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#75 梓、メジャーデビュー

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 美香の誕生日から一夜明けた日曜日。

 今日は梓のデビューシングルの発売の日で、真人達はとても楽しみにしていた。

 なにせ、今日だけでも特別インタビューの雑誌が発売、昼の12時に新曲のPV公開、そのすぐ後と夜のゴールデンタイムにテレビでかなり長めのCMと、新人の歌手にしては異例すぎるくらい盛大な宣伝が行われるのだ。

 そんな中、大野家のリビングでは梓がもらった見本誌を皆んなで読んでいた。

 梓のインタビューは雑誌のページを4ページ分ビッシリ使っており、さらにはカッコ可愛いイメージ写真が何枚か掲載されていた。


愛莉「梓さん、とってもカッコいいですね♡」

那波「こっちの写真は可愛く撮られてるな♡」

美晴「おー! めっちゃインタビュー長いっすね!」

由花「ですね。 すごい量です」

梓「さ、流石にちょっと恥ずかしいかも……」


 わいわいと自分が着飾った姿や、真面目に答えたインタビューの事を手放しで褒められるのは、梓といえども少し恥ずかしいものがあった。


真那「あ、そろそろPV観れるみたい!」


 正午を迎え、いよいよ梓の新曲のPVが公開になった。

 動画サイトをテレビでも見られるようにあらかじめしておいたので、皆んなで大きなテレビ画面で梓のPVが流されていく。

 曲調は明るめで、それに合わせてか梓も元気に明るく歌う姿がPVでは流れており、その中では梓がダンスをしたり色んなポーズを取ったりと、とても魅力的な姿を披露していた。

 曲の間、見ている全員は黙って見つつも、楽しそうに歌を歌っている梓を見て自然と笑顔になっていった。

 5分ほどのPVはあっという間に終わってしまい、見終わると皆んなで梓の方に盛大な拍手を送っていった。


「梓、とっても良かったよ……! 歌はもちろん上手いし、すごく楽しそうで……!」

梓「あ、ありがとうっ♡! そう言ってもらえて良かったよっ!」


 その後はテレビのチャンネルをつけてCMを待っていたのだが、お昼のエンタメ情報番組でもしっかりAzuの事が取り上げられており、いかに注目されていたかが分かる感じになっていた。

 そんな中、流れたCMはPVの一部が流され、カッコ可愛く盛大に広告がうたれていた。


李梨花「こうしてみると、梓ちゃんはとっても有名人ですね~」

美香「そうね、本当にすごいわ」

エマ「何気なく一緒にいますけど、これを見るとなんか違う世界に生きてる感じもしますね」

梓「大丈夫ですよっ! 私は変わらず私ですからっ♡」


 盛大にデビューしたとはいえ、梓の意向もあって学生のうちはそこまで忙しくはならないように母親の桃もスケジュールは組むようにしているので、確かにこの先も梓は梓のままではあると思われる。


梓「それに、歌手活動はもちろん好きだけど、まさくんとの時間削るのは嫌だからね♡」

「そっか…… ありがとう…… 僕としては梓がしたいようにしてくれるのが1番嬉しいから、何かあったらいつでも言ってね……?」

「ふふ、そうやって言ってくれると安心できるよ♡ まさくん大好きっ♡」


 隣に座る真人に梓はギュッと抱きつき、スリスリと頬擦りをしてきた。


梓「あっ、そうだ。 この後、新曲出たし記念で配信しようと思ってるんだけど、良ければまさくんも一緒に出ない?」

「僕も……? でも、折角の梓さんのデビューだし……」

梓「実はね、SNSの反応見ると、もちろん曲とか私が注目されてるんだけど、その次くらいにインタビュー記事に書かれた私の婚約者について皆んな反応してるんだよね」

音夢「まぁ、普通そうなる」


 梓に実際にSNSのトレンドを見せてもらうと、検索候補に既に『Azu 婚約者』という欄が出てきていた。


梓「中には嘘じゃないかって言われてて、それはちょっと気に食わないし、それならいっそ、一緒に配信すれば皆んな信じるだろうし盛り上がると思うんだ!」

「分かった…… ちょっと緊張するけど……」

梓「まさくんはカメラに映らないところで声だけ出してくれればいいよっ! なんなら一曲歌ってもいいしね♡」


 という事で、急遽真人と梓は一緒に配信をすることになった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『デビューシングル、PV発表記念枠! 皆んなも驚くスペシャルゲストも!?』


