なんか秘訣でもあるのかなって思ってさ」

「拓哉君はあんまり上手くいってないの……?」

「いんや? ウチもかなり仲はいいと思うぞ? けど、どこまでいっても友達止まりというか、真人達ほど親しくはなれてないというか……」

「拓哉君はじゃあ、班の子達ともっと仲良くなりたいんだ……?」

「ま、まぁ、そうなるな……」

「すごく良いと思うよ…… そうだな…… 班の子達とはただ話す以外になにかスキンシップみたいなものは取ったり取られたりした事はある……?」

「いや、特にはないかな?」

「拓哉君は、例えば班の子と手を繋ぎたいとか思わない……?」

「手を…… あんまり考えてこなかったな…… でも、そう言われるとしてもいいかなとは思うけど」

「そしたら、拓哉君から手を繋ごうって言ってみるのがいいんじゃないかな…… 多分、拓哉君がしてもいいと思うなら、班の子たちも同じように思ってると思うし……」

「まぁ、それくらいなら言えるかな? でも、手を繋ぐだけで親密になれるもんか?」

「まずは何事も簡単なところからだよ…… それで、最初は2人きりの時にすると思うけど、ちゃんと相手の事を見てあげるといいよ…… 手の感触とかもそうだし、改めて顔を見たりすると今まで感じなかった事とか見えなかった事とか見えてくると思う……」

「なるほどなー…… そいえば、真人は班の奴等ともう婚約してるんだよな? 指輪付けてるし」

「うん、そうだね……」

「よくそんな全員のこと見れるよな?」

「うーん、僕も全員を逐一見れてるわけでは無いよ……?」

「そうなのか?」

「うん…… 僕達が周りにそう見えてるなら、多分それは女の子達が頑張ってくれてるからだと思う……」

「というと?」

「僕達がこうやって相談してるみたいに、女の子たちは僕達が知らない所ですごく沢山相談だったり気遣いとかしてくれてるんだ…… 多分拓哉君の班の子達もそれは同じで、話が途切れないようにとか、退屈しないようにとかすごく考えてくれてると思う……」

「そうなのか……」

「そう思うと、すごくありがたいし、女の子達のその頑張りに応えてあげたいって僕も思うんだ……」

「そう言われてみると、確かにあいつらといて退屈だって思ったことはないなぁ。 最近は交流時間が終わっても学校に残るようになったし」

「僕もそれに気づくまで時間がかかったよ…… だから、拓哉君はそれを知った上でもう一回班の子達を見て、出来そうなら手を繋いだり軽いスキンシップしてみたりするとすごく喜んでくれると思うよ……」

「そっか…… うん、やっぱり相談して良かったわ。 ありがとな真人!」

「ううん、これくらいの答えで良かったらいつでも相談乗るよ……」

「にしても、真人は女子達のことめちゃくちゃ大事に思ってるんだなー」

「うん、正直僕には勿体無いくらいだからね…… あ、それともう一つアドバイスで、ちゃんと思ってる事は言った方がいいよ……」

「そうなのか?」

「親密になりたいなら嫌なことは嫌って言うべきだし、逆に嬉しい事があったらちゃんと伝えてあげた方がいいよ…… 言葉に出さずとも伝わるって言葉もあるけど、ちゃんと口に出して言ってあげた方が絶対良いと思う……」

「分かった、いろいろ教えてくれてありがとうな! 試してみるわ!」

「うん、頑張って……!」


 そう言って拓哉と真人は立ち上がって少し離れたところにいた女子達に合流した。


「すまん、待たせたな!」

「あ、た、拓哉君……!」

「ん? どうした? なんか顔赤いぞ?」

「な、なんでもないよっ!?」

「そ、そうか? んじゃ、行こうぜ? 真人、ありがとな」

「うん、またね……」


 そう言って拓哉達はその場から離れていった。


「梓、あの子に何か言ったの……?」

「んー、詳しくは内緒! 女同士の秘密の会話だからねっ♡ なんかもうちょっと男の子と仲良くなりたいって言ってたからちょっとアドバイスはしたよ!」

「そっか、こっちも似たような悩みだったから、大丈夫そうだね……」

「だねっ! ……まさくんっ♡」


 梓は真人の腕に抱きつき体をぴったりと寄せてきた。


「ふふ、ちょっと2人きりの時間無くなっちゃったから、まさくん成分補給しないと♡」

「そしたら、こっちのベンチに座ろっか……」

「うんっ♡」


 その後、2人はベンチでイチャイチャしながら時間を過ごしていった。

 その後、拓哉は無事に班員全員と手を繋ぐことができ、軽いスキンシップも増えたといい、もっと親密になれるように時折真人に相談しながら頑張る姿があった。


 
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