 そんな感じで作られた配信枠には、まだ配信を始めてもいないのに既に1万人を越える人達が待機していた。

 梓の事務所にもちゃんと話は通し、コメントが荒れたりしないように人員も確保した上で配信をする準備を進めていく。

 ちなみに大野家の面々もコメント操作の権限を渡してもらい、ライン越えのコメントなどは適宜取り除いていくお手伝いをすることになった。


「じゃあ、配信付けるねー?」

「うん……!」

「はい、配信つけた! やっほー! みんなこんにちは! 音聞こえてるかなー?」


 梓は手慣れた様子でカメラに手を振りながら、新曲がどうだったかなどを視聴者に問いかけていく。

 真人はカメラの裏に待機し、梓に呼ばれるのを待っていた。


「おー! みんな良かったって言ってくれて嬉しい! ありがとね! ん? スペシャルゲストが誰かって? ちょっと皆んな気が早くない♡?」


 配信のコメントには曲やPVの感想がどんどん流れていき、中には配信タイトルのスペシャルゲストが誰なんだという質問もチラホラ見受けられた。

 その後、10分くらい梓は上手くコメントをさばいてスペシャルゲストについては少し焦らしを入れていった。

 既に視聴者は3万人を超え、皆んなスペシャルゲストが誰なのか予想をしたりしながらその時を待っていた。


「うーん、もうちょっと焦らそうかと思ったけど、みんなもう待ちきれないって感じだね? じゃあ、呼ぶんだけど、この事に関して私の事務所とか、学校は公表してないけど、どうせ特定されちゃうだろうから言うけど、そこに絶対に迷惑はかけないでね! 電話とかしたら番号控えちゃうからね♡!」


 ちゃんと注意喚起も忘れずにしていき、いよいよ真人の出番となった。


「じゃあ、呼ぶね! おーい! 喋っていいよっ♡!」

「え、えっと、皆さんこんにちは……」


 真人の声が配信に流れた瞬間、コメント欄の流れが見えないくらいに加速し始めた。

 みんな「!?」「まさか……」など色んな反応を見せる中、梓がしっかりと答え合わせをしていく。


「はいっ! という事でスペシャルゲストは私の婚約者のえむくんでーす♡」

「ど、どうも、えむです……」


 あらかじめ真人はネットネームとしてえむと名乗ることにしており、まさかの人物の登場にコメント欄は狂喜乱舞していた。

 もしかしたらそうじゃないかと言われていたが、流石にそんな訳は無いと皆んな思っていたので、いい意味で期待を裏切る形となった。


「SNSの反応見てると、皆んな曲とかPVと同じくらい私の婚約者について色々言ってたから、なんか変な推測とか出る前に私が無理言って出てもらう事になりました! これで信じてもらえたかな?」


『信じるー!』

『本物出てきて草』

『質問したいでーす!』


「おっ、じゃあ折角だし質問有れば書いてみて! ……ちょいっ、スリーサイズはとか書いた人!?  次書いたらBANするからねー!?」


 中には答えられないものもあったが、そもそもコメントは梓のチャンネルを長く登録した人しかコメントできないようになっているので、比較的健全な質問が多かった。


「もうっ、皆んな普段は良い子なのに、なんでこんなセクハラみたいな質問あるのー? やめてよね本当にっ!」


『ごめん、つい』

『ノリで』

『聞かざるを得ない』


「全く…… じゃあ質問してくよ! まずは簡単なところからいこうかな? 年齢と好きな食べ物は?」

「年齢はAzuと同じで今年16歳です…… 好きな食べ物は、割と美味しいものならなんでも好きかも……」

「じゃあ、お肉とお魚だと?」

「どっちかというとお肉かな……?」


『今日から私、肉しか食べないわ』

『同じく』


 流石のネット民のノリというか、面白い反応コメントもしてくれるので、真人の緊張と少しずつ和らいでいった。

 その後も好きな動物や色など可愛い質問が続くので、真人はそれに一つ一つ答えていく。

 すると、『お互いの好きなところは?』という1人のコメントが一度流れたのをきっかけに、同調するように大勢のリスナーが同じようなコメントを送ってきた。


「すごい、皆んなそんなに知りたいの?」


『知りたい!』

『気になりすぎる!』


「うーん、私は良いけどえむくんは?」

「うん、大丈夫だよ……」

「じゃあ、私から言うね! 私はえむくんのとにかく優しくて私自身の事を見てくれるところが1番好きかな! Azuだからとかじゃなくて、私っていう存在をしっかり見てくれてるところが本当に好き!」


『きゃあぁぁぁぁーー♡』

『惚気頂きました!』

『砂糖吐きそう』


「じゃあ、えむくんは? 私のどこが好き♡?」

「えっと、まずは元気でいつも明るいところが好きで、一度こうと決めた事には一直線なところもすごく僕からしたら眩しくて…… あ、もちろん見た目もすごく可愛いと思うし、歌がとっても上手で歌ってる時のカッコいい姿も好きだな…… でも、2人きりになると途端に甘えてきたりするギャップもあって……」

「ちょっ!? ストーップ! ストーップ! そ、そこまで言われると恥ずかしいよっ♡!」

「あ、ごめん……」


『Azu、めっちゃ愛されてる!』

『良い婚約者すぎる!』

『Azu、顔真っ赤じゃんw』

『ヒューヒュー!』


「み、皆んなうるさいよっ♡!」


『照れんなってw』

『お幸せにー!』


「も、もう~~~っ♡!」


 視聴者にからかわれ、梓は顔を真っ赤にしてぷんすこと頬を膨らませていた。


「はいっ、もう質問終わりっ! 本当にすぐ調子に乗るんだから…… あ、気付けばもう結構経ってるね? そしたら、そろそろ放送終わるんだけど、最後にえむくんと一緒に歌おうかな♡」


『な、なんですと!?』

『男子の生歌!?』

『うおおおおおお!!』


 真人が歌ってくれると聞いた途端、再びコメント欄の流れがとんでもない速さになった。


「えむくん、準備はいい♡?」

「うん…… 頑張るよ……!」


 梓がカラオケ機器を操作し入れた曲は、密かに2人で練習していたデュエット曲で、難しいハモリなどは無く、聴きやすい曲になっていた。

 デュエット曲とは言え、原曲は男性パートを声の低い女性が歌う形になっていたのだが、今回は本物の男が歌うため、まさに本来のデュエットと言えるだろう。

 曲が始まり、2人は交互に語りかけるように歌っていった。

 マイクとカメラを挟んでお互いの表情を見ながら歌っているので、真人からしたら梓の楽しそうに歌う顔が見れて、そのおかげで自分も割と楽しんで歌うことができていた。

 曲の内容はシンプルにこれからもずっと一緒にいようという内容であり、婚約者同士である2人にはぴったりの曲だった。

 やがて曲も終わり、2人はくすりと微笑み合い、満足そうな表情を浮かべていた。


「はぁっ♡ 楽しかった♡! 皆んな聞いてくれてありがとね! わっ、コメントすごっ! えっ、同接7万人!?」


 いつの間にか視聴者の数はとんでも無い事になっているし、コメントも、もはや目で追えないくらいのスピードになっていた。


『感動した……』

『なんか、心が洗われた気分』

『今のを正式に収録して配信して欲しい!』


「ありゃりゃっ!? ち、ちょっとPCがすごい音出してるっ! ごめんみんな! PCがアツアツになってきてるから配信終わるね! じゃあ、最後にえむくん一言!」

「えっと、今日はありがとうございました……! 最初にAzuも言ってたと思うんですけど、僕達の周りに迷惑のかかる行為は控えてください…… 皆さんがちゃんとしてくれたら、僕もまた配信出るつもりなので……!」


『また出てくれるの!?』

『おい、全員絶対自重しろよ!』

『むしろ、私らで警備して変なことしてる奴いたら晒し上げるよ!』


「という事で、慌ただしいけど配信終わりまーす! PVとかCD、良ければ見て見てくださーい!」


 梓はそう言って配信を切った。

 PCはかなりの負荷がかかった事でファンが最大限回っており、ゴーッとすごい音が未だに鳴っていた。


「まぁまぁいいPCなんだけど、流石に配信重くなりすぎたね?」

「ちょっと考えないとだね……」

「いやー、でも本当に楽しかった♡! まさくんともデュエットできて良かったよー♡!」

「うん、僕も楽しかったよ……」

「また今度やろーね!」


 真人もその内またやろうと思えるくらいには今の時間を楽しむことができた。

 ちなみに梓と真人の配信が終わった後も、SNSは大盛り上がりで、伝説の配信としてネットニュースに取り上げられるくらいの騒ぎになっていた。



